ご無沙汰しております。ヤマグチガクです。突然ですが、言い切ります。
「プロボノワークは、新しい自分を発見できるチャンスです。」
その秘密が、プロボノワークの過程で生まれる「素人パワー」。「素人パワー」は、素人ならではの視点でその仕事の本質を捉え、プロでは生み出せない「何か」を生み出すことです。「素人パワー」を発揮せざるを得ない経験をし、失敗したり、成功したりすることで、新しい自分へと成長できるのです。
「プロボノワーク」は、前回コラムの通り、「専門職の熟練者が、利益のためでなく公益性のために働くこと」です。つまり、プロがプロとしての力量を発揮する場です。しかし、なぜ、そのような仕事で「素人パワー」が必要とされるのでしょうか。
それは、大概、NGOなどのボランティア団体は、人手不足だからです。どうしても、一人二役、三役をこなさねばなりません。自分がプロとして能力が発揮できる分野以外の経験ない仕事も、手伝う場合が多いのです。実はこれが「プロボノワーク」の一番面白いところでもあります。
4年前、僕の仕事は中堅広告会社のITシステム管理でした。広告会社にいるとはいえ、クリエイティブな世界とは程遠い仕事です。同じ会社にいたKさんにたまたま誘って頂いて、Social Design Projectという名のプロジェクト(実はただの飲み会)に出るようになりました。
そこには自分のスキルを社会のために役立てたいと常日頃から思っている、クリエイターの方々が集まってきました。飯島ツトムさんを中心に、日本デザインセンター(元:現在は気流舎)の加藤さん、プロデューサーの久田浩司さん、ライターの加藤久人さんなど、そこでの出会いは貴重なものでした。そういう集まりがあるのであれば、やってほしいことがある!ということで、環境系翻訳家として有名な枝廣淳子さんがその飲み会に顔を出して、熱を込めてお話しを始めたのです。
木材を加工する際に出る切れ端に、紙やすりをかけていると、とてもいい匂いがして、癒されるので、そんな時間をみんなにも提供できるような商品を創りたいという話でした。
それからは、みんなで何度も何度も集まり、アイディアを膨らませたり、絞ったりしながら、「きのころ」という名前やロゴ、商品パッケージの内容、この商品が持つイメージ、コンセプトなどを共有していきました。僕は、WEBディレクターとして参加しました。WEBならなんとか、普段の仕事の知識が生かせるからです。
最初の商品発表は、エコプロダクツでやろうという話になりました。しかし、その集まりにはイベント系のプロの人はいませんでした。たまたま、僕の娘の保育園のおやじ友達が勤める会社に、空間設計ができる人がいたので、彼に打ち合わせに参加してもらいました。そして、またみんなでブースのイメージを広げていきました。森から生まれた製品だから、森にも詳しくなくちゃということで、その打ち合わせには、自然の通訳者「インタープリター」も登場しました。彼女の存在は、いつも自然の視点で、みんなのアイディアがどんどん広がるきっかけをくれました。
「みんなできのころの中に入れるどんぐりを拾いにいきましょう!あたし、そこで、みなさんにどんぐりの事、たくさん教えてあげます!」「ブースは、子供たちやお祖母ちゃんが座って、つみきにやすりをかけてる感じだよね。」「やすっている(やすりをかける事をいつの間にかこう呼ぶようになりました)人達の笑顔と、その木から出る匂いが、他の人をブースに誘うのがいいなぁ。」「それって縁台っぽいよね。そういえば、下町だと縁台で将棋打ったりしてるよね。ああいう感じがいいよね。」「「きのころ」なんだからなるべく森っぽくなきゃ。」「じゃぁ、私、青森から枯れ葉と枯れ枝を送るわね。」「だいたい展示会の壁って白いパネルで、気持ち悪いから、もっとやさしい色がいいよね。」「じゃぁ、僕がネットで安く買えるとこ知ってますから、買っておきますね。」「縁台や、机も無垢の木製がいいよなぁ」「あ、僕、近所に大工さんと、材木屋の知り合いができたんで、相談してみますね。」
こんな風に、飲み屋さんや会議室でわいわい思いつきで、アイディアの出てくるままに話していました。そんな中でたまたま僕の人脈(大工、材木屋、空間設計)とアイディア(麻布、縁台)が採用されてしまったので、いつのまにかブースのプロデューサーっぽくなってしまっていたのです。。
イベント当日。子供たちが3時間近くもつみ木をやすりで削り続けてくれたり、大人も熱中している様子が見られました。木を削る匂いがブースを包んでいました。この様子にこれまで「きのころ」作りに関わってくれたメンバーもみんな大喜びでした。プラスチックと金属の冷たい素材に囲まれたエコプロダクツ展のブースの中でも、自然の匂いがたっぷりとする総天然色のやさしい色合いのブースを作ることができました。
もし、僕がブース制作のプロだったら、きっと、床にブルーシートを引いて、落ち葉を床に撒き散らそう。とか、壁に布を貼ろうとか、きっと、考えもしなかったし、実行もしなかったと思います。
今から、ふりかえると、落ち葉は2日間みんなに踏みつけられ続けて、最後の方は、粉々になっていましたし、壁に布を貼ったおかげで、パネルが両面テープでもしっかり着かず、会期中に何度も貼り直したり、テーブルの下に板を張らなかったせいで、メンバーのみんなの手荷物が丸見えだったり、実は、あれはやすりをかけてたんじゃなくて、座りたかっただけなんじゃないか、実はちっとも会場では売れなかったんじゃないか、など、今から思うと恥ずかしい点もたくさんあります。
でも、そんなブースでも、ゆっくり「きのころ」を削って楽しんでくれる人がたくさんいましたし、なにより、子供たちが楽しそうに削っていたのは、間違いありませんでした。
僕はこの経験を通じて、なんだ、素人でもなんとかできるんだ、けっこう、いいもの作れるんだ、という大きな経験と自信、でも、やっぱりプロにはプロの技術とスピードの速さと効率性があるのだなぁという謙虚さを得ました。
プロボノワークには、縦割りという発想がありません。理想のモノを完成するために空いている穴は知恵か、手間か、誰かできる人を連れてきて埋めなければいけません。もし、そうしなければ、なんの成果も得ないまま空中分解するだけです。
僕に「プロボノワーク」で「素人パワー」を発揮しながら、自分自身を成長させるための秘訣をみなさんにお教えできるとしたら、「いい渦」を選ぼうということかもしれません。 「きのころ」の渦の中心は、飯島ツトムさんという素晴らしいファシリテイターと枝廣淳子さんというこれまた素敵な情熱の人でした。素敵な人達が関わっている、素敵なプロジェクトに関われている!と感じられたら、それはきっと「いい渦」です。その渦はどんどん大きくなって、たくさんの人を巻き込みながら、あなた自身も渦の一部となって大きくなっていくことができる「いい渦」です。
そんないい渦に出会えたら、予測不可能なことが次々と起きますが、それ自体を楽しみながら、最大限、渦に上手に巻き込まれ、人を巻き込みましょう。きっと、あなたは今までよりも、ぐんと成長して、新しい自分を発見できているはずです。
次回は「プロボノワーク」の「プロボノワーク」たる所以、「素人パワー」とは全く逆の「プロ」だからできることについてお話できればと思います。お楽しみに!