子どもを育てながら働き続けるクリエイターはどんな出産、産後、復帰を経験してきたか。
さまざまな職種のクリエイターによる「子どもとしごと」の関係をリレーインタビュー!
小野 梨奈さん
女性向けのWebメディア運営会社を退社後フリーランスのWebプロデューサーに。2009年「リズムーン」を立ち上げ、フリーランスの女性を応援するコンテンツをほぼ毎日更新しながら、女性の多様な働き方について講演なども行う。2014年合同会社カレイドスタイルを設立し、代表も務める。10歳、5歳、2歳、三人の子どもの母。
フリーランスになったと同時に妊娠、仕事がゼロになった産後
会社員として女性向けWebメディアの編集に携わった後、退職を決意し2006年2月フリーランスに。当時は気軽に話を聞けるフリーランスの知り合いが周りにいなかったので、退社をしたものの仕事の増やし方などもすべてが手探りだったという。初めての仕事は会社員時代のつながりで仕事を請け負うことができていたが、そんな矢先に妊娠が分かった小野さん。
「フリーランスになる際に、会社でお世話になった方たちに『仕事があったらぜひ!』と言って辞めたのに、フリーランスについてもよく分かっていないまま、フリーランスで出産というさらに未知なことになってしまって(笑)。だからとりあえずは働けるところまで働こうと、9カ月くらいまで仕事は続けていました」
出産1カ月前まで仕事をしてきたが、それまでにいままでの仕事はすべて断り、ゼロの状態にして2006年10月に長男を出産したという。
「子どもが生まれても働きたいとは思っていましたが、出産直後は自分がどんな心境になるか分からなかったので一旦ゼロにしました。でも実際に出産してみたら、心境と言うよりも私自身の体調がなかなか戻らなかったり、熱を出して寝込んだりしてしまって。すぐに仕事を再開させる状況にはならなかったんです」
出産後半年が過ぎて自宅でできる仕事を少しずつ再開させながらも、1歳になるまでは自宅で子どもと一緒に過ごしたいと思っていた。それが、空きが出たら入りたいと申し込んでおいた認証保育園(※1)から思いがけず連絡が入り、思っていたよりも早い保育園生活の始まりとなった。
「こんなに早く預けるとは思っていませんでしたが、ここで預けられたことが翌年の認可保育園(※2)の申込みに有利に働いたことと、認可とさほど変わらない額にまで自治体からの助成金も出たこともあり、私の中では認証保育園という選択肢はよかったと思っています。保育園に預けてもすぐには仕事がない状態だったので、慣らし保育中に営業に行き、少しずつ仕事のペースを戻しながら無理なく仕事のボリュームを戻すことができました。結果的に、母子ともに心身の負担が少なく、0歳児の保育スタイルに関しては、認可よりも認証保育園のほうが私のライフスタイルには合っていたように思います」
リズムーン始動!まずは100人インタビュー
長男は1歳児クラスから認可保育園に転園。けれど子どもを抱えながらフリーランスで仕事をしていくということは、思っていた以上に大変だったという。そんなとき退職当時に思っていた「他のフリーランスの人はどうしているの?」を思い出し、mixiで「フリーランスで働く母」というコミュニティを立ち上げ、情報交換や定期的にオフ会も開催するようになったという。
「mixiのコミュニティを立ち上げてみたら、いろいろなジャンルのフリーランスの人がいて、みんな同じような悩みをかかえていることを知ることができました。そして、一言で“フリーランス”と言ってもスタイルはさまざま。もっといろいろなフリーランスの人に話を聞きたいと思うようになり、リズムーンを立ち上げようと思うようになりました」
そこで2009年1月、フリーランスで働く女性の参考になればという思いで、まずは100人のフリーランサーにインタビューをするという目標を掲げリズムーンを立ち上げた。
「最初は私の周りにいるフリーランスの方に声をかけ、次はその方の紹介で……というように回数を重ね、月に二回、新月と満月の日に記事を更新することを目指していました」
リズムーンを立ち上げて約2年半後、長男出産からは5年が経ったころ、二人目となる長女を2011年5月に出産した。
長女を出産したとき、仕事はセーブしたもののゼロにすることはなく、リズムーンの更新も続けてきたという。
「二人目の出産は5月ということもあって、翌年4月に0歳児で保育園に入園したとしてもそれまでに11カ月もありました。仕事も継続したままだったので、預けられる月齢になるとすぐに一時保育を利用しました。」
役割分担はいつでも調整し、作り上げられた夫婦のスタイル
「夫も起業していて、我が家は夫婦ふたりとも事業をしています。今夫は自宅の近くに事務所を借りているので毎日そこへ出勤していますが、何かあればすぐに帰ってこられる場所にいるので、子どもの急な病気で私がお迎えに行けないときにお願いできるのは助かります」
そこで普段の夫婦の分担について聞くと、
「長男を保育園に預けるまではほとんど一人でこなしていましたが、仕事を再開させると、さすがに回らなくなってしまい、そこで初めて夫と話し合いました。そこで、家での仕事を紙に全部書き出して分担を考えたんです。私が休みの日の掃除機を『これやって』と言うと『これ、ちょっと苦手』と言われ、私は食器洗いが嫌だからそれと交換したりして。そんな感じでお互いの苦手を軽減するように都度微調整をしながら、役割をきっちりと決めていきました。そんな感じでやってきた家事分担は、そろそろ10年経ちますがなんとなく今でも続いています」
お互いの仕事状況と子どもたちの年齢に合わせて何度か役割分担の調整を繰り返しながら、2013年9月には三人目となる次男を出産し、3カ月後の12月からは仕事を再開させたという。
「三人目ともなると、夫婦はもちろん家族のスタイルも出来上がっていています。そこに赤ちゃんがやってくるという感じなので、生活は特に変わりませんでした。けれど、次男が生まれたときに『仕事、もっと頑張らないと』と強く思ったんです。仕事も少しセーブしたものの続けていましたので、預けられる月齢になると、一時保育をフルで利用していました」
リズムーンも家庭も、第2フェーズへ
三人目の次男が生まれて、働くことに対しての意識がこれまでと変わり法人化。今まではリズムーンにまつわるすべてのことを一人だけで行っていたが、2014年からは編集部を導入し、インタビューやコラムなどの情報発信だけでなく、セミナーなどのイベント、最近ではオリジナルバッグの制作販売など、多くの人と新たに融合し、メディアとして幅広い活動を見せている。
手探りでフリーランスとしての働き方をスタートし、出産で一度仕事をすべて手放してから、必要性を感じてリズムーンを立ち上げた。流れに任せているようで、常に先を見越した視点を持ち、その思いを信じてコツコツ続けていたら今につながっていたという。
「フリーランスは自分の覚悟があれば続けられると思っています。たとえ今は働けない状況にあったとしても、すべてやめてゼロにしてしまうと再び働き始めるハードルが高くなってしまうと思います。細々とでも続けてスキルは磨いておきながら、いつかそのタイミングが来たら動き出せばいいと思うんです」
確かに、仕事をゼロにしてからも好奇心を頼りにリズムーン立ち上げを考え実行していった小野さんの言葉には説得力がある。
今まさに仕事もプライベートも第2フェーズに差し掛かったという小野さん。今までもたびたび壁にぶつかり、必要にせまられて夫婦の役割や家族との関わり方を変えてきたから軸はないと笑うが、家庭も仕事も都度柔軟に最適な環境を作りあげ、働きやすさもしっかり守っているしなやかさが、小野さんの強みなのだろうと感じられた。
(※1)認可保育園では保育ニーズの多様性に応えられない部分があるため、都が独自の基準を設定して運営を民間に委託した保育システム。入園は各施設へ直接申し込む。
(※2)国の基準で作られた保育園。入園の際は自治体に申し込みをする。
一日のスケジュール
6:30 | 起床・家族で朝食 | |
7:50 | 長男が小学校へ出発。保育園に行く支度を始める | |
8:20 | 下の二人が保育園へ(朝の送りは夫が担当) 洗濯物干し、朝食の後片付けなど家事タイム |
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8:45 | 仕事スタート | |
11:30 | 外出 | |
12:00 | ランチMTG | |
13:00 | カフェで仕事 | |
15:00 | 移動 | |
16:00 | 打ち合わせ | |
18:00 | 保育園へお迎え | |
18:15 | 帰宅。長男の宿題を見ながら夕食の準備 | |
19:00 | お風呂、夕食 | |
21:30 | 寝かしつけ | |
22:00 | 仕事再開 | |
24:00頃 | 就寝
やりくりテクニック
家事ではないが、外注サービスを使えるところは使えるようにしています。オンライン秘書やリズムーンの原稿登録、レシートの入力、テープ起こしなど、事務雑務などの自分でやらなくてもいいことをできるだけ頼んでいます。 |
ホッと一息
週末、家族みんなが揃って過ごせるのも今のうちだけだと思うので、出かける予定を入れてわりとアクティブに過ごしています。写真は今年で2回目となる田植え体験のもの。
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