子どもを育てながら働き続けるクリエイターはどんな出産、産後、復帰を経験してきたか。
さまざまな職種のクリエイターによる「子どもとしごと」の関係をリレーインタビュー!

守屋綾希さん
IT系ベンチャー企業で営業職に就くが、長女を出産し復帰後に退社しフリーランスのWebディレクターに。現在は株式会社flapと業務委託契約し、仕事を請けている。

ベンチャー企業の営業畑からWebディレクターへの転身

インタビューが始まる前に「すみません、メールを1本返してもいいですか?」と、スマホからメールを返信していた守屋さん。Webディレクターという職業柄、いつでもどこでも案件により隙間時間を有効に使っているそうで、このメールで1件の仕事を終わらせ、インタビューを開始した。

守屋さんは現在小学2年生の女の子、3歳の男の子、1歳の女の子の3人の子どもを持ちながら、フリーランスでWebディレクターをしている。
「学生時代から30歳になるまでに自分のやりたいことを選択できるようになっていたいと思っていました。だから分業制の大手より、一つのことを極めていく専門職よりも、一から十まで仕事の仕組みなどを一通り覚えられると思って、ベンチャー企業を志望していました」
長女を出産するまではデータベースマーケティングをするIT系の会社で、電話でアポイントの取れた企業に出向き、交渉して仕事を取るといういわゆる営業職をしていたという。

「入社して1年目に、単なるビギナーズラックみたいなものですが、社長賞をもらったんです。それで早くも“転職しようかな”という思いが頭をよぎりましたね(笑)」
そんなときに同社で社内ベンチャーが立ち上がりWebディレクターをやらないかと誘われ、自ら出向を願い出たという。

「そこでは割と大きなプロジェクトを担当させてもらいました。うちの会社はモバイルとバックオフィスを担当、他の会社はPCコンテンツ部門担当で……と、何社かで一つのプロジェクトに取り組むといった感じです。私にとっては初めてのWebディレクターの仕事でしたが、一緒にやっている他社の方たちに教えてもらう形で、仕事を覚えていきました」
そこでの仕事にとてもやりがいを感じながらも、2年ほど働いた頃に一人目の妊娠が分かり産休・育休に入った。

営業職に舞い戻った産後。子育てと仕事の両立を考え退職

2009年1月に長女を出産し、2010年5月に1年4カ月の育休を経て認証保育園(※1)の1歳児クラスに入園した。けれど会社に戻ってみると、やりがいを感じていたWebディレクターのできる社内ベンチャー企業はなくなっていたために、以前所属していた親会社の営業職に戻ることになったという。

営業の部署では時短勤務にしてもらっていたが、営業としての数字はもちろん持っていたので、日中はアポイントを取った企業を回り、帰社してから残った事務作業をしていると、いつも定時にあがることはできなかった。19時過ぎにようやく仕事を切り上げて、20時に長女を迎えに行く毎日だったという。

「認証保育園は、毎日延長して20時頃に迎えに行っていたので、保育料は月額9万円ほどかかっていました。時短勤務で収入も減っていたところに高額な保育料、そして子どもとの時間の少なさに“ちょっと限界かな”と思うようになってきて……。そんなとき、以前の社内ベンチャー時代に、他社の立場でWebディレクションについて指導してくれた方が当時の会社を辞め、フリーのWebディレクターチームflap(現:株式会社flapとして活動していたんです。それで、よかったら一緒に働かないかと声をかけてくれました」

「通常フリーランスで仕事を始めるうえで大変なこととして“営業活動”がありますが、私が営業をしたとして、フリーランスになったばかりの私には信用がありません。それが私の場合は最初から仕事はflapから依頼された案件を実行していくというスタイルがとれたので、好きなWebディレクターという仕事に専念することができ、本当にありがたかったです。そしてそれをflapに所属する他のフリーランスの人とチームで行うことができるので、今の私はフリーランスだけれどもひとりじゃなく、それがとても頼もしいですね」

そうして退社後フリーランスへと転身して軌道に乗せるまでに3年以上の時間が過ぎ、長女は3歳になると自宅から2駅隣の認可保育園(※2)に入園し、すでに4歳になっていた。
そのころ二人目を妊娠し、2013年6月に男の子を出産した。産後ほどなくして自宅保育をしながら仕事を緩やかに再開させ、翌年4月に、長女とは違う認可保育園の0歳児クラスに入園することができた。

長女の宿題、次女のお絵かきの中の休日の隙間時間に、隣でPCを広げて仕事をすることも多いそう
長女の宿題、次女のお絵かきの中の休日の隙間時間に、隣でPCを広げて仕事をすることも多いそう

二人目の子も保育園に無事入園し、本格的に仕事を再開させ始めて3カ月ほど経った7月頃、三人目の妊娠を知ったという守屋さん。
「三人目は全くのサプライズでした。長女と長男は園もバラバラで、自転車を使って送りと迎えに1時間ずつ取られる毎日。それなのにこれから妊婦でそれをこなしていくなんて……と、はじめてそこで不安を覚えました。そのとき夫は金銭的な不安を感じていたようでした。けれど『自分の給料を倍にすることはできなくても、俺が全く手伝わなくて奥さんの収入がないよりは、俺が少しがんばって、奥さんが働ける環境を作って二人で増やしたほうが良いのではないか。二人の馬力は結構強いはず』と。それまではきちんとした家事分担などをしていなかったわが家でしたが、それがきっかけで夫が朝の送りを引き受けてくれるようになりました。そして『それだからこそのflapでしょ?』と、私を今の仕事に誘ってくれたflap代表小沼さんも、flapとの関係性や、フリーランスだからこその自由な働き方をもっと利用すべきと後押ししてくれました。それで三人目の子どもを迎え入れる決心と環境は整っていきました」
そして、2015年3月に三人目となる次女を無事出産すると、生後2カ月で認証保育園に入園させてすぐに仕事復帰をしたという。

実生活が仕事に繋がるWebディレクター

「ディレクターは専門的な何かがあるわけでなく、コミュニケーション力がとにかく大切です。以前の営業職も今の職種とまったく関係ないということはなく、クライアントの要望を理解し、望むものを提案するというスキルは、いまの仕事に生きていると思っています。」
そして、インタビュー開始直前にもスマホ上で仕事を済ませていたように、仕事もプライベートも隙間時間をうまく利用しているという。

「今はお客様のところへ常駐していることが多く、毎日の移動の電車でメールやチャットツールを利用して仕事をしています。ディレクターは自分で作り上げるという仕事ではないので、早く担当者に戻す、連絡をするといったスピードも重要だと思います。私は子どもが三人いますし、週末はきっちり休んで子どもと一緒に過ごしたいので、できることはできるときに何でもやるんです。それは仕事も調べ物も買い物も。ホッと一息つくときの海外ドラマもスマホで観ていて、生活はスマホですべて完結していますね(笑)」

スマホから見やすい、スマホから買いやすいサイト制作をしていることもあり、プライベートでのスマホ利用は「好きなことをしているのに、それが仕事に繋がっている」そうで、情報収集にも役立っているという。

プライベートでもチーム制

三人の子育てをする上での強い味方は、夫婦それぞれの両親のサポートだという。
「わが家は、自宅と夫の実家、私の実家は同じ沿線上にあって、どちらへも車で30分~1時間程度の距離です。だから、普段から毎週平日のうち1回は夫の実家に家族そろって夕飯を食べに行き、土日のどちらかは私の実家に遊びに行っています。ちょっと多いような気もしますが、そのくらい会ってそれが当然という環境にしておかないと、熱や病気のときの不安な状態の子どもを預けられないので。だからわが家は3人の子どもを6人の大人で育てているような感じですね」

クライアントの要望を聞いて、その最善を実現するのがディレクターの仕事のひとつだというが、守屋さんの子育ても、子どもにとっての最善を実現するために大人6人のチーム制をとり、その関係を保つためにはそれなりの時間を割くという。「それが子どもたちに必要だから」と大切なものを守るための体制をロジカルに構築するところが根っからのディレクター気質で、ディレクターに必要な資質であるコミュニケーション力がプライベートにも充分生かされているようだった。

(※1)認可保育園では保育ニーズの多様性に応えられない部分があるため、都が独自の基準を設定して運営を民間に委託した保育システム。入園は各施設へ直接申し込む。
(※2)国の基準で作られた保育園。入園の際は自治体に申し込みをする。

一日のスケジュール

7:00 長女と起床
7:30 長女が小学校へ出発後、下の二人を起こし朝食を食べさせる
(自分は立ちながらの朝食)
8:00 夫に下の二人の支度を任せ、自分の支度
8:15 出発 (保育園組は8:20頃に出発)
30~1時間電車でメールチェック
9:30 客先にて仕事
17:00 退社

やりくりテクニック
帰りの時間も決して無駄にしない。ほぼ毎日見ているのがcookpadで、冷蔵庫の中身を想像して何を作るか検討している。
18:00 保育園へ迎え →小学校の学童へ長女迎え
19:00 帰宅
19:30 夕食、お風呂
21:30 寝かしつけ
22:00 仕事再開
24:00〜2:00 就寝

ホッと一息
アクセサリー作りが好きで、時間を見つけては作っています。細かな作業ですが集中してそれをしていると、余計なことを忘れられてとてもリラックスできます。

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