自社内にクリエイティブチームを持ち、「暮らしや社会をより豊かにする」企業ではどんなデザインが実践されているのか?
人の暮らし・衣食住に関わるOisix ra daichiとLIFULLの2社で開催した勉強会「彩りのある暮らしをつくる、強いインハウスデザイン」にて、LIFULLのシニアデザイナー・山田さんが講演した内容をお届けします。

山田和代(やまだ・かずよ)
デザインプロダクション数社に勤務、多くクライアントワークに従事したのち2015年LIFULLに入社。主にLIFULL HOME’S 賃貸物件領域のサイトデザインを担当し、他にもLIFULL HOME’Sの各種SPツールや、アニュアルレポートなどコーポレートツールも担当。直近の仕事では、タレントを起用したLIFULL HOME’Sでのプレゼントキャンペーンプロジェクトに参加。

20年掲げた社名を変えた。自分たちの存在意義を込めたものへ

こんにちは、山田です。本日は皆様の貴重なお時間をいただきありがとうございます。私は、LIFULLのデザイナーとして基盤事業であるLIFULL HOME’Sのサービスデザインや、その販促にまつわる各種ツールの制作などに携わっています。

まずはLIFULLのことを簡単にご紹介させてください。

株式会社LIFULLは、「あらゆるLIFEを、FULLに。」をコーポレートメッセージに掲げている会社です。2年前まで「ネクスト」という社名でしたが、世界中の人々の暮らしを、安心と喜びで満ちたものにしたいという想いから、2017年に株式会社LIFULLに社名変更いたしました。

ここから、弊社におけるクリエイティブの考え方と、デザイン事例についてお話していきたいと思います。それに先立ち、まずは弊社のコーポレートCMをご覧ください。

こちらのCMですが、初めて見た際に私は思わず涙ぐんでしまったくらい、好きなものです。あらゆる人の多様性と、多様性があるからこその幸せを全肯定していく。それを、「しなきゃ、なんてない。」というメッセージにこめている。そういったシンプルな強さが、にじみ出ているCMじゃないかなと、私は感じています。

このCMでうたっているとおりLIFULLのブランド定義は、「あらゆるLIFEを、FULLに。」というタグラインに託しています。手付かずの問題や既成概念を、視点を変える発想で「豊かさ」に変えることで、世界中の人々が本当に心から実現したいと思う人生を送れる社会にしたい。それをブランドパーパス、我々の存在意義として据えています。

また基盤事業のLIFULL HOME’Sにおいても文脈は全く同じです。住みかえに関する既知の問題点の改善はもちろん、もっとその人それぞれが心から実現したいと思えるような暮らし方に出会っていただきたい。それをパーパスにして、サービスをどう提供すべきか、一人ひとりの社員が考えています。

ブランドパーパスは、掲げて終わりではない。ブランド定義に強固に結びついたサービス提供の実現

このブランドパーパスを元に、私たちが展開する事業とデザインに関して、このような四象限になぞらえて、具体的にご紹介したいと思います。

四象限の軸ですが、上下が、DriveとBusiness。Businessとは事業の「基盤」、ベースとなる部分のことを指しています。Driveは、より加速させる、新しい可能性を追求する、外へ向けて発信や提言を行う、という意味合いで使っています。左右は「時間軸」になっており、左がNow。まさに今現在、ですね。右がFuture。未来を示しています。

さきほどご覧いただいたコーポレートCMは、左上のリーダー罫で囲まれている部分で、LIFULLのまさにプロモーションにあたります。「我々は何者であるか」をみなさんに知っていただくものです。その下には、「基盤」のエリアでまさに基盤事業であるLIFULL HOME’Sが位置しています。

右上の、Driveであり、Futureである領域には、未来を見据え、世界に提言したいこと。未来にとって、よりよくするヒントになるのではないか。といった取り組みが入ります。ここについては、あとのセクションで詳しく事例をご紹介したいと思います。

また、右下ですが、新規サービスやグローバル事業が該当します。ここは、私たちにとっての未来をつくる、事業の範囲や可能性を広げるといった側面をもつ事業がプロットされています。このようにLIFULLでは、ブランドパーパスを元にLIFULL HOME’S以外にも、新規事業を続々立ち上げています。

では、次に、私が毎日向き合っているサービス、LIFULL HOME’Sのデザイン事例についてご紹介したいと思います。また、引き続きこちらをご覧ください。

こちらのCMの放送とともに、私たちが立ち上げた「LIFE LIST」というサービスがあります。この「LIFE LIST」は、「したい暮らしに、出会おう」をテーマにした、新しい住まい探しのかたちを提案するサービスです。

その人ならではの「したい暮らし」に出会っていただくことで、あらゆるLIFEをFULLにしたい。といった、冒頭にご紹介したLIFULL HOME’Sのブランドパーパスを体現しています。従来の間取りや駅から徒歩何分だとか、そういった住まいのスペックだけを頼りにする住まい探しではなく、たとえば「海の近くで暮らしたい」というような、その人にとっての「情緒的な価値」をテーマにした記事と物件を取り揃えています。また、同時期に「したい暮らしキャンペーン」と題したプレゼントキャンペーンも実施しており、私は昨年末、そのキャンペーンプロジェクトに携わっていました。

それらのプロモーションの恩恵を受けて、実際に利用者のみなさまに物件を検索してもらうのが、LIFULL HOME’Sです。私はそのサービスデザインに日々取り組んでいます。

具体的には、ユーザビリティ向上のためのUIの改善、より豊富な物件の情報を掲載しやすいようにするためのサービス全体の設計・新機能の開発、不動産会社さんに掲載いただく物件を増やすための取り組み、などです。

私たちLIFULLも、OIsix ra daichiさんと同じく、「お客様第一」です。住まい探しにおける「不」、たとえば…遠くに引っ越すので、内見に行かずに物件を決めたら、結果、設備や物件周辺の環境が好みじゃなくて、がっかりした、だとか。そんな住まい探しに関する「不安」や「不満」などを解消したいという理念のもとに、営業と開発チームが一丸となってサービス向上に取り組んでいるのがLIFULL HOME’Sです。

次に、私たちの未来を見据えた新規事業もご紹介したいと思います。その一つがこちらの「LIFULL FLOWER」という、毎月定額で新鮮な生花が届く、お花のサブスクリプションサービスです。

実家が花農家を営んでいるLIFULLの社員が、生花の既存の流通の問題点を解決したいという強い当事者意識をもって立ち上げた新規事業です。この事業の戦略からブランドデザイン、サービスデザイン、パッケージデザイン、運用までLIFULLのデザイナーが携わっています。

以上、LIFULLのデザインがどんな考え方で実行されているのかを事例に触れながら簡単にご紹介しました。「あらゆるLIFEを、FULLにしたい。」という意思のもと、ブランド戦略、ブランドデザイン、サービスデザイン、コミュニケーションデザイン、新規事業開発、コンセプトモデルほか、すべての工程に携わるのがLIFULLのデザイナーです。

ユーザー体験やサービス提案だけでない「広義のデザイン」で未来を創る

そんなLIFULLのデザイナーが志している「広義のデザイン」について触れていきたいと思います。みなさま、「広義のデザイン」と聞いて、ピンとくる方とそうでない方が本日は様々いらっしゃるかと思うのですが…

経産省が「第4次産業革命におけるデザインやクリエイティブの重要性」について、2017年に行った調査研究のなかで触れているデザインの定義(P. 8 図 2-1 本調査におけるデザイン・クリエイティブの定義・対象)の資料の一部を参照しながら本日は広義のデザインについてお話ししたいと思います。

デザインには、経営のデザイン、広義のデザイン、狭義のデザイン、の3種類があると。「狭義のデザイン」だと、意匠と、ユーザーインターフェースがデザインする対象で、広義だと、ユーザー体験、製品とサービス全体がデザインする対象。非常に、このあたりはわかりやすいですね。「広義のデザイン」に該当する「ユーザー体験」の重要性やニーズの高まりについては、かなり以前より、うたわれてきていることかと思います。

経産省による提言では、「広義のデザイン」の上位概念に「経営のデザイン」が存在していますが、LIFULLでは「経営のデザイン」も含めて「広義のデザイン」と捉え、その実践を目指しています。それは、なぜでしょうか…

このグラフは、企業に対しその会社にとってのデザインの定義と営業利益について調査した結果(P.18 図 3-5 経営状況とデザインの定義)で、デザインの定義が「広義」である企業が直近5年、平均営業利益増加率が高い傾向がある、ということを表しています。本日イベントにいらっしゃっている方はおそらくデザイナーの方が多く、わざわざ言われなくてもご自身で常日頃、体感されていることになると思うのですが、デザインに力を入れている企業、あるいは、デザインの定義をより広くとらえている企業は利益率が高水準となり、価格競争に巻き込まれない、ということが言えると思います。

このような傾向も踏まえ、デザイナー自身が経営にコミットし、「イノベーター」、革進する人間となる。そういったことをこれまで以上に実現しよう、という方向にLIFULLは向かっています。そんな、デザイナーがイノベーターとなりうる「広義のデザイン」を体現しよう、実践しよう、というものの象徴としているのが、先ほど少しだけ触れた、事業領域のコンセプトモデルやR&D(右上)の領域になります。

その一例がこちらです。このケーキ、材料がいったい何でつくられているケーキか、ご存知の方いらっしゃいますでしょうか。実は、こちらは材料に「木」が使われているケーキです。杉を細かい粉末状にして、生地の材料として利用しています。

みなさま、日本の間伐材問題って知っていますでしょうか?日本は国土の3分の2が森林で、そのうち4割が人工林です。人工林で育てる木は工業用のものなので、太くまっすぐ育てる必要があります。そのためには途中で木を間引く、いわゆる「間伐」が必要になります。しかし、住宅着工戸数の低下や、安価な輸入材の影響で林業が衰退しています。それに伴い、日本において管理されていない森が増え、社会問題の一つとなっています。

そんな現状に対する問題提起をしたい、として誕生したのが、このEATREE CAKEです。このようなコンセプトモデルに携わることで、LIFULLの未来をつくる。それによって自分たちがより経営に強くインパクトを与えていく、そういった試みも始まっています。このケーキは、意外なくらいに美味しいです!本日、少しだけではありますが持参しておりますので、ぜひ懇親会でみなさんにご賞味いただければと思います。また、これらのコンセプト策定やデザインに携わったデザイナーも本日お邪魔しています。彼女からも楽しい話が聞けると思います。ぜひ懇親会などでよろしくお願いします。

また、違った角度から「広義のデザイン」を実践するための取り組みについて、ご紹介します。これはその、ほんの一部でしかないのですが、LIFULLのオリジナルのフォントです。

LIFULLのデザイナー複数人で開発し、社員は全員使うことができるのですが、こちらを始め、LIFULLのブランドをかたちづくるデザインガイドラインを現在策定中です。今までもそういったものはあったのですが、社名変更したLIFULLとしてのデザインガイドラインを新たに策定しています。そうすることでより品質が高くLIFULLらしいデザインを、今まで以上に少人数でよりはやく提供できるようにする。それによって、広義のデザインを実践する、あるいは「イノベーター」になり得るデザイナーを増やし、人の暮らしを変え生活を豊かにするデザインをより多く実践していきたい、と私たちは思っています。

広義のデザインを可能にする、強いクリエイティブチーム

LIFULLのデザイナーの育成や環境についても、簡単にご紹介します。

LIFULLは2017年に川嵜鋼平というCCO(チーフクリエイティブオフィサー)を迎えました。LIFULLに入社する前は、エージェンシーでクリエイティブディレクションを行い、弊社代表井上の「社会を変えて、世界中の人々を幸せにしたい」という思いに共感し、CCOに就任しました。その入社当時、川嵜が私たちに宣言してくれたことがあります。

それは、「To Be the Most Creative Company in the World」世界で最もクリエイティブな会社になる、です。「世界中のあらゆる人々を幸せにする会社って、どんな会社だろう。」と考えた時に、それは世界で最もクリエイティブな会社だ、と考えたそうです。この大きなゴールに向かい、デザイナーの育成や業務フロー、環境がこれまで以上に整備されています。

デザインチームは、チーム内にアートディレクター、シニアデザイナー、デザイナーで構成され、アートディレクターがそのチームのアウトプットのクオリティを一貫してチェック・担保しています。加えて、週に数回、デザインに関するインプットやフィードバックを川嵜から直接受けるような場も設けています。また、他にもデザインに関する講義を定期的に開催し学びの場を持っています。

私がLIFULLでデザイナーをする理由

最後に、私がLIFULLでデザイナーをしている理由をご紹介し、発表を結びたいと思います。

1.Vision 自分の仕事が常に「人の暮らしを変え、世の中をよりよくすること」につながっている
私はこれまで「デザイナーは、人を幸せにする職業だ」と感じることで、なんとか続けてこられた、というところがあるのですが、LIFULLは一貫して「世界中のあらゆる人々の暮らしを変え、幸せにしたい」という意志を貫く会社で「ああ、この会社にいれば、引き続き人を幸せにすることに携わっていられるな。」と思える安心感と納得感があります。

2.Culture 「変化」への許容量が大きく多様な生き方が尊重される風土
CCOの川嵜が入社し、私たちも今現在、それに必死でついていこうとしているのが正直なところではあるのですが、そういったいろんな変化が受け入れられるのは、社員一人ひとりに「変化し続けないと、生き残れない」という健全な価値観があるからだと思います。
これは、本当に多様性は尊重されるべきもの、という理解が存在しているということかなと。そういった風土でしか生まれないものがある、と私は思いますし、そういったものがきっと世界をよりよくするのだろうと、思っています。

3.In-House 「広義のデザイン」を実践するには有効であろう「事業のなか」でデザイナーとして働ける
私はLIFULLに入社する前、自分がプロダクションから事業会社に転職するかも、と考えた際、非常にいろんな面で強い不安を感じました。今まで多様なジャンルのクライアントワークを請け負っていた自分が、特定の会社の事業に携わるのは、自分にとっていいことか…などですね。
ただ、自分がデザイナーを今後もずっと続けるにあたって、事業の中でデザイナーをやる、事業の中でデザインの強さを検証する、という新しい体験はとても価値のあることだと思いました。そして、そのような変化を自分に与えることで自分自身の本質もより見えてくるのだろう、と思い入社を決めました。

4.Design 自分の生業を今後も大事にできる
私は「なんとなくできそうな気がする」という動機で、ただがむしゃらにデザイナーを続けていたらうっかりLIFULLにいた、という感じなのですが、そんな私が今後やりたいことの一つに「デザイナーが活躍する環境をより醸成していきたい」ということがあります。自分が20代の頃より周囲の人のたくさんの助けを借りながらなんとか続けてきた、そういった職能だからこそ大事に考え、責任を持ちたいし、自分より若年のデザイナーがより広く活躍する会社や社会にしていきたい。そんな風に考えています。LIFULLにいれば、そういったことの実現を含めて「デザイン」という生業を大事にすることを、今後も続けられるだろうな、と思っています。

以上です。大変緊張してしまいましたが、本日は貴重な機会を賜り、誠にありがとうございました。

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企業情報


株式会社LIFULLは、「不動産業界の仕組みを変えたい」という信念のもと、1997年に設立した住生活情報サービス運営企業です。
主要サービスの不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME’S」は総掲載物件数No.1(※)。住まいを中心に介護、インテリアなど周辺分野にも事業を拡大し、現在はグループとして世界63ヶ国でサービス提供しています。
LIFULLグループは、「あらゆるLIFEを、FULLに。」をコーポレートメッセージに掲げ、世界中のすべての人に、安心と喜びのライフソリューションを提供します。
※産経広告社調べ(2019.1.7)