エクスペリエンスデザインとして提供する価値を考える時、”良いコンテンツであるかどうか”は重要な要素である。今回はこの「コンテンツ」について考える。
エクスペリエンスデザインのコンテンツ
インフィメーションアーキテクトのピーター・モービル(Peter Morville)氏も、UX(User eXperience、ユーザー経験のこと)においては次の3つを考えなければならないと言っている(※1)。
UXとして大事なこと
- ビジネスゴールとコンテクスト
- ユーザニーズと行動
- 適切なコンテンツ
エクスペリエンスはコンテクスト(文脈)を内包しており、そのコンテクストと表裏一体の形で”隠れたニーズ”(いわゆるインサイト)やニーズの充足を求める行動がある。それらはエクスペリエンス・マップを使って明らかにできる。また再定義も可能である。しかしコンテンツを考えるには、別の取り組みが必要である。
例えばクリエイターは、単に創造的な思考を持った人というよりも、既存の価値に新しい意味づけを意図的に行える人ととらえることもできる。この「新しく意味付けられたもの」はコンテンツである。
意図的でなくても、再定義し表現できるスタイルが見つかれば、それはそれでコンテンツであると言っても差し支えない。
つまりコンテンツはとても大事である。
サービスとコンテンツの関係
一方、サービスの本質は機能であるが、すべての機能ではなくユーザーの期待に応えるものでなければならない(2007 吉田民人)。言い方を変えると、サービスが目指すものとはユーザーの期待にかなった意味を価値機能として実現し提供することである。ユーザーにとって好ましいかどうかが大事なのである。
かみ砕いて言えば次の手順で実現しなければならない。
サービスにおいて最適なコンテンツを実現するための手順
- ユーザーが真に期待するものに気づく
- 適切なコンテンツと利用方法を設計する
- タイムリーに提供する
このような流れ(手順)が大事なのである。つまり、次のどれが欠けても”価値あるサービス”とは言えなくなってしまう。
価値あるサービスの必要要件
- 適切なコンテンツである
- 適切な利用方法が用意されている
- 適切なタイミングで提供される
ここでもコンテンツが重要であることが再確認できる。
UXとしてのコンテンツのデザイン
この「コンテンツ」とは、次のように定義できる。
コンテンツ(contents)に含まれるもの
- 表現される意味としての内容
- アピールする方法
- メディアミックス計画
- 情報管理
つまり、コンテンツ=内容ではなく、内容以外にも、その内容をアピールする方法やメディアミックス計画や情報管理などが含まれる。幅広いわけだ。
マーケティングでも最近、「コンテンツ・マーケティング」という言葉が使われている。適切で価値ある一貫したコンテンツを作り、それを伝達することにフォーカスした、戦略的なマーケティングの考え方のことだ(※2)。サービスコンテンツを作る側、言い換えれば、UXピープル(UXデザイナーやサービス設計者、情報アーキテクト)もこの点を良く理解し、「コンテンツのデザイン」を行わなければならない。
コンテンツデザインの方法
コンテンツは、前述のコンテンツ定義の下では、次のようなデザイン作業が含まれる。
コンテンツデザインの作業内容
- 情報の中身を作る
- メディアミックスを検討し、各メディアを通じたアピール方法を設計する
- コンテンツ情報の利用方法、更新および保管の管理方法を組み立てる
作業1の「情報の中身」がまさに重要な部分であって、ここで過不足があってはいけない。過剰になっても不足してもダメで、ドンピシャでなければいけないのだ。仮に過剰や不足があった場合は利用状況のフィードバックから、過剰であれば削除を、不足していれば追加を適宜行うが、次の2つがブレていると、過不足をリカバリーする削除や追加の検討が収束しない。
ブレてはいけないこと
- 誰を想定したコンテンツであったか
- その人はどんなコンテンツを必要としているか
作業の2と3へ対応するものとして、「One to Oneマーケティング」や「インバウンドマーケティング」や「コンテンツマーケティング」があると言ってよい(※3)。
作業2はマーケティング部門の主管だが、彼らに丸投げして済むものではない。作業3は情報管理部門の新たな役割となるであろう。
では、肝心の「情報の中身」はどのように作ればよいのか。一つには、「ネタ」と「型」というフレームを活用するのである(※4)。それもネタを出す前に型を決めておき、その型にかなったネタを探す。ここでいう「型」とは、「ハウツー」とか「レビュー」とか「ケーススタディ」とか「ニュース」のような表現媒体のことである。30日間無料とか機器本体無料などの「インセンティブ付与」も型の一種である。
さらに、SEO(Search Engine Optimization)も重要となる。
また、共感を得るという観点からは、コンテンツを質的に方向づける「感性」の問題が大きい。いかに興味を引くか、読み続けたいと思うかである。これはつまり、コンテンツデザインを行うデザイナーの感性が問われるということだ。
感性を如何に磨くか、良いひらめきを得るクリエイティブな脳についてなどは、『実践UXデザイン』(松原、2018、近代科学社)に、他の豊富なTipsとともにまとめてあるので、興味のある方はご一読願いたい(※5)。
参考情報
(※1) Semantic Studiosサイト(http://semanticstudios.com/user_experience_design/)
(※2)「コンテンツマーケティングとは何か?」(https://contentmarketinglab.jp/content-marketing/what.html)
(※3)「ピンポイント広告」(https://hideyuki-matsubara.postach.io/post/pinpointoguang-gao)
(※4)「コンテンツの「ネタを出す仕組み」と「型」を先に押さえておく」(https://www.roundup-consulting.jp/content-101/goal/make-cycle/)
(※5) 『実践UXデザイン 〜現場感覚を磨く知識と知恵〜』(松原幸行、近代科学社、2018)(https://amzn.to/2JhBW9b)