「子どもたちが生きる未来を一緒に考え、人生を共に歩む」を教育理念に、AI型タブレット教材「Qubena(キュビナ)」を開発した株式会社COMPASS。人工知能の解析により、一人ひとりの理解度や進度に合わせた学習が可能になる革新的な教材とあって、第15回日本e-Learning大賞では経済産業大臣賞、2018年度グッドデザイン賞を受賞するなど、高い評価を得ています。

子どもが前向きな気持ちで学習に取り組めるタブレット教材に欠かせないのがUI/UXデザイン。そこで、Qubena開発の初期から現在までのデザインに携わっている鈴木雄大さんにデザインのこだわり、そして次世代教育への想いについて語っていただきました。

株式会社COMPASS デザイン部部長 鈴木雄大(すずき・たかひろ)
名古屋工業大学大学院卒。卒業後サイバーエージェントに勤務。Amebaアプリのスマホ版ポータルサイトのページデザイン、アメーバブログのエディター作成、ソーシャルゲームの開発などを経験。2015年、創業期メンバーとしてCOMPASSに入社。

教育とデザインのプロが歩み寄りながらコンテンツを練った日々

――鈴木さんはQubenaのリリース前からデザイナーとして開発に携わられていたとか。どのようなところに、仕事の意義を感じられたでしょうか?

デザインの仕事自体が面白くて好きなのですが、プロダクトに社会的な意義があるかどうかも大切にしています。人の役に立つのか、人に誇れるのか、そのプロダクトを愛せるのかが大事だと思っていて、自分の中でQubenaはすべてクリアしていました。何かの二番煎じやビジネスのためではなくて、社会的意義のためにこれまでになかったものを作ろうとしているところに面白さを感じました。

――なるほど。具体的に、どんな部分に面白さがありますか?

「教育」と「UXデザイン」の視点を融合させるところです。教育関連のデザイナーというのは、デザイン業界でも少数派です。なので、この会社に転職してから、はじめて塾講師や学校の先生など実際に「教育」を生業にしている人と協業でモノづくりをしました。
それで思ったのは、「教材としてどのような学習を実現するべきか」と「プロダクトとしてユーザーにどのような体験をさせるべきか」をバランスよく融合させることが一番の肝だということ。そのためには、歩み寄りも必要ですが、それも含めて面白いです。

――歩み寄りに際して、難しさはありませんでしたか?

「いいものを作る」という同じ目標があったので、あまり難しくありませんでした。最初の小さなチームの頃から、僕も教育のことを知ろうとしましたし、教育業界出身の教材開発部のメンバーもプロダクト開発のことを知ろうとする姿勢があったからこそ、一緒にやっていけたというのが一番大きかったです。

ただ、私はこれまで教育という分野に関わった経験もなければ、生徒に勉強を教えたこともない。「教育をする」という感覚が理解できないわけです。逆に、塾講師や学校の先生はデザインやエンジニアリングといったデジタルプロダクトを作る感覚が分からない。大事にしているものが互いに違うので、意思疎通が難しい局面はありました。だからこそ、議論を重ねて融合させて、理想に向けて一緒に進んでいけたのはよかったです。

――とはいえ、教育をデザインに落とし込むハードルは高かったのでは?アプリやソーシャルゲームのデザインとは、まったく異なるアプローチになりますよね。

そうですね。UXのことだけ考えると、いろいろな操作をなるべくプロダクトが助けてあげるべきです。たとえば、一般的にはテキスト入力での予測変換とか、句読点を正しい位置に打つとか、ユーザーの利便性を優先させるといったサポートが挙げられます。
しかし教育の場合は、紙より便利に学習できるようにしたいからといって、やりすぎると学習が成り立たなくなります。学習を前提としないプロダクトであれば、便利なら便利なほどいいですが、教材だと、たとえばテキストを正しく入力すること自体が「単語を覚える」という学習になったりします。
ただ、とっくに覚えているものを毎回書かなきゃいけないのは、僕たちが考える理想の学習とは違う。そういった、利便性と学習効果で天秤にかけなければいけない事柄が無数にあります。

――天秤で量った結果を取りまとめていくのも、一筋縄ではいかなそうですね。

そうですね。だからこそ、開発初期はデザイナー・エンジニアと教材開発部の話し合いを密に重ねていました。たとえば、教材開発部から「学習効果を上げるためにはこの設問に対して20個の選択肢が必要だと思う」と意見があり、デザイナー・エンジニアから「それはUIとして不適切だ」という結論が出たとします。そのときに、「じゃあできないね」ではなく、「そもそもこの設問で何を実現したいの?」と深掘りしていくのです。それで、「このデザイン、実装なら実現できる?」と提案しながらかたちにしていきましたね。お互いの提案力と理解力が必要で、最初は1問1問、じっくり話し合いました。

のめり込むほど没入できるような学習体験をもたらすUI/UXデザインで満足度97%

――こだわりがふんだんに盛り込まれたQubenaのUI/UXで工夫した点として主だったところはどんな点ですか?

デザインをシンプルに仕上げているだけでなく、画面の操作、遷移もシンプルにしています。

Qubenaの進め方は、最初だけ自分で勉強するところを選ぶ必要がありますが、2回目以降は、次にどこからはじめるべきかをQubenaが提示するので、ユーザーは何も考えずにスタートボタンを押すだけ。すると問題がはじまります。ペン、消しゴム、メモといったツールはすべてQubenaに内蔵されているので、タブレット一つあれば完結するようになっています。
解答を終えるとその問題の解説やヒントが出てきます。解説についても、間違え方や解き方から、ユーザーがどこで躓いているのかをAIが分析して、その結果から解説を遡っていき、苦手を克服するための問題に自動的に遷移していきます。

また、解説にはアニメーションを多用しています。黒板での説明が難しい図形問題も、アニメーションの方がより理解しやすいのです。また、紙の問題集だと、1ページに10問から20問ほど用意されていて、それを解いたあとにまとめて答え合わせしますが、Qubenaは1問あたり30秒から60秒くらいで解ける小さい問題を連続して出すので、一問解いたらすぐに「〇」「×」が出ます。
回答に対するフィードバックが一瞬で来るのが、紙の勉強と違うところで、飽きない秘訣にもなっている。「つまらない」と感じる隙を与えないような設計にしています。

――×だった問題が○になるまでQubenaが徹底的に演習させるんですね。その過程がゲーミフィケーションの発想にも通じるところを感じます。だから子供が熱中するのではないでしょうか。

そうですね。特に小学校低学年の反応が顕著で、「Qubenaなら勉強したい」「いつまででも勉強できる」と言ってもらえるケースが多いです。
とりわけ印象的だったのは、小学校低学年向けコンテンツのテストのとき。紙とQubena、それぞれでテストをしてもらったところ、Qubenaをしている間はずっと勉強しているのに、紙のテストに切り替わった瞬間、集中力が途切れて後ろを向いたり話しはじめたりしたのです。
小学1~2年くらいの子どもは集中力が1時間も続かないことが多いのですが、Qubenaだと集中できている様子がとても興味深かったですね。

――皆さんの地道な仕事があってこそ、Qubenaは受講満足度 97.4%(※)という高い支持を得られているのだろうと思いますが、どのようなところがユーザーに受け入れられていると思われますか?

まず第一に、サービスデザインが学習者に受け入れられているからではないでしょうか。僕の入社前から、当社代表の神野が主導して紙のプロトタイプでユーザーテストを行い、「勝ち筋」をアプリに落とし込むアプローチをしていたので、その時点でサービスデザインのマーケットフィットができたと思います。あとは、学習の効率化を確信してからアプリ化しているので、実際に教育効果を感じていただけているのかなと。

UXデザインについては、Qubenaがあればタブレット以外にほかの道具がいらないようにしているので、そこは評価していただいていると思います。手書きで途中式もかけるし、文字認識もするし、コンパスを使った作図もできます。
※株式会社COMPASS実施のアンケート結果数字

子どもの人生の血肉になるコンテンツを作ってこそデザイナーとして胸を張れる

――飽きないからこそ続けられる。学習効果の高さも頷けます。

うまく理解できないところがあったとしても、「そもそも、ここ分かってる?」という復習を促す先生の代わりをQubenaが担っています。生徒がどんどん学習を進められるので、当社学習塾では7倍〜、導入していただいた学校では、およそ2倍のスピードで授業が進むようです。

生徒がQubenaで学習している間、先生はサポートや、質問を受けてコーチングする役割に徹しています。使われ方は、学校の特徴に合わせて様々ですが、これまでの数学の授業をQubenaに置き換え、先生による授業をほとんどしない学校もあります。時間を創出することができたので、数学やプログラミングを使ってドローンやロボットを動かすといったようなSTEAM教育を追加した学校もあります。

――それは画期的!そうした話を聞くと、仕事のモチベーションにもつながりますよね。

そうですね。個人的な話ですが、僕は子どもの頃からゲームが好きで、いつかゲーム制作に関わりたいと思っていました。なので元々教育には興味があったわけではないのですが、縁あってQubenaを手掛けるようになってつくづく思うのは、僕にとって「学習教材を作ること」と「ゲームを作ること」は、ほとんど同じようなものだったということ。

僕は子どもの頃にプレイしたゲームから様々なものを吸収したり感動してきたのですが、そういう経験は大人になっても忘れないし、人生の血肉になっている。つまり僕は「子どもたちにとって人生の血肉になり得るものを作りたい」と思っていたわけです。学習教材は、半ば強制的に長時間使うことになります。人によっては数年使い続けることだってあります。ゲームよりもずっと「人生の血肉になり得る」はず。だからこそ、本当に良いものを作りたい。

――Qubenaによって、人生が変わる子どももいるかもしれませんね。

そういえば、数学の先生になりたいと言うくらい変わった生徒もいました。数学嫌いだったのですが、Qubenaを中学3年間使ってみて、楽しさを感じるようになったみたいです。それは、すごく嬉しかったです。同時に「結構責任が重い仕事しているぞ」とも思いましたね。

――人生を大きく変える可能性に満ちているからこそ、そこに責任も面白さも共存しているのでしょうね。では最後に、これからQubenaをどう成長させていきたいか教えてください。

いまは算数・数学と英語の教材だけなので、小中高の5教科7科目を揃えたいです。また、学校以外でもリカレント教育や資格試験まで、幅広い教育教材をアダプティブラーニング化することが目標です。もっと言うと、「教育を一番いい方法でユーザーに届けたい」だけなので、端末にもこだわっていません。スマホやタブレットを飛び出して、VRやARなどいろいろ取り入れていきたいです。

インタビュー・テキスト:末吉 陽子(YOSCA)/撮影:SYN.PRODUCT/編集:岩渕 留美子(CREATIVE VILLAGE編集部)

会社プロフィール


私たちの教育理念は、子どもたちが生きる未来を一緒に考え、
人生を共に歩むことから始まります。

誰もが容易に予想できない未来を、それでも徹底的に考え抜いて教育を行う。
これは、今こそすべての教育機関が行わなければならないことです。

私たちは全世界の子どもたちの幸せな未来を、どこまでも追い続けます。

■ 社名  :株式会社COMPASS
■ 所在地 :東京都品川区西五反田3-6-21 住友不動産西五反田ビル1F
■ 設立  :2012年12月
■ 代表者 :CEO 神野 元基
■ 事業内容:学習コンテンツの制作・配信 学習塾の運営
■ URL:https://qubena.com/company/