「投資は高収入の人がするもの」「まとまった資金が必要」「難しそう」-。そんな投資のイメージを変えるべく奮闘しているのが、株式会社FOLIOです。社名からは想像がつかないかもしれませんが、実は金融商品を扱う証券会社。ただ、同業他社と違い、「VR」「アンチエイジング」など、自分の関心のあるテーマを選ぶだけで、そのテーマに関連した複数の株に投資できるというアプローチで注目を集めています。各テーマは10万円程度から購入できるため、投資を始めやすいのが特徴です。
そんなFOLIOのデザイン部門でブランディングをリードしているのが、吉原大道さんです。吉原さんは入社以来、ブランドコンセプトの構築や世界観づくりを手掛けられてきました。今回は、FOLIOの将来的なビジョンを目に見える形で作り上げるまでの試行錯誤のエピソードから、会社のアイデンティティやサービスのフィロソフィーを世間に訴求するブランディングの重要性を、吉原さんに熱く語っていただきました。
前職は外資系のブランドコンサルティング会社に勤務。クリエイティブ部門のデザイナーとして、パッケージデザインからUI/UX に至るまで、ジャンルを問わず様々なデザインやディレクションを手掛ける。
2018年3月末、株式会社FOLIOに参画。コンセプトづくりからスタートし、リブランディング全般をリード。同社のミッション「投資を生活圏へ」にふさわしい世界観の実現に貢献している。
デザインを通して企業を育てることに魅力を感じ転職
――吉原さんは2018年にFOLIOにジョインされたということですが、そのきっかけは何だったのでしょうか?
FOLIOに入る前は、ブランドコンサルティング会社で、クリエイティブ部門のデザイナーとして働いていました。そこではクライアントのブランディングを請け負っていたのですが、成果物を納品した後にそのブランドがどう変わったのか、その過程を追うことまではできなかったんです。
そこに物足りなさを感じ、次第に「もしこのブランディングの技術・ノウハウをインハウスに活かせばどうなるだろう」と考えるようになりました。そこで、ブランディングを1から10まで手掛け、なおかつ将来の姿も見届けられるようなポジションを求め、転職しようと思い立ったんです。
――FOLIOに入社を決めた理由は何だったのでしょうか。
インハウスでデザイナーとして働くにあたり、こだわった転職先の条件が、ある程度フレッシュなスタートアップであることでした。数あるフィンテック系スタートアップの中で、FOLIOは「テーマ投資」を掲げていて、カジュアル・フレンドリーに投資ができる点がおもしろいなと思ったんです。面接で説明を聞いたときに、「これだ!」と確信を得て入社を決めました。
「FOLIOとは?」を問い直すインナーブランディングの構築
――社長から吉原さんへはどういった要望があったのでしょうか。
面接時、社長からは、「リブランディングやディレクション周りをお願いしたい」と言われていました。その中で「ロゴを変えたい」という話があったのですが、入社当時、社内では「リブランディング=ロゴや色を変えるだけ」くらいの認識しかなかったことに危機感を抱いたんです。
ブランディングって、世界観づくりから行わなければ意味がない。なので、リブランディングするためには、単にロゴやコーポレートカラーを変えるだけではおさまらないだろうと判断し、社長にもそう提案し理解してもらいました。
――具体的にはどのような取り組みをされたのでしょうか。
ブランディングにはアウターブランディングとインナーブランディングの2種類があります。このどちらに注力すべきかを考えたときに、弊社にはスペシャリストがそろっているので、インナーブランディングさえ固めれば素晴らしいアウトプットが出せるはず、という確信がありました。
なので、まず「FOLIOらしさ」を表現するためのコーポレートアイデンティティの構築から着手しました。
フロアの一画を占拠して、事前にいくつか提示されたキーワードからいくつかの言葉を連想し、ポストイットに書いては壁に貼っていくという作業を繰り返しました。
僕としては前職で当たり前にしていたことなのですが、周りの社員にとっては珍しかったみたいですね。入社間もない頃から社内の片隅で一人黙々とそんな作業をしていたので、ちょっと奇異な目で見られていましたね(笑)。
全社員を巻き込み「社員による社員のためのブランド周知」を実施
――その作業にはどのような思惑があったのですか?
みんなを巻き込みやすい環境を作ろうという思惑がありました。
FOLIOのサービスやプロダクトを生み出すのは他でもない我々です。その我々が、FOLIOらしさとは何かもよくわからずに、世の中に認められるものを発信することはできないと思うんですね。
だからこそ、ブランド再構築は社員の総意のもとで行いたい。そう考えて、いかにみんなの関心を引き出すかということにも意識しましたね。
最初は遠巻きに見ていた社員も、徐々に声をかけてくれるようになり、アイデア出しにも協力してくれるようになりました。
また、「FOLIOを人に例えるとどんないでたちで、どんな言葉遣いをするか」「FOLIOを心臓に例えるとどうか」ということを、さまざまな部署の社員にも一緒になって考えてもらいました。ときには同僚とお酒を飲みながらブレストしたことも、一度や二度ではありません。
――徐々に、自然な形で社員の皆さんを巻き込もうと工夫されたのですね。
他にもトーン&マナーのガイドラインやコンセプトの案をいくつか作り、定例会議でプレゼンテーションもしました。ただ、説明しても、みんなポカーンとした表情を浮かべるだけ(笑)。
そんな様子を見て、社員へのブランドの意識付けと定着にはまだまだ手をかける必要がありそうだと思いました。
そこで、さらにビジュアルで訴求するべく、アイデアをまとめてコンセプトムービーにし、「FOLIOはこうなります」と、社員全員を集めて上映会を行いました。
「LIFT ME UP」というコンセプトのもと、ムービーには、さまざまな生活のシーンで、人々の笑顔や、楽しくダンスしている人の動き、何かに真剣に向き合っている表情など、リアルで生き生きとした姿が映っています。
それを見た社員はみな、衝撃を受けたようでした。
我々のミッションは「投資を生活圏のものにする」ことです。投資というと「お金持ちがするものでしょ?」など、どこか自分とは関係のない話のように感じる方が非常に多いじゃないですか。僕らはそのイメージを覆して、一般の方がもっと手軽に投資を始められるようにしたいんですね。
なので、FOLIOを通じて、投資をもっと身近に、ショッピングや食事を楽しむのと同じように人々の暮らしに浸透させていきたいという想いも込めたビジュアルなんです。
――ムービーを拝見すると、いわゆる株、投資といった金融のイメージとはおよそかけ離れていますが、とてもクールで、いい意味でカジュアルになり、親しみやすさを感じます。
僕はFOLIOのコンセプトや世界観をつくるときに考えたのが、アパレルや音楽、食べ物とのコラボレーションでした。FOLIOが食べ物になるとこうなる、音楽になるとこうなる、と一つずつ画像で示したんです。
FOLIOとネイルがコラボするとこうなるという画面を女性社員に見せると、後日その模様のネイルを塗ってきた女性社員がいました。
――FOLIOのネイルとは驚きです!でも吉原さんの狙い通りですね。意識の変化の兆しが見えてきたのですね。
そうですね。
他にも、コンセプトの「LIFT ME UP」をもじって、「これってリフティ(FOLIOらしい)?」という会話が自然に生まれるようになったり、カスタマーサービスの担当者から「こういう問い合わせを受けた場合は、どう答えることがFOLIOらしいのか」とデザイン部に尋ねてきたりということもありました。
ここにきてようやく社員の意識の変化が実感できるようになってきて、社内におけるブランディング文化が芽生えてきたと思いました。
今後は「つくる」から「広める」フェーズへ
――2018年8月にリブランディングしてサービスをリリースしたことで、現時点で振り返ってどのような効果が得られましたか?
デザインだけでなく、マーケティングなど総合的な施策を行った結果、FOLIOのアカウント登録者数がリブランディング前に比べて263%アップしました(注:2019年3月27日現在)。
実際のユーザーの構成比率についてリサーチをしていると、以前に比べ女性のユーザー数が増えた実感があります。
一般的に男性よりも女性の方が投資に対して比較的慎重という傾向があると思うのですが、FOLIOが打ち出す投資のフィロソフィーがデザインの力でポジティブに訴求できたのではと考えています。なので、リブランディングの方向性は間違っていないと思いますね。
展示会でブースを出店したり、外部でセミナーを開催することがあるのですが、「FOLIOって何屋さん?」とよく聞かれるんですよ。一般の方がそうおっしゃってくださるのは、まさに僕らの狙い通りなので、最高の誉め言葉だと思っています。
――今後の課題や展望について教えてください。
UI/UXの部分など、まだまだ改善したいところはあるのですが、2019年度はより多くの一般の方に投資を「広める」ことに注力していきたいです。
そのためには、FOLIOのブランドをコツコツ育てていかなければなりません。また、FOLIOが間違った広がり方をしないようにコントロールするのも、僕の使命ですね。
会社プロフィール
国内株を取り扱う独立系証券会社において、約10年ぶりに新規参入し話題となったオンライン証券会社。2018年8月に本格的な事業展開を開始。テーマに投資できるサービスは日本初(※)。2018年11月には、いわゆるロボアドバイザーサービスの「おまかせ投資」をローンチ。テーマ投資やおまかせ投資を“新しい副業”として捉えて始める方が増え始めるなど、業界内外で注目を集めています。
テーマ投資では、「ドローン」や「ガールズトレンド」といったテーマを選ぶだけで、テーマに関連した複数の企業に10万円前後で分散投資が可能。それぞれのテーマは、『FOLIO』が選定した10社で構成されており、分散投資することで株価変動リスクを比較的抑えることができ、簡単に資産運用することが可能な次世代型の投資サービスです。
2018年10月には、LINE Financial株式会社と「LINE」上からテーマ投資を行える『LINEスマート投資』をローンチしました。圧倒的ユーザー数を抱えるスマホアプリから、気軽に投資を行える新しいプラットフォームは、『FOLIO』が展開する次世代型投資サービスを基盤としています。
※テーマ投資はテーマに投資ができる日本初のサービスとして特許取得済(特許6285525)
■ 社名 :株式会社FOLIO
■ 所在地 :東京都千代田区一番町16-1 共同ビル一番町4F
■ 設立 :2015年12月10日
■ 代表者 :代表取締役 甲斐 真一郎
■ 事業内容:オンライン証券
■ URL:https://folio-sec.com/
撮影:SYN.PRODUCT/インタビュー・テキスト:大澤 美恵(YOSCA)/編集:CREATIVE VILLAGE編集部