クリエイティブ人材を幅広く支援するクリーク・アンド・リバー社(以下C&R社)では、声優の支援にも力を入れています。声優のキャスティング、ブッキングから実際の音声収録、完成パッケージ納品まで、ワンストップサービスを展開する中で、業界全体への貢献を進めるための新事業への挑戦も始めました。そのひとつが子役向けの声優ワークショップです。
育成に定評のある子役タレント事務所、NEWSエンターテインメントとコラボレーションするワークショップを現地取材するとともに、プログラム開発での工夫や反響をうかがいました。
実はとても珍しい、子ども向けの声優レッスン
声優は今や、アニメや映画の吹き替えのみならず、歌やダンス、バラエティ番組への出演と、幅広く活躍し、子ども達の憧れの職業となっています。そんな中、C&R社の伊東貴光さんが企画・ディレクションする声優ワークショップが新たに開かれることに。
「参加を希望する子どもの目がキラキラと輝いていた」と話すのはNEWSエンターテインメント事務局長で、ワークショップのレッスン全般のサポートを務める今井誓子さん。「NEWSエンターテインメントで声優の仕事を目標にする子どもの夢を叶えるお手伝いができて嬉しい」と今井さん自身も目を輝かせます。
楽しみながら、声優の仕事の基本を知る
ワークショップの具体的な中身を見ていきましょう。全10回の予定で開催され、各回の内容は以下の通りです。
第2回 テーマパークアトラクション台本本読み
第3回 キャラかけあい本読み
第4回 感情表現のレッスン
第5回 キャラかけあい本読み
第6回 ボイスドラマ台本 本読み
第7回 劇場アニメ台本本読み
第8回 感情表現のレッスン
第9回 劇場アニメ台本本読み
第10回 スタジオにてアフレコ収録体験
あまり例のない子ども向けワークショップということで、伊東さんはプログラムにもかなり工夫を加えました。声優としての技術を身につけるだけでなく、「声優とはどんな仕事なのか」基本から知ることができるように、アニメ以外の、ボイスドラマ、朗読など幅広い題材を取り上げました。これにより子ども達は、将来の仕事を考える上でもワークショップを役立てられるでしょう。
仕事でも通用する技術を身につけることは目標ですが、第一に考えるのは、楽しい体験として声優の仕事に触れてもらい、声優業を好きになってもらえること。よい点は積極的に褒め、穏やかにゆっくりと説明する指導方法を心がけます。実際に声の演技を行う題材も、子どもが無理なく演ずることのできるキャラクターが登場する作品を厳選。講師は、現役の声優として活躍する2名が交代で務めます。毎回、ワークショップ後に伊東さんと講師2名でミーティングを開催し、改善点を話し合ったり、進捗や参加者の情報を共有。回が進むごとに、受講生に合わせて内容がブラッシュアップされていきます。
ワークショップ現場に突入!レポート 本物のアニメにチャレンジする
この度、第7回のワークショップ現場に伺い、その様子を見学させていただきました。この回は、最終講義で実際に収録するアニメの本読みの初回です。当日渡されたという台本を手に、緊張の面持ちで集合する4名の子役の皆さん。そして2名がオンラインでの参加でした。さっそく本読みか、と思いきや、まずは準備運動と発声練習です。お子さんとは思えないほど、しっかり声が出ていますが、講師からの「30メートル先、50メートル先に声を届かせるつもりで」の言葉に、さらに大きくしっかりした声に。その実力に驚きます。
アニメ台本は、セリフの上には画面の説明が載り、どんなシーンでのセリフなのかがわかるようになっています。ドラマの台本には慣れている皆さんも、アニメの台本には馴染みがありません。台本の見方、指示を出すときの場所の示し方から丁寧にレクチャーがあります。そして今回挑戦するアニメを実際に見てみます。この作品は、1992年に制作されたアニメ映画で、声の出演には、錚々たる声優が名を連ねています。
マイク前での演技は、奥深い
講師がその場で役を振り、本読みを開始。今日初めて見た台本で、今決められた役とは思えない力の発揮ぶりです。一度目は講師が各シーンの動きや状況を説明しながら、二度目は説明なしでかけあいを楽しみながらの本読みが行われました。ところどころ、講師から話し方や演技指導があります。一度の指導で、ぐっとよい演技に変わり、対応力の高さにも驚かされます。「仲間うちで会話をしているシーンと、遠いところを見て話すシーンは演技が変わってくる。方向を意識することも大事」というアドバイスからは、マイク前の演技という声優ならではの技術の奥深さがよくわかります。
二度の本読み後は、いよいよ映像に合わせてセリフをあてていきます。これまで自信をもって会話を展開してきた皆さんですが、いざ映像に合わせると、タイミングが遅れたり、セリフがシーンの中に入りきらなかったり、少し苦労している様子です。戸惑う皆さんですが、講師によれば「慣れの問題なので、何度か練習すれば合うようになってくる」とのこと。台本を見るために下を向くせいで、タイミングを外してしまうことも指摘。プロの声優は、同じ視界に台本と映像が入るように台本を持つのだそうです。実践的な指導には感心します。
90分のワークショップはあっという間に終わり、また翌週、続きのシーンに挑戦していきます。練習を重ねた後、最終回でのスタジオ収録が楽しみです。
吸収力の高い子どもが、声優の訓練を積むメリットは大きい
これまで大人向けのワークショップを開催してきた伊東さんは、初回から子ども達の吸収力の高さに驚いたといいます。「講師が一度やってみせればそれをすぐに吸収し、自分の個性を入れつつ表現できる。大人にはない柔らかさがあります。子どものうちから、俳優の訓練と声優の訓練と、両方を受けることが増えれば、声優業界にとってもプラスだと思います」と将来への希望も。今井さんは「子ども達も新しい経験を積んで、難しいけど楽しい、と言っています。声優のスキルも身につけられれば表現力も多彩になり大きな武器になると思います。今後もこうした試みを続けていきたいですね」と今後の抱負も語ってくれました。
ワークショップ終わりに、実際に参加していた吉田さんと芝﨑さんにお話を伺いました。
代表作:ラジオドラマ「僕たちの塩田Summer」璃子役/ソニー生命VP
WEBやCM、テレビドラマなどで幅広く活躍。脇役でも印象に残る声優を目指したい。
小さい頃からアニメやマンガ、ゲームが好きで、俳優と声優、両方で活躍できるタレントを目指しています。声優は、映像の演技とは異なり、声だけで相手との距離や動き、姿勢を伝えなければいけなくて大変ですが、とても面白く、映像での演技表現にも役立つと思います。映像では演じることのない、太ったキャラクター役をやれることも新しい体験で楽しいです。声の出し方を工夫して、のんびりとしたイメージで演じています。
代表作:舞台「キングダム」信(子供時代)役/TYOSiN「misery」MV
WEBやMVで活躍、舞台『キングダム』では信の子ども時代役で好演。
先生の教え方がとてもわかりやすくて楽しいです。舞台にも出演していますが、声優の仕事では、声の出し方、のどの使い方が少し違うので、その方法を勉強できています。今回もらったトム役は、高い声を出すので難しいと感じましたが、今日演じてみて、いい声で出せたと思います。最終回の収録でも頑張ります。山寺宏一さんのような、いろいろな声を出せる人になれるように、のどの開き方や声の出し方の工夫を学んでいきたいです。
子役向けの声優ワークショップは、受講する子ども達自身に役立ち、楽しんでもらえることはもちろん、声優業界にも新風を巻き起こしそうです。
インタビュー・テキスト:あんどう ちよ/撮影:SYN.PRODUCT/