一人の女性と二人の男性をめぐる恋愛模様が繰り広げられる連続ドラマCM「さけるグミVSなが~いさけるグミ」(UHA味覚糖株式会社)。
2017年夏に放送されて話題となり、その続編が2018年に放送され、ストーリーは完結しました。
国内での動画再生回数4000万以上を獲得し、海外でも話題に。現地語にアフレコされるなどして、この商品のグローバルな認知にも成功したこのドラマCMのバズの極意とは!?制作を手掛けたクリエイティブディレクターの井村光明さんに伺いました。

株式会社博報堂 クリエイティブディレクター/CMプラナー 井村 光明(いむら・ みつあき)
1968年広島県生まれ。東京大学農学部卒業後、1991年株式会社博報堂入社。主な仕事に日本コカ・コーラ『ファンタ』、エムティーアイ『ルナルナ』、福島県庁『TOKIOは言うぞ』、UHA味覚糖『さけるグミ』など。
2005年、ACCグランプリ、ベストプランナー賞受賞。2018年、UHA味覚糖『さけるグミ』にて、TCCグランプリ、カンヌライオンズ2018フィルム部門シルバーを受賞。

エンタテインメント性と商品訴求を絶妙に両立させたTVCM「さけるグミVSなが~いさけるグミ」

――UHA味覚糖さんのTVCM「さけるグミVSなが~いさけるグミ」は、浮気や三角関係など男女のドロドロした人間模様が展開される連続ドラマ仕立てで展開されましたが、なぜこうした企画にしようと思われたんですか?

今回のTVCMの前に実は短い「さけるグミ」のCMを作っていたんです。それはあるオフィスで起こるちょっとしたエピソードをギャグに仕立てたものでした。2015年に3本作った後しばらくしてクライアントさんから、またCMを展開したいので続編を作ってほしいとお声がかかったんです。

クライアントさんからは前回と同じような感じで、と言われたんですが、同じようにやるだけでは大して膨らませられないぞと思ったんですね。
仮にまた同じような単発ギャグを作っても、前年と変わった感が出なくてむしろパワーダウンした印象になりかねないなと。

それでクライアントさんに、連続ドラマものを提案したんです。Webに動画を置くことを意識して、TVではシリーズを順番に見れないので前年と同じ単発ギャグCMだけれど、Webなら順番に見てもらえて「ストーリーになってたんだ!」と驚いてもらえるかもしれないなあと。

――今回のバージョンは全部で11話の構成ですが、これは最初から意図していたんですか?

いいえ、全く。当初は5話までの想定だったんです。で、半年たって続編を手掛けることになりました。
ただ、男女関係ってパッと見てわかりやすいうえに、今後さらにストーリーを展開できるかもしれないぞという見込みも含んでいたので、あの設定にした、というのはあります。

――そうなんですか?個人的にはとても5話で終わる予定だったとは思えないくらい、違和感なく楽しめました。さけるグミとなが~いさけるグミを二人の男性に重ね合わせて、その間で翻弄される女性との関係性が前半5話で次第に三角関係になっていき、次はどうなるんだろうとつい男女関係の展開を期待していたら、7話で意表を突かれるストーリーが展開されたんですね。
見てない方にはネタバレになりますが、さけるグミ一袋分を縦に並べるとなが~いさけるグミと同じ長さになるという“真実”が明かされる。
このエピソードで、ストーリーの世界観にさらにグイっと引き込まれました(笑)。

なるほど。では逆を言うと、前半5話は印象が薄かったということですよね?

――うーん、そういうわけではないんですが…。

いえいえ、いいんです(笑)。実は最初の2話の内容は自分自身、不安だったんです。
このCMって短い商品を食べている人の横で長い商品を食べている人がいて、という設定。映像では短いものと長いもの2つの商品がちゃんと裂いて食べられるところをきちんと見せないといけない。すると残された秒数はわずかなので、男女関係をドラマ仕立てで見せる、15秒ならそれくらいしか出来ないかなと。
でも最初の2話までは2つの商品をじっくり見せているだけですよね。ユーザーの方が面白がってくれるかなと心配だったんです。もしあれが1本だけTVで流れていたら、お菓子のCMなんだな、くらいにしか思われなかったんじゃないでしょうか。

7話も実は同じで、商品のことしか言っていない。でも案外まわりから“7話がいい”と言ってくださることが多くて。
「さけるグミ一袋分並べてみると同じ長さになるの、食べやすいようにわざわざ切ってあるんだよ」という商品の説明しかしていないセリフなのですが、“わざわざ”という強調語を入れて、泣きながら喋るという演出を加えるだけで、一風変わったものになりました。

エピソード#7「嘘」編の一コマ。さけるグミとなが~いさけるグミの間にはこんな衝撃の“真実”があったんです!

広告として、商品のことをきちんと謳いたいという使命があるからこそ出た味というか、このシリーズの7話はCMプラナーとして僕なりにできることが一番出せたところでした。

CMプラナーって、TVドラマやってみたいなとか、いつか映画撮りたいなんて思うものなんですよね。でも、僕はCMのフィールドに身を置いている立場として、CMならではのことをして楽しみたいなと思っていて。

このCMのシリーズで展開した男女関係も、テレビでドラマ展開したらもっと別の面白さが表現できたと思うし。でもそこは商品広告という枠の中だからこそできる表現もあるよ、というその最たるものが7話だったかなと。
そこを面白いって言ってもらえると嬉しいですね。

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あえて“広告然”としたCMで戦う

――再生回数が全話トータルで4000万回以上とかなりの閲覧数でしたが、クライアントやユーザーの反響はいかがでしたか?

おかげさまで国内でかなりビューが伸びて。さらにクライアントさんから聞いたのは、海外でも結構反響があったということなんです。
勝手に海外の各ローカル言語に翻訳されたり、アフレコをあてたものや、現地語の歌まで入っていたりして。かなりの国の人たちに見てもらえたんですよね。
そのうえ、こうした反響が、この商品の海外展開にも一役買ったんです。
海外のあるバイヤーさんから、YouTubeで商品の動画見たんだけど、この商品なんでうちに卸していないの?卸して欲しい、という問い合わせがかなり寄せられたんだそうです。

――それは嬉しい反響ですね!全11話で繰り広げられる男女関係の中でも商品の存在感をきちんと訴求できたという証明になりますね。
今の広告って“バズ”を求められることが多くなっていて、バズを狙うがために、商品の存在とコンテンツの関係性が離れてしまっている作品も目につきます。

最近、Webムービーでバズ広告を作りたい人ってやっぱり増えていて。ブランデッドムービーと称して広告というよりも作品として意識したものが多くなってきているなぁと。
確かにWebで目立っているのはそういうものばかりだし、今のトレンドに沿った一つの在り方だと思います。
でもそんな中で、「さけるグミ」のCMはそうした作りではないけれども、広告として世に出したものが、「シリーズ7話目が面白かった」とか「YouTubeを見て商品が欲しくなった」と反応してもらえたのを知って、今まで自分がTVCMで取り組んできたことがあながち間違ってなかったなぁと、ある種の達成感はありました。

――YouTubeのようなメディアだといろんな人が作った動画がジャンルレスに掲載されますよね。有名なユーチューバーや、かわいい猫動画と横並びに手掛けた広告が並んでいて、それらと戦っていかざるを得ない、そんな状況の中で、今後広告ってどう作っていったらいいんでしょうか。

ユーチューバーの動画って、食品をぐちゃぐちゃにして爆発させてみた、とか変な使い方をやって見せるものがあるけれど、残念ながら広告ではそういう見せ方は絶対にできません。CMはどうしても「作られたもの」に見えるので、ユーチューバーの方の「リアル」には敵わないんですよね。ブランデッドムービーでバズるものもそういう方向に傾いている気がします。

でも、商品の存在感が限りなく薄く、最後のほうにちょっと出してつながっているような、そういう動画は山ほどあるからこそ、もっと“広告然”としたほうが、逆に目立っていいんじゃないかと思うんですよね。広告をもっと武器にしたほうが戦いやすいんじゃないかと。例えば、CMだと尺が短いのでパッと見てもらえる。そこをメリットと捉えれば、1本見終わって続編があっても、面倒くさがらずすぐに見てもらえそうだ、とか。さけるグミの7話も商品のベタ押しだけれど、面白いという感想をいただいたのって、“広告然”としてたからじゃないかなと思います。

クリエイターとして初心に帰れる作品

――ちょっと話は変わりますが、ネットで井村さんの名前を検索すると、サジェストワードに先ほど話題にした「さけるグミ」のほかに「ファンタ先生」と出てくるんです。
ファンタ先生シリーズは結構前の作品ですが、きっと今見ても面白いと思ってくれるファンが一定数いるのではと思うんです。自分もその一人なんですけれど。

それは日本コカ・コーラさんの清涼飲料水「ファンタ」のTVCMで、2002年から1年で3本、4年間で計12本制作しました。ある中学校に変な先生が登場する単発ギャグものです。
思い出話になりますが、あの作品を手掛けた時、僕は30歳過ぎで、ちょっと壁にぶち当たって腐り気味になっていた頃でした(笑)。そんなときにこのファンタシリーズを手掛けることになったんですが、このことで、当時僕がどこか意固地になっていたということに気づかされたんです。

制作にあたり膨大なリサーチを行いました。その内容から、いろんな方向性の企画を出してコンテをつくり、商品のターゲットである10代の子どもたちに見てもらって調査するんですね。
僕はコンテの説明係で子どもたちに一つひとつ説明をしました。面白い、よくわかんない、つまんない…いろんな感想をまとめて、方向性を絞ってはまたコンテを作って。それを繰り返してできたのがあのシリーズなんです。

僕はどのコンテも自分では面白いと思って出していたんですが、子どもに見せると否定されるわけですよ。そのたびに「なんでこの良さがわかんないんだよ!!」とむかついたりしていたんですが(笑)、集めた意見に基づいて修正していくと、前よりも面白くなったり、わかりやすくなっていることに気づいたんですね。

そんな気づきを得て、それまでの自分はどこか奢りがあったのだなぁと思いました。人の意見にきちんと耳を傾けていなかったな、と。
大事なことは、作品を見せた時のその人の表情をくみ取って柔軟に変えていく、そんな姿勢なんだと。モノづくりの基本に立ち返らせてもらった、そんな作品でした。

モノづくりは“ネタとネタの組み合わせ”

――なるほど。若手時代にそんな苦労も経験された井村さんが、今の若手クリエイターをみて思うところはどんなところですか?そして、どんな期待が持てそうでしょう?

企画打ち合わせの席で、過去の成功例をプリントアウトしたものがずらっと並べられて、最近こんなものが注目されています、流行っていますとプレゼンする、そんな光景が多くなったなという気がします。

キュレーション、リミックス、といった言葉も一般的になったし、何かをベースに組み合わせてアウトプットを作っていく、その元ネタをたくさん持っていることがもてはやされるという風潮があると感じていて。

すると、単純に組み合わせだけの仕事になってしまわないかなぁという懸念があるんです。
自分の「知ってる」ネタを組み合わせて「作った」気になってしまうというか。それだと逆に目新しいものが作りにくくなってしまわないかな…と思ってしまいます。

あんな成功例があるから、これらを組み合わせれば面白くなるはず、みたいな前例に当てはめないと判断できない人が増えているような気がしますね。

――以前バズったこんなコンテンツを掛け合わせたら面白くなるはず、というファクトをもって、なかば確信的に作る、という傾向はあるかもしれません。クライアントへの説得力も増しそうですし。

それが正しければ、もっと面白いもの、斬新なものがいっぱい出てきても不思議ではないのに、実際はそうでもないんですよねぇ。
どことなく既視感があって、「おぉ!」という驚きが、あんまりないなと。
作り手も受け手もネットで膨大な動画を見ているので、何が新しいのか、面白いのか、確信を持って判断しにくくなっているのではないかなと思います。

とはいえ、表現物は所詮全て何かと何かの掛け合わせ。おっさんの僕に比べたら、やはり若手は自分の想像を超えたものを出してくるし、なんだかんだ言っちゃいましたけど、成功例なんかも自分は知らないものだったりするので、「えっ!そんなんあるんだ!」と、面白がって見ています(笑)。やっぱり若い人が考えたもののほうが確実に新しい、もちろん期待していますよ。

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作品INFORMATION

・UHA味覚糖株式会社 「さけるグミVSなが~いさけるグミ」公式サイト
https://www.uha-mikakuto.co.jp/sakeru/index.html
主人公のOLちーちゃんと二人の男性の三角関係をめぐる全11話が絶賛公開中!15秒で表現されるドラマの世界観をぜひご覧ください。

・日本コカ・コーラ株式会社 「ファンタ」TVCM先生シリーズ
2002年~2006年まで放送されたTVCM。とある街の中学校「ファンタ学園」に現れたヘンテコ先生が繰り広げる一発ギャグが楽しめるシリーズ。

撮影:SYN.product/インタビュー・テキスト:岩淵留美子(CREATIVE VILLAGE編集部)