動画制作の現場において、指示書としての役割を果たすのが「絵コンテ」です。映像ディレクターのイメージをスタッフやクライアントと共有するうえでは不可欠なツールと言えるでしょう。現場スタッフは絵コンテを見ながら制作を進行するので、映像ディレクターがスタッフやクライアントがイメージしやすいよう絵やテキスト、時にはリンクなども貼ってイメージを共有できるように工夫することが求められます。
絵コンテは制作進行においては欠かせませんが、内容が伝わればOKなので絵の上手さは特別重視されない傾向にはあります。では映像ディレクターどんなことを意識して絵コンテの作成に励むべきでしょうか。撮影現場の指揮を執るベテランの映像ディレクターに向けて、イメージを共有しやすい絵コンテのポイントを紹介します。
絵コンテでは、「絵の上手さ」はあまり重視されない
動画ディレクターであれば、制作前にクライアントと方向性の確認、制作段階ではカメラマンや編集者と画作りの確認を絵コンテで行うのが一般的です。つまり、絵コンテは「ステークホルダーとの内容のすり合わせのためのツール」とも言い換えられます。もちろん絵の品質が高いに越したことはありませんが、上手さが求められるわけではありません。
「企画書と撮影の間」を埋める役割を果たすのが絵コンテ
絵コンテは、制作開始前はクライアントとの方向性の確認、制作開始後は制作スタッフ(カメラマンなど)とのイメージの共有に用いられます。絵コンテで動画構成の確認が行われるだけに、現場において不可欠なツールと言えます。そのため、作成時は「トンマナ」「画角」「セリフ」など骨格となる情報すべてを盛り込んで、ステークホルダー間で認識のズレがないように努めることが大切です。
動画を制作するプロセスの中でもっとも難しいのは、「企画書と撮影の間」の対応です。現場での撮影経験が少ない場合、企画書に書かれている文字を見ただけでは頭の中で具体的なイメージを想起するのが難しいかもしれません。一方、撮影経験があったとしても、現場では毎回新鮮な驚きがあるものです。そのため、文字だけですべてを完璧にイメージするのは困難でしょう。
イメージを正確に他者に伝えるためには、文字による企画書だけでは不十分であり、絵コンテを用いて文字情報を視覚的に伝えることが不可欠です。絵コンテを示さないまま動画制作を行うと、完成後にクライアントから「イメージと異なる」とお叱りを受ける可能性もあるでしょう。そうした「企画書と撮影のギャップ」を埋め、「クライアントと制作側」あるいは「映像ディレクターと現場スタッフ」の認識の差を小さくする作業が動画撮影の成否を左右すると言っても過言ではありません。
絵コンテはイメージが伝われば素材は何でもOK
映像ディレクターの中には「絵を描くのが苦手」という方もいるでしょう。しかし、絵コンテは「イメージを共有すること」が目的なので、あまり絵が上手くなくても問題ありません。要するにイメージが伝わる内容になっていることが大切です。そのため、絵でなくてもフリー素材の活用で代替するケースもあります。ただし、細かいニュアンスを表現したいのであれば、「手描き」が望ましいケースもあります。どうしても自分で描けない場合や精度を求めたい場合は、イラストレーターに絵コンテの制作を依頼することも検討しましょう。
「絵コンテ」だけではなく「字コンテ」「Vコンテ」を使う場合もある
映像ディレクターのイメージを共有するコンテには、絵コンテ以外にも字コンテやVコンテが存在します。それらは絵コンテ前のすり合わせだったり、さらに具体的なイメージの共有のためだったりに使用されます。いずれも共通認識を得るためには重要な役割を担います。それぞれの役割を把握したうえで、状況に応じて使い分けましょう。
文字でくわしく動画の流れを記載する字コンテ
字コンテとは、どんな動画を制作するのかを文字で表現したコンテです。絵コンテの制作には、全体の流れを絵で表現するだけにそれ相応の時間がかかります。絵コンテ提出後に「イメージと違う」と指摘されて作り直しになるのを避けるためも、絵コンテを作る前の段階で、字コンテでクライアントと方向性のすり合わせをする映像ディレクターも少なくないでしょう。
なお、字コンテでは、セリフやナレーションごとに「どんなカメラワーク、カット割りを行うのか」について、文字でくわしく説明しましょう。たとえば、「主人公の顔のアップ」「外科医の手元のアップ」などの指示は明確に伝わる工夫を心がけることが大切です。
映像を使って仮動画の形にしたのがVコンテ
「字コンテで動画のおおまかな構成について合意が取れたら絵コンテを作成し、絵コンテでもOKが出たら動画の制作がスタートする」というのが制作現場でよくある流れです。ただし、クライアントによっては、「BGMが入った状態で確認したい」「全体尺がどれくらいになるのかを把握したい」などの要望を伝えてくるケースがあります。その場合は、さらに具体的なイメージを共有するために、Vコンテを作ることも検討しましょう。
Vコンテとはビデオコンテの略であり、フリー動画素材を使ったり、自分自身でナレーションを吹き込んだり、簡単な撮影を行ったりして仮動画の形にしたコンテを指します。字コンテや絵コンテよりもイメージを共有しやすくなりますが、手間や予算がかかる点は要注意です。Vコンテを作るのは、なるべく、「クライアントから強く要望された場合」「予算が潤沢な場合」「依頼内容が曖昧過ぎる場合」に限定しましょう。
絵コンテでは「イメージの伝わりやすさ」を追求するべき
撮影現場では、基本的に絵コンテに沿ってスタッフが動いていくことになります。絵コンテは制作スタッフにとって唯一の「指示書」と言える存在なので、伝わりやすさの追求は必須事項です。絵だけではなく、テキストを書き込んだり、リンクを貼ったりして、イメージを共有しやすいように工夫しましょう。絵コンテ制作の一般的な流れは以下の通りです。
セリフ・ナレーションを書く
まずは、スクリプト(セリフ、ナレーション)を書きましょう。絵を先に決めてしまうと、セリフやナレーションが噛み合わず、不自然になる場合があります。なお、セリフやナレーションは音読し、ストップウォッチなどで「秒数」を計測・記入してください。1分あたり180文字前後が目安です。
カット割りを決める
次に細かいカット(コマ)割りを決めましょう。カット割りとは、「シーンごとの構図」「シーンとシーンのつなぎ」のこと。基本的に1カットあたりの長さを「3秒まで」にするように心がけてください。長くても6秒が限度です。それ以上になると視聴者は「動きがなく、止まっている」と感じてしまう恐れがあります。
絵を描く
最後に絵を描きましょう。下手であっても気にする必要はありません。「どこに何があるか」「どういう動きをするか」が分かるように動画構成を明確にできるように描きましょう。手描きする自信がない場合は、フリー素材を使用することや、イラストレーターへの依頼も視野に入れることをおすすめします。
【絵コンテのOKがなかなか出ない場合の注意点】
- 絵コンテの制作は1回でOKが出ず、クライアントから指摘をされる(フィードバックをもらう)場合もあります。何度もやり取りすることや、クライアントが絵やテキストを差し替えることも想定し、扱いやすい形式・フォーマットにすると制作がスムーズに進みやすいので試してみましょう。
絵コンテは現場で共通認識を持つためのツール
【動画構成 絵コンテ 字コンテについてのまとめ】
- 絵コンテでは、絵の上手さよりも「イメージの共有のしやすさ」が重要
- 字コンテやVコンテの役割も知り、状況に応じて使い分けるべき
- 絵コンテ活用の意義を理解し、伝わりやすさを追求しよう
動画を制作するプロセスの中でもっとも難しいのは、「企画書と撮影の間」の工程です。企画書に書かれている文字を見ただけでは、頭の中で具体的な映像のイメージを想起するのが困難ですが、絵コンテを作って文字と映像のギャップを埋めればイメージを共有しやすくなります。
状況に応じて字コンテやVコンテも上手く活用しましょう。絵コンテを制作するのにも相応の手間がかかるので、先に字コンテをクライアントに提出して、おおまかな構成についてイメージのすり合わせを行うことをおすすめします。予算が潤沢な場合や、依頼内容が曖昧過ぎる場合、クライアントのから強い要望がある場合は、Vコンテの制作も検討しましょう。
撮影現場のスタッフにとって、絵コンテは「唯一の指示書」と言っても過言ではありません。スタッフは常に絵コンテを見ながら制作を進行するので、イメージしやすいように絵だけではなく、テキストなども盛り込みましょう。なお、「映像ディレクターのイメージを、スタッフやクライアントに共有すること」が目的なので、「どこに何があるか」「どういう動きをするか」が伝わる絵コンテの制作を心がけることが大切です。