インターネットでのライブストリーミング(生放送)は、今や身近で大きなコンテンツジャンルのひとつとなっています。若者や企業を問わずそのニーズは年々増し、YouTubeやニコニコ生放送、AbemaTVなどを筆頭にテレビとの垣根がなくなりつつあります。さらにはセミナー、企業会議、プレス発表など、娯楽だけでなくリアルなコミュニケーションツールとしても各業界に取り入れられ、距離と時間を越えた新時代のプラットフォームとなっています。
その最先端の現場をひた走るのが、業界トップクラスのスタジオも保有するクローク株式会社です。最新の技術を取り入れたスタジオに、さらには番組の企画制作やキャスティングまで、多方面からライブストリーミングをサポートしています。
2010年にUstreamが日本参入してから今まで、業界の動向をトップランナーとして見続けてきた代表の原田厳さんにお話を聞きました。
クローク株式会社 代表取締役
海外旅行関連企業に長年従事し、営業から事業統括等、幅広い経験を積む。その後、ヤフー株式会社にて、営業企画、コマース部門などを担当。広告系ベンチャー企業の創業メンバーを経て、2010年5月クローク株式会社を設立と同時に代表に就任。ライブストリーミングを活用したビジネスモデルの構築、業務遂行。スタジオ運営、企画制作、テクニカルから番組プロデュースなどの領域にもチャレンジしている。
ライブ配信業界の成長という大波にのった起業
――いちはやくライブ配信事業に参入されたクロークさんですが、会社立ち上げの経緯は?
Ustreamがアメリカなどで話題になっていて、面白いサービスだったので事業にできたらなと、2010年4月末にライブストリーミングサービスの会社を創業しました。すると同時期に、ソフトバンクがUstreamを日本語化して、5月18日には「Ustream Asia」を設立する動きがありました。うちの会社の登記がおりたのが5月13日。結果的に、同じタイミングで立ち上げることになったんです。とはいえ特に明確な展望があったわけではなく、まずは走り出してみよう!という感じでした。
当時僕は40歳。それまでは旅行会社に11年勤め、ITやWeb関係の仕事をしたり、小さな会社の起業に関わったりと、紆余曲折を経ての起業でした。
――あまりに未開拓の業界です。立ち上げは大変だったのでは?
初年度は赤字決算となりました。まだマーケットが立ち上がる前だったので、ビジネスとしての目処は立ちません。それでも良い出会いに恵まれて、出資していただけたこともあり、当時はまだ目新しかったハイスペックの機材(TriCasterシリーズ)や恵比寿駅前のスタジオに恵まれました。Ustreamさんとも関係が作れ、2010年のうちにUSTREAM STUDIO 恵比寿をオープンします。みなさん新しいものに興味があったんでしょうね……オープンイベントには200人ほどが来訪いただけました。動画やマーケティング関連の企業や個人までいろんな方々がいて、創業間際にも関わらず、ゆうちょ銀行さん、IBMさん、日本マイクロソフトさんなどにご縁ができました。
それでも起業一年目は投資の時期。いろんなご縁を繋ぎながら、営業活動として、Ustream体験会とFacebook勉強会をミックスしたイベントを隔週で開催していたんです。それを2年ほど続けました。今となってはみなさん当たり前に使っていますけど、当時はまだ模索されてました。
――その地道な積み重ねが、売上に繋がったんですか?
2年目から黒字になりました。3年目にはニコニコ生放送のメディア認知拡大と重なって、案件が増えていきました。一番大きなきっかけになったのは、ニコニコ動画・公式生放送とテレビ東京による連動企画番組『ドリームクリエイター』のお手伝いすることになったことです。ネット×テレビの経験値が上がって、認知されていきました。
またその頃、ゲーム実況に火が付き始めました。ゲーム実況の配信はテクニカル面の充実が必須でしたので、経験を積んだスタッフのいる弊社スタジオを利用していただけることが多くなったんです。さらには自分達でも番組制作を担うようになり、幅が広がってきました。それが2014年頃ですね。
その後、LINE LIVEやAbemaTVがニコニコ動画を追いかけてコンテンツを増やしていく時期と、うちが2015年6月に新スタジオに移転した時期が重なりました。当社としては、小さなスタジオで配信のお手伝いをするだけでなく、もっと大きくて広いスペースでお客さんと一緒にリアルなコミュニケーションをしながら、より良い番組ができたらなと思っていたんです。
そんな積み重ねとチャレンジが、多数のスペースを持つ新スタジオ「Croak Prime Studio」のオープンに繋がっています。
直近ではYouTube、Twitterとどんどんライブストリーミングの視聴が伸び、コンテンツが増えていきました。当然スタジオの利用者は増えますから、僕たちの仕事は増えます。業界の成長とうまく重なったので僕たちも一緒に成長することができたんです。
嗅覚を頼りに参入し、独自の経営で成功へ
――競合はあったと思いますが、なにが強みだったんでしょう?
今となって思えば、参入時期が早いことと、最初からスタジオを持っていたこと、ハイスペックな機材に先行投資できたことですね。他業種からの参入で、完全なシロートでした。業界価格を知らなかったこともあり、料金設定は結果高くなっていました。(福谷さんには遠く足元にも及びませんが。。。)
あと、事業の進め方が適当?亜流?? サラリーマンも経験し、いくつか創業のお手伝いをさせていただいたこともあり、ビジネスの基本みたいなものはなんとなく分かってたつもりでしたが、ライブストリーミングとなりますと、新しいからルールがない。独自の手法だらけで「これで合っているのかな」と思いながら日々やってます。ちゃんとした経営者からするとたぶん間違っていることがいっぱいあるはずなんですけど、それが他とは違う色になっているのかもしれないですね。
――たしかにスペース貸出だけでなく自社で番組制作を行うスタジオは多くありません。それも強みになっているのでは?
そうですね。場所も機材もあるので、クリエイティブの対応力と幅、そして作業時の対応スピードは早いかもです。たくさんの番組をこなしていくので、配信中のとっさの判断がはやくなります。表現力もあがる。ここ数年案件が大きく増えているeSport系の番組は高い難易度が要望されるんですが、例えば、5対5のゲーム対戦で画面と同時に5人分のテロップを瞬間的に切り替えないといけない。Vtuberのライブ合成も機材とそれを使いこなせる経験値が必要なので、クオリティを求めるトップランカーの企業にはニーズが高いです。
――お話を聞いていると、業界そのものの成長もあって順調だったようにも感じられます。大変なことはなかったのでしょうか?
大きな壁のようなものは余り感じませんでした。もともと僕はあまり大変さを感じないタイプで。あえて挙げるとすれば、生配信なので大きなミスをすれば大事故になるということ。当然ながら放送ギリギリまで最新情報を届けたいので、本番の進行をするのはかなり緊張感があります。視聴者も利用者の方もある程度のチャレンジ(ミス)なら受け入れてくれるというか、生配信ならではだと楽しんでくださったりと、深刻なトラブルが起きたことはほとんどないです。ライブ配信分野自体が未成熟だったので粗もありましたし。だからこそみんなで成長していくという業界の高揚感もありました。
ライブ配信業界のこれから
――現在、どのような業界ではどんな配信が多いのでしょう?
業界として規模が大きいのは医療関係ですね。医療ポータルサイトを運営する某企業さんは動画配信をかなり活用しています。会社説明会のオンライン対応で、リクルーティング関連も、規模がかなり大きいです。音楽エンタメ系は、市場規模は大きいですが、権利処理が未整備なので、現在はそれほど大きくはなってはいませんが、今後法令関係に変化があれば大きく変わるでしょうね。
当社も制作を相当数サポートさせていただいているゲーム関連は、すでに大きな規模になっていると思います。
――今、ライブストリーミング配信はどんな時期を迎えていると感じますか?
成長の勢いとしてはほぼピークだと思っています。番組数が増えていることで、視聴者が分散して、一番組あたりの視聴数は減っている。さらにこれからテレビがネット同時放送を増やすとどうなるのか……予想がつかないですね。テレビを見ていた人がネットに流れてくるのか、テレビの視聴者数は変わらずにスマホを見る人口が増えるのか……。海外の視聴者も増えてきていますし、どれくらい広がるのかまだわかりません。確実なのは、スマホで動画を見る割合はさらに増えるだろうってことだけかと思います。
――スマホで動画を見る人が増えると、業界に興味を持つ人も多くなると思います。どんな人が向いていると思いますか?
リスクも許容できる人ですかねぇ。生配信なので小さなミスはどうしても起きます。その時にクヨクヨすると先に進めないですからね。僕自身はトラブルがあってもそれを乗り越える経験を楽しめるというか、糧に出来ると思って日々過ごしてます。
技術力については、後で身につければいいですよ。数をこなしながら勉強すれば、1〜2年もすればかなりの力がつきます。だからうちの会社は未経験で入社するスタッフが大半です。元気よく挨拶できて、新しいスキルを身につける努力ができる人を採用しています。もともとテレビや映画やCMを目指していた人も多いです。新しい業界だからよくわからなくても、飛び込んでみると楽しいので、向いている人はずっと続きますね。
――この業界で働く楽しさはどんなところでしょう?
面白いことをしないといけないので面白い人が多いです。そして、先進的な業界でもあるので、前向きな人が多い。配信企業も出演者も「新しいことをどう面白くしよう」と考えていて、そんな方々と一緒にいるから楽しいんですよ。ライブ配信というもの自体も、距離や時間を越える新しいものです。そんな先端の業界にいることが出来て、本当に有り難く思っています。
――クロークさんは今後どういうビジョンを描いているんですか?
うちは情報発信のサポートをしていきたい、というのがビジネスの軸。特に業界のトップランカーの方々をこの場所(スタジオ)を用いてサポートをすることが主な目的です。
また今は、とある商業施設の一部のイベントスペースの立ち上げのコンサルもやっていますし、過去には複数のゲーム会社さんの一部スペースをスタジオ化し、テクニカル面の導入コンサルティングや、運営サポートも行ってきました。
そういった目的のためにスタジオのブランディングなどには取り組みますが、会社を大きくしたりスタジオを増やしたりするのはご縁があればでいいと思ってます。
この恵比寿で、楽しくて、お給料がそこそこ良くて、一目置かれる会社でいたいですね。
インタビュー・テキスト:河野 桃子/人物撮影:SYN.PRODUCT/企画・編集:市村 武彦(CREATIVE VILLAGE編集部)/
取材協力:クローク株式会社
企業プロフィール
ライブ番組、イベント、社内会議、セミナー、企業PR、記者会見などの様々なコンテンツのインターネットライブ配信をサポートしております。ニコニコ生放送の公式化や、ライブ番組に適した番組の企画制作、キャスティングなどの対応可能。配信スタジオの運営や、ライブスタジオの開設コンサルティングや運営サポートも行っております。サービス開始から9年間で1500件以上のインターネットライブ配信の実績がございます。
採用ページURL:https://www.croak.co.jp/recruit/