ビジネスパーソンに人気のソーシャル経済メディア「NewsPicks」が2018年、NewsPicks Studiosを立ち上げ、動画コンテンツに注力しているのをご存知でしょうか。現代の魔術師・落合陽一氏をフィーチャーした「WEEKLY OCHIAI」など、地上波にないエッジのきいたコンテンツで人気を博しています。
実はNewsPicksが動画コンテンツに注力するきっかけになったのは、あるクリエイターの持ち込み企画がきっかけでした。その企画を持ち込んだ人物こそ、NewsPicks Studiosの安岡大輔さんです。
今回は安岡さんのキャリア観、そして人気動画コンテンツの製作背景について伺いました。動画製作に携わっている方、また興味のある方はぜひ参考にしてください。
1980年愛媛県生まれ。岡山大学卒業後、地元ローカル局で報道記者として勤務。その後、経済番組ディレクターとしてダボス会議やOECD年次総会などを取材。2017年3月に初の映像専門職としてNewsPicksにジョイン。入社後は、経済ニュース「LivePicks」や「WEEKLY OCHIAI」ディレクター、「メイクマネー」プロデューサーとしてNewsPicksの映像コンテンツ全般の製作を担う。
報道マンとして積み重ねてきたクリエイタースキル
――まずは安岡さんが動画を仕事にしようと思ったきっかけを教えてください。
フィルムが好きで、大学時代から趣味で映像や写真を撮っていました。就職活動の時は映画製作の道も考えたのですが、生計を立てられる仕事として選んだのは地方テレビ局の報道記者でした。
地元愛媛の後発局でリソースも限られていたため、記者という肩書きで取材の企画から撮影、編集まで、映像作りの全ての工程に携わっていました。20代の後半になると、報道分野の映像作りを川上から川下まで、一貫して仕事ができることを強みにしようと、一つひとつのスキルを磨いてきました。
――経済・ビジネスの分野に進んだきっかけも教えてください。
30歳を過ぎた時、自分にもう一つ大きな強みが欲しいと思いました。そこで思い当たったのが自分の好きな分野だった、マクロ経済や金融政策など、経済報道でした。
報道分野の映像制作の仕事が川上から川下までできることに加え、経済にも明るければ今後も映像クリエイターとしてキャリアを積めると思いました。しかし、地方では経済に関する報道の優先順位は低かったため、自分の力を活かすために転職を決意したのです。日経新聞グループの制作プロダクション、日経映像に転職し、そこでは番組ディレクターとして経済番組や投資番組を担当しました。
佐々木紀彦さんとの衝撃的な出会い。そしてNewsPicksの門を叩く
――NewsPicksとの出会いを教えてください
NewsPicksはサービスを開始した2013年頃から、ユーザーとして使っていてファンでした。優秀な記者・編集者が集まっていて、番組制作でのネタ探しもNewsPicksで探していたくらいです。当時から憧れを持っていましたが、「自分は映像クリエイターだからNewsPicksに行ってもできることはない」と思って燻っていました。
そんな時、自分が担当していた番組に、当時NewsPicksの編集長に就任して間もない佐々木(現NewsPicks CCO/NewsPicks Studios CEO)を呼ぶことができたのです。NewsPicksが目指すものについて話してもらったのですが、その話を聞いて畏敬の念を感じたのを覚えています。
収録が終わって彼を見送る時、佐々木は私に向かって「いずれブルームバーグを超えるような世界的な経済メディアにする」と言ったのです。私と佐々木は同学年なのですが、同世代の人間がこれほど大きなビジョンを掲げていることが衝撃的でしたね。
――NewsPicksに応募したきっかけは何だったのでしょうか?
佐々木に出演をしてもらったことをきっかけに、経済報道のプロになって将来的にNewsPicksの門を叩こうという決意をしました。それから約1年間、徹底して経済報道のスキルを磨きましたね。
そして、NewsPicks編集部の記者を募集する窓口に「映像しかできないですけどNewsPicksでやりたいんです」と空気も読まずに応募しました。当時はレシピ動画アプリなどをはじめ、Webメディアの動画を取り巻くトレンドが大きく変わろうとしていたタイミングでした。だからこそ「NewsPicksで動画コンテンツを立ち上げたい」と提案したのです。
しかし、当時の佐々木の反応は思ったより芳しくありませんでした。動画コンテンツは初期コストもかかるため、一度始めるとなかなか引き返せないものです。
始めるにはそれなりの根拠が必要でした。佐々木は私に「動画コンテンツをやるとしたら、企画を持ってきて」と言ったので、それから企画を練り始めたのです。当時は今のようにオリジナルのコンテンツを作るというよりも、編集部の一員として取材などに同行し、ライブで配信するという企画を提案していました。
半年かけて念願の入社、「WEEKLY OCHIAI」のチーフディレクターへ
――入社までの経緯について教えてください
佐々木に企画を提案してからは、NewsPicksの編集部全員と打ち合わせを重ねました。当時はまだ前職に在籍していたため、休み時間や仕事終わりの時間を使い、スケジュールの調整ができるメンバーを探しては打ち合わせをしてもらったのです。
編集部のメンバーからはNewsPicksは皆が遠慮なくフィードバックをするので、ある意味厳しい環境だと言われましたが、どうしてもNewsPicksで動画コンテンツをやりたかったので迷いはありませんでした。
結局、NewsPicksに応募してから入社するまで、半年もかかりました。最後に佐々木と面接した際も、彼はまだ僕を迎え入れるかどうか、少なからず迷っている印象でしたね。
――入社してからはどんな仕事をされていたのですか?
入社してすぐは、編集部の一員として動画を扱っていました。そのうち、経済ニュース「LivePicks(ライブピックス)」を立ち上げ、佐々木と二人三脚で番組を製作する日々が始まりました。そして、「WEEKLY OCHIAI」の原型が生まれることになります。
その半年後、佐々木からNewsPicks Studiosの構想を聞き、強く共感したのを覚えています。私一人で動画を扱うより、組織化されることでNewsPicksの更なるチャレンジに繋がるからです。
ユーザーを置き去りにするのが人気の秘密!?WEEKLY OCHIAIの作り方
――インターネット番組と地上波番組制作の違いを教えてください。
まず、メディアの特長が違います。地上波番組の特長はマジョリティがターゲットであること。制作時に視聴者が抱く共感の最大公約数を見つけることが欠かせません。一方、インターネットはニッチなターゲットになります。そのため、内容にもエッジをきかせる必要があります。
例えば、専門的な話でも落合さんは地上波番組では多くの視聴者が理解しやすいように話していますが、「WEEKLY OCHIAI」では知的感度の高いユーザーにターゲットが絞られているため、そのようなことはありません。
内容の凝縮度が高い番組づくりも、テレビとの違いかもしれません。「WEEKLY OCHIAI」では多くの学びを1時間の番組に凝縮させ、本を1冊出せるくらいの内容を毎回目指しています。
――WEEKLY OCHIAIの人気の秘密は何にあるとお考えですか?
地上波との違いにも通じますが、番組をつくる時に意識していることが3つあります。
- 時にはユーザーを置き去りにするテンポと難易度
- 限られた時間の中での圧倒的な学びの凝縮
- 徹底したインタラクション
1つ目の「時にはユーザーを置き去りにするテンポと難易度」は「WEEKLY OCHIAI」の製作を繰り返していくうちにユーザーからのコメントから「番組内容の難易度とユーザーの満足度が比例する」ということに気がつき、意識するようになりました。NewsPicksのユーザーは知的感度が高いので「今回は難しかったから、もう一度見よう」と分からないことをポジティブに捉え、それが満足度に繋がるのだと思いますね。
ユーザーが満足できるテンポや難易度はテーマ設定やキャスティングから生み出しています。「WEEKLY OCHIAI」には台本がなく、落合さんとの事前打ち合わせもほとんどないためです。
テーマ設定の方法は「数回に一度、落合さんを困らせるようなテーマを挟む」。何を聞いてもすぐに切り返してくれる落合さんですから、たまに悩む姿を見るのはユーザーにとっても新鮮なようです。
直近でこのように設定したテーマは「働く女性をアップデートせよ」ですね。
スタジオに働く女性50人をお招きし、落合さんに女性が働きやすい社会作りについて話してもらいました。落合さんが考え込む場面もあり、反響がよかったです。
また、ユーザーとの双方向的なインタラクションを徹底的にこだわっています。スタジオに観覧に来ている人も、スマホで見ている人も、私達にとっては出演者です。ですから、エンジニアやデザイナーと綿密に打ち合わせをして、観客と一緒に番組を作れるUIやUXを目指しています。
誰もがクリエイターになれる時代で、プロに必要なのは愛と柔軟性
――これから時代でプロの動画クリエイターに求められるものを教えてください
常にユーザーが求めているものを意識し続けることだと思います。自分が作った作品がユーザーにどのような価値を与えているのか考え、常にユーザーの想像を上回ることが大事です。それでも、必ずしもユーザーが満足してくれるわけではありません。そんな時に自分を大胆に変えることは痛みを伴います。特にキャリアを積むにつれて、プライドが変化の妨げになることもあります。しかし、このような時こそ、自分のプライドより、ユーザーの満足度を優先できるクリエイターがプロだと思います。
私自身、NewsPicksに入ってからはテレビ時代に培ったプライドを捨てて動画製作に向き合う毎日です。テレビではPDCAを回すのはワンクールごとですが、NewsPicksでは配信ごとにPDCAを回しています。
周りからは固定観念にとらわれないフィードバックをもらえるので、悔しさを覚えることもあります。
しかし、それ以上にフィードバックを受けながら番組をつくり続けることに楽しさを感じますね。自分の固定観念が壊された時にこそワクワクできるメンタリティーがプロのクリエイターには必要だと思います。
――NewsPicksに入社して一番変わったことは?
クリエイターなら自分の作品に愛情を感じるのは当たり前ですが、その愛情の範囲が作品だけではなく、NewsPicksというメディア全体に広がったことですね。NewsPicksに入る前は「いかに良い番組を作るか」だけを考えていましたが、今は「僕たちがつくる映像コンテンツで、NewsPicksをいかに成長させるか」と考えるようになりました。
今でも担当番組がヒットしない時は悔しいですが、自分のプライドよりもユーザーの満足度が重要だと思えるようになりましたね。
色々なレイヤーで意見交換できるNewsPicksの文化がそうさせてくれました。
良いコンテンツを生み出すために必要なのは、一人ひとりのクリエイターがメディア・ユーザーへの愛を持って担当コンテンツ・作品に臨むことだと思います。
――安岡さんのクリエイティビィを支えているのは、コンテンツを越えた、メディアに対する「愛」だと感じさせられました。本日はありがとうございました。
インタビュー・テキスト:鈴木 光平/撮影:SYN.PRODUCT/編集:大沢 愛(CREATIVE VILLAGE編集部)
NewsPicksについて
NewsPicks は、The Wall Street Journal や The New York Times などの国内外 100メディアのニュースのほか、NewsPicks 編集部が作成するオリジナル記事も配信するソーシャル経済メディア。各業界の著名人や有識者が投稿したコメントと共に、多角的にニュースを読み解くことができる。
NewsPicks Studiosプロジェクト
・WEEKLY OCHIAI
毎週水曜日に1つのテーマを「アップデート」すべく佐々木 紀彦さん、 石山 アンジュさん、 落合 陽一さんの3名に加えて各分野のスペシャリストを迎えてトークセッションを行う人気番組。
・MAKE MONE¥
テクノロジーの力で「日本をアップデートする」アイデアを大募集。賞金1000万円を目指し、数百件を超える応募者の中から、12人の挑戦者たちが選ばれた。彼らの前に立ちはだかるのは、堀江貴文、前田裕二、佐山展生、岡島悦子、楠木建、古坂大魔王による「NewsPicksオールスターズ」。