コロナウイルス感染拡大の影響により演劇の公演中止・延期が相次いで、はや半年。少しずつ劇場に人が戻りつつ、同時に、オンライン上での演劇配信が日常的になってきました。なかでも“オンライン演劇”という言葉を代表するひとつが劇団ノーミーツです。
打ち合わせから上演まで直接会うことなく、すべてフルリモートで制作・上演することにこだわってるノーミーツ。コロナ禍において新たな可能性を開拓する取り組みと今後の展開について、主宰の広屋佑規さんに話を聞きました。
劇団ノーミーツとは
広屋佑規氏、林健太郎氏、小御門優一郎氏の3人が主宰として2020年4月9日に立ち上げたフルリモート演劇集団。1か月でTwitterのフォロワーが1万人を超え、同時に掲載している短編作品の総再生回数は3000万以上。その後、5月に配信した長編第1作目『門外不出モラトリアム』は一般チケットが2500円の有料で総視聴者数約5000名、7月の2作目『むこうのくに』は一般チケットが2800円の有料で総視聴者数7000名を記録。さらに、9月には、“好きと出会うエンタメファクトリー“株式会社Meetsを設立。あらゆるエンターテインメントコンテンツを主事業としながら、“好きと出会える人生を増やす“ことをテーマに掲げて活動している。
広屋佑規(ひろや・ゆうき)
劇団ノーミーツ 主宰/企画・プロデュース。没入型ライブエンタメカンパニーOut Of Theater代表。ストリートを歩きながらミュージカルの世界を体験できる「STREET THE MUSICAL」、東京喰種の世界に没入できるイマーシブレストラン「喰種レストラン」など、公共 / 都市空間を活用したエンタメ作品のプロデュースに従事。
──オンラインで演劇作品を配信している劇団はいくつかあります。その中でノーミーツさんは、制作の段階からメンバーに会わずにフルリモートで創作しているんですよね。
僕たちは“オンラインで演劇をつくる”ということを一番の軸にしているので、打ち合わせから本番まで、全員が直接会うことはありません。たとえばキービジュアル撮影時には、俳優ひとりずつ別の時間に同じ公園に来てもらいました。公園には誰もいなくて、ポツンと三脚が立っているだけ。三脚の前でZoomを繋いで遠隔で構図を確認し、撮影しました。
──あえて、顔を合わせないように工夫しているのですね。
はい。このような工夫によって、プロジェクト内で感染するリスクは限りなく0%に近づきます。オンライン上で演劇を配信しているところは他にいくつかありますが、このような挑戦に共感してくれたり、面白がってくれるお客様もどんどん増えてきましたね。
ほぼ全員未経験 オンライン挑戦の裏にあったもの
──制作メンバーたちは、コロナウイルス感染拡大前からオンラインをメインに活動されてきたのでしょうか?
いえ、違います。僕自身、「リアルでどれだけ特別な体験を届けられるか」ということに挑戦してきたので、オンラインの経験は無いんです。コロナ禍の前は、街中で作品を上演したり、レストランをミュージカル空間にしたり、劇場を飛び出して様々な公共/都市空間を舞台に見立てるプロジェクトを担う没入型ライブエンタメカンパニー・Out Of Theaterを主宰していました。
ここ数年で、ニューヨークやロンドンで人気になっているイマーシブシアター(没入型演劇)に近いもので、演劇の新しいかたちを作ろうとしていましたね。
──劇場ではない場所で“演劇の新しいかたちに挑戦する”というのは、オンラインで作品を創ることにも繋がりますね。
そうですね。コロナで企画が全部できなくなってしまって、「今できることってなんだろう?」と考え始めたのがオンライン上演の始まりです。ライブエンタメ業界にとっても苦しい状況だったからこそ、「こんな時でもエンタメが届けられるんだ」ということをやりたかったんです。
──いろんな人達が、コロナ禍でもがいていた時期です。その中で、あらたに劇団を立ち上げる取り組みは衝撃的でした。
実は「劇団をやっていくぞ」という意識はそれほどなくて。演劇をやるなら劇団という名前をつけて、とりあえずやってみよう、という流れでした。
いろんなアイデアのなかで「Zoom上で演劇をする」ことなら実現できそうだと思い、最初にミーティングをしたのが4月5日。7日に緊急事態宣言が発令され、9日には旗揚げを発表しました。
──いちばん最初は、Twitterで短編作品を投稿していましたね。
はい。『Zoom飲みをしていたら怪奇現象が起きた』という短いホラー作品を配信したら、ものすごく反響をいただいて……。「こんなに楽しんでいただけるならもっとつくろう」と、みんなで毎日Zoomを通してミーティングを繰り返して、3日に1本ほどのペースで短い作品を発表していました。今思えば、大人の部活動みたいでしたね(笑)
▲投稿から一晩で46000回再生を記録した『Zoom飲みをしていたら怪奇現象が起きた』
今、ノーミーツのメンバーは13人いますが、作・演出、俳優以外は演劇とはまったく違うフィールドから集まっています。劇団ノーミーツ作品の視聴者層も、演劇好きの方以上に、20~30代の新しいことや面白いことが好きな方や感度が高いライブエンタメ業界の方が多いんですよね。
いかに「自宅で演劇体験」をつくるか こだわったこと
──そこから、長編作品を作るに至った経緯はどういう流れだったのでしょうか?
バズッたことにより、コロナ禍の状況でも楽しんでいただけることが伝わったかなと思ったんです。だったら劇団として、しっかり長編公演に挑戦してみようと。
また、SNSは無料なので継続することが難しい。演劇を続けていくためにはお金を生み出さないといけないので、有料公演にチャレンジすることに意義があると考えました。
──そして上演されたのが、5月の第一回公演『門外不出モラトリアム』ですね。長編作品をつくるにあたって大事にしていたことは?
“没入感”を意識しました。どのようにしたら自宅にいながら舞台のような“ナマの興奮”を体験できるのかを模索して、いろんな仕掛けを入れ込みました。
──例えば、どのような仕掛けをしたのでしょうか?
まず、開演前のアナウンスですね。劇場では「飲食はおひかえください」と言うところを「食べても問題ありません」と言ったり、「ほかのアプリの通知は切ってください」「全画面表示でみてください」など、オンラインでどんなことに気をつければ作品が観やすくなるかのアナウンスを丁寧におこないました。もっとも効果的だったのは、チャット機能ですね。
チャットで誰かのコメントを読むことで、新しい発見があったり、作品への理解が深まります。視聴者数が表示されることで、「1800人がパソコンの前にいるんだ!」と数字で具体的に想像できるのも大きかったですね。「劇場にいる気持ちになった」「自宅でも観劇できるんだね!」という好意的な感想をたくさんいただくことができました。
▲「Zoom演劇」として話題を呼んだ1作目『門外不出モラトリアム』より
オンラインだからこそ、できたこと
──2作目『むこうのくに』では、オリジナルサイト空間を舞台にしたり、投票機能をつけたりと、新たな試みがいくつもありましたね。
ノーミーツ内で掲げていた裏テーマは、「Zoomの枠を超える」でした。1作目の『門外不出モラトリアム』は登場人物がZoomで会話している設定上、Zoomありきの物語にしなければいけなかったんです。作品の幅をさらに広げるために、2作目の『むこうのくに』では、ヘルベチカというオリジナルのサイト空間を舞台に設定しました。
▲オリジナルのサイト空間を作り上げた2作目『むこうのくに』より
──これにより、画角にバリエーションが出ていましたね。演劇と映像作品、両方取り込んだ取り組みだと感じました。
物語の進行によって背景が変わっていくのは、オンラインならではの舞台転換ですね。くわえて、お客様が公演を見るための最初のログイン画面を『ヘルベチカ』のログイン画面と同じ見た目にしているので、物語の世界に入り込む感覚で演劇が始まります。こうして、技術的に画面を作り込むことで世界観を強めました。
──舞台美術をオンラインでつくると、このような見せ方ができるんですね。オンラインならではのメリットですね。
Zoomと違う点はもうひとつあって、カメラの位置が正面だけではないことです。俳優の自宅にカメラを仕込み、部屋全体が映るような構図もつくりました。
俳優に外出してもらっている間に部屋にカメラを設置しロボットアームなどで遠隔操作するなど、フルリモートにこだわっています。
▲2作目『むこうのくに』より
──多角的に見せることで、映像やストーリーに奥行きが出ていました。
ほかにも、お客様が俳優さんとコミュニケーションをとる時間を作ったり、自分で感情を選択できるシーンを作ったり、観ている方が参加できるような仕掛けを意識的に入れています。
やりたいことは「演劇を創る」ことですが、オンラインだからこそできる挑戦はしていきたいんですよね。
オンラインでつくる演劇作品の可能性を追求したい
──さまざまなポイントで、いろいろな工夫をされているんですね。広屋さんが作品を創り上げる上で、大事にしていることを教えてください。
作品の世界観をどれだけ届けられるか、全員とても意識しています。テクニカルも、ビジュアルも、音楽も、それぞれを担当しているノーミーツのメンバー13人がそこに集中していますね。作品そのものに限らず、配信後の広報宣伝にも力を入れているのがポイントですね。
──ありがとうございます。劇団ノーミーツが目指す今後について、教えてください。
「オンライン演劇」の可能性をもっと追求していきたいです。演劇やライブといった目前のリアルな体験はなにものにも変えがたいし僕も大好き。だからこそ、これからリアルな表現が戻るなかで、オンラインの良い部分を組み合わせて展開していきたい。それが結果的に、オンラインライブエンタメの市場がどんどん広がっていくことに繋がると思います。
そのためにも、もっと多くの方がオンラインで演劇作品をつくるようになると良いと思っています。最近では、松竹さんの『図夢(Zoom)歌舞伎』の技術監修をしたり、ほかのオンライン演劇のプロデュース関わる機会をいただいています。オンライン演劇の幅を広げるために、ノーミーツができることに積極的に取り組んでいくつもりです。
インタビュー・テキスト:河野桃子/企画・編集:向井美帆(CREATIVE VILLAGE編集部)