11月『首都争奪バトル舞台「四十七大戦」-開戦!鳥取編-』が閉幕しました。企画発表時には「これまでにない演劇になる予感がする」と言っていたプロデューサーの下浦貴敬さん。実際に「予想外だった!」というほどの経験をしたそうです。
原作は、47都道府県のゆる神様たちが次の「首都」を争う都道府県擬人化バトルを描いたマンガ『四十七大戦』。WebマンガNo.1をみんなで決める「WEBマンガ総選挙2018」では1位を受賞しました。
主人公が「鳥取県の擬人化キャラ」ということで、東京だけでなく鳥取公演も実現。関係者も予想外の大歓声に、鳥取は熱狂に包まれました。12月23日のDVD予約販売にあたって、舞台上演の手ごたえやDVDならではの楽しみを下浦さんに伺いました。
また、『四十七大戦』終演直後にも関わらず、すでに開幕中の舞台『巌窟王』についてもお聞きしています。
予想外の鳥取公演を終えて
──上演の手応えはいかがでしたか?
鳥取での公演は東京公演を終えての大千秋楽だったので、すごく印象に残っています。20年近く演劇に携わっているけど、間違いなく初めての体験でした。
地方に行かせてもらうことはあったんですけど、鳥取は初めてで、どういう反応があるかまったく予想できなかったんですよ。演劇もあまり上演されないでしょうし、しかも2.5次元。
さらには、ラップで戦ったり、ご当地ネタを振りかざすということも初めてで、どうなるんだろう……と。
でも、上演してみたら、思っていたより大きな反響がありました。東京などから遠征して来られた方々だけでなく、山陰地域のお客様がたくさんいて、いつもと違う熱狂が生まれていました。
──東京公演千秋楽のカーテンコールが大盛り上がりでしたね!
そうなんです。かなり特殊でした。というのも、スタンディングオベーションで千秋楽を迎えるというのはあるんですよ。
でも今回の東京公演千秋楽では、客席全員が立ち上がって、隣の人と肩を組んだんです。そんなことになるなんて、誰も予想しなかったですよ。
役者達が「山陰がひとつになって、究極的には日本がひとつになっていきたいです」という挨拶をして、肩を組んだんです。そしたら「お客さんもやろうよ」という空気になって、客席の全員が肩を組み始めた。事前の打ち合わせもいっさいありませんでした。予想外でしたよ。
なにかが生まれる瞬間っていうのはああいった熱気がベースにあるんだなと感じましたね。ひとつの空間を全員で共有するという、ナマのエンターテイメントの強みを実感しました。苦労してやってきたご褒美だったのかもなぁ。
──ほかの2.5次元舞台との違いや特徴はどんなところに感じましたか?
地域性のすごく濃い作品だということです。いろんな場所でツアーする公演と違って、鳥取公演で「鳥取砂丘が……」と会場からほど近い地名が出てくるし、鳥取駅に展示してある「しゃんしゃん傘」という郷土品が劇中に登場する。
そうなると、地元の方々も盛り上がりますし、遠くから来られた方も「駅で見たアレはこのことだったのか!」とか「帰りにあの場所に行ってみようかな」といった楽しみ方がある。
それは通常の2.5次元や演劇とは違う、『四十七大戦』ならではの楽しみ方ですよね。この作品だからこそ、鳥取でも受け入れてもらったんでしょうね。役者も「地元で上演するってどういうことだろう」と考えるきっかけになったみたいです。
──キャラクターは各県を擬人化していますが、演じる俳優たちもその県の出身者でしたね。
そうなんです。それによって「おらが村」じゃないけど、永瀬匡(鳥取出身、鳥取さん役)が「境港」とか、糸川耀士郎(島根出身、島根さん役)も「島根の松江」とかテロップまで出る。
役者にとって、役を演じているだけでなく、自分自身に関係することが舞台上に出るのはなかなかないですよ。役者という職業を選んだことによって、楽しいことだけではなく、将来のことなど不安はいろいろあると思うんです。でも、地元で公演ができて受け入れて盛り上がってくれて「やってきて良かったな」と言っていました。
それぞれの俳優が「うちの県はもっとこういうのがあるんです!」とか「自分の県はここが強いんで」と良いところをアピールしはじめる。打ち上げなんてみんなの地元ネタで盛り上がっていて、そのやりとりを聞いているだけでも面白いんですよ。
──アフタートークで聞きたい話!
それぞれの地元の魅力に気づくきっかけになっていましたね。役者の仕事としてだけでなく、「〇〇出身の誰々」というひとりの人間としての会話がたくさん生まれて、みんなすごく仲が良くなりました。公演が終わって次の現場が始まっても、時間を合わせて忘年会をしていましたからね。
でもね、みんなが「じゃあ次どの県をやってみたい?」と盛り上がれるのは、やっぱり作品がきちんとお客さんに受け入れられたからですよ。それは当初から目指していたところでもあります。
──バトルシーンが全編ラップなのにも驚きました。
アクションだけでもいいんですけど、大真面目にふざけたことをしたかったんですよね。
『四十七大戦』は楽しい作品だけれど、実はそれぞれ重たいテーマを持っている。日本はどんどん少子化と過疎化が進んで、経済的にもアメリカや中国に勢いが負けてきています。
そういうことをどれだけサラッとキャッチーに作れるか、そして、人と人との繋がりをどう見せられるのかを考えた時に、ラップが面白いんじゃないかなと松崎史也さん(脚本・演出)が提案してくれました。
ラップって、足の引っ張り合いじゃなくて「こういうポジティブなところがこっちにはあるんだよ」と言い合える。
相手のアピールに重ねて「いや、うちの県の方がもっとすごいし!」「いやいやうちの県の方がもっとすげー!」と積み重ねていくと爽快感もある。
実は最初、ラップではなく歌をうたう案もあったんです。鳥取はロックで、島根は民謡で……とごちゃ混ぜのジュークボックスみたいな演出プランもあったんですけれど、フリースタイルで自分のアピールをした方が耳に残るかな。シンプルなテンポのなかに「新甘泉(しんかんせん/鳥取の梨の品種)」みたいな地元ネタの単語が飛び込んできたら、コミカルで耳に馴染むんじゃないかとなりました。
──ラップバトルへの観客の反応は?
事前に予想できなかったので、ふざけて「しゃもじ(※)で応援してもいいですよ!」なんて案内を出していたんです。でも楽しんでくれたみたいで、ここでしか味わうことができない体験をすこしは味わってもらえたんじゃないかな。
※劇中で広島県にある厳島神社の大杓子を思わせる武器を使用した戦闘シーンがある
そういう非日常を感じることで「また来たいな」と思ってもらえるはず。僕も20年演劇をやってきて、どうやったら演劇を面白がって足を運んでくれるかということはすごく考えます。
そういう面でも、『四十七大戦』は舞台を初めての方が来てくれた作品だったかな。総じて、良い公演だったと思います。
DVD発売!!シリーズ化は……?
──12月23日からDVDの予約受付がはじまりますが、予約を受け付ける書店も鳥取の本屋さんですね。
今井書店ですね。ひとつの書店でDVD独占販売ってこれまでにないんじゃないかな。これも地元感のある舞台ならではかも。
──DVDの魅力や面白みについてお聞きしたいです。演劇はライブが見どころだとは思うのですが……
そうだなぁ……僕達はナマの演劇をつくっているので、劇場で観てもらってナンボではあるんです。とくに鳥取公演なんて、カーテンコールの熱量がもたらす特別感は、その瞬間にその空間にいないと味わえないものでした。あの熱狂があるから、僕らはたぶん演劇を選んでいる。
でも演劇って、限られた時間と場所でしか観られないエンターテイメントなので、観劇できない人もたくさんいます。その場所にいられなかった方に作品を知っていただく手段としては、とても大事ですよ。DVDをきっかけに作品に興味を持ったら、ぜひ劇場で体感してほしいです。
そして、劇場で作品を観た人にとっては、手元に残るものがあると、作品に参加している気持ちになるんじゃないかな。「そうそう、こんなシーンだった!」とか「鳥取でこういうご飯食べたな」という、観劇体験を思い出すきっかけになる。また、DVDでカメラの演出が入ることによって、「あれ、本番では観てなかったけど舞台上でこんなことが起きてたんだ!」という発見があるのも楽しいかな。
──今回のDVDは、役者のアップが多いところがポイントだそうですね!ラップバトルのシーンでの表情は臨場感があります。
そうですね。舞台をつくる時って、遠くから見る「引き」の情報で伝えようとしているんです。
全体の立ち方のバランスとか、スクリーンに表示される文字とかを意識しているので、役者が汗をかいて叫んでいる表情は、映像でしか観られないでしょうね。
こちらも映像を撮る時は「ここでアップの表情を見てほしいんだ!」というところで役者に寄っていますので、見どころは詰まっていると思います。
──この先、シリーズ化の可能性も?
具体的にはなんとも言えませんが……。今回、鳥取で1,200人規模の演劇公演がこれまでなかったことを考えると、他の地域でも同じ熱狂が起こせる可能性があることには期待しています。
また、今回はスポンサーさんも特殊で、90年代と違って舞台に企業がスポンサーでつくことがほぼない現代において、鳥取の一企業が「東京でアピールします」というのが企業にとっても作品にとってもメリットになる。それも『四十七大戦』ならではかな。
うちも両親が島根なんですが、東京で働いている山陰出身者に観てもらって「たまには帰ろうかな」という気持ちがわく作品でもあります。今後もシリーズ化できたら、いろんな地域の方々に地元を思い出してもらったり、または行ったことのない場所に興味を持ってもらえるきっかけになる。
これは、舞台ではなかなかできないことができるんじゃないかな。地域や企業のみなさんが、作品を通じて「鳥取」や「山陰」を応援する公演になりました。興業的にも新しい可能性を考えるきっかけになりました。新しい企画を実現していきたいですね。
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▼コミック アース・スターにて連載中(第1話、最新話など、無料配信中)
▼『四十七大戦』 スペシャルサイト
クリスマスから年末にかけては、伝説のアニメ『巌窟王』の舞台化
──『四十七大戦』が終わってすぐですが、年末は舞台『巌窟王』と目白押しですね。
あっという間ですね(笑)
──出演者には、ちょうど15年前のアニメをリアルタイムでご覧になっていた方もいるでしょうね。
実は、モンテ・クリスト伯役の谷口賢志君は、2.5次元で一番やりたいキャラクターがこのモンテ・クリスト伯だったそうなんです!
でも僕はそれを知らなくて、ただアニメを見ていて「この声質で、品があって、でも狂っているところがあって、色気がある役は……あっ、賢志君だ!」と思ったんです。声をかけたら「なんとしてでもやりたい」と言ってくれて実現しました。
──アニメ放送時には、映像美と独特な表現がかなり話題になった人気作です。舞台化の見どころは?
もともと『モンテ・クリスト伯』という小説をオリジナル・アニメ化したもので、当時は衝撃的でしたね。映像ならではの表現で耽美な世界感が描かれていて、今観ても色褪せない作品です。それをあえて舞台でやるのはひとつの挑戦ですよ。舞台にすることで改めて衝撃をうけてほしい。映像の使い方にはかなりこだわっています。
僕も演出家も「この公演ならでは」というアイデアを持ち込んでいくのですが、役者がちゃんと向き合ってくれているので、良い作品になると思います。稽古場でも演出家と役者達がアイデアを出しあって、「ここのシーンこうやってみようか?」「こうやったら面白いんじゃない?」と話し合ってセッションしていく。
この空間で生まれてくるものの精度をより増していく作業をしているので、「ああ、演劇をつくっているな」という感覚が強い稽古場ですね。とても楽しいです。
──
アニメの前田真宏監督や、プロデューサーのお話を聞くと「アニメで演劇のような表現をしたい」と考えられていたそうです。
僕もアニメを見ながら「演劇でやればこんなふうに面白くできるぞ」という瞬間があって、それが一致したので「よし、舞台化は合ってたんだな」と(笑)原作の幻想的な美しさをスタッフもキャストも一緒に積み上げていくので、こちらも楽しみにしていてください。
インタビュー・テキスト:河野 桃子/企画:ヒロヤス・カイ/編集:CREATIVE VILLAGE編集部