山田耕三さんが企画した番組は、インターネットとテレビの垣根を越え、それぞれの魅力を模索しています。
10月にテレビ東京でスタートした『エンタX』ではYouTuberがテレビ出演し、『○○と新どうが』ではドキュメンタリー番組としてクリエイターを追い、完成した動画をLINE LIVEで公開。
ネットとテレビという異なる視聴者層に向けてコンテンツを制作し続けています。
今後、それぞれのメディアはどのような融合をしていくのか、その可能性と取り組み方などを伺いました。
YouTuberがテレビ出演する『エンタX』スタート
10月4日から『エンタX』という番組をスタートしました。古坂大魔王さんをMCに、毎回2組の音楽アーティストとYouTuberが登場し、ライブパフォーマンスと動画で戦います。この番組は、ふだんテレビよりもネットを見ているような人たちに面白がってもらおうと立ち上げました。
けれどもYouTuberがテレビに登場するのは非常に気を遣います。YouTuberにはテレビに出てほしくないと思っている人も多いでしょうし、テレビとネットは対立しているという印象を抱いている人も多い。そういった気持ちを裏切らないように、出演者やスタッフとたくさん話し合って寄り添うように心がけました。結果的にはかなり面白くなったと思います。
今はネットとテレビに渡って取り組める企画の立ち上げに携わっていますが、もともと僕はテレビの世界で働くことはまったく考えていませんでした。
実は学生の頃は、法曹界を目指していたんです。司法試験がうまくいかない現実逃避から、気分転換にテレビ局の入社試験を受けに行ったんですよ。そうしたら、面接で志望動機を話しているうちに自分で自分に説得されて「テレビの仕事がしたい!」という気になってきた(笑)
でも、思い返してみれば学生時代から旅行でもなんでもずっとビデオを持って撮影していたことに気づいたんです。まさか仕事にするとは思っていなかったので、自分で動画編集をしていたことも忘れていました。それを考えるとテレビの仕事に就いたのは自然なことだったのかもしれませんね。
2002年に入社して、希望どおり制作局に配属になり、テレ東の大人気番組の一つだった『愛の貧乏脱出大作戦』に配属されました。その後『やりすぎコージー』などバラエティ番組の他、主に演歌・歌謡系やj-pop、アイドルの音楽番組を担当しました。
ディレクターとして音楽シーンのことをすべて知りたいという思いがあり、盛り上がっていた初音ミクなども勉強しました。ボーカロイドについてはものすごく人気があり盛り上がっているのに、その事実を知らなかったことに危機感を覚えましたね。ネットの世界への興味が膨らんで、2011年にはニコニコ動画と連動した番組『ドリームクリエイター』を立ち上げました。それが初めて自分で企画プロデューサーをした番組です。
ニコニコ動画での生配信
僕は元々ディレクター指向で、プロデューサーのようにお金を扱う仕事にはあまり興味はありませんでした。初めてプロデューサーとして『ドリームクリエイター』を立ち上げた頃は、無我夢中でいろんな挑戦をしました。テレビオンエア前に収録の様子を生配信したり、ニコニコ動画で生配信した様子をテレビで流したりしましたね。
一人でプロデューサーとディレクターとADを兼ねて、さらに毎日1時間「番組構成会議」と称してニコニコ生配信をしていました。テレビ局内を歩いているプロデューサーをつかまえて「ちょっと出てください」と生配信に出演させたりもしていましたね。テレビだと視聴者の様子はよく分かりませんが、直接反応があるネット生配信は面白かったですね。
2011年4月から9月までの間に150回以上の生配信をやって、ずいぶんネットリテラシーが高まりました。また、ネット界隈でどんな人が人気があり、どういう風に映像を配信しているのかなどが見えてきた。もっとネットに関わる仕事がしたいなと思っていた頃、2015年に関連会社のプロテックスに出向になりました。
『○○と新どうが』で縦型スマートフォンの可能性を追求する
プロテックスでは、早速Webだけで流れる番組コンテンツの仕事も始めたのですが、LINE社さんとの取り組みで地上波テレビ連動の番組もつくりました。「テレ東のさしめし」という番組で、元々LINE LIVEで配信されていた「さしめし」という番組の兄弟分のような位置付けで成立しました。
企画はテレビ的になるように少々アレンジしました。芸能人がマジックミラーで仕切られた個室内で、一般の方とふたりきりでご飯を食べるという内容です。芸能人と一般の方が部屋に入ったらまったく演出をせず、僕らは見守るだけ。カンペも出さず、最後に「終わります」と合図するというこれまで経験のなかったつくり方でした。
その後同じ枠で立ち上げた『○○と新どうが』は、プロのクリエイターが、「スマートフォンで撮影した縦型作品」という条件のもとにコンテンツを制作する番組。制作の様子をテレビで放送して、完成作品をLINE LIVEで公開します。
制作する縦型動画作品の理想というか、目標としていたのは、隈本遼平さんが作られたlyrical school(リリカルスクール)のスマホ乗っ取り縦型MV「RUN and RUN」。スマートフォンがジャックされたかのような縦型MVはエンタメ業界全体に衝撃を与えました。
その隈本さんが、番組第1回目のクリエイターを引き受けてくださったのは、嬉しかったですね。
可能性を探るために意図的に毎回作品のタイプを変えているので、できあがった作品はドキュメンタリー、ドラマ、MV、特撮ムービーなどかなり多岐に渡ります。実現はしませんでしたがアニメをつくろうとしたこともありましたね。半年間に11のプロジェクトで11の全く違った作品が生み出されました。広告系のクリエイターから映画監督、果てはテレ東の局員プロデューサーまで様々なクリエイターに参加いただきました。
クリエイターに寄り添うプロデューサーであれ
これまでずっと動画は横型という歴史がありますから、縦型動画は扱いづらい。たとえば多人数のアイドルグループなどは全員が画面に入ることはできません。クリエイターの眞鍋海里さんはそれを逆手に取って、人気男性アイドルグループ「超特急」のMVを作り上げました。推しのメンバーひとりだけを取り上げ、見ている人とメンバーの距離をぐっと近づけることに成功、反響も大きかったですね。
ネットは視聴対象があらかじめ想定できるのですが、テレビは層が広いので思わぬ方が見ていたりする。超特急のことをよくご存知の、他局のプロデューサーさんがツイッターで褒めてくださったことがとても嬉しかったですね。
超特急の縦型MVが話題になったことで、「出たい」と言ってくれるキャストさんも増えました。それまでは、なにをやるのか分からないから事務所側も出演を承諾しづらかったのでしょう。
眞鍋海里さんのこの作品は、9月末にアジア最大の広告祭SPIKES ASIAでモバイル部門のBronze賞を獲得しました。僕も携わった人間としてクレジットしていただいたのですが、テレビ制作の人間が広告賞を貰えることはきっと珍しいことだと思いますので、貴重な経験をさせていただきました。
「◯◯と新どうが」では、どのクリエイターさんにも物凄いプレッシャーをかけてしまいました。連日テレビで予告が放送されて逃げられないですし、他の誰も取り組んだことのないプロジェクトを完成させなければならない。僕もプロデューサーとして、どんな作品に仕上がるのか分からないなかで、クリエイターさんと一緒に覚悟を決める。正直、制作している間は地獄のような苦しみです。
けれどその苦しみをクリエイターさんと共有し、提案はするけれども押し付けないようにすることが大切。予想外の案が出てきたり、予算がはみ出してしまいそうな時に「できません」と言うか「やりましょう」と言うか……クリエイターさんに寄り添い、腹を決めて決断することがプロデューサーとしての仕事です。
テレビ業界外の知識がアイデアにつながる
ネット番組もテレビ番組も、どんな人に発信するかを意識することは非常に大切です。僕は番組をつくる時には必ず、それを見る視聴者の顔を具体的に思い浮かべるように心がけています。
こんなことがありました。『木曜8時のコンサート〜名曲!にっぽんの歌〜』という番組を立ち上げた時に、視聴者層である70代、80代の一般の方々とたくさん話し合いを重ねたんです。
日頃どういう暮らしをしているか、どんな音楽が好きで、歌詞にはどんな思い入れがあるか……直接細かく伺うことで、ライフスタイルや趣味嗜好を知ることができました。
その時は70代、80代向けの演歌・歌謡番組をつくるということで、どんな歌手が好きか細かく聞き取りをしました。
すると、「美空ひばりさん」に深い思い入れをもっていらっしゃる方が突出して多いことが分かりました。「他の歌手には歌ってほしくない」という声すら聞かれました。
ならば美空ひばりさんに出演者の一人になっていただければ良いのではと思い、ひばりさんが遺された手帳などから直筆の文字を拾って番組タイトルを作成したり、テレビ局のアーカイブの中からひばりさんの肉声を拾ってきて「皆さん楽しんでください」というアナウンスを入れたりしました。
実はこれはボーカロイドの発想でした。テレビ業界だけでなくニコニコ動画の流行りを勉強していたからこそ出たアイデアです。おかげ様で、70代、80代の方がたくさん見てくださり、応援してくれる番組になりました。
今もテレビとネットに渡って企画をしているのは、固まったものを作るだけでは面白くないし、僕自身がやる意味がないから。
僕はもともとディレクター思考で“良質な大工”になりたいという思いがありました。だから撮影や編集に手をかけて最後までひとつの作品を作り上げる作業も好きなのですが、今のようにいろいろなプラットフォームで、その特性に応じた新しい企画を立ち上げていくのも好きです。
スマートフォンにおける縦型動画はその分かりやすい例ですが、「縦型にしなければならない」というハード上の特性や制約が、新しいソフトやコンテンツを生み出すきっかけになるというのはとても面白い事象だと思います。
どのメディア、どのプラットフォームでも、視聴者やユーザーの顔を思い浮かべながら、新しいものづくりに挑戦していきたいと思っています。
(取材・ライティング:河野 桃子/編集・撮影:CREATIVE VILLAGE編集部)