ストップモーション、マルチスクリーンなど、制作の「技法」をテーマに映像を体系化していく、クリエイティブ・エデュケーション番組『テクネ 映像の教室』。同番組のプロデューサーを務める東京藝術大学大学院映像研究科教授の岡本美津子さんは、取り上げる技法のテーマを「DIY (Do It Yourself)」と明かします。基本的には特殊な技術等を使わなくてもできる、一般の人々ができるもので、見ている人が明日やってみようとか、結婚式ビデオでやってみようと思えるようなものを紹介しているとのこと。さらに「テクネ・トライ」で、有名な映画監督やCM監督のメイキング風景を見せることへの想い、多様な制作者が映像制作に挑戦する場でもある「テクネIDアワード」についてもお伺いしました。

“人に伝える喜び”から生まれたメディアへの興味

メディアの仕事に興味を持ったきっかけは、小学校の放送部に遡ります。自由な校風で、放送部は好きに活動してOKだったので、例えば運動会の中継コメントを流したり、お昼休みに放送室に来た人をゲストのように迎えてワイドショーみたいな放送をするうちに、“人に伝える喜び”を感じましたね。小さい頃は、アニメの全盛期でもあって、たくさんの素晴らしいアニメーションが見られましたし、大河ドラマの視聴率も30パーセントを超えるような時代だったので、テレビを渇望して見るような、映像の洗礼を受けた世代でした。今みたいにインターネットやゲームもないので、テレビと映画が大きな娯楽でした。それらに触れるうちに、いつの間にか映像を意識するようになり、ものづくりができる環境に魅力を感じて、就職活動を経てNHKに入局することになりました。

入局後の配属は労務部でした。最初の仕事はお給料の計算などで、労務問題には詳しくなりましたね。その後も制作に行きたい気持ちはありつつ、編成に携わることになりました。編成は制作者たちや番組がよく見えるので、凄く勉強になる環境でした。部署で企画を提案できる機会があり、最初に出したのが『デジタル・スタジアム』という若いクリエイターを応援する番組です。2000年にスタートした当時、PCが普及してきた頃で、きっかけは多摩美術大学の学生の作品から受けた衝撃でした。ある時見せられた、「これ誰が作ったの?どこのCGプロダクション?」と驚くようなクオリティーの高いものが、多摩美術大学の学生さんが3人のグループで作った作品だったんです。
NHKで制作のノウハウや大変さを見ている中で、これが個人レベルでできるんだ!と驚き、この受け取ったパワーを、どうにかしたい!という使命感に燃えて作り上げた企画でしたね。

クリエイターを応援する『デジタル・スタジアム』には、若き日の新海誠さんも!

若いクリエイターを応援する番組『デジタル・スタジアム』はインターネット、PCの普及と深く関係していたと思います。
若者の作品を集め始めると、今度は、作っている人が多いことが分かりました。応募も多いし、作品も面白くて、その中に若き日の新海誠さんもいらっしゃいました。

新海さんは当時『彼女と彼女の猫 -Everything Flows-』という短いコンテンツを応募してきて、当時から「この才能、すごいな」と思い、なるべく番組でも紹介していました。

『デジタル・スタジアム』では毎週4本くらい紹介し、その週のグランプリを決めていくシステムでした。それを続けると年間で52週分くらいたまるので、年間のアワードも作りました。
アニメーション、映画、ドラマなどの映像と、メディアアートと呼ばれる、インスタレーションの入った作品も扱っていたので、今のメディア芸術と呼ばれる分野を幅広く集め、若い才能をとにかく紹介していました。その時に、ただ紹介するだけでなく、その才能にNHKのタイトルを作ってもらうオファーをしたり、別番組のプロデューサーを紹介したりとアフターケアをしようとしていました。展示のイベントもやろうとしていて、メディアアートの分野で、放送が果たせる役割を担っていきたいと思っていました。
今、映像関係のお仕事に携わっている方にも『デジタル・スタジアム』で初めて紹介された、という方もいらっしゃいますし、8~9年にわたり番組ではクリエイターを紹介していきました。

そんな中『デジタル・スタジアム』を通して知り合った、メディアアートの大御所、東京藝術大学の藤幡正樹先生に「今度、うちで映像研究科を作るから来ませんか」と声をかけられて、そちらに移ることに決めました。映像の世界にもっと深く関わり、テレビを違う視点から見てみたかったというのが大きな理由です。

するとNHKで感じる面白さとは、また違った面白さがありました。同じ学校の中で映画とテレビという違う文化があったり、メディアアートという芸術文脈の表現があったり、映像という新しい表現の多様性に触れて、とても興味深いものでした。

例えば映画とテレビを例にしても、撮り方や考え方が違います。基本、映画は1カメで画作りをして撮っていきますが、テレビだとスタジオなら3~4台のカメラを入れてスイッチングしていくので、映像に対するアプローチ、考え方も違います。
すると人間のメンタリティ、制作に関するもの、教育メソッドも変わってきます。映画は映画史に始まり、世界的に積み重なった教育体系がありますが、テレビにはまだまだそれが足りないとうことも見えてきました。映像を学ぶことに対して白紙の状態なので、それに取り組みたいという想いから『テクネ 映像の教室』が生まれます。

クリエイターにとって、お仕事と関係なく自分の作品が発表できる場に

NHKでは映像を番組として扱っていない中、映像自体の表現や楽しみ方、作り方を紹介したり教えたりする番組、かつての『デジタル・スタジアム』のようなものをやりたいと、『日曜美術館』などを手掛ける倉森京子さんと話していました。
そんな折に、倉森さんが声をかけたPARTYのクリエイティブディレクター、川村真司さんも加わって『テクネ 映像の教室』がスタートします。

ストップモーション、マルチスクリーンなど、様々な技法を取り上げていますが、ずっとこだわっているのは「DIY (Do It Yourself)」です。

基本的には1人でもできる、一般の方でもできるもので、見ている人が明日やってみようとか、結婚式ビデオでやってみようと思えるようなものを紹介していて、特殊なエフェクトや高価な機材等を使わないとできないようなものではありません。
「テクネ・トライ(その回で紹介された映像技法を駆使した新しい映像制作に挑戦するコーナー)」でクリエイターのメイキングを見せるのも、有名な映画監督でもCM監督でもこんな風に自らの手で作り出しているんだ、というのを伝えたいからです。
映像を作ることは特殊なことではなく、もっと身近なところで、こういうことができるよ、というのを伝えたいと思っています。

「テクネ・トライ」の面白さは“種蒔き型”であることだと思います。『デジタル・スタジアム』の場合、どちらかと言うと“刈取り型(できたものを紹介するシステム)”ですが、『テクネ 映像の教室』の場合はこのテーマで作ってくださいとお願いしている、それは逆ベクトルです。

世界に多々あるフェスティバルやコンペティションもほぼ刈取り型で、刈取り型の方が、
できたものを評価すれば良いのである意味楽なんです。でも、種蒔き型は依頼する側にも責任があるし、クリエイター自身も苦心するので、種蒔き型のアプローチは世界的に見ても少ないと思います。
クリエイターにとっても、お仕事と関係なく、あなたに作品制作をお願いします、という番組やクライアントはほとんどないので、映像文化を育てていく意味で凄く面白いと思っています。

「テクネ・トライ」にはこれまで70人超のクリエイターが出てくださいました。今の大河ドラマ『おんな城主 直虎』の映像を作っているアートディレクターの古屋遙さんの独立ご最初の仕事は「テクネ・トライ」でした。

新進映像作家の方たちが、お仕事から離れた“自分の作品”を発表できる場にするというのが『テクネ 映像の教室』の特色でもあると思います。

国境を越える映像の力

番組で紹介してきた18の技法を使って番組ロゴを表現する15秒の映像「テクネID」は、番組スタート2年目から公募形式にしました。その後、毎年の優秀作品を紹介する「テクネIDアワード」を2013年に始めました。制作者が、入選した喜びや、その制作過程をブログに書いていたりすると聞くと、ネット時代にテレビで紹介されることがまだ威力を持つんだなと思うこともあります。ただ、それはちゃんと分かる人が見ているからだろうな、と思います。

応募する方にはリピーターもたくさんいて、東京藝術大学の学生も挑戦していますね。岐阜や京都には、クラブ活動のように皆で何本も作って応募してくれる高校もあって、いろいろな活用をしてくださっていて興味深いです。アワードの受賞者には、Eテレのクラッチという短い映像を作ってもらうようなチャンスもあります。

最近、映像の世界はインターナショナルだということを、より強く感じます。
ネットの普及もあって、自分の作品が世界中で見てもらえる環境は整っているので、これから制作しようと思う方は、国内での反応を考え過ぎず、常にインターナショナルを意識して作ったら良いと思います。そうすると、作る意識も変わってくると思います。
『テクネ 映像の教室』で紹介する半分以上は海外の作品ですが、それは海外だから紹介しているわけでもなく、当たり前のように国境を越えているということなんです。
自分のクライアントは世界中にいるということで、「DIY」から生まれる作品には大きな可能性があります。
私自身、学生のアイディア、自分では思い付かないような部分を日々知ることができて、面白いです。若いエキスをもらっている気分です(笑)

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番組情報

『テクネ 映像の教室』NHK Eテレ
「テクネIDアワード3」
3月25日(土)23:00より放送

公式サイト:
http://www.nhk.or.jp/techne/

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