グルメドキュメンタリードラマ『孤独のグルメ』の第4弾。主人公・井之頭五郎(松重豊)の食事シーンと心理描写をシンプルにつづり、深夜に視聴者の食欲を刺激する本作は「夜食テロ」とも呼ばれ、放送時間帯には、毎回SNSでも大きな盛り上がりを見せています。その制作における、こだわりのポイントや、現場のお話などを川村庄子プロデューサーに伺いました。
多くの作品に触れる中での、アジア映画との出会い
高校生、大学生くらいの頃から映像制作に携わりたいという気持ちはありました。その頃から、週に一回くらいのペースで映画館や洋楽のコンサートへ通う生活をしていました。
もともとは映画の制作に携わりたいと思っていたので、できるだけ観て勉強しておこう、という気持ちは強かったです。最初はヨーロッパ映画一辺倒でしたが、1997年の香港返還の頃に、中国や韓国、アジアの映画に触れたことは転機になりました。
当時は、現地で映画を観る機会もあったので、その頃の韓国での映画を取り巻く状況には驚きました。国で多大な援助をして、大規模な制作に力を入れていて、当時の日本では太刀打ちできない状況だから、買い付けをした方が良いんじゃないかな、と思ってしまうほどでした(笑)
今はそういう気持ちはありませんが、当時のアジアの状況が見えたことは、大きな刺激にもなったと思います。
シリーズを通して変わらない『孤独のグルメ』の作り方
制作会社に在籍していた頃から、一貫してドラマの制作に携わってきました。ドラマが落ち着いた頃には情報系の番組に関わったこともありましたが、基本的にはずっとドラマの制作を続けています。
現在プロデューサーとして携わっている『孤独のグルメ』には、シリーズを通して変わらない、原作者の久住昌之さんとの約束があります。
それは、原作に出てきたお店は使わない、ということ。番組の最後のコーナー「ふらっとQUSUMI」で久住さんに初めてお店を訪れてもらう、というのが定番になっています。
それから、Season1から心がけていることは、スタッフ全員が自分たちの足でお店を探す、ということ。ネットも情報としては参考にしますが、スタッフ全員がリサーチャーのようなイメージで、皆で探して、訪れたお店自体やお店の方の雰囲気が『孤独のグルメ』の世界観に近いかどうかを考えています。
そして、食事そのものですね。食事が高級すぎず、期待を裏切ることもなく、スタッフ自身が美味しいと感じることが一番大切だと思います。
実際に登場するお店には大きな反響があるようです。予告が流れた時点で、予約の電話がいっぱい架かってきた、という話も聞くことがあるので、そうするとお店選びも、ますます考えてしまいますね。ロケの時点で既に視聴者の方に勘付かれた時には驚きました。「あの座布団は、あのお店ですね?」みたいに(笑)
番組を見てお店を訪れる方の中には、遠くから来てくださる方や、海外から来てくださる方もいるようなので、その期待にある程度、世界観と味で答えられるようなお店をスタッフ皆で選んで行きたいと思っています。
先入観なしに、本番だけ食べる松重さんの表情
スタッフ皆で探し出したお店で、実際に撮影をする時、松重さんは先入観なしに、本番でだけ食べています。
なので、その時に松重さんから素に近いような、美味しそうな表情を引き出せるかが、スタッフのお店選びの勝負どころかもしれませんね。
そこで、もし松重さんが「あれ?」という表情になってしまったら、ストーリーが変わってしまうので、少し心配な気持ちもありますが、今のところ大丈夫です(笑)
『孤独のグルメ』の現場は、人数の少ない中で、ひとりひとりが自分の担当だけの仕事をするのではなくて、助け合って、家族みたいにやっています。松重さんもずっと現場で頑張っているスタッフに気遣いを見せてくれて、お父さんみたいな存在になっていることもあります(笑)
深夜枠で、そこまで予算が潤沢なわけではなくても、スタッフ皆の愛情と情熱に支えられて、チームワークで保たれている番組だと思いますね。
松重さんが遊び心を発揮して取り入れる、ちょっとした動作やアドリブも、面白いところです。現場の雰囲気がよくないとそういうことも出づらいと思いますので、現場の雰囲気はやはり大切です。
『孤独のグルメ 巡礼ガイド』について
発売中の『孤独のグルメ 巡礼ガイド』(扶桑社)では、Season1~3に登場したお店を厳選して紹介しています。それに加えて、久住さんのインタビューと松重さんの撮影秘話やお店の感想なども掲載されていて、放送を見ていただいた方にも、別の角度から楽しめる内容になっています。
Season1~3まで多くのお店があって、それぞれに思い入れがあるので番組スタッフ側では選べなくて、お店の選定は扶桑社サイドにお任せしたのですが、改めて見てみると、じっくりと写真で楽しめるのは、やはり魅力的ですね。
ドラマを作る上で大切にしていること
“自分がそれを面白いと思ったら、実現する”ということが一番大切だと思います。
2時間のサスペンスドラマや金曜深夜のドラマ24枠など…いろいろなジャンルのドラマに携わってきましたが、その中でも統一性がないわけではなくて、”これは面白い”と強く確信できるものがどこかにある、というのは共通していると思います。
例えば、2014年4月クールにドラマ24枠で放送した岩井俊二さんの企画プロデュース・脚本作『なぞの転校生』はかなりひねりを効かせたものです。これはどうしようか、止めておこうかと迷いながらも、結局取り組んだ挑戦的な作品でもありました。
そのように、自分にとって、これは絶対面白いと確信できるものを作ろう、というのは常に思っています。昔は、”かっこよく作りたい”という想いが強かったのですが、最近はそれだけにとらわれることはありません。
もちろん全体の雰囲気や、番組独自の色はすごく大切だと思います。とは言っても、テレビ自体、CMが入ったり、他にもいろいろなことをしながら見るメディアです。そのような視聴方法で触れていても、見ている方が面白くないといけないので、そのあたりは常に意識しています。
私自身、様々な映像作品に触れる中で、”よく分からないけれど、面白い!”と思うものもあれば、その一方で”話は整っているけれど、あまり面白みがないな”と感じることもあります。
そこで面白いと感じるものには、どこか作り手側のここだけは譲れないという熱い想いや、”これは面白いから押し出して見せたい”という気持ちが入っているように感じます。
映像の中でも、特にテレビのプロデューサーの仕事をする場合、いろいろなしがらみが入って全てを自分の思い通りにすることは難しいです。初めは、こう作りたいというイメージがあっても、役者さんが演じた時点で変わることもありますし、他の方の演出が入って、目線が変わってくる部分もあります。そうすると、自分の初めのイメージとは変わっていく部分がありますが、それでもやはり、譲れないポイントや面白いと確信できるポイントをどんな状況でも必ず入れることによって、見ている方に伝えられるものはあると思います。これから映像制作に携わる方には、そこを大切に制作していって欲しいですね。
■番組情報
『孤独のグルメ Season4』
毎週水曜夜11時58分放送
出演:
松重 豊(井之頭五郎役)
原作:「孤独のグルメ」
作・久住昌之/画・谷口ジロー(週刊SPA!)
脚本:田口佳宏
音楽:The Screen Tones :
久住昌之 フクムラサトシ 河野文彦
西村Shake克哉 栗木健
プロデューサー:川村庄子 吉見健士(共同テレビジョン) 菊池武博(共同テレビジョン)
演出:溝口憲司(共同テレビジョン) 井川尊史(共同テレビジョン)
■オフィシャルサイト
http://www.tv-tokyo.co.jp/kodokunogurume4/
(2014年9月8日更新)