日本テレビのバラエティ番組『ニノさん』。嵐の二宮和也さんがMCを務め、若手ディレクターたち渾身の企画が毎回おもしろいと根強い人気を誇ります。
演出を務める井上尚也さんは、音楽番組とバラエティの両方を担当することで独自の道を切り拓いてきました。今回はテレビ業界を目指したキッカケから番組にかける思いまでを伺いました。

井上 尚也(いのうえ・なおや)
2008年、日本テレビ入社。以来バラエティ番組の制作を担当。
「有吉ゼミ」「ザ!鉄腕!DASH!!」「ぐるナイ」などに携わり、現在は「ニノさん」の演出、「おしゃれイズム」、「another sky」ディレクターを担当。

当初の希望ではなかったものの音楽番組で制作の楽しさを実感

――テレビ業界に入ったキッカケを教えてください。

幼い頃からバラエティが大好きで、3〜4歳の頃からテレビをずっと見てるような子どもだったんです(笑)。ダウンタウンさんやナインティナインさんの番組が特に好きでした。中学生ぐらいになってからは自分の部屋にテレビがなかったのでラジオにハマりだし、ナインティナインさんの番組なんかにネタハガキを出してたことも。読まれたときはもう「やったぁぁぁ!!」と嬉しくて嬉しくて、その頃から漠然とテレビを作りたいなと思ってましたね。
大学生になってもネタハガキを書き続けながら、完全にテレビ局の制作職を目指して就活。縁あって日本テレビに入社できました。

入社後はバラエティを希望していたものの音楽番組に配属となり、そのまま6〜7年いました。当初からすごく忙しかったので今となってはあまり記憶がないんですけど(笑)……最初は「音楽に興味ないしな」と思いながらも、実際にやってみたらすごく楽しかったんですよね。音楽番組だと入社2年目くらいからディレクターになれるので、他の番組より早くデビューできたということもあって。「この1曲を担当する」となったら、自分の思った通りのカット割りで自由にカッコよく撮れるんです。今までテレビで見てたアーティストの方をどんどん撮ることができるというのは、音楽番組の醍醐味だなと思いました。

――音楽番組を担当してる間に「本当はバラエティやりたいのにな」と思ったりはされなかったんですか?

良い環境に居させてもらってるなと思ってました。早くからディレクターとして活躍できるのもそうですし、音楽番組は特番の生放送が多かったので会社の中でも大きな仕事を任せてもらえるっていうのがあって。「24時間テレビ」も入社2年目からメインどころを担当できたり、今も武道館のチーフをできてるのは若い頃の経験があるからだなと感謝しています。

ゼロから1を作るときが一番楽しい

――現在は音楽番組も担当されながら『ニノさん』などのバラエティも演出されてらっしゃいますが、音楽番組での経験がバラエティに生かされてるなと思うことはありますか?

ありますね。音楽番組からバラエティに来ても、テレビって狭い世界だから通じてるんです。『ニノさん』を担当することになったとき、二宮(和也)くんが僕が音楽番組にいたのを覚えてくれていて、ちゃんと喋ったことはなかったけれど「井上くんって音楽番組の人だよね」と声をかけてくれて。いろんな現場で頑張ってたらそのときの印象は覚えててくれるので、ふてくされずやってきてよかったなと思いました。

あとは以前『ニノさん』で「私の歌グランプリ」っていう歌とバラエティを融合させた企画をやったんですけど、まさに音楽番組をやっていたからこそできたなと。有名人の方が日頃の鬱憤や愚痴を誰もが知ってる歌に乗せて、いわゆる替え歌にして歌い、二宮くんが「この企画バカだよね」みたいな目線で進行していく企画で。例えばみんなが知ってる「3年目の浮気」をお笑いコンビの完熟フレッシュさんが「2年目の嫌気」っていう替え歌にしたんですけど(笑)、元々は夫婦の曲をコンビの曲にしたら面白いんじゃないかなという発想で。お昼の番組として見やすく、何も考えずに笑えるものが作れたなと思います。

――『ニノさん』を拝見していて、毎週企画が全然違うのがすごいと思うのですが、独自のルールというのはあるんですか?

『ニノさん』はADもディレクターも関係なくみんなで企画を持ち寄るんですね。もちろん放送作家さんや演出も含め。みんなが面白いと思うことをフラットに出し合って、「こういう番組あるよね」じゃなくて「こういう番組今までなかったよね」っていうところから始めるのが、意外と他の番組とは違うところかもしれません。

ディレクターが新企画を通すチャンスって普通に番組作ってるとなかなかないんですけど、『ニノさん』の場合は毎週ゼロから1を作ることができる。物を作るときってゼロから1を作るときがいちばん楽しいので、そういう意味ではすごく刺激になる番組ですね。その分毎回特番を作るみたいに脳みそが疲れますけど(笑)。でも『ニノさん』を担当するようになってから、今までよりさらに日常の中で「おもしろいことないかな」って探すような習慣がついたような気がします。

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あとはお昼の番組なのでコアに作りすぎないというのは意識しています。これはテレビを作る上で共通してることなんですけど、「みんなが知ってるものの中でどれだけ楽しませられるものを作るか」っていうのが基本だと思っていて。
でも実はそれが一番難しい。細かいマニアックな笑いって、言ってしまえば簡単というかいろんな突破口があるんですけど、例えば「カレー作りをどれだけおもしろく見せられるか」みたいなことが、多分ゴールデン番組とかで特に必要なスキル。そういう基本がニノさんにあると思っています。

僕らはよく「クリエイター」って言われるんですけど、テレビ局の人って決してクリエイターじゃないんですよ。全世代のみなさんに向けて、日常で普通にやることをどれだけおもしろくできるかが求められるので、僕らは「クリエイター」じゃなく「テレビ屋」って言ってるんです。

何よりも自分の経験がアイデアの源

――だからこそさっき仰られてたように日常の中でおもしろいことを探すというのを意識されてるんですね。

日常の中からそれをどうやってテレビに活かせるのかを考えてます。やっぱり自分の経験がいちばんアイデアのもとになるんですよね。例えばこの料理おいしそうと思ったら自分で作ってみるとか、例えば女性に振られたとしたら書きたくないけど手紙で書いてみるとか。実際には渡さないけど、手紙で伝えるとしたらどう書くだろうと書いてみたことがあります、若い頃(笑)。当時担当していた「好きになった人」という芸能人の恋愛を調査する番組で手紙の演出があったりして、すると自分で手紙を書くことでわかることがあったりするんですよね。今でもとにかく日常の中で何かを見つけることを自分でおもしろがってる気がします。

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――テレビ制作はいかに経験してそれを活かせるかを考えるのが大事なんですね。では最後に、テレビ業界を目指す人へメッセージをお願いします。

カッコイイことを言っちゃいますけど(笑)、テレビ業界で楽しいことを作り出すヒントってやっぱり日常の中しかないと思ってるから、自分の人生を楽しむっていうのが一番です。いっぱい恋愛をして、手紙も書いて、好きなことをいっぱいやって、おいしいものたくさん食べて。やりたいこと片っ端からやってくっていうのが根本になるので、自分の人生を全力で楽しんでください。

――ありがとうございました。

インタビュー・テキスト:上野 真由香/撮影:TAKASHI KISHINAMI/編集:CREATIVE VILLAGE編集部

番組情報

ニノさん

毎週日曜ひる12:45〜13:15放送!
http://www.ntv.co.jp/ninosan/