CG映像や空間演出など、さまざまな先進的デザインワークを生み出している「WOW」ディレクターの近藤樹さん。様々なツールを使って具現化された映像やインスタレーションは、見る人を引き込んで五感を揺らすようなパワーに溢れています。
今回は近藤さんにこれまでのキャリアやディレクターという仕事の醍醐味について、お話を伺いました。

近藤 樹(こんどう・たつき)
WOW ディレクター
TV番組やイベント、コンサートの映像制作を経て、CINEMA 4DやAfter Effectsを用いた映像制作・空間演出を手がけている。光や風、動力といった身近にある現象を取り入れた空間演出やインスタレーションを得意とする。映像や空間といった枠組みを越えて、さまざまな現象が持つ美しさを再構築し、鑑賞者にその世界観が伝わる作品づくりを心がけている。

映像と空間を構築していく面白さに惹かれVJ活動をスタート

――近藤さんが映像業界を志したキッカケを教えてください。

映像制作を始めたのは高校生の頃からなのですが、元々空間造形に興味があって大学は建築科に進みました。その頃、学業とは別にVJというジャンルに出会い、空間に映像を流すことに面白みを感じ始めたんですね。

――では大学在学中からVJを?

そうですね。クラブで映像を流すのって、単純にテレビや映画館で見るのとは少し違って「空間の中にある映像」なんですよね。光として空間を染める能力もあるし、人の視界に入ってストーリーを伝えることもできる。元々やりたかった「映像」と「空間」を構築していくところに自分の興味がうまく混ざった気がしました。そこから「これを仕事としていきたいな」と思ったのがスタート地点です。

――編集や撮影スキルは独学で学ばれたんですか?

ほぼ独学ですね、学校では図面を引いたり模型やモックを作ることが主だったので(笑)。ただ大学内にメディアを専門にした学科があったので、そこの友人と情報交換しながら学ぶことができたのは恵まれてました。

――当時影響を受けた映像などはありますか?

VJをやっていたこともあって、音楽にマッチした映像やコンテンツを作るという意味でMVはやっぱり面白いなと思っていました。ミシェル・ゴンドリーやクリス・カニンガムはDVDでよく見ていました。当時はまだ、日本でもMVで本人以外が出る映像って少なかったのですが、少しずつ本人が出ていないMVも出始めて。そういう方法論もあるんだなと衝撃を受けた記憶はあります。

人と関わることこそがディレクターの仕事

――大学卒業後はテレビ番組やコンサートなどの映像制作をされてたんですよね。

具体的には電飾や機構を扱うテルミックという会社の技術制作部という部署で、CGデザイナーの肩書きでした。例えば歌番組やコンサートで各アーティストさんが歌う時に、後ろのモニターに流れる映像を作ったり、企業用のイベントで流す映像などもありました。7年近く働いているうちに、もっと自分でディレクションしたいと思うようになったんですよね。テルミックさんの仕事は職人的な要素が強く、それはそれでやりがいを感じていたのですが、もっと、自ら世界観を構築するような立場になっていきたいと。それで、それならWOWが最適だなということで、自分で応募したんです。

――ディレクターとしてWOWにジョインされて、印象的な仕事はどのようなものだったんですか?

入社当初から多くの仕事に携わらせていただきましたが、中でもAmazon Fashion Week TOKYO 2017 S/Sは、自分の中でターニングポイントでした。もちろんそれ以前にも色々な仕事を担当させていただいてたんですけれど、「空間」と「映像」がうまく融合する、自分が思い描く世界観が実現できましたし、そのために周りも協力してくれました。

Amazon Fashion Week TOKYO 2017 S/S  Amazon|2017

――ボックスが連なっているのはやはりAmazonだから「箱」というコンセプトだったんでしょうか。

そうですね。「White Cube」というキーワードを頂いていて、白い箱をテーマにどう表現するかというのを考えました。

まずは今までにない新しいことをしたい、それによって来場者に対して驚きを与えたい、というのがメイン軸でありました。当時、もうプロジェクションマッピング自体はそこまで新しいものではなくなってきていたので、普通のプロジェクションマッピングだと思わせながらも実はデバイスで箱も開くし、箱の中に照明が入っていて映像とリンクしてるしっていう驚きをうまく作れたと思います。

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――ディレクターさんって全ての工程に関わるお仕事だからこそ、自分の思いを伝えるために、いちばん人と関わる仕事でもありますよね。

たしかにそうですね。むしろ人と関わることもディレクターの大事な仕事の一つだなと思うようになってきました。もちろん企画を考え、どういう演出にしていくかを考えるのが本質ではあるけど、それを実現させるためにチームやクライアントにどうアプローチしていくかというコミュニケーションが大事で。

――空間全体のディレクションという部分で、資生堂さんのインスタレーションはとても鮮烈に感じました。

これも元々資生堂さんやチームとのコミュニケーションによって出来上がったものです。
「神経感覚からノイズを取りのぞき、洗練されていくことで、心や体の内側から美しくなっていく」という、抽象的なテーマを、さまざまな光の表情で表現しようと考えました。
なかでも、「NEURO_SURGE」は自発光する特殊な光ファイバーのようなものを使ってるんですけれど、この素材自体は僕が知っていたわけではなくて。施工を担当してくださった博展の皆さんに「こういうことをやりたいんですけど」と相談したら「実はこういうのがあるんですけど」って持ってきてくれたものです。結果、素晴らしい作品になりましたし、やはり、そういうコミュニケーションがすごく大事だし楽しいんです。

EXPERIENCE A NEW ENERGY  SHISEIDO|2017

ひらめきが生まれる瞬間も、それが形になった瞬間も気持ちいい

――近藤さんのお仕事のやりがいはどういう部分ですか?

基本モノづくりが好きなんですよね。それが結果的に映像や空間演出になっているだけで。単純に企画を考えているときに「あ、これおもしろいかもしれない」って頭の中にひらめきが生まれたときも気持ちいいし、それが実際にモノとして出来上がったときにも「うおーーっ!」ってなる(笑)。
あとは空間演出だと実際に体験してるお客さんを自分で目の当たりにできる面白さもあるんですよね。映像もすごくおもしろくて拡散性もあるんだけど、空間演出とかイベントはその場所に来ないと体感できないものなので、お客さんと距離が近い。

――常にアイデアを必要とされる仕事でもあると思うんですが、どういうインプットから着想を得たりするんでしょうか。

なんでしょうね……色々なアーティストさんの作品をメディアで見たり、イベントや美術館に行って実際に触れたりしたときに「そういう考え方もあるんだ」って思うことはありますね。
あとは、おもしろそうなデバイスとかを買ってきて家でいじ繰りまわすのが好きなんです(笑)。先日は「ソレノイドバルブ」を買いました。

――どうやって使うものか想像がつかないです(笑)。

例えば水道の蛇口ってひねれば水が出ますよね。それを電気的に制御できるもの、という感じです。電気を流すと蛇口が開くし、止めると閉まる。何かに使えるかもしれないなと思って、色々いじってますね。

――普通に量販店で買えるんですか?

インターネットで売ってます(笑)。あとはホームセンターが大好きで、使えそうなものを買ってきては家でプラモデル感覚で作ったりするんです。

――そういったものから今後使いたいと思っているものはありますか?

これはすごく、アイデアの種の種を作っているようなものなので、特定のコレというものはないのですが、使ってみて、自分なりの解釈や使い方ができそうなものがあれば良いなと思っています。

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「新しさ」にこだわるよりも熱意を実現するプロセスを大事にしたい

――「新しさ」にこだわるというわけではないんですね。

そうですね。最先端にこだわることも悪いことではないですが、「新しさ」だけでは風化していってしまうと思うので。新しさを目指していくよりも、本質的にやりたいことがあって、それに到達するためにはこれが必要だっていうプロセスのほうが正しい気がしてるんですよね。

――では最後に近藤さんのような仕事をしたい人にアドバイスをお願いします。

僕はとりあえずやってみることが大事だと思っていて、やってみて、トライアンドエラーを経て素晴らしいものにしていくことが大事だと思います。きっとはじめは、自分のイメージしている100%に到達できなかったとしても、まず「やってみる」という経験が大事だと思います。制作途中でなければ出会えない、新たな発見もあると思いますし。

とにかく自分がやりたいと思ったことをやってみるって熱意があるからこそで、それが体を動かすエネルギーになる。あれこれ考えてやらないよりも、自分の中の熱意を大事にして試行錯誤することが仕事にも活かされていくと思います。

インタビュー・テキスト:上野 真由香/撮影:古林 洋平/企画・編集:市村武彦(CREATIVE VILLAGE編集部)

企業プロフィール

東京と仙台、ロンドンに拠点を置くビジュアルデザインスタジオ。CMやVIといった広告における多様な映像表現から、さまざまな展示スペースにおけるインスタレーション映像、メーカーと共同で開発するユーザーインターフェイスのデザインまで、既存のメディアやカテゴリーにとらわれない、幅広いデザインワークを展開。近年では積極的にオリジナルのアート作品を制作し、国内外でインスタレーション展示を多数実施。 作り手個人の感性を最大限に引き出しながら、ビジュアルデザインの社会的機能を果たすべく、映像の新しい可能性を追求し続けている。

https://www.w0w.co.jp/