多くの映像ディレクターは自身の作品にそれぞれこだわりを持っているはずですが、それは視覚的要素だけではないはずです。動画を盛り上げたり、雰囲気を演出したりするうえで聴覚的要素、つまり「音」も欠かせない要素になります。そのため、映像においてBGM・音楽・ナレーションなどのさまざまな音をどうオーガナイズするかが、映像ディレクションにおいても非常に重要です。
人間の五感による知覚の割合は、視覚が83%でトップ、聴覚が11%で2位。つまり、人間は多くの情報を視覚でとらえたうえで、聴覚からの情報を加えることで認識や理解の精度を高めるなどの相乗効果が期待できます。では動画作品においては音に関してどんなことを注意すべきなのでしょうか。多くの動画作品を世に生み出してきた4年以上のベテラン映像ディレクターに向けて、改めて音の重要性がわかる事例や動画作品における音の選び方を紹介します。
視覚情報に+を与える音が映像の違いを作る
映像は視覚的な情報が最優先でありますが、音のディレクションを怠るとコンテンツや作品としての精度が下がりかねません。そのため、BGMや効果音、ナレーションなどを効果的に映像に含めることが推奨されています。映像における音は、視覚的情報に次ぐ重要な情報源だからです。
視聴者の印象や感情に影響を与える音の効果
映像は視覚と聴覚に訴えかけるわけですが、聴覚の刺激を受けることでユーザーの印象に残りやすくなります。そのため、「音は動画のファッション」と表現するケースがあります。ファッションでは洋服はもちろん、アクセサリー、髪型などにこだわることで相手に与える印象が変化することも珍しくありません。同様に映像における音は印象を増幅させて臨場感を与えることにつながります。
また、動画のリズムを作るのも音です。YouTubeの動画においても、シーンが切り替わるときに効果音を入れたり、場面にマッチするBGMを流したりしています。それらの音は視聴者の心地良さにつながることがあります。もちろん、映像においては視覚的情報が第一ですが、そこに「効果的に聴覚的要素を+すること」が大切です。
音はイメージや感情の誘導、行動の誘導につながる
音によって遊びを入れたり動画の流れを崩したりすることで、ユーザーの心を動かすアクセントとすることもできます。もちろん、訴求したいシーンに応じて最適な音を入れることで、映像との相乗効果によってユーザーの感情により深く届かせることも可能です。たとえば、ナレーションのパターンに応じて広告効果が変わるケースもあります。また、ナレーターの声質などでユーザーの印象が変わることも珍しくないのです。
製品やサービスのプロモーション向けの映像だけではなく、ビジネス動画においても音の重要性が高いと言えるでしょう。会社紹介の動画ではブランドや価値を作り上げることに音が貢献します。社内マニュアルであれば、BGMのテンポや強弱を意識すると、スタッフが重要な部分を理解しやすくなるでしょう。
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このように映像の音はイメージや感情の誘導、さらには行動の誘導に効果があります。動画制作では「視覚情報に+αの要素」を入れることが求められます。
結婚式のエンドロールは音の重要性を示す最たる事例
動画における音の効果においては、身近なところでも事例が数多く存在します。映画のテーマ曲や挿入曲、テレビCMなどでグラスに飲料を注ぐ音や栓を開ける音、食品を切る音などが一礼として挙げられるでしょう。グラスに飲料を注ぐ音によって「美味しそう」と感じたことがあるでしょう。「美味しそう」と思えば、「一度、買ってみようか」などと購買意欲につながるものです。感情を掻き立てるような素晴らしい映像作品は、どれも音にこだわっています。
映像に加えて感動的なメロディが式場での高揚感を駆り立てる
音の影響力において、最たる事例は結婚式のエンドロールでしょう。そもそもエンドロールは、映画などで本編が終わった後にスタッフや出演者などの氏名を一気に流すターンです。それに倣って結婚式のエンドロールは、式の最後に出席者などの氏名を記して映像を上演するのが一般的となっています。結婚式でのエンドロールは、ゲスト(名前)を紹介して新郎・新婦が感謝の気持ちを伝えるために使用されます。
結婚式当日の映像を、これまでの思い出、新郎・新婦が前撮りした写真などを組み合わせることで記憶に残る演出をいろいろと施すことはできるでしょう。しかし、無音声の動画や写真の連続、文字情報だけだったらどうでしょうか。なかにはエンドロールの映像に飽きてしまう出席者もいるでしょう。
エンドロールに2人の思い出の曲や流行りのウェディングソングなどの音楽や効果音を入れ込むことで、演出したい雰囲気が伝わりやすくなります。感動させたい時はバラード調の曲、楽しい思い出を流している場面ではアップテンポな音楽など、動画内容に応じて選ぶことで出席者を惹きつけます。結婚式のエンドロールではさまざまなウェディングソングが定番となっているのです。著作権や演奏権などを踏まえて制作する必要がありますが、「結婚式といったらこの曲」という印象付けるほど、音の効果が多い事例だと言えるでしょう。
映像ディレクターの意図した音の演出をするのも簡単に
近年は一名体制で完パケ対応することがWeb動画の基本となってきました。そのため、以前に比べて音にも映像ディレクターがこだわれるようになっています。「何かしら専門的なスキルを身につけていなければならない」「制作現場で身につけていかないといけない」とういう状況でもないため、音へのこだわりを持つことが最優先されます。映像ディレクターが意識すべきポイントとはどんなところなのでしょうか。
映像ディレクターが音において意識すべき5点
音にこだわりを持つといろいろなことを気にする必要が出てきますが、まずは下記で挙げる5点についてしっかり押さえるようにしましょう。
【動画制作における音への留意点5選】
- 単体で聴いてシンプルな曲はBGM向き
- 視聴者にどう感じてほしいか考える
- ナレーション時は音を小さくする
- あえて無音にする
- 著作権に配慮する
BGMを選ぶならばまずは単体で聴いてみることをおすすめします。単体で聴いてシンプルだったり地味だったりする曲はBGMに向いています。映像を直接邪魔しないため、映像を重視したいときはシンプルなBGMを選びましょう。
BGMや楽曲に個性がありすぎると映像の存在感が薄れますし、穏やかすぎても感情を刺激できない可能性があるからです。特にナレーションを入れる場合はBGMなどの音を低くしましょう。あまりにも音が大きすぎるとナレーションの声が聞き取りにくくなります。時にはあえてBGMや効果音を入れないことが有効です。視聴者にその場面だけ集中してもらいたいなどの場面では無音にすると伝わる可能性があります。ただし、あくまでも映像の流れに合わせて検討しましょう。
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場面に応じて楽曲や効果音を選ぶ時は、視聴者にどう感じてほしいかが重要なポイントとなります。「ワクワクさせたい」「笑顔にさせたい」「まじめな雰囲気を出したい」「徐々に盛り上がらせたい」など、その場面で視聴者にどのような感情になってほしいのかを具体的に検討しましょう。
なお、著名人の楽曲など著作権がある場合、無断使用は当然禁止です。楽曲を利用する際は「一般社団法人 日本音楽著作権協会」のホームページで申請、使用料を支払った後の使用を徹底しましょう。
映像ディレクターが音にくわしくあるべき時代に
【動画制作 音の重要性のまとめ】
- 音のディレクションで作品の精度が大きく変わる
- 実際の素晴らしい映像作品は音にこだわって印象付ける
- 映像ディレクターこそ音へのこだわりを持つべき
映像に音が加わることで、視聴者は作品からより想像力を膨らませることができます。さらに楽曲やBGM、効果音にこだわると視聴者の感情により深く訴えることもできるでしょう。ひいては視聴者に行動を促すことになり、製品のプロモーションであれば売上げにつながることも期待できるのです。音のディレクションの精度でさまざまな要因が大きく変化するだけに、映像作品の音に着目する機会を意図的に増やしてみると多くの学びがあるかもしれません。
以前までは音声の専門スタッフが現場で別撮りしたり、編集時も音声を別で整音する形で制作する方式でしたが、ノンリニア編集ソフトの進化と手軽に機材を調達できるようになりました。そのため、昨今の映像ディレクターは製品の完成までを担当することが増えており、自ら音に対してこだわる機会が増えてきています。だからこそより深く音の効果を理解して、映像に最適な音をディレクションに努めることを意識していきましょう。