安価で革新的な編集ソフトが続々と発売される中、大手ポストプロダクションから飛び出したエディター4人により設立されたQuadRoot。
いかに目の前の仕事を形にして納めるか、クライアントとどれほど真剣に向き合えるか、エディターとしての未来は? そして今後の業界のあるべき姿とは・・・・・・。さまざまな課題と取り組みながら、自分たちのできることをひとつずつ積み重ね前進を続けている。
■ もっといいやり方があるんじゃないか?
近藤:僕はずっとイマジカに所属していて、会社で用意された環境で仕事をやってきたわけですけど、例えばInfernoだとか何千万円ってかけてつくったシステムでやっていたものが、Mac版のSmokeが登場したり、リーズナブルで機能的に優れたソフトがどんどん出てきて、コンパクトなシステムでも同レベルのクオリティ のものができるようになったんです。それで、もっと効率的な形で仕事ができないかなってずっと考えていたんです。
小森:大きなシステムに組み込んでしまっているけど、クオリティ的にもバジェット的にもそれって実は手間で、別のやり方のほうが絶対にいいよねってことが多々あって。それでいまのメンバーと「一緒にやってみる?」ってことで、独立を決めたんです。
近藤:それで2010年5月にQuadRootを立ち上げました。だからメンバーは全員イマジカ出身なんだけど、話していたらみんな日本工学院の卒業生で(笑)。本当偶然なんです。
小森:これまで会社が面倒みてくれていたメンテナンス費などさまざまな経費が全部ふりかかってくるのは大変ですけど、だからこそ自分たちで考えて、最善のシステムやワークフローを構築することができる。それが狙いでしたし、やっぱり一番のメリットですね。
井鍋:人間関係とか本来の仕事以外のことで煩わされたり、自分たちが思うところと違うところで話が進んでしまっていたり、独立してからそういうことは少なくなりました。
近藤:売り上げや稼働時間だったりが会社では重視され、お客さんとのつながりだとか、数字に表れない部分は評価されない。これだと働きがいがない、なんか報われないなって思っていたんです。独立してから、仕事のワークフローを自分で管理できる環境が実現しつつあると思いますし、経済的にはまだ会社員のときのレベルまでは行ってないですけど、精神的にスッキリして仕事に打ち込めているという感じです。
QuadRoot(クアッドルート)は、「Quad」(クライアント・エージェンシー・プロダクション・ポスプロを表す)が、互いの相乗効果で、よりクオリティの高い映像作品を生み出していくために“根っこ”=「Root」となり制作現場映を支えることを目指している。
■ それぞれの映像編集との出会い
近藤:僕はラジオの放送作家を目指して日本工学院専門学校放送制作芸術科(現クリエイターズカレッジ 放送・映画科)に入りました。演出コースに進んで、番組制作全般を学んでいく中で、あるときたまたま編集を担当することになって、面白いなって思ったんです。
井鍋:僕はレコーディングミキサーを目指して日本工学院専門学校音響芸術科(現ミュージックカレッジ レコーディングクリエイター科)に入学しました。在学中は映像とはほぼ無関係で、就職もレコード会社を受けていたんですけど、ひょんなことから学校推薦でイマジカを受けることになって。そしたら合格したんですよ。実はレコード会社を受験しているうちに、現場と理想のギャップで音の世界がイヤになっていたんです。それで編集については何もわからないけどやってみようかなって思って。最初に配属されたテレシネを行う部署で出会った先輩が尊敬できる人で、それで続いたっていうのもあるんですよね。
小森:僕はそもそも普通高校に行くことに疑問を持っていて、それで商業高校に進んだんです。そこで情報処理やプログラミングの勉強する中でCGを学びたいと思うようになり、日本工学院専門学校マルチメディア科(現クリエイターズカレッジ CGクリエイター科)に入りました。そこで、CGって単に素材をつくるだけで、それを最終的にコンポジットするノンリニア編集にすごく興味を持ったんです。それでイマジカを志望しました。
近藤:僕は目指していた世界から一度脱線したんですが、脱線した先にもちゃんと道があった。何より日本工学院で編集に出会えたってことが大きかったですね。
小森:東京っていう場所も、専門学校という環境も本当に新鮮で、毎日楽しく生きていたっていうのが当時の印象なんですけど、でもちゃんとここにたどり着けた。業界へのいろんなレールが引かれていたというか、もちろんそのたくさんの道の中から何を選択し、どう頑張るかは自分次第なんだけど、ちゃんと業界に導いてもらったような気がします。
■ それをチャンスと見るか、ただ辛いと思うか
小森:学生の頃は好きにつくって満足してって感じだけど、仕事となると、思い通りにつくれるチャンスなんてほとんどない。そのギャップで辞めていく人が多いんだと思います。
井鍋:ポスプロ業界で必要なものは精神的なタフさじゃないですか。
近藤:向上心がないとね。与えられた仕事と与えられたものしか見ない人って辞めがちで、僕もアシスタントに「言われてやれるのは当たり前で、もっとできることを探して効率よくやれる方法を考えなさい」って言ってました。やらされてるって思っちゃうと続かない。
井鍋:政治的に振り回されたり、どうしようもないことって多々あるんですけど、今後はできる限り自分たちで決着がつけられるような仕事のやり方をしたいと思っています。
近藤:これまで僕らが関われるのは編集のところだけだったんですが、今後はエディターとして培った経験と知識を活かして、打合せの段階から参加し作品1本を仕上げるワークフローをコーディネートできるような役割を担えるようになりたいと考えているんです。自分もすごく視野が狭かったんですけど、独立していろんな仕事をやるようになって、編集だけやっていればいいんじゃないんだって、いますごく感じています。
小森:夢を持って業界に入っても仕事としてやっていくうちに、それが本当にやりたかったことなのかどうなのかわからなくなると思うんです。でも3年、5年とそこでやっていくうちに、やっぱり俺はこれが好きだってようやく納得してやれるようになる。自分の向き不向きなんてやってみないとわからないし、せっかく業界に興味を持ったのなら簡単にあきらめたりしないで、一度はその世界に入ってやってみるってことが大事だと思います。
近藤:それをチャンスと見るか、仕事でただ辛いと思うかは自分次第だと思うんですよ。自分の選んだ環境を上手く使ってステップアップする人はどんどん成長していくんです。それに、必ず頑張っている自分を見て評価してくれる人はちゃんといますから。
僕らのエディター人生にとって、QuadRoot設立はいい刺激になっていると思います。設備も環境も整ったし、今後は日本工学院の卒業生を採用できるようになりたいですね。あとに続いてくれる人が出てくると嬉しいです。(近藤)