「企画」や「コンセプト」がしっかりしている動画が反響を得やすい傾向があることは周知の事実ですが、それ以外にも動画のクオリティを高める要素があります。それが「演出」です。市場で出回る一般的な動画の範囲を超えて工夫されていたり、さまざまな要素が入っていたりする動画は、「演出家」によるクオリティコントロールの影響が大きいと言えるでしょう。
ただ、動画の演出に関しては、Web動画においてはまだまだ未開拓の面も多いようです。4年以上のキャリア持つ映像の演出家は、今後のインターネット上の映像演出についてどう関わっていくべきでしょうか。Web上での映像制作の演出と舞台芸術の演出の違いや、演出において表現するべき「独自色」、今後のWeb上での映像演出の発展の可能性について紹介します。
Web上での映像制作と舞台芸術の演出の違いを整理
「演出家」という名称は、主に舞台芸術方面で呼称される職域です。演者への演技指導、照明・美術・音響への指示など舞台であれば作品全体の決定権を持つ役割と考えられています。TVドラマや映画ではディレクターや監督と同義であり、Web動画での演出は担当ディレクターの業務の1つになります。そのため、演出という仕事においてもメディアや舞台によって意味合いが大きく変わることを覚えておきましょう。
メディアや舞台によって異なる「演出」の意味合い
演出家は、主に舞台芸術(演劇、オペラ、バレエなど)方面で、演出(演者への演技指導、照明・美術・音響への指示など)を担当する職種が該当します。作品全体を管理したり、方向性を決定したりする権限を持つなど、舞台における演出は大きな影響力を有しています。
一方、TVドラマや映画、Web上での映像制作の場合、監督やディレクターが演出家の役割を兼ねているケースが多いでしょう。なお、テレビのバラエティー番組などで見かける演出という職種については、ディレクターが複数いる際に、「決定権を持つ制作責任者」といった意味合いで他のディレクターと区別するために用いられているのが一般的です。
Web上での映像制作における演出の役割とは
Web上での映像制作においても、演出は根幹であり、会話内容や場所、時間、カメラワーク、BGM・効果音などを決定する重要な役割を果たします。演出は動画に方向性を与え、調和をはかる役割を持ち、雰囲気を作るものです。出来不出来を左右するので、演出の重要性を再認識する必要があるでしょう。
演出を言い換えれば、「映像を狙い通りに作ること」「作者の意図を反映する手法」と同義です。「核」となる要素(演出の本質)は「共感をいかに作り出すか」であり、そのためには「視聴者が感情移入しやすい主人公」と「ドラマ(価値観の対立)」の存在が欠かせません。そうした狙いを持った演出をいかに映像に盛り込んでいけるかが、演出家やディレクターには求められます。
演出では「クリエイター独自の色」を表現すべき
演出は役者への演技指導だけではなく、企画~撮影~編集のすべての段階で反映される技法・技術と言えます。有名な演出家の作品には、その人にしか出せない「色」とも言える独自の表現技法が存在します。それゆえに、見る人が見れば、作品の演出を誰が手がけているかがすぐ分かるものです。そうした「クリエイター独自の色」をいかに表現できるかが演出の力量と言えます。
演出の重要性が高いのは舞台芸術において
舞台芸術(舞台・オペラ・バレエなど)や映像作品では、台本やシナリオを元に演技などが行われます。ただし、台本・シナリオに記述されているのは、登場人物のおおまかなセリフ・動作のみです。細かな心情表現(声の調子、表情など)が、完璧に記述されているわけではありません。
そのため、演出家が作品のテーマなどを読み解き、適切な演技を行うように指導することで、芸術性・エンターテインメント性が高まります。「役者への演技指導」だけを行うのではなく、「企画~撮影~編集」のすべてに関わるので非常に重要性が高いと言えます。
演出家は独自のカラー・世界観を生み出せる稀有な存在
演出家は多種多様であり、大規模スポーツイベントにおける演出担当者のように「総合プロデューサー的な立ち位置」の人や、舞台芸術における「専任」の演出担当者もいます。また、TVドラマ、映画、Web動画の演出担当者のように監督や映像ディレクターが兼任することも珍しくありません。
「演出家」という名称の職種が存在しない業界があることから、「演出」という技術・技法が過小評価されている面も少なからずあるでしょう。しかし、著名な演出家(を兼ねる映画監督などを含む)の作品を視聴した際、その人にしか成し遂げられない「独自の色(個性)」を感じた経験があるでしょう。作品によっては、スタッフの名前を確認しなくても、内容を見ただけで「誰が演出を手がけているのか」を推測できるケースもあります。独自の雰囲気・世界観を表現することが、演出家が作品に携わる価値と言えるでしょう。
インターネット上での映像演出は、今後、発展することが予想される
数年前から主にYouTube動画へはTVディレクター・TV番組制作会社の参画が始まっており、作品(主に舞台)のネット配信プラットフォームも整ってきています。そのため、今後は映像演出の主戦場がインターネットに移るなど、演出家の活躍の場も変化する可能性があるでしょう。特にインターネット業界に多くの違う分野の演出家が進出することで、新たなムーブメントが起こることが想定されます。
演出のプロとしての矜持をインターネット上で発揮する時代に
高性能なカメラが搭載されたスマートフォンの普及により、誰でも気軽に動画撮影が可能になりました。ただし、アマチュアが「エモい」「かっこいい」と思って、Web上にアップロードしても、他人から共感が得られない様子も散見されます。アマチュアでも簡単に動画を制作できる時代であるからこそ、演出のプロとしては、ユーザーに共感してもらえる映像作品で差をつけたいところです。
まだ、数年前からTVディレクターやTV番組制作会社がインターネット上での映像演出(主にYouTube動画への参画)が顕著になっています。動画配信サイトで、アマチュアではなく、プロの映像作品を見た経験がある方も多いでしょう。1本あたりの再生数が数百万を超える動画を、何十本・何百本と組織的に制作・アップロードしているクリエイター集団も登場しています。演出のプロがインターネット界隈にも進出し始めています。
映像演出の主戦場がインターネットになる時代の到来も
舞台・演劇などを配信するプラットフォームが整備されつつある現代において、映像演出の主戦場が舞台やTVからインターネットに移る可能性を秘めています。現在は過渡期ですが、TV業界や舞台芸術の世界で鍛え上げられた「演出」の要素が、これから大量にWeb業界に流入してくることが予想されます。競争に勝ち抜いて、多くの視聴者・再生数を獲得するためにも、演出の技法・技術が重要になる時代の到来が予想されるでしょう。
今後は演出家のエッセンスが多くWeb業界に流入する時代に
【映像作品における演出家の役割についてのまとめ】
- Web動画における演出は、ディレクターの業務の範疇
- 演出では、「クリエイター独自の色」を出せるかが勝負
- Web業界に、さらなる演出の要素の流入が予想される
映像と捉えると非常に広義であり、演出関連の奥深さはまだまだ広く社会にその考え方が浸透しているわけではないでしょう。しかし、インターネット上などのWeb業界に演出の文化やノウハウが多く流入する時代になれば、演出の可能性はより広がるでしょう。特にインターネット上では「王道」が確立しているわけではなく、演出の方法論はまだ発展途上です。今後はより演出の凝った映像がWebで求められる時代が来ることが予想されるでしょう。
たとえば、舞台での空気感が重要視されていた演劇なども、スマートフォン視聴向けのカスタマイズや演出が施されるなど新たな表現技法が開発されるかもしれません。時代に合わせて情報ディバイスは変化を遂げているだけに、演出を楽しめる舞台もインターネット上まで拡大するという未来はそう遠くないのかもしれません。