孤独死や介護に関する事件など、「明日は我が身かもしれない…」と不安になるニュースも目立つ昨今。そのような問題に直面する前に、考える機会をくれる漫画があります。

カレー沢薫さん著『ひとりでしにたい』。本作品では、終活や孤独死といった重いテーマも、独特な世界観でコミカルに描かれています。

今回は著者のカレー沢薫さんに、本作品制作のきっかけや、クリエイターが老後や終活を考える上で大切なこと、「不安との向き合い方」についてお伺いしました。

カレー沢薫(カレーざわ かおる)


1982年生まれ。「漫画家にして会社員にして人妻」改め、無職兼作家。

漫画やコラムを書いている。2009年に『クレムリン』(講談社)で漫画家デビュー。

『ひとりでしにたい』(同)をはじめ、『ひきこもりグルメ紀行』(筑摩書房)、『きみにかわれるまえに』(日本文芸社)など著書多数。

Twitterに投稿した「ギャルが犬を飼った話」では7万以上の「いいね」がつきバズった。

『ひとりでしにたい』既刊第1〜2巻、2021年7月1日(木)重版出来予定。最新第3巻、2021年7月20日(火)発売予定。

令和3年 第24回 文化庁 メディア芸術祭 マンガ部門 優秀賞受賞。

作品づくりを通して「漠然とした不安」に向き合う

──漫画『ひとりでしにたい』では、孤独死や終活といったテーマがコミカルに描かれています。このテーマを選ばれたきっかけを教えてください。

ひとりでしにたい
©️カレー沢薫/講談社

新連載を始めるにあたり、自分自身が今一番気になっていることをテーマにしようと考えたんです。それが「孤独死」や「終活」のようなテーマでした。

30歳過ぎたあたりから「将来に対する漠然とした不安」が常にありましたが、なるようになるだろうと考えていたところがありました。

新連載をきっかけに「本当に大丈夫なのだろうか」と考えていこうと思ったんです。

「老い」に関連した事件やニュースを、よく耳にするようになったのもきっかけの一つです。たとえば老後破産になってしまったとか、介護に関連した事件が起こったとか。私自身も30代後半になり、他人事ではないなと薄々感じていたところがあったんです。

──作品作りを通して、自分ごととして「孤独死」や「終活」に向き合いたいと考えたのですね。

そうですね。ずっと気になっていたテーマではあるのですが、やっぱりどこか「向き合いたくないこと」ではありました。でも、それを題材にして漫画を描くとなったら嫌でもいろいろ調べたり、考えたりすることになりますよね。

自分のためにもなるし、同じような関心を持つ読者のためにもなったらいいなと。

一つのスキルに固執しない。老後も見据えたキャリアの考え方

──漫画のなかでも、主人公の鳴海が、親や自身の老後に向き合っていく様子が描かれていますよね。カレー沢さん自身は老後を考える上で何が大切だと思いますか?

親の老後を考える上では、やはり「親が元気なうちに」。親の希望や自分の希望をすり合わせておくことだと思います。それが一番難しいことだとは思うのですが…。

親が倒れたり、介護が必要になったりしてからでは「なるようにしかならない状態」だと思うんですよね。そのような状態では、お互いに不本意なことになってしまうケースもある。

お互いの希望があると思うので「起こる前にはっきりさせておく」っていうのが大事かなと思いますね。

──カレー沢さん自身は、親御さんやご自身の将来に向けて準備というか、意識していることはあるのでしょうか。

何かあっても自立して働き続けられるように、スキルを一つに絞らず、複数のスキルで仕事ができるようにしていますね。私はもともと漫画家としてデビューしましたが、現在はエッセイなど文章の仕事もしますし、PR漫画やイラストも描きます。

ライフステージや環境変化に合わせて柔軟に働けるよう、一つのスキルに固執しないようにしているんです。

特にフリーランスは「特定のスキルを持っているから、これで一生稼げる!」と考えるのは危ないと思っていて。

小さくてもいいのでいろいろな仕事を経験しておくことで、もし一つの仕事が無くなっても、また別のスキルで仕事を続けることができます。

──今持っているスキルだけで安心しない、ということですね。クリエイターが将来を見据えて働く上で、他にやっておいたほうがいいことはありますか。

クリエイターといえど、税金や確定申告に関わるところはしっかり情報を得ていくことが大切です。「出ていくお金」が違ってきますから。

特にフリーランスは、税金関係の知識の有無で、得をする人・損をする人の差が激しい。確定申告など、さまざまな制度やルールがあるけれど、知っているか知っていないかで税金が変わってしまったり、保険料が変わったりします。

老後困らないためにも面倒くさがらずにやっておいたほうがいいです。

周りの笑いで、自分の心も慰められる

──将来に対する不安を、漠然としたものから、少しでもはっきりさせるためにも大切そうですね。カレー沢さんは、描くなかで「将来に対する不安」に向き合ってこられましたが、私たちが何か「不安」に直面した時、どのように向き合っていくとよいでしょうか。

ひとりでしにたい
©️カレー沢薫/講談社

まず不安に思っていることが、自分の行動でどうにかなる不安なのかどうかを考えると良いと思います。

たとえば「天災が起きるかもしれない、どうしよう」という不安は、自分の力ではどうにもならない。だからそれはもう考えないようにする。

でも「地震が起きて、家の家具が倒れたらどうしよう」という不安であれば、「家具を固定する」など自分が行動することで、少しでもマシになることがありそうですよね。

そういった「対処できる不安なのか」を考えることが大切です。

ただ、行動するといっても「不安が原動力になった行動」は、変な方向にいくことがあります。そのため、不安がもとになって行動する時には、まず落ち着くことが重要だと考えていますね。

──カレー沢さん流の「嫌なことや不安の乗り越え方」はありますか?

私は漫画の他にもエッセイの仕事をしていますが、嫌なことや不安があったら「これはエッセイのネタになるじゃないか」と考えるようにしています。

嫌なことがあっても「一本書いて原稿料もらえるなら安いもん」とまでは言いませんが、プラマイゼロくらいの持ち直しができる。悪いことが起こっても見方を変えるようにしています。

皆さんが感じる、悲しいことや暗い出来事のなかにも「これは逆に笑えるわ…」みたいなことって、あるんじゃないかなと思うんです。

ひどいことでも「笑い話」として周囲に話してみると、周りが笑ってくれる。

そうすると「そんなに大したことじゃなかったかも」とか、見方を変えられたり、自分の心も慰められるものなんですよね。

自分一人で抱え込んでしまうのが一番きついと思うので、他人に話してみたり、発信してみたりするのは一つの手です。

私自身も明るい性格ではないので、すぐにできることではありませんでした。でも少しずつ角度を変えて、ここは逆に笑えるんじゃないかとか、状況を捉え直してみることが第一歩だと考えています。

あわせて読みたい

インタビュー・テキスト:佐藤由佳/企画・編集:田中祥子(CREATIVE VILLAGE編集部)