「ソフマップ」のVIなど、多数の企業ロゴを手がけるグラフィックデザイナーの佐藤浩二さん。【前編】のインタビューでは独立したてのデザイナーが見落としがちな“ヒアリング”の重要性を語ってもらいました! 待望の後編では、ロゴにおけるトレンドの変遷、ロゴがもたらす効果を語ってもらいつつ、作ったロゴがきちんと評価されるために必要なことを教えてもらいました。
佐藤浩二(さとう・こうじ)
グラフィックデザイナー/(株)コージィデザイン代表
「ソフマップ」VI、「滋賀医科大学」VI、オムロン「sysmac」ブランドロゴ「大阪アーツカウンシル」ロゴなど、教育機関、行政、企業、商品ブランドなどのブランディングおよびロゴデザインを行う。日本タイポグラフィ年鑑2010年・2016年ベストワーク、DFA Design for Asia Awards ブロンズ、香港、ワルシャワ、ラハティの国際ポスターコンクールなど国内外で入選多数。
高まるロゴの価値。その原点は?
――SNSの普及によってロゴの価値を再認識する機会が増えていると思います。そもそも、世間がロゴの重要性について認識し始めたのは、いつ頃なのでしょうか?
1970〜80年代にアメリカでCI(コーポレートアイデンティティ)ブームがあり、日本企業もCIを導入したいくつかの企業の成功事例を契機に浸透していきました。ブームのきっかけとなったのはIBMのCIだと言われています。
ーーアルファベット3文字だけでしたが、独特なデザインでしたね。
はい。その美しいデザインを見ただけでその会社がイメージできる個性的なものでした。 以降、当時のデザインの傾向としては、「斬新さ」「独自性」ばかりを見て他社と差別化しようとするデザインが多くなりましたが、見た目だけを差別化すればいいと安易な認識でCIを導入した企業は成功できなかったと聞きます。CIを導入して成功した企業は、どれも未来を見据えた企業の思想やビジョンをしっかりと構築した上でデザインに昇華していました。
その後、大手企業がCIを導入することが当たり前になり、世の中に企業ロゴが溢れてくるともはやデザインだけで差別化するのは難しくなってきます。そこで、環境への取り組みなど企業としてどのように社会に貢献していくのか伝えることにシフトしていきます。この時代のデザインの特長としては小文字を主体にした大らかで安定感のあるロゴが増えました。 現在では、その延長線上に、SDGsなどの取り組みを打ち出し、サスティナブルを強く意識したシンプルなデザインになりつつあると感じています。
最近はロゴを格安でデザインしてくれるサービスや、キーワードを入力するとAIが自動生成してくれるサービスが増えたことによって、個人でも気軽にロゴを手に入れられる時代になりましたが、そういった背景から、SNSのアイコンにオリジナルなデザインを使ったり、YouTubeのアイコンやタイトルの重要性に気づいて実践している人が増えているように思います。
“いま“に合ったロゴが正解とは限らない
――時流を読みつつ少しだけ未来を見据えたロゴを作っていかないと、差別化が出来ず埋もれると。そう考えると、ロゴデザイナーは勉強することが多いのですね。
そうですね(笑) 特に企業ロゴは長く使うことが前提なので、30年後に見ても古く見えないように作るとか、ちょっと先をいかないといけないですね。
――いまの時代にフィットするロゴを出してもダメなんですね。難しい……。
判断基準としては、新しさを感じるかどうか。いきすぎると違和感が強くなりますが、良い意味での違和感は必要だと思います。見慣れたデザインは安心しますが、言い換えればすでにあるものなので新しさは感じにくいです。ほんの少しだけ先を見て作ったデザインは最初こそ違和感を与えますが、時間と共に馴染んでいくものです。そこをしっかりお客さまに説明することも大切ですね。
ロゴデザインへの目覚めは“宝塚歌劇”
――佐藤さんは、いつ頃からロゴデザインに目覚めたのでしょうか?
子どもの頃から絵を描くのは好きだったので、美術系の仕事に進みたいと考えていましたが、グラフィックデザイナーという職種があると言うことを高校3年生の夏まで知りませんでした。どこに進学しようか悩んでいたところ、ある日ポストに入っていたデザイン系専門学校のDMを見て「会社のロゴって、誰かがデザインしてるんだ!」と気づいて(笑)考えてみれば当たり前なのですが、当時の自分にとってそういう職業があるということが衝撃だったんです。そのときに、幅広くグラフィックデザインを学ぼうと決めました。
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――宝塚造形芸術大学に進学されたんですね。ロゴデザインに興味を持つにはどんなきっかけがあったのでしょうか?
4回生の時に、全国公募で宝塚市の市制40周年のシンボルマークの公募に応募したら採用されたんです。それが自分の中で「ロゴって楽しい」という気持ちが芽生え、採用されたこともあって自分自身に向いているのかなと考えるようになりました。
男性が出演者として上がったことはないとされる宝塚歌劇のステージ上で表彰してもらったんですけど、貴重な体験をさせてもらったと思っていて。また1年間、いろんなイベントで自分のロゴが印刷されていろんなところで活用されていく、自分が考えたロゴが社会の中で機能していくという、デザイナーを志す人にとってめちゃくちゃ嬉しい体験をさせてもらえたなと。それがロゴデザインに興味を持ったきっかけでしたね。
――卒業後は、SP(セールスプロモーション)に特化した制作会社に入社されたんですね。
はい。POPなどの販促ツールはロゴとは違って、数日〜数週間で役目が終わる物が多いので、そこでは細かい部分を突き詰める仕事よりは、スピード重視で短納期の仕事をたくさんこなさなければまわらない環境でした。当時は連日深夜まで残業していました。今なら完全にアウトですね(笑)
――負荷の高い実務経験が今に繋がっているのかと思いますが、現在は労務ルールも厳しく、会社に所属しているクリエイターは限られた時間内での成長を求められます。これからのクリエイターは、どういった形でスキルを高めていくべきなのでしょうか?
人それぞれだとは思いますが、街中にあるデザインを見て客観的に分析するなど、日常の中にもスキルを高められるチャンスはたくさんあると思います。「このデザインは、どうしてそうしたのだろう?」とか、自分の仕事に置き換えて、良い所、悪い所を添削するように見ていると、いざ自分がデザインするとなったときにも客観的な視点でみる力が養われると思いますね。
――街中のロゴを観察することが勉強になる、ということなんですね。
意識しながらみると良いですね。「カッコ良い!」とか「こんなの見たこと無い!」とか、「このフォントって何のフォントだろうか?」とか、いろいろ発見があると思うんです。逆になんか古い臭いロゴがあったら「そろそろ、替え時やろ」って勝手にツッコんでみたりとか……(笑)
あとは、仕事を自宅に持ち帰って納得いくまでやるとか、普段仕事では作れないジャンルのデザインや、自分が作ってみたいものを自主制作し、できたものをアワードに出したりSNSで発信すると勉強になると思います。
――個人的には、『ラーメン二郎』の看板が秀逸だと思っていまして。黒と黄のシンプルなデザインなのですが、都会の中でも埋もれないといいますか。遠目で見ても「あ!二郎だ!」って分かるんです。さらには見つけただけでお腹が空いてきたり(笑)
完全にブランドのイメージに侵食されていますね(笑)実はそのように思ってもらえることが大事だと思うんです。『マクドナルド』の赤色と黄色のロゴなんて、見ただけでフライドポテトを食べたくなりますよね(笑)
――反対にロゴが失敗していてブランディングとして損をしている企業もあると思うのですが……。思い当たるものはありますか?
某IT企業のロゴ、実際の事業はハイテクなイメージなのですが、ロゴがただのゴシックを打っただけみたいな文字なんです。一流の俳優さんを使って、広告もたくさん打っているいるのですが、大々的にやるのであれば、もう少し事業内容に合っていて洗練されたイメージにした方が良いんじゃないかな?と毎回見かける度に思っています(笑)
無名デザイナーに勝ち目はあるのか?
――最後に切実な質問をさせて下さい。有名なデザイナーはネームバリューで仕事を取っていくことはできます。しかし一方、無名デザイナーが仕事を取り続けるのは難しい状況です。駆け出しのデザイナーはどうしたらよいですか?
僕はグラフィックデザイナーとしてロゴに特化して仕事をしていこうと思っていたので、自分のサイトに載せる成果物をロゴだけに絞りました。当然、駆け出しのころはいろんな仕事をしていましたし、ロゴデザイン以外にも公表したい仕事はたくさんあったのですが、あえて公表しませんでした。
――なるほど、自身の専門性も“ロゴ化”するといいますか、ブランディングを意識されていたんですね。
そうですね。サイトを見たお客さまに「ここはロゴの専門家がやってるんだな」と思ってもらえるように。
――では、継続的に仕事をとっていくためにどのようにしたら良いでしょうか。
ひとつひとつの仕事をきっちり仕上げて、手抜きをしないことは大切だと思います。自分の中で現時点での持っているスキルを、毎回100%出しきるつもりで仕事に臨む、限られた時間の中でギリギリまでやりきるみたいな。常に“その時の最高の作品を出し続けること“にチャレンジし続ける。あとは、その作品を自分のサイトやTwitterなどのSNS、ブログなどに載せて、目に止まる形で残しておくこと。
――普段の仕事と並行してできそうですね。
さらにアワードにも積極的に作品を出してみること。アワードでは著名な審査員が評価するので、自分の作品のことを客観的に評価してもらえる機会になります。そこで評価してもらえたことは自信になるし、“評価された”という事実を公表することはお客さまにとっても安心感や信頼に繋がります。積極的に取り組んで実績を発信していく、そのサイクルを継続することでお客さまの信頼を獲得でき仕事が次の仕事を呼んでくる、その繰り返しだと思いますね。
――ロゴのデザイナーならロゴで語れ!ということですね。SNSが普及している現代は、駆け出しのデザイナーにもチャンスのある時代なのだなと感じました。本日はありがとうございました!
▶︎「ロゴデザインはヒアリングで7割決まる!」グラフィックデザイナー・佐藤浩二さんインタビュー【前編】はこちら。
インタビュー・テキスト:小川 翔太/撮影:SYN.PRODUCT/企画・編集:向井 美帆(CREATIVE VILLAGE編集部)