2012年7月7日(土)より公開の映画『グスコーブドリの伝記』のキャラクター原案であるますむら ひろしさんに、これまでの生い立ちやクリエイターへのアドバイスなど、お話しを伺いました。

「意外と甘い世界なんだなぁ」と思ったらとんでもなくて

幼い頃から絵が好きで、横尾忠則さんのファンで高校時代はイラストレーターになりたいと思っていました。高校を卒業し商業デザインの専門学校に進学した頃、一枚の絵を描いているよりもストーリーのあるものに興味が出てきて、学校を卒業するあたりから漫画を描き始めました。

最初に描いた漫画は「霧にむせぶ夜」というもので宮沢賢治さんの「猫の事務所」からインスピレーションを得ました。そして、それを少年ジャンプに投稿したら手塚賞準入選をもらえたのです。すんなりと入賞したので、「意外と甘い世界なんだなぁ」と思ったらとんでもなくて、その後はいくら描いても通らなかったですね(笑)

また小学校4年生の頃TVでクレージーキャッツを見て衝撃を受け、そこから音楽に魅了されるようになりました。音楽を聴くために近所にレコードを持っている子の家に行くのですが、そこにはクラスや先輩や後輩といった年齢も関係ない“音楽仲間”が集う場になっていて気が付いたら仲良くなっていたりするんです。

中学生になり、音楽を聴くばかりではなくギターを弾きたいと思ったのですが、当時エレキギターは高価なもので、さらにアンプも必要なので、古道具屋で購入したクラシックギターを弾いていました。ビートルズが好きでその中でも 『ア ハード デイズ ナイト』 が一番好きです。

頭の中で勝手に映像が沸いてくるんです。

一番好きなのは宮沢賢治さんです。宮沢賢治さんの作品をはじめて読んだのは小学生の頃の学校の教科書ですが、当時はよく理解できなくて、二十歳くらいに『注文の多い料理店』を読み返してみて、あらためて感動しました。一番好きな作品と聞かれると本当に困りますが、やっぱり『銀河鉄道の夜』ですね。宮沢賢治さんの作品は描写力が素晴らしく、読んでいると頭の中で勝手に映像が沸いてくるんです。

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漫画家だと、つげ義春さんの『夢の散歩』の恐ろしい世界観は好きですね。手塚治虫さんの作品では特に『鉄腕アトム』が当時の作品としては斬新すぎて衝撃を受けましたね。

映画は『ゴッドファーザー』が大好きで繰り返し何度も観てしまいます。あとは『明日に向って撃て!』は若いころに観て感動しました。主人公サンダンスの恋人・ブッチ(ポール・ニューマン)がスペイン語で「por favor (ポル ファボール)=お願いします」と言うのですが、それが印象的でその映画の台詞を通して少しスペイン語を覚えました。

映画『グスコーブドリの伝記』について

美しきイーハトーヴの森。ブドリは両親と妹のネリと幸せに暮らしていた。しかし冷害が森を襲い、食料も乏しくなって両親は家を出ていき、妹のネリは“コトリ”という謎の男にさらわれて、ブドリはひとりぼっちになってしまう。

イメージ力尽きて、倒れたブドリを救ったのは、てぐす工場の工場主だった。ブドリは彼の元で働き、仕事を覚えていく。そこでの仕事が終わり里へと下りたブドリは赤ひげのオリザ畑で働くが、寒さと干ばつのために赤ひげの畑は大きな被害を受け、人が雇えなくなり、ブドリはひとりで旅に出る。銀河ステーションでネリに似た少女を見かけたブドリは、必死に追いかけたが姿を見失ってしまう。

イーハトーヴ市へとやってきたブドリは、クーボー博士と知り合い、彼の紹介で火山局に勤めることになる。所長のペンネンナームの指導のもと、局員としてたくましく成長していくブドリ。しかし再び大きな冷害が襲ってきた。

クーボー博士の助言を受け、「ボクにも、できることはきっとある」と奮走したブドリは、愛する故郷と大切なみんなのために、ある決意をする――。

登場するキャラクターについて

1985年に公開された『銀河鉄道の夜』のキャラクターが27年振りに登場しているんです。例えば主人公のブドリはジョバンニで、そのジョバンニをからかっていたザネリはりっぱに成長し火山局で働いていたり。その他にも全く別の漫画で登場したキャラクターも使われています。

イメージ実は、それぞれのキャラクターがどのように使われるか配役は全ておまかせしていたので、映画ができあがるまで全く知りませんでした。 どのキャラクターが好きというのはないのですが、注目したのはクーボ博士ですね。どうなるか楽しみでした。

印象に残っているシーンは火山局のシーンです。このシーンがすごく好きで「もっと映して!」と思ってしまいました。それから火山が噴火して湧き上がるところは迫力がありましたね。イーハトーヴ火山局で働きたいです(笑)
たくさんの思いが映像に塗り込められていて、観ていてあちらこちらで息がつまりました。

人間ってとんでもない生き物だなぁ

実際に猫を三匹飼ってはいますが、特に猫が大好きというわけではないんです。そのうちの一匹はいっこうに懐かないし(笑) 宮沢賢治さんの本を読んで、動物の中でも「人間は偉い」という思想は間違っている。同じ命を持つ動物と人間は平等だと思ったんです。

そう痛感し始めた頃、ちょうど高度経済成長の終わりである1960年から70年の間に思わぬ形で様々な公害が起こりました。中でも病気の原因や症状を調べるために、人間が猫に汚染された魚を食べさせて実験した結果、踊り狂ったような猫の姿をTVで見て衝撃を受け、その時に「人間ってとんでもない生き物だなぁ」と思い、頭の中で一気に猫の方に気持ちが移入したんです。

人間によってボロボロにされてしまう猫がいて、そんな猫が集まったら、きっと人間を滅ぼしたくなるだろうなと思ったんです。 そして描きあがったのが猫が集結して人間に逆襲する作品でした。 人間を描いているよりも猫を描いている方が不思議と感情移入できるんです。人間の感情をそのまま人として描くと、見る人によっては好き好みがあったりするので、人を猫に置き変えて描くことにしました。 猫の絵を描くときは、身近にいる変わった友人のキャラクターをより濃くしてモデルにすることもあります。

自分の中から出てくる“気持ち”で描くこと

誰も真似でもなく、誰のものでもない“自分の絵”を描くこと。それも上手に描こうとか小手先の技術ではなく、その時に感じたり過去に体験したりした自分の中から出てくる“気持ち”で描くことです。

イメージ小さい子に画用紙とクレヨンを渡したら自然と何かを描くように、絵を描くことは、歌を歌うことと同じで人間の持っている生きる楽しみのひとつだと思います。 そもそも幼少時代から学校などで金賞とか銀賞とか誰かの定義で評価するのはあまりいいと思いません。上手に描こうなんて思う必要はないんです。

描くことを仕事にすると苦痛に感じる事もあります。楽しんで描いているうちはプロではない、きついと思ったときがプロになった証だと言われたことがあります。仕事とはそういうものだと思います。

けれど、プロであろうがなかろうが、描きたいと思ったら何も考えず思いのままに描く。子供が無垢な気持ちで描いている凄みに勝るものはありません。描く事の楽しさを忘れないでほしいです。


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7月7日(土)丸の内ピカデリーほか全国ロードショー
『グスコ-ブドリの伝記』

原作/宮沢賢治  監督・脚本/杉井ギサブロー
(『銀河鉄道の夜』『あらしのよるに』)主題歌/小田和正「生まれ来る子供たちのために」
監修/天沢退二郎  中田節也
キャラクター原案/ますむら ひろし小栗 旬  忽那汐里  佐々木蔵之介
林家正蔵  林 隆三  草刈民代  柄本 明配給:ワーナー・ブラザース映画

●オフィシャルサイト
http://www.budori-movie.com/
©2012「グスコ-ブドリの伝記」製作委員会/ますむら ひろし