描くために生まれたような人というのがいる。
人気のガールズラブマンガ界で注目を集めるいづみやおとはもそうだ。
「あなたのマンガは、好きで描いていることがすごく伝わってくる。
それがいいところだって、よく言われるんです」
いづみやのすごさは、その豊かな才能に溺れることなく、
ずっと好きで描き続けられる極意を見つけたことだ。
■ いつも描いている子供でした
女の子同士のプラトニックな恋愛を描いた初連載作品が『死神アリス』です。昔から女の子を描くのは好きだったんですが、ガールズラブの世界は初めてだったので大きな挑戦でした。パッとひらめいた描きたい女の子像やシチュエーションを軸に、そこから思いっきり想像力を働かせ作品にしていくんですが、いかにそこにきちんとストーリー性を盛り込めるかにこだわってやっています。
昔から絵を描くのが本当に好きで、保育園の頃から暇さえあれば、それこそチラシの裏とか描けるところを見つけては絵を描いていました。学校でもずっと美術は大得意で、よく美術展で賞をいただいたりもしていました。
アニメも大好きで、一番最初に好きになったアニメは幼稚園のときに観ていた「きんぎょ注意報!」。それから少女マンガ雑誌の『なかよし』を愛読するようになり、中学生になってからは『週刊ジャンプ』にシフトしました。兄と姉がいるんですけど、兄が買ってくるジャンプが待ちきれなくて、登校前に書店で立ち読みして、家に帰ってから兄の買ってきたジャンプをゆっくり味わう(笑)。一番好きだったのは、武井宏之先生の『シャーマンキング』。ヒーローとヒロインの互いに支え合っている関係性が素敵でした。当時から人間関係やストーリーがきちんと描かれているかどうかが作品を見る重要なポイントでした。
■ 忙しいからこそ描きたい
高校2年生のころから美術部の仲間たちと同人活動を始めました。それが本当に楽しくて。マンガや絵に対するあこがれはものすごくあったんですが、実際にそういった道に進めるとは思えなくて、あくまでも趣味としてやっていけたらなと考えていました。
でも実際に高校卒業後の進路を考えるときになって、そんなに絵が好きならもう少し勉強してみたらと親が勧めてくれて。それで、日本工学院八王子専門学校マルチメディア科に進学しました。高校生の頃に日本工学院八王子校主催のアニメイベントに参加したことがあって手元に資料を持っていたので、一度体験入学に参加してみようということで、なんと両親と3人で参加したんです(笑)。新宿の別の専門学校も見学したんですが、設備の良さと緑に囲まれた環境が気に入り、入学を決めました。実は日本工学院には絵の勉強というよりDTPを学びたくて来たんですが、同時に同人活動も満喫していました(笑)。
就職もすんなり決まり、卒業後は制作会社でDTPデザイナーとして働きはじめました。仕事を始めて1年ぐらい経ったときに、HPを見たという編集者からゲームのアンソロジーのご依頼をいただき、そこから仕事をしながらマンガ家としての活動を始めました。
仕事を遅くまでやって、夜中に帰宅してからマンガを描いて、朝起きて会社に出かけるまでにまた描いて。当時は3時間ぐらいしか寝る時間がなく、体調もガタガタ。マンガのお仕事のほうが軌道にのりかけていたこともありマンガに絞ってやっていこうかと悩んでいたら、リーマンショックで会社が倒産してしまったんです。そんなときに、ガールズラブのマンガ連載のお話をいただいて、せっかくの機会だから、ラブだけじゃなく、バトル要素を入れた私ならではの作品に挑戦しようと思いました。それで描いたのが、『死神アリス』です。
マンガ家としてトントン拍子に進んでいたんですが、なんと同時に就職もしました。私は追いつめられなきゃ描けないというか、モチベーションが上がらないんです。時間が限られているからこそ、マンガを頑張りたいと思う。仕事が忙しくなればなるほど、マンガに対する情熱が強くなっていくんです。マンガも仕事ではあるんですけど、私にとって一番のストレス発散がマンガを描くことなんです。
■ ずっと好きで描き続けたい
日本工学院時代にも先生から絵の道に進むことを勧められたんですけど、どうしても絵を仕事にできるなんて思えなくて、結局DTPの仕事につきました。そのとき先生に、「でも絵は絶対にやめるなよ」と言われて、その言葉が今でも呪いのように私を支配していて、描くことがやめられないんです(笑)。いえ、本当は“やめようと思っても、やめられない”。実はDTPの仕事をやっていたとき、これだけ忙しければマンガや絵を描くことにもあきらめがついて、まっとうな道に進めるだろうって思っていたんです。でも全然(笑)。あきらめるどころか、食事を放棄してでも描いてました。やっぱり好きなんですね。
プロとしてデビューすることは大事だけど、続けていくこと、ずっと好きでやれることのほうがもっと大切だし、そっちのほうが難しい。プロを目標に突き進んで、実際にデビューできたのに描けなくなっちゃう人も多いですし。本当は絵が好きって気持ちだけあれば幸せにやっていけるはずなのに、好きという気持ちに甘えていると、それすらも無くしてしまう。私は、絵と一番うまく付き合っていける方法を考えた結果、仕事をしながら描くという道を選んだんです。マンガがどれだけ好きでも、マンガ1本で生きていくだけが道ではない。大切なのは、自分がそれを好きでいられる道を見つけることなんです。
死神アリス(一迅社)
©いづみやおとは/一迅社
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