イラストレーターとして活躍中のアカバネは、ひとつ目標を定めると、脇目も振らず突き進む。その必死の努力は着実に実を結んできた。「もともと僕は赤が好きだったのと、人からのアドバイスがすぐ作品に活きる、結果がバネのように跳ね返ってくるっていうので“アカバネ”とあだ名がついたんです」。それがペンネームになった。
イラストレーターとして人気を獲得していく一方で、実家の家業との板挟みで悩み続けた日々。ようやく自分のスタンスが固められてきたいま、改めてイラストの力を知る。
■ 叩き込まれた、絵の道を目指す覚悟
小さい頃から絵を描くのが好きで、小学生のときは子ども向けの美術教室にも通ってました。でも趣味で描いていた程度で、将来絵の仕事に就きたいとは思っていませんでした。
それが高校3年生のときに同人誌を読みはじめ、学校でも先生に絵をほめられることも多く、ちょうどはまっていた同人誌が絵も話もゆるいものすごくデフォルメの効いた四コママンガで、これなら自分でも描けるんじゃないかと。それで夏に初めて四コママンガの同人誌をつくったんです。画材屋で絵の道具を片っ端から買ってきて、はったこともないスクリーントーンに挑戦しひとコマで挫折。やっとの思いで16ページを完成させ、オンリーイベントで300円で販売しました。200部刷って、余部が10冊ついてきたんですが、余部で足りてしまい(笑)。同人誌の入った段ボールを自宅に送るために並んだ、宅急便待ちの列が実際の列よりも長く感じ、待っている時間は、自分の実力のなさを改めて実感する辛い時間でした……。散々でしたけど、人気のブースにできていたすごい人の列が忘れられなくて、いつか自分もああなりたいと思うようになりました。
それで画力をつけるために美大を目指す人たちが通う美術アトリエに行きはじめました。週5、6日、夕方5時から9時まで、毎日のめり込んでやっていました。アトリエでは毎日テーマにそって描き、最後に講評され順位をつけられるんです。デキが悪かったときは、残って塾長にいろいろ教えてもらい、翌日には少し順位が上がるといったことを繰り返し、最後はクラスでも1、2番をとれるくらい技術的に上達しました。
ただ僕がやりたかったのはイラストだったので、それなら美大より専門学校に行ったほうがいいだろうと考えました。アトリエで、絵で生きていくためには、どれぐらいの時間や労力を費やさなきゃいけないかってことを叩き込まれたので、それさえ忘れなければ、どこで学ぼうが大丈夫だろうと思いました。
桜ノ杜ぶんこ『風とリュートの調べにのせて』
(著者/健速)
1から5巻好評発売中!
昨年は、ライトノベル最大手の電撃文庫さんでも表紙と挿絵を描かせていただきました。
この『風とリュートの調べにのせて』は5巻まで続いています。関わらせていただいた作品が長くシリーズで続いているというのはうれしいですね。大切に描かせていただいています。
■ 可愛いキャラクターが描けなきゃダメだ
日本工学院専門学校のオープンキャンパスには3、4回通いました。ほかの専門学校も見学したんですが、日本工学院は設備が充実していて一番環境がよかったんです。それでマンガ・アニメーション科に入学しました。キャラクターデザインコースだったんですが、僕は人物のデッサンがすごく下手だったんです。アトリエは静止画中心で、人物画の経験が少なくて。それで入学して1年間はずっと、電車でひたすらクロッキーをしたり、ポーズ集を描き写したりしていました。
在学中の最大の目標は、イラストのSNSサイトpixiv(ピクシブ)の人気ランキングで上位をとることでした。アトリエで学んだ精神が活きたというか、遊ぶ暇があったら1枚でも描く、すべてを絵に費やすべきだと、学校が休みの日も家で机にしがみつくようにずっと絵を描いていました。軽い神経症状態だったと思います。ただそれだけやった成果はあり、卒業時には、安定してpixivのランキング上位に入れるようになっていました。
卒業後すぐ、pixivで僕のイラストを見た富士見ファンタジア文庫さんからライトノベルのお仕事をいただき、『噛みつけ! アンノちゃん。1』の表紙と挿絵を描かせていただきました。その初めてのライトノベルの仕事を通して、イラストレーターとしてやっていくには、魅力的なキャラクターが描けなきゃダメだと痛感しました。pixivでは雰囲気系の絵がウケる傾向があり、キャラクターメインというより風景画に違いイラストを描いていたんです。でも、イラストで買う人はキャラクターが好きだから買うんですよね。それから、印象的なキャラクターの可愛い系の絵にテイストをシフトしていきました。
仕事は主にpixivを見た編集者さんからの依頼です。実は日本工学院を卒業した1年目に2度持ち込みをしたんですが、結局仕事には結びつきませんでした。それで思いました。持ち込まないと使ってもらえないような絵なら掲載されても次に繋がらないんじゃないか、続かなきゃ意味がないと。それで営業努力より、pixivで発表する作品の充実に注力しようと考えました。
Orchestral Fantasia
「日本工学院では毎日授業が終わったあとに、先生や講師の人に作品を見てもらっていたんです。アドバイスをメモして、絵を修正し、また次の日に見てもらって意見を聞く。必要以上に自分を追いつめていた時期だったので、先生がOKを出しても「いや、でも」って執拗に食い下がったり(笑)。やるべきことが明確にわかってモチベーションに繋がったし、先生のアドバイスは本当にためになりました」。これは好きで描いていた雰囲気系の絵。pixivで人気を博し、単発の仕事も来ていたが、ライトノベルの仕事を充実させるために、キャラクターメインの可愛い系に絵のテイストを変えていった。
■ やっと見つけた自分なりのやり方
実家は代々商売をやっていて、いずれは僕が継ぐ予定です。いまも家業を手伝いながらイラストの仕事をやっています。そのことをずっと悩んできました。順調に仕事をいただいていたし、イラストレーターだけでやっていけるんじゃないか、もっとやりたいという思いもあり。でも活動を続けていくうちに、僕には兼業が一番いいと思うようになりました。絵ばかり描いていると考えがひとりよがりで閉鎖的になるんです。描いていると楽しいだけに、ちょっと自分の思い通りにならないだけでイラッとしたり、人間がひねくれるというか、そういう人をけっこう見てきましたし、僕自身危機感も感じていました。人にはある程度のストレスも必要なんです。兼業することで、それぞれのストレスを解消し合えるし、仕事のやり方を本当に悩んでいたんですが、やっと自分なりの答えが出せました。
いまはソーシャルゲームのイラストの仕事も多くあるようですが、それなしでもやっていけるようでないと実力的にも将来的には厳しい気がします。力をつけるためにも、ブログやツイッター、せめてpixivには、評価される作品を公開していくべきだと思います。それが広告塔になりますから。僕の場合それがきちんと機能して、“いま”があるのだと考えています。その甲斐もあってか今ではコミケでも壁配置にしていただけることが多くなりました。初参加のときは10冊でしたが(笑)。
最近トレーディングカードゲームで遊ぶようになり、改めてイラストの魅力に気づきました。僕はトレーディングカードのお仕事もさせていただいているんですが、初めて受け手の気持ちがわかったというか、イラストを描くのでなく“見る”喜びを体験しました。好きだから描いてきた、それが、みなさんに楽しみや喜びを提供している。改めてイラストレーターとしてやれている幸せを感じました。いまは、これからも流行に迎合することなく、自分の描きたいもの、やりたい仕事をやっていけたらと考えています。
美幼女の天然水
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