大人気ゲームのキャラクターはどうやって作られているのでしょう?
気になるその裏側を紹介するセミナーが実施されました。対象ゲームは、株式会社ミクシィのXFLAG™ スタジオが運営する『モンスターストライク』。現場のアートディレクター、イラストレーターが登壇し、キャラクターデザインについてどの様なチーム構成やプロセスで制作をしているかについての講義が開催されました。
しかもセミナーに参加できるのは、実際にゲーム業界で実際にアートワークに従事している方のみ。本格的で実践的な場となりました。

過去にセミナーなどでは話したことがないという講師2人から、貴重な裏話が聞けました。

 

モンスターストライクとは?

<http://www.monster-strike.com/>
スマートフォンの特性を活用した、誰でも簡単に楽しめる爽快アクションRPG。
自分のモンスターを指で引っぱって弾き敵のモンスターに当てて倒していくターン制のゲームで、壁やモンスターへの”跳ね返り”や”ぶつかり”を上手く活用することで、クエストを攻略していきます。一緒にいる友だちと最大4人まで同時に遊べる協力プレイ(マルチプレイ)が特徴です。
2013年10月に提供開始し、2015年5月現在では世界累計利用者数が3000万人を突破しました。北米、台湾、韓国、香港・マカオでの提供も開始しており、今後もヨーロッパや東南アジアでの展開も予定しています。

 

講師

株式会社ミクシィXFLAG™スタジオ所属
モンスターストライク イラストチームリーダー 只隈 広明氏
モンスターストライク イラストレーター/アートディレクター 鈴木 景子氏

まず、『モンスターストライク』のキャラクター制作手法からお話いただきました。

ゲームキャラクターを作るにあたっては「イラストチーム」と「企画チーム」が、毎日キャラクターミーティングを行うそうです。まずはブレストをしながらアイディアを出していきます。例えば『戦隊もの・中世ファンタジー・北欧神話・SF』などキャラクターのテーマとモチーフを決め、詳細を詰めていきます。
それを『設定書』に落とし込む際に大切なことが、より「具体的なキャラクターの深掘り」であることだと言います。

例えば戦隊ものであれば、キャラクターの性格は「熱血キャラ」「ツンデレ少女」、描いて欲しいポイントは「拳の迫力」「表情をツンンツン&勝ち誇った感じにして欲しい」、服装イメージは「オリジナルの制服をデザインしたものを添付」というように、具体的に記入することで、担当者がキャラクター制作を行いやすくするとの事でした。

作成した設定書をもとに、各制作担当者がラフ・線画・彩色・仕上げを行っていきます。その一連の流れを実際のイベントキャラクター・佐々木小次郎を例に挙げ、説明してくれました。

佐々木小次郎が巌流島で宮本武蔵を待ってイライラしているというエピソードを、デートの待ち合わせで待たされてイライラしている状況となぞらえて考えてみたことで女性キャラクターになった……など、具体的なキャラクターの立ち上げを解説。作画工程の解説の際には、赤い指示の入ったCBも公開し、どのようにキャラクターの衣装や技がデザインされていくかの過程が見てとれました。

最初の徹底したキャラクターミーティング、それを形にする制作行程が、妥協しないキャラクターを産みだし、ファンに楽しんでもらえる制作が実現しているのだなと感じます。

とことんまでこだわるため制作作業は大変だと思いますが、ミクシィではチームで制作することにより「向上心を高め合え、足りない部分をカバーし合える」というメリットを実感しているそうです。

セミナー後半はQ&Aを元にしたパネルディスカッションです。
講師のお二人に、実際の制作にあたってのルールやコツを詳しく聞いてみました。

 

【Q1】
モンストらしさを大事にして守っているルールは?
また、それをイラストレーターやデザイナーにどのように浸透させていますか?

只隈氏:「モンストはレギュレーションを詳細に定めています。作画ルールとして「線画のピクセル数」「レイヤー構成」「塗り方(質感表現)について」などを事細かに設定しています。その作画ルールに則って作業していただければ、迷いなくできるようにしています。また、それを全員に共有して共通認識のもと、作業しています。」

 

【Q2】
(1)キャラクターの性格や装飾などの設定は、どこまで詳しく考えてから発注していますか?
(2)また、イラストレーターの選考の基準は何でしょうか?
(3)異なるイラストレーターさん達の全体のテイストを揃えるコツは?

只隈氏:「日々のキャラクターミーティングにて、だいたいのストーリーは考えますが、厳しく定めることはありません。各イラストレーターさんの発想力を活かして欲しいと言うところかです。設定書には確かに表現して欲しいマストな項目はありますが、決められたことを決められたままに創るのではなく、“遊び”をつくっておくことで、イラストレーターさんが自由な発想にて制作ができるようにしています。
イラストレーターさんの選考については技術面はもとより、「建設的な議論を交わすことができるか」と言ったコミュニケーションスキルも見た上で判断します。
全体のテイストを揃えるコツについては、レギュレーションを読んでいただければ大幅にずれることはありません。「顔の大きさはどうする」というところまで細かく設定されています。それでもずれる場合は、アートディレクターがしっかり説明を行った上で整えます。」

 

【Q3】
今後売れていくゲームをつくるためのキャラクターデザインついて知りたい。

鈴木氏:「絵(キャラクターイラスト)だけで売ろうと思わない、ということですね。あくまでゲームの中のイラストであって、そのゲームが面白いことが大前提になりますので、ゲームの企画意図をしっかり組んだ、そのゲームの世界観に合ったイラストを提供するのが大事です。気持ちはイラストで頑張りたいと思っていますが、すべての力が合わさることで楽しんでいただけるゲームになるんだと信じてやっています。」

 

【Q4】
クオリティを突き詰めるための工夫やクオリティが上がらない場合の対処法は?

鈴木氏:「クオリティがあがらない時というのは、アートの目的がしっかりしていなかったり、ゴールが見えていない時に起こりがちだと思います。アートディレクターの方でゴールを示して導くことが大事だと思います。」
只隈氏:「『設定書』にキャラクターのゴールはある程度記載しているので、それを目指していけばいいようになっています。また、イラストレーターさんにダメなところを伝えるだけでなく、良い部分を伸ばして制作していくことが大事ですね。」

 

【Q5】
膨大なキャラクター数となった後のキャラの差別化と魅力の引き出し方について。

只隈氏:「これは難しいですね~……。これらは常に考え続けています。これに関しては、シーンの表現とキャラクター付けができていること、見ごたえのある表現がしっかりできていれば、差別化がはかれると考えています。
『モンスト』の場合、無駄に派手にしたり書き込みを増やしたりはしません。華やかにはなるけれど、それが根本的なキャラクターの魅力ではないと考えています。
『設定書』の段階でキャラクターのバックグラウンドを考えているので、キャラクターの絵とキャラクターを取り巻く設定がしっかり表現できていれば、キャラクターが増えても差は出していけると思います。」


会場は終始和やかな雰囲気に包まれていました。制作業務については厳しいお二人のご意見も、笑顔とやわらかい口調ですんなりと耳に入ってきます。
只隈氏はチームでの案出しについて「すごくフランクな、軽いノリでやっています」と言うように、気構え過ぎずに意見を出し合える現場の雰囲気を感じることができました。

セミナー後は、講師のお二人と参加者100名とともに懇親会を開催。会場では名刺交換の場も設けられました。セミナー参加者はゲーム業界に関わられる方々ということもあり、参加者同士の情報交換・意見交換の場にもなりました。