およそ1,000人に1人しかプロになれない「声優」という仕事をテーマにしたドラマ『声ガール!』が、2018年4月からABCテレビ・テレビ朝日にて放送スタートしました。華やかだけど厳しく険しい世界をリアルに描くお仕事ドラマです。人気声優の戸松遥さんや浪川大輔さんが本人役として出演するほか、放送開始15周年を迎えたアニメ『プリキュア』シリーズとのコラボも注目されています。
主人公・菊池真琴を演じるのは女優で声優としても活躍している福原遥さん。リアルとフィクションが交差する、まったく新しい「声優×青春」群像劇です。
メイン監督である瀬田なつきさんは、『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』で商業長編デビューし、映画だけにとどまらず、ドラマ、MV、Webムービー、CMなども手がけてきました。さまざまなジャンルを渡り歩く瀬田さんに、映像のお仕事の魅力と、『声ガール!』の撮影裏話をお伺いしました。
東京芸術大学大学院映像研究科在学中、黒沢清・北野武教授のもと修了制作『彼方からの手紙』(‘08)を監督。大政絢・染谷将太出演作『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』(‘11)で長編商業映画監督デビュー。世界各国の映画祭でも上映された。主な監督作に、映画『5windows』(‘12)、『5windows eb/is』(‘15)、『PARKS パークス』(‘17)、Amazonプライムビデオドラマ『東京アリス』(‘17)、テレビ東京『セトウツミ』(‘17)等の他、CM、ミュージックビデオなども多数手がけている。テレビドラマ『声ガール!』(ABCテレビ・テレビ朝日・他)が現在放送中。
声優お仕事ドラマ『声ガール!』スタート
――瀬田さんは声優さんとのお仕事は初めてですよね。どういう経緯で『声ガール!』の監督を担当されることになったのですか?
ABCテレビの方に、「女の子5人が声優を目指すドラマの監督をお願いしたい」とお声がけをいただいたんです。とはいえ私は声優にすごく詳しいわけでもないし、最初は不安でした。でも、主人公も声優のことをまったく知らないのにスカウトされ、その世界を知っていくうちに夢を持って頑張るというストーリーだから、私と同じかな、と。撮影のために、アフレコ現場を見学させていただいて声優について調べていくうちに、私も主人公と一緒に声優の魅力を発見していくという体験ができ、とても刺激的な日々でした。
――人気の声優さんたちも多数出演されています。現実とリンクしているところが面白さの一つですね。
そうなんです、そこがほかのお仕事ドラマとは違うところかもしれません。プロの声優さんたちが加わるからこそ、「こうやって頑張ってきたのかな」とか「いつもこんなふうにお仕事しているのかな」とリアルな世界が想像できます。現場でも助言をいただいて、本当に彼らのアドバイスや失敗談などが作品に反映されているところもあるんですよ。
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お仕事ドラマとしては、どんな職業の方にも共感していただけると思います。たとえば、オーディションで落ち続けたり、初めてお仕事をもらってすごく感動したり、理不尽を感じたり、彼女たちの体験を自分に置き換えると、「こういう気持ちわかるなぁ」と感じるはず。とくに何か新しいことを始めた人や、夢や目標を持って努力している人なら、感情移入できるかもしれません。
私自身も、「こんなライバルがいたら楽しかっただろうなぁ」と羨ましくなったり、「私も頑張らないと」と勇気をもらったり。撮影にあたって、実際の声優学校にも見学に行ったのですが、高校卒業したばかりの子や、20代半ばで夢に向かって頑張る方々を見て、前向きな気持ちをいただきました。声優を目指す5人もとてもポジティブなので、ドラマを見て背中を押してもらえると思います。
――15周年を迎える大人気アニメ『プリキュア』シリーズとのコラボ作品でもあります。プリキュアファンにとっても見所満載ですね。
基本的には『プリキュア』を知らない方にも楽しんでいただけるドラマとして作っていますが、主人公がアフレコに挑戦するアニメが『プリキュア』だったり、アニメの名場面や名セリフ、懐かしいキャラクターも登場したりします。『プリキュア』の声優さんも出演するので、アニメファンの方が楽しめる仕掛けをいろいろと盛り込んでいます。夢・友情・希望・努力といったストレートな気持ちを素直に描いていますので、昔『プリキュア』を見ていた方たちにも懐かしんでいただけると嬉しいです。
メインキャスト5人にそれぞれカラーがあるのも『プリキュア』っぽいかもしれません。5人のキャラクターを活かしてそれぞれの部屋や衣装を作っているので、細かいところまで見ても楽しいと思います。「こういう部屋に住んでみたい」「この服、個性的だなぁ」など、出演者やスタッフのこだわりが随所に隠れているところにも注目してみてください!
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もちろん、普段は見られない声優というお仕事の裏側が覗けるのも本作の見どころです。アフレコのシーンでは、線画というアニメーションになる前のイラストが出てきますので、「こんなふうにセリフを入れてるんだ」というふうに楽しんでいただけると思います。
監督も私を含め3人いますから、それぞれの担当回の違いも感じるかもしれませんね。
声のプロ×映像のプロ
――映像作品のキャスティングにコツやこだわりはありますか?『声ガール!』のキャスティングではいかがでしょうか。
映画やドラマでも、脚本や原作がある場合は、役のイメージに合うことが重要ですね。今回は、オリジナル脚本なので、脚本作りの中で役者の雰囲気にも合わせつつ、出演者のバランスも重視しました。メインキャストが5人いるので「この5人が集まったら面白そうだな」と感じられるかとか、プロデューサーさん、スタッフさんたちと話し合って、キャスティングしています。
また、それぞれの持つスキルのバランスも重要です。『声ガール!』だと声優の話なので、映像俳優としての演技と、声優の技術の2種類が柱になりました。代々木アニメーション学院さんにもご協力いただいて、本格的なレッスンも撮影前にしました。
声優としてうますぎても成長物語として成立しないし、下手すぎても説得力がない。そんな理由から、主役の真琴を演じる福原遥さんにはプロの声優であるにもかかわらず、「もっと下手にできますか?」なんて注文したこともあります(笑)。福原さんは声優としても第一線で活躍されている方ですが、才能はあるけれど素人というバランスの難しい表現に、明るく挑戦してくださいました。
――監督として、現場で気をつけていることはなんですか?
関わる方々が思ったことを言いやすい雰囲気を作ること、でしょうか。といっても、私自身もともと怒鳴るようなタイプの人間ではないので、現場をピリピリさせるようなことはないのですが。『声ガール!』では、夢に向かって頑張っている女の子たちの等身大の姿を撮影していますから、なるべく委縮せずに意見を言えるような現場で、出演者の魅力を十分に引き出せたらと思っていました。自分もスタッフも出演者ものびのび楽しめるように、そんな思いでいつも作品作りをしています。
――声優さんとのお仕事ならではだな、と思われることはありましたか?
声優さんって、声だけで感情が伝わるように映像作品に出演される俳優とは異なる表現をされるんですね。そのため、最初は身振り手振りが大きくなりすぎたり、声量が大きすぎたりと苦戦していらっしゃいましたけれども、みなさん、さすが表現のプロです。映像の世界を面白がって、柔軟に対応してくださいました。『…』や『!』を声だけで表現する方法など、私自身も表現の幅広さを知って勉強になりました。
映画批評から作る側へ
――映像の世界に進もうと思ったきっかけはなんですか?
もともと映画は好きだったんですけれど、大学院は環境情報学府という映像制作とは縁のないところで。その大学で映画の批評をされている先生と出会い、大学で映画の批評を勉強することにしたんです。でもうまく書けなくて、次第に監督たちはどういう気持ちで映画をつくっているのかを知りたくなり、映画の学校に入学しました。ところが、実際に自分で映画をつくってみたらすごく面白くて。大学院の卒業制作で『彼方からの手紙』という作品を作ったら、『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』の監督をしませんかとお声がけいただき、そのまま今に至ります。ご縁に恵まれていなければ、今の私はいないかもしれません。
――作品をつくるモチベーションはどこにありますか?
映画やドラマは、一人では作れないんです。たくさんのスタッフやキャストなどがみんなで一つの作品をつくるので、私だけでは想像もできないアイディアが出てきます。私はそれらに耳を傾けて、「どうしたらいいと思います?」と聞いているだけかもしれません。映像はいろんなポジションのプロが関わって作られているものなので、大人数の意見に耳を傾けながら、その中で自分が納得できるゴールを探すのが監督の仕事でもあるなと思います。
『声ガール!』では、出演者のみなさんのモチベーションが高くて、いろんなアイディアを出していただきました。撮影前や撮影中もシーンによっては、「ここはどう動くか?」「このキャラクターならこのセリフはどう言うか?」と意見を聞いて、方向性を定めていきました。みんなで一緒にキャラクターや世界観を作っていけたので、その人でなきゃ演じられないキャラクターができたと思います。
出会った人たちと一緒になにかをつくれる瞬間は素晴らしい時間です。反省もありますが「次はこうしよう」と糧になったり、見てくださった方の感想を聞いて「ああ、そういう楽しみ方もあるんだ」と発見があったり。一人で完結せず、世界が広がって行く感覚があるから、終わりがないですよね。
「やりたい!」より、「やってみませんか?」がワクワクする
――目指している理想の監督像はありますか?
新しいことに挑戦し続ける人。作品を作り続けていると、周囲からのイメージや求められるものが固まってくると思うんです。けれどもそれに妥協せずに新しいものを作って、多くの方に楽しんでいただいている方はすごい。
今はネットやスマホなど映画をめぐる配信環境もどんどん変化しています。そんな変化を面白がって新しいジャンルに携わっていると、思いもつかないところから「こんなことやりませんか?」という企画が持ち込まれてきます。初めての試みに飛び込むと、新鮮な発見や驚きがあって楽しいんです。自分の「やりたい!」だけでなく、いろんな方のアイディアを受けて新しいチャレンジをしていきたいですね。
――仕事を楽しむコツはありますか?
アンテナを高く広く張ることでしょうか。忙しいとインプットすることが大変になるけれど、いろんな作品をたくさん観たり、読んだり、聴いたりして、その中で「面白いな」と思えるものを自分で見つけ、勇気を持って「面白い!」と言い張れることって難しいけれどとても大事です。
また、仕事の現場でも新しいことを吸収していく姿勢は忘れたくないですね。2012年に撮った映画『5windows』は屋外で上映したので、会場を作る建築家の方とずいぶん相談しました。それまでにない業界の方と接する中で新しい発見があり、新鮮で刺激的な撮影になりました。『声ガール!』で声優さんやアニメーションの方とコラボレーションをしたこともそうですが、知らないことに反応していく柔軟さを持てるよう心がけたいです。視野を狭めずにいると新しい出会いと作品が生まれ、ワクワクし続けていられるだろうなと期待しています。
――瀬田さん、ありがとうございました!
インタビュー・テキスト:河野 桃子/撮影:TAKASHI KISHINAMI/編集:CREATIVE VILLAGE編集部
番組紹介
主人公は声優の知識も経験もない八百屋さんの一人娘、菊池真琴。ある日、突然スカウトされ、軽い気持ちで声優の世界に飛び込みます。真琴は初めて踏み入れたアフレコブースでいきなり『ハピネスチャージプリキュア!』の画に合わせ、セリフを吹き込むというテストを受けるが・・。仲間であり、良きライバルである4人の声優の卵たち、栗山麻美・稲葉蓮・森本小夏・落合涼子と共に、寮での共同生活を送りながら、プロの声優を目指します。
『声ガール!』は放送開始15周年を迎えたアニメ『プリキュア』シリーズと完全コラボ!
アニメの名場面や懐かしいキャラクター、胸に迫る決め台詞がドラマの随所に登場します!
ABCテレビ 毎週日曜よる11時35分~
テレビ朝日 毎週土曜深夜2時30分~
※放送時間は変更となる場合があります。
監督:瀬田なつき、相馬寿樹、玉澤恭平
公式サイト:https://www.asahi.co.jp/koegirl/