2012/4/21(土)より公開された映画『×ゲーム2』の監督である山田 雅史さんに、これまでの生い立ちやクリエイターへのアドバイスなど、お話しを伺いました。
「なんともいえない世界観をつくりたい。」
幼い頃から絵を描くのが大好きで、将来は漫画家になりたいと思っていて、『ドラゴンボール』や『北斗の拳』などをよく読んでいました。 特に中学生の時に観た『AKIRA(アキラ)』に衝撃を受け、大友 克洋さんの漫画は全て読みましたね。
とにかくずっと絵を描いていたのですが、デザインを本格的に勉強したくて京都高等工芸専門学校(現・京都芸術高等学校)に進学しました。 なかでもシュルレアリスムを代表するサルバドール・ダリやルネ・マグリットのような抽象画に表現されているような、 いわゆる“空想の世界”が今でも大好きですね。
また、小さい頃から父親が映画好きで、家でよくチャールズ・チャップリンの映画を観ていたのですが、無声映画だったので父親がチャップリンのモノマネをしながら字幕を読んでくれていました。
映画に興味を持った決定的な瞬間は、当時TVでデビッド・リンチ監督の映画を偶然観た時です。何がなんだか意味はわからなかったのですが、妙に心に残ったんです。
「やっぱり映画だな」
そして「自分もやってみたい。観てくれた人の心に残る、なんともいえない世界観をつくりたい。」と思い、ビジュアルアーツ専門学校大阪へ進学し、シナリオ制作から撮影までイチから勉強しました。在学中は主に短編の自主映画を撮っていました。
実は30歳を過ぎてから上京したんです。それまで関西に居た頃はHi8(ハイエイト)でラブストーリなんかの自主映画を好きなように撮っていたのですが、 東京に出たらとにかく何でも仕事をしなきゃいけなくて。「やっぱり映画だな」と思ったときに、縁があったのがホラー映画などの制作会社でした。
仕事がきっかけでホラーやサスペンスといったジャンルの作品に携わるようになったのですが、そこから学んだ手法や表現はたくさんあります。
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映画『×ゲーム2』について
著者である山田悠介さんの同名小説の映画『×ゲーム』の1作目がヒットして、2作目の監督としてオファーをいただいたんです。
それまではホラーの仕事が多く、「ホラー映画の監督」というイメージが定着してしまっているようなので、今回はサスペンス映画ということで、そのイメージを払拭したくもあり受けました(笑)
イジメの復讐を代行する組織がある- そんな噂が巷で囁かれていた。その噂について週間誌の編集マンが取材をすることに。
その頃、複数の人間が学校と思わしきところに監禁される。徐々に組織に近づく編集マンと監禁されたメンバーが課せられる×ゲーム。
ゲームが進むにつれで見えてくる不可解な事実とは・・・。
年齢も職業も性別もバラバラの5人の男女が何者かにより密室状態の教室に監禁され、「授業」と称したサバイバルゲームに強制的に参加させられるのですが、その真相は物語のラストに明らかになります。
廃校で撮影していたのですが、屋内なので撮る方も撮られる方も昼なのか夜なのか、時間の感覚がおかしくなってくるんですよ。そういった意味ではストーリー同様、監禁された状態でしたね。
また物語の最後のシーンでどうしても起用したいアイデアがありました。それは監禁された男女が天井から垂れ下がっていたロープにすがりつくように昇って行くシーン。
地獄から脱出するため極楽を目指して糸を昇る途中、ふと下を見下ろすと数限りない罪人達も自分の下から続いてくる。糸が切れることを恐れ「下りろ」と叫んだ瞬間、糸が切れ再び地獄に堕ちてしまった芥川龍之介の『蜘蛛の糸』の描写を取り入れたかったんです。
他にもくすっと笑えるシーンをいくつか作りました。本当はもっと入れたかったのですが「監督はこの映画をコメディーにするつもりですか?」って言われちゃったのでやめときました(笑)
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手のひらで“ころがされる感”がたまらない
記憶に古いもので映画館で初めて観た映画は、『ゴジラvsビオランテ』。『AKIRA(アキラ)』は漫画とはまた違った表現が印象的でした。
最近の作品だと瀬々敬久監督の『ヘヴンズ ストーリー』。構想期間は5年で、20人以上の登場人物が複雑に絡み合う全9章のドラマ仕様で上映時間が4時間以上ある作品なのですが、観てる側が手のひらで“ころがされる感”がたまりませんね。
あとはキリスト教の「七つの大罪」をモチーフにした連続殺人事件の模様を描いた『セブン』。デヴィッド・フィンチャー監督の作品は、じめっとした独特な世界観が好きです。
『天使突抜六丁目』について
『京都連続/Kyoto Series』というシマフィルムが展開している「京都を舞台として映画を京都で制作すること」、そして「タイトルが京都の地名であること」が条件となる映画のシリーズ企画があり、久々に地元で映画を撮りたいと考えていたので企画を出しました。
京都市の下京区に『天使突抜通』というのがあるのですが、実際にあるのは四丁目までで、六丁目というのは存在しません。それ以前にこの地名を地元の人でも知らない人が多く、実は京都出身の私も知りませんでした(笑)
ストーリーは、会社の倒産により追われる身となった主人公が無我夢中で逃げ回り、虚構の匂いが残る見知らぬ街『天使突抜六丁目』へと迷い込む。そこで奇妙な住人達と出会うのですが、その場所では“馴染めている人”と“馴染めていない人”が交差していて、哀しくも儚い現代の寓話ファンタジーとなっています。
その舞台となるアパートは2ヶ月かけて探しまわって、ギリギリで見つけました。本当にイメージにピッタリのボロボロ具合で(笑)そこに住んでいた人はいなくなっていたのですが、荷物が残された状態の部屋だったので、妙なリアルさが漂っていたかもしれません。
ロケハンには一番重点をおきます
趣味はロケハンです(笑)。普段の何気ない散歩がロケハンになっています。ここだったらこんな画が撮れそうだなとかいつも考えていて、散歩がてらのロケハンで思わぬアイデアやシナリオが浮かびます。映画を撮るうえでロケハンには一番重点をおきますね。また画はもちろんのこと、音にもこだわっています。
『天使突抜六丁目』では音作りに半年の期間を費やしました。音と笑いとシュールさで他の人が発想できないような新しい表現を常に目指しています。
映画を撮る事において今でも苦労することは、自分の頭の中で浮かんでいるイメージを言葉にして、役者さんや制作スタッフに伝えることです。絵は最初から最後まで一人で完成させることができるけど、映画はそういうわけにはいきません。学生時代には三脚を立てて撮影しながら自ら演じてみたりもしましたが、一人で映画をつくるのは想像以上に大変でした(笑)
自分の頭の中には完成されたものができあがっているので毎回もどかしい思いです。
作品を世に送り出す
数年経ったら周りからも忘れられる。そうならないようにとにかく何があろうとも作品を撮りつづけること。撮ってさえいればそれを見てくれる人がいる。それがたった一人でもいいんです。映画ならば自主映画でも商業映画でも何でもいい。自分の存在が薄れゆく前に、作品を世に送り出す。その活動を続けていくという姿勢が大切だと思います。
神奈川、富山、京都、トロントにて追加上映!
『天使突抜六丁目』(てんしつきぬけろくちょうめ)
山田 雅史 監督作品
真鍋 拓 瀬戸 夏実
服部 竜三郎 若松 武史 麿 赤兒
長江 英和 横山 あきお 蘭 妖子
デカルコ・マリィ 桂 雀々
栗塚 旭 柄本 明
製作総指揮:志摩 敏樹
ラインプロデューサー:菊池 正和
脚本:宮本 武史/山田 雅史
撮影:笠 真吾
照明:三谷 拓也
録音:弥栄 裕樹
美術:西村 立志
編集:松野 泉/山田 雅史
会社の倒産により追われる身となった昇。無我夢中で逃げ回り、見知らぬ街『天使突抜六丁目』へと迷い込む。 街では不条理な出来事が見え隠れし、どこか虚構の匂いが残る風景の中、昇は奇妙な住人達との日々を積み重ねていく。
そんなある日、自分の背中から羽が生えてきて、街から飛び立つ事を夢見ている女、みゆきと出逢い、昇はその奔放な魅力に惹きつけられていく。
みゆきとの平穏な日々を、この街で築き上げようとする昇だったが、みゆきが旦那を撲殺する事件に直面してしまう事に。
これを機に、街はゆっくりと歪み始め、昇は虚無感に襲われ心を閉ざしていく事となる…。
オフィシャルサイト
http://tentsuki6.jp/
©2010 Shima Films
2012年4月21日(土) 公開 全国ロードショー
多田愛佳(AKB48/渡り廊下走り隊7)
平嶋夏海
ユキリョウイチ
白石 朋也
滝 佳保子
市川 悟
朝加 真由美/菊池 均也/瀬戸カトリーヌ
名高 達男
原案:山田悠介/「×ゲーム」(幻冬舎文庫)
脚本:赤松義正
監督:山田雅史
主題歌:ν[NEU] 「Restless Love」
2010年秋、公開した山田悠介の原作『×ゲーム』にオリジナル感を加え、映像化で若者たちに衝撃を与えたこの作品は、幼き頃にイジメを受けた者が大人になり、イジメのスケールが拡大された復讐劇となり、人間性と、前回を上回る地獄の体罰を描いている。
そして本作の注目する点はもうひとつの点は、前作に出演したAKB48内のユニットグループ「渡り廊下走り隊」の菊地あやかと仲川遥香からバトンタッチされ、主演に多田愛佳が好演。
よりサスペンスに、よりハードに執行されたイジメの復讐劇にご期待ください。
©2012「×ゲーム2」フィルムパートナーズ