士郎正宗原作のSF作品の金字塔を、ハリウッドが実写映画化した『ゴースト・イン・ザ・シェル』がいよいよ4月7日(金)に全国公開されます。『スノーホワイト』のルパート・サンダース監督の下、スカーレット・ヨハンソン、ビートたけし、マイケル・ピット、ジュリエット・ビノシュら豪華キャストを迎えた鳴り物入りの本作には、世界中から熱い視線が向けられています。

1995年公開の押井守監督版から続編の同監督作『イノセンス』、テレビアニメのシリーズなどを手掛け、本作の製作総指揮を務めたProduction I.Gの石川光久代表取締役社長にインタビュー。ハリウッドのスタッフとの現場をはじめ、押井守監督と歩んできた道のりやプロデューサーの仕事の醍醐味について話を伺いました。

「ガンダム」よりも「巨人の星」 タツノコプロのバイトから始まったプロデューサー業

高校時代はずっと野球をやっていて「ガンダム」や「宇宙戦艦ヤマト」よりも熱血系の「巨人の星」の方が好きでした。でも野球は才能がないと気づいて、これ以上やるのも嫌だったから、大学に入ってからはヒッピーみたいにいろいろと放浪していたんです。それでたどりついたのが文楽で。文楽の劇団に弟子入りしました。大学を卒業してからはバイトをしていて、そのバイト先がタツノコプロだったんです。

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アニメーションを全く知らずに迷いこんだら、どんどん面白くなっていきましたが、そこでは作品よりも人を好きになっていったという感じです。世間では「アニメなんて食っていけない」と言われていたけど、自分にとってのアニメーターはすごくカッコイイ存在で、才能があってすごい人たちだと思いました。それで惚れ込んでいって、プロデューサーの道に入っていったわけです。そういう意味では人との出会いに尽きますね。

ハリウッドチームの情熱に驚嘆! ベストなキャスティングに感謝

ハリウッドが本気になるとこうなるのか!ここまで時間とお金をかけてやるのか!と、今回の『ゴースト・イン・ザ・シェル』は本当に驚きました。正直、想像以上でしたね。脚本を読ませていただきましたが、話が本当に面白いんです。お客さんが感情移入できるようになっていて上手いなあと。士郎正宗さんの漫画があって、そこからの続編やアニメの続編ではなく、ちゃんと原作から1つの実写映画を作ったという作品になっています。

 (C)MMXVI Paramount Pictures and Storyteller Distribution Co. All rights Reserved.
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士郎さんも当然脚本は読んでいますが、それに対して「こうしろああしろ」という方ではなく、外に出るタイプでもないんです。すごい方だけど、すごい人に見せないところが本当にカッコイイです。だからこそ中途半端なものは作れないし、作るとしたら監督を含めて全力でやらないといけない。士郎さんを裏切っちゃいけないと思うから、余計に作品のレベルが高くなるんです。

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いろいろとやりとりをしましたが、キャスティングはベストですね。そこは本当に感謝しています。少佐役のスカーレット・ヨハンソンは素晴らしいし、ぴったりです。少佐の上司である荒巻役がビートたけしさんですが、実は以前に「実写版で誰がいいか?」という話をみんなでした時、アニメ版の素子役の声優・坂本真綾だけが「たけしさん」と言い当てたんです。当時は情報解禁前でまだ「当たっている」と言えなかったから「たけしさん以上の人です」と答えました(笑)。「たけしさん以上」にはたけしさんも含まれますから・・・坂本さんがぴたりと当てたのにはびっくりしましたね。

士郎正宗や押井守監督との出会い プロデューサー冥利に尽きた瞬間とは?

やっぱり士郎正宗さんや押井守監督との出会いは大きかったです。でも、どちらも関係としてはパラレルです。近づくけど、近づきすぎない関係がいい。押井さんは「石川はアニメーターには甘いけど、監督に厳しい」と言っているけど、よく言うなあと。「監督にいちばん甘いのは俺だよ」と思っています(笑)。それでも関係が長続きしてきたのは、変にクロスしないパラレルな関係だったからかなと。僕は押井さんのマネージャーではないから、常に作品を軸に考えています。それと同時に、スタッフを食べさせていくためにアニメーションを作っているんだという自負もあるし。

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やっぱり光が当たるのは監督やクリエイターだから、プロデューサーとしては彼らが立つ舞台をちゃんと作りたい。そういう組織作りを考えた時、監督と寄り添いすぎて、監督が作りたいものだけを作るというのではまずいんです。

ただ、最近、嬉しいことがありました。押井さんがアニー賞で長年のアニメ業界への功績を称える功労賞(ウィンザー・マッケイ賞)を獲った時の話です。まずアニー賞のスタッフが押井さんの『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』や『イノセンス』、『スカイ・クロラ』などを編集したカッコイイ映像が流れた後、押井さんのスピーチがあって。その時に押井さんが「これらの作品を作るには、リスクを背負って挑戦する人間がいないといけない。それを全部背負ってくれたのが石川です」と言ってくださったんです。本当に驚きました。

その押井さんの言葉を聞いて、立ち上がったらスポットが当たって拍手をもらいました。まさにプロデューサー冥利に尽きるという感じでした。自分が賞をもらうこともあるけど、それよりもいちばん身近な人にほめられるというのが何とも言えない気持ちで。僕はI.Gの代表だし、みんなを苦労させたし、はっきり言って「I.Gの社員の給料を上げられないのは押井守のせいだ」と言ったりもしてきたし。そんな関係なのに、押井さんがそう言ってくれたので、本当にジーンと来ました。

仕事と人は「好きになること」が大事 ピンチの時は敢えて渦中に飛び込むこと

やっぱり何事も好きになることが大事なんじゃないですかね。努力なんてみんな好んでやっているわけじゃないけど、好きなことでの目標になら向かっていける。血にも肉にもなる実感が湧いてくるから。だから大きい夢と、身の丈に見合った小さい目標を作ることがいいと思います。

いきなり大きい目標に行かず、小さい目標を100個作り、大きい目標は夢としてとらえること。小さい目標は確実に努力してこつこつとこなしていき、それを延々と束ねていく。そうすれば、自分が考えたことよりも大きいこと、面白いことができるようになるんです。でも、まずは作品や人を好きになることですね。

もちろん、プロデューサーなんて、途中で逃げたくなる時もあります。でもそうなったら敢えてそこの中心部に突っ込んでいくんです。それが一番の解決策。問題の心臓部は本来なら避けたいと思うけど、誰よりも早くぶわっと飛び込んでいくのが実はいちばんの近道となります。時間をかけて回り道をしたり避けたりするなんてもってのほかだなと。

飛び込んで言いたいことを言った後は、優秀なスタッフがフォローしてくれます。社長のタイプはいろいろあると思うけど、僕は言葉などロジックが上手い方ではないので。自分の思いを上手く言葉にできないから、ハート、情熱でいくんです。そうすると周りが「実は石川はこう考えています」と言ってくれる。だから上手く回っていくと思います。やっぱりそこはチームなんです。

作品情報

『ゴースト・イン・ザ・シェル』
4月7日(金)、全国ロードショー

 (C)MMXVI Paramount Pictures and Storyteller Distribution Co. All rights Reserved.
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【物語】
舞台は近未来、脳以外は全身義体である少佐(スカーレット・ヨハンソン)が率いるエリート捜査組織公安9課は、ハンカ・ロボティックスによるサイバー・テクノロジーを狙うサイバーテロ組織と対峙する。ところが事件の捜査を進めるうちに、その内容が少佐の脳に残された過去の記憶を呼び覚ましていく。やがて少佐は、彼女の存在をも揺るがす衝撃の真実に向き合うこととなる!

原作:「攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL」(士郎正宗/講談社)
監督:ルパート・サンダース(「スノーホワイト」)
出演:スカーレット・ヨハンソン ビートたけし マイケル・ピット ピルー・アスベック チン・ハンandジュリエット・ビノシュ
配給:東和ピクチャーズ

公式サイト:
http://ghostshell.jp/