北ヨーロッパに位置するデンマーク。ロイヤルコペンハーゲンなどの有名陶磁器メーカーや、おしゃれな雑貨などのイメージも強い、北欧諸国の一つです。そのデンマークで、もともと建築現場で働きながら、プロのサーファーを目指していたという異色のキャリアを持つのが、マーチン・サントフリート監督。監督の仕事においては「エンターテインメント以上のものを作る」ことが大切と考え、最新作では知られざる歴史をテーマに描きました。舞台は第二次世界大戦終結後のデンマーク。ドイツ軍の占領時代に、連合軍の上陸を防ぐために埋められた大量の地雷の除去に、ドイツ人の少年兵が動員されていたという史実を題材にしています。残酷な真実に向き合いながらも、どのように人と人との関わりを描いていったのかなど、お話を伺いました。

監督の仕事は「エンターテインメント以上のものを作る」こと

もともと建築現場で働きながら、プロのサーファーを目指していましたが、プロとしてやっていくのは厳しくて、15年のサーファー生活を経て、だんだんサーフィンの競技会を記録する立場になりました。その頃から脚本を書き始めたので、小さな頃からずっと監督になりたかったわけではなくて、ゆっくりと映画の世界に関わっていった感じでしたね。

監督の仕事は「エンターテインメント以上のものを作る」ことだと思っています。もちろん、純粋にエンターテインメントの映画も価値があると思いますが、私は子どもたちや自分が楽しんだ先に考えさせられるとか、何かを学ぶということが大切だと思って作っています。

そして、作品には、自分の中で大切なものが現れています。例えば私の映画には、どれも父親像、父のストーリーが出てきます。それは私が早くに父を亡くしたので、父を恋しく思う気持ちが表現されているのだと思います。それを私独自の「エンターテインメント以上のもの」として観客に届けています。

デンマークは小さな国なので、監督はほとんど友達ですが、個々ユニークな視点を持っています。日本でいう漫画原作の映画化が盛り上がっている、というようなトレンドとしては捕えにくいのですが、全体的にアメリカ映画が多いので、もっとデンマーク映画を見せる環境が欲しいです。日本映画も、もっと見られる機会があれば良いですね。

デンマークの海岸に隠された残酷な史実を映画化

(C)2015 NORDISK FILM PRODUCTION A/S & AMUSEMENT PARK FILM GMBH & ZDF
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映画を作ることで何かを学びたいという気持ちがある中で、今回の『ヒトラーの忘れもの』では人間がどうやって、人間を扱うべきなのか、恐怖とはどう働くものなのかということを学びました。ドイツ軍の占領時代、連合軍の上陸を防ぐためにデンマークの海岸に埋められた大量の地雷除去に、ドイツ人の少年兵が動員されていたという、暗い歴史を知ることが大事でした。

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このテーマを選んだのは、あまり知られていない史実だから、という理由が大きいです。デンマークも、他の国と同じように、自分の国の良いところばかりを伝えたがります。ユダヤ人の、スウェーデンへの逃亡をどれだけ助けたか等の美談ばかりを伝えたがりますが、デンマークにも暗い歴史があります。

それを語ることで、史実から学ぶことが大切と思いました。でも、悪いことがあったと指摘するためにこの映画を作ったわけではなくて、むしろそのジレンマを描きたかったんです。何か嫌なことをされた時に、相手に憎悪の感情を抱くことは理解できますが、「目には目を」の精神では、うまくいかないことが分かると思います。そのような復讐の気持ちばかりを抱いていたら、モンスターを捕まえたつもりが、自分がモンスターになってしまうので、お互いに尊重し合って付き合っていくことが大切、ということを描きたかったんです。

(C)2015 NORDISK FILM PRODUCTION A/S & AMUSEMENT PARK FILM GMBH & ZDF
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歴史の検証では、あまり文献がなく、リサーチしなければいけなかったのですが、リサーチ自体はいろいろなことが分かり興味深かったです。ただ、それをどうやって映画に盛り込んでいくかには悩みました。例えば、軍曹が少年兵たちに腕を組ませ海岸を歩かせて、地雷除去が完了しているかを確認させる“死の行進”は実際には最初から行われていたそうです。でも、この映画では、最後の方で初めて描いて、罰としての意味合いを持たせ、さらに少年兵たちと心を通わせかけていた軍曹が、頑なな態度に戻ってしまう、そのキャラクターの変化を表すために使いました。そのように歴史的事実をどうやって映画に盛り込むかは楽しみでもあり、大変なことでもありました。

そして一番考えたのは、ネジを回すだけの単純作業である地雷除去を、どう面白く見せるのか、ということです。しばらくすると観客は、この少年兵たちは皆死んでしまうのではないかと思うのですが、いつ、どう死んでいくか分からないことでスリラーやホラーの要素が入って、観客を惹きつけることができるのです。

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東京国際映画祭でも高い評価を受けた少年たちの演技

本作は2015年に行われた第28回東京国際映画祭のコンペティション部門で上映され、最優秀男優賞を受賞しました。
最優秀男優賞は地雷除去の任務にあたる少年兵たちの監督を務めるラスムスン軍曹を演じたローラン・ムラと、ドイツ人少年兵の一人で、物静かで思慮深いセバスチャン・シューマンに扮したルイス・ホフマンのW受賞となりました。

(C)2015 NORDISK FILM PRODUCTION A/S & AMUSEMENT PARK FILM GMBH & ZDF
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ルイス・ホフマンは1997年生まれで、いわゆる新世代です。私にはドイツ人の弟や妹がいて、ナチスのことや、第二次世界大戦時の自国の行いに罪悪感を抱いています。でも、彼らは、その弟たちより若い世代で罪悪感もなく、年中自撮りしていて(笑)英語も上手な新世代です。

ただ、撮影現場が、まさにその地雷が埋められていたデンマークの海岸だったので、その現場で史実を話してから撮影をスタートしました。そこで、ドイツ人少年兵として制服に身を包んだことで気持ちの動きがあったのかもしれませんが、彼らにとってはドイツ兵としての罪悪感を抱きながら、デンマーク人に使われる役どころというよりは、自分たちに辛くあたってくるデンマーク人の軍曹に対しての演技だったと思います。

ルイス・ホフマンをはじめ、少年たちは皆、無垢で、頭が良くて、良い子たちで…その子たちと接することで、少年兵に地雷除去をさせたというのは、本当に酷いことだったんだと改めて実感しました。

とは言っても、私も10代の時はそうでしたが、彼らも映画作りよりは女の子と飲み歩く方が楽しいので、撮影が終了したら地元の女の子たちと飲み歩いていたようです(笑)

時には謙虚さを取り払った自己主張を

これから映像制作に携わりたいという方に対しては、とりあえず飛び込んでやりなさいと伝えたいです。今、日本で新作『The Outsider(原題)』の撮影をしています。本作とは全く違うタイプの映画ですが、血みどろで暴力的で、そして詩的な映画です。舞台は第二次世界大戦後の大阪。主人公は、戦後のトラウマを抱え、原爆や朝鮮戦争への罪悪感も持っていて、母国に帰りたくないと思っているアメリカ兵(ジャレッド・レト)。そのアメリカ兵が浅野忠信さん演じるヤクザの一員と仲良くなって、ヤクザ社会に入り込むところから話がスタートします。

日本で撮影をしていても、日本は美しい国だと実感しますし、とても楽しんでいます。礼儀正しい方、謙虚な方が多く、助けられることもあります。ですが、ものづくりにあたっては、時にその謙虚さを取り払わなければいけないと思います。「隣の奴より、俺の方ができるぜ」という気持ちを持たないと、映画を作る時のお金を集めたり、スタッフや俳優を集めたりということができないと思います。そうやって自己主張してやったことが、大きな結果に繋がるかもしれません。


作品情報

『ヒトラーの忘れもの』
12月17日(土)より、シネスイッチ銀座ほかにて全国順次ロードショー

(C)2015 NORDISK FILM PRODUCTION A/S & AMUSEMENT PARK FILM GMBH & ZDF
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配給:キノフィルムズ

脚本・監督:マーチン・サントフリート
出演:ローラン・ムラ、ミゲル・ボー・フルスゴー、ルイス・ホフマンほか

http://hitler-wasuremono.jp/