CMディレクターとして活躍する永井聡監督が、『ジャッジ!』に続いてメガホンをとった監督2作目が、佐藤健さんと宮﨑あおいさんの共演作『世界から猫が消えたなら』です。本作は、『悪人』や『モテキ』、『バクマン。』などを手掛けてきた東宝の名プロデューサー、川村元気さんの同名ベストセラー小説の映画化作品で、『いま、会いにゆきます』などの岡田惠和さんが脚本を手がけた、切なくも愛おしい人間ドラマです。永井監督へのインタビューでは、CMディレクターならではの映画作りや、出会いの大切さの話が飛び出し、興味津々!バイタリティーあふれる素顔が好感度大でした。
■ デザイナーを目指して美大へ。そこからの方向転換がカギに
もともと絵が好きで、将来デザイナーになりたいと思って美大に行きました。でも、受かったのが映像学科だけでした。せっかく受かったので行ってみたら、写真やムービー、コンピュータなど、映像に関するものを全般的にやる学科だったので、そこで初めて映画を真剣に撮り出したんです。学校の課題から始まり、8mmフィルムやポータブルビデオで映像を撮っていくうちに、もっと大きいことをやりたいと思い始めました。
実は、映像業界で“監督”としていちばんデビューが早いのが、CMの監督なんです。手っ取り早く監督として一本立ちできるかなと思い、それでCMの世界に入りました。いまでも絵が好きなので、ほとんどのカットで、絵コンテを描きます。その頃、CMディレクターから映画に行く人たちが増えてきまして。ああ、こういう道があるんだと気づき、そこに照準を合わせてアピールしていきました。
いろんな人に「いつか映画が撮りたい」と言いまくっていましたが、撮れたことはラッキーだと思います。ただ、CMの監督が映画を撮ることについて、まだ、受け入れられない人がいるというか、すこしうがった見方をする人が現実には多いので、そこのハードルは超えたいなと思いました。
僕は、まずは役者の芝居を撮りたいです。良い映像や美しい映像は、CMでさんざん撮ってきたので。もちろん自然にそういう映像が撮れると良いなあとは思っていますが。
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■ 初の原作ものの映像化で、アレンジに挑戦
『世界から猫が消えたなら』のオファーをいただいた時は、大役が来たなと思いました。僕は、長編を1本しか撮っていなかったので、いわゆる“抜擢”なんだろうなと。それだけ期待してくださる人たちがいるので、なんとか応えたいなとも思いました。
川村元気さんから直接オファーをいただいた時、とにかく1から変えてほしい、アレンジし直してほしいというリクエストが入りました。そこは、自分の出番かなと。自分はまだ新人だから、枠にとらわれないし、CMで培った新しい考え方もありますし、ちょっと変わった映画にしたいんだろうなという意図は読み取れたつもりです。実際、オファーをいただいた時、簡単なプロットはありましたが、今はまったくその原型は留めていません。
原作を最初に読んで、面白かったというところと、感動したところだけを残しました。変えよう、変えようというよりは、自分が受けた印象をそのままやったという感じですね。
長編映画は『ジャッジ!』を1回撮っているので、その経験があるから、少しは楽になるのかなと思っていたら全くそうではなく、次から次へといろんなハードルが現れてきました。前作は、わりとよくわかっている広告会社の話だったから、勝手知ったるという感じで、いろんなものを全部説明できたんです。でも、今回は、自分が全く経験できないファンタジーの世界だったので、難しかったです。
ロケ地は函館で撮るけれど、函館に見えてはいけないとか、いろんなファンタジー要素があったので、そこは苦労しました。もちろん、そこが面白くもあるんですけど。また、余命わずかという主人公の体験もしたことがないので、そこを演出することは、たとえば自分の家族が死んだ時のことなど、嫌なことと向き合わないといけない瞬間があり、大変でした。
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■ CMディレクターならではの強みやスキルを活かすこと
いちばん、CMで培ったスキルが活かせたと思ったのは、VFXの部分ですね。CM制作では最新のVFXの技術を知ることができるし、様々なチャレンジができるんです。そういう知識があったことが今回は大きかったです。
佐藤健くんが彼自身と2人で話したり、ものが消えたりと、ちょっとハードルが高いことを、みんなでコミュニケーションを取りながら、上手く表現していくというのは、CMをやってきたからこそできたことかなと。また、こういう感動する良い話の映画は、どうしても尺が長くなっちゃうと思うんです。でも、僕はCM監督なので、良いのか悪いのかはよくわからないですが、なるべく短く切るという考え方なんです。だから、全体の尺(103分)を言うと、びっくりされるんですが、僕も短いものが好きなんです。
ものを消していくという作業は、いちばんハードルが高かったです。文字だと「消えた」でおしまいですが、映画でしか語れない何かを見せたいと考えた時、消える瞬間や消え方は、ちょっと気になる部分ですよね。そこは少しこだわって、いろんな表現をしてみました。
あと、消えた後の世界が、主人公の僕にとってどう変わってしまうのかを描くという点も、大きなハードルでした。原作では、消えた世界はさほど変わっていなかったのですが、映像では、今までとは違う消えた世界を、はっきり分かるように表現しないといけなかったので。だから、“記憶”という要素を入れ込んだ感じです。
それは、脚本の岡田(惠和)さんが考えてくださいましたが、それが決まってから僕もやっとエンジンがかかったという感じでした。それまでは、上手くいかないんじゃないかと本当に思いましたから。今回は、プロデューサー陣も含め、みんなでアイディアを出し合えたところが良かったです。
■ 考える時間を行動に移す時間に変えることで縁が広がる
これからクリエイターを目指す方には、とにかく考える時間を少なくして、その分、行動に移す時間を作ってくださいと言いたいです。また、たとえ無駄だなと思っていても、いろんな人に会っていくこと。そこから、人と人との縁が生まれますから。
今回もそうですが、人とのつながりがあったからこそ、オファーをいただけたんです。実は、会ったこともなかった川村さんから、以前、飲みに誘われたんです。僕のCMが面白いから1回飲みたいです、と言われて。もちろん、その時、断ってもいいんですが、ちょっと行ってみるかなと思って行きました。
飲みに行った時、最初の質問は「なんで映画のプロデューサーなのに、CM監督と飲むんですか?」というものでした(笑)。それで会っていろいろとお話をした後、「いつか仕事をしましょうね」と言ってくださいました。そこから1年は経っていますが、実際にオファーをいただけたわけで。今回の仕事は、あの時、会っていたからこそ、実現した話なんです。
僕は、やりたいことを見つけたら、あまり悩んだり考えたりはしないです。「いつか自主映画を撮りたい」と思ったら、失敗しても良いから明日撮ってみる。また、「自主映画が撮りたい」とプロデューサーに言ってみるというのもアリです。口に出して言っていかないと、時間ばかりが経ってしまいますから。
一時期は、体調が悪くても呼ばれたら飲み会は必ず行っていました。それこそ売れっ子ホストみたいになっていましたね(苦笑)。でも、そういう縁が大事なんです。Facebookとかだけではつながらない縁がありますから。
縁があれば、こういう作品を作る時も、誰かが助けてくれるんです。今回、CMでずっと一緒にやってきたスタッフたちを集結してやりました。そういう人たちがありがたいことに、ボランティアな金額でやってくれたんです。実際、火の車でしたが、それも人との縁あってこそで、そういう人たちも大事にしていきたいです。
あ、今日はスタッフを集めての飲み会なんですが、全額、僕が払います。それも書いておいてください(笑)。
■作品情報
『世界から猫が消えたなら』
5月14日(土)、全国ロードショー
【物語】
突然、脳腫瘍で余命わずかだと宣告された30歳の郵便配達員の青年(佐藤健)の前に、彼と同じ姿をした悪魔が現れる。悪魔は青年に、大切なものと引き換えに1日分の命をくれるという。電話、映画、時計など、青年にとって大切なものが次から次へと消されていく中、青年はかつての恋人(宮﨑あおい)と再会し、過去に思いを馳せる。また、親友(濱田岳)や疎遠になっていた父(奥田瑛二)、亡き母(原田美枝子)の思いにも触れ、青年はある決断を下す。
原作:川村元気「世界から猫が消えたなら」
監督:永井聡『ジャッジ!』
出演:佐藤健 宮﨑あおい 濱田岳 奥野瑛太 石井杏奈 奥田瑛二 原田美枝子
配給:東宝