タブーを厭わない、常識を破壊したワイドショー『5時に夢中!』(月曜~金曜 夕方5:00時から生放送)、番組プロデューサー丹波氏(TOKYOMX)がクリエイティブビレッジのインタビューに登場!
マツコ・デラックスさん、ミッツ・マングローブさんを世に送り出した同番組、15年前から“本音のコメント”に需要を見出し、SNSと距離を置く独自路線、その尖りまくった戦略の裏側とは?
丹波 忠寛(たんば・ただひろ)
番組プロデューサー
1983年生まれ 放送本部 制作局 制作一部
大学卒業後、2007年TOKYO MX入社。
入社以来「5時に夢中!」の制作に携わり、営業局勤務を経て2020年4月より現職。
視聴者の欲求「タレントの“本音”を聞きたい」
――『5時に夢中!』を観たことが無い読者もいるかと思いますので、まずは番組の話をさせてください。一見、ただのワイドショーなのですが、よくある出来レース的な構成ではなく、何が起こるか分からないヒヤヒヤ感のある番組になっていますね。
『5時に夢中!』は番組開始当初から一貫して、エッジの利いたコメンテーターの方々の発言が持ち味のワイドショーです。嘘が無いというか建前じゃないというか、ゲラゲラ笑うユーモアだけじゃなくて、いろんな感情が番組内にウジャウジャしているんです。
いろんな人のコンプレックスとか悩みとか、喜びとか悲しみとか苦しみ、おかしさが詰まった何かが、コメンテーターと制作側から滲み出てきた。それらが得体の知れない面白さの正体であり、長く続いてきた理由なのかと思います。
情報番組なので重大なニュースも取り扱いますが、最大の魅力は「どうでも良いような話」をしているときに「世の中の真理」を突いた発言があることです。また、こちらが用意したトークテーマから話が大きく脱線してしまうことも良しとしているので、全体的に”遊び”があるのも番組の特徴かもしれません。
――「予定不調和性」と「本音感」、15年も前から続く番組にも関わらず、かなり“今っぽい”作りです。この番組のスタンスはどのようにして考えられたのでしょうか?
スタッフ数も制作費も限られた中での制作でしたので、テーマの切り口に工夫を凝らして、「コメンテーターの魅力を前面に押し出したトーク」を展開してもらおう、というコンセプトに辿りつきました。
それが、従来のテレビ番組的な「制作側の意図がゴリゴリな手法」からの解放に繋がったんだと思います。振り返ると時代の流れにフィットしていたのかもしれません。結果論ですが。
「出演者が“自分の意志”でコメントしている番組を観たい」という欲求が、ここ10年で視聴者側に芽生えてきたように感じます。ここ数年、他にもそういう番組は増えてきました。
――限られたリソースで最大の面白さを目指した結果、このコンセプトが生まれたんですね。ところで『5時に夢中!』は何名のスタッフで制作されているのでしょうか?
帯全体(月曜日~金曜日)で総勢30名~40名ですね。キー局の10分の1ぐらいの人員だと思います。
どうせ誰も観てないし、好き勝手やろう(笑)
――2005年から続いている番組ですが、ターニングポイントはあったのでしょうか。2012年にはテレビ業界の大きな変化の1つとして地デジ化がありましたが。
おっしゃる通り、デジタル移行(※)は大きな変化でした。
当社の事情で言うと、スカイツリーからの送信に移行したことで、生投票の投票数や寄せられるメールの数などから、視聴者が格段に増えた実感がありました。
それまでは「誰も観てないだろうから、好き勝手やろう!」みたいな学級放送的なノリを大事にしていたのですが、その頃から「実は結構観られている」という意識が芽生えてきました。
それまでスタッフの内面に潜んでいたモチベーションや責任感が、よりハッキリと浮かび上がってきた瞬間でした。
――キー局と横並びになることは、番組として大きな変化だったと思いますが、番組の内容や路線が大きく変わってしまうことはなかったのでしょうか。
それはなかったですね。
――え、それは何故でしょう。「結構観られている」意識があると、焦って大衆向けに番組内容を変更してしまいそうですが。
なんででしょうかね(笑)やはり制作費やマンパワーで制約が多かったことも関係しているのかもしれません。 あと会社も大目に見てくれてたのかな、と。(笑)
番組の内容に関して、外から「番組をこう変えろ」とか「こういうテイストにしろ」と言う声も聞こえて来ることはありましたが、歴代のプロデューサーが番組の核心を守りながら発展させ続けて来た。その心意気は私で途絶えさせてはいけないと思っています。
コロナ禍で変わるテレビ
――とはいえ昨今はテレビ業界を取り巻く状況の変化が激しいです。YouTube、ネットテレビの登場、SNSの流行、番組にはどのような変化が求められているのでしょうか?
コロナ禍の世情に鑑みて番組の構成をマイナーチェンジしました。
例えば、夕刊紙の紙面を元にトークする「夕刊ベスト8」というコーナーがあったのですが、コロナ禍を機に危機感を煽る紙面が増えたため、ニュースソースを夕刊紙に限定するのを辞めました。切迫感のある天下国家の大きな話よりも視聴者の小さな日常に寄り添ったネタを扱うように変えています。10数年も続けてきたやり方を変えるというのは、番組にとって大きな出来事でした。
――直近も番組内で「初デートでお店を予約していない男ってどう?」という身近な話題でトークするコーナーがありましたね。
そうですね。身の回りで気になっていることを楽しく話そうよ、という考え方ですね。
――昼間(12:00~18:00)のテレビ視聴率が上がっている傾向もあるようですが、新しい生活様式によって自宅にいる人が増えたことに関してはどう捉えていますか?
生活スタイルが変わったことによる番組への影響はちょっとずつ出てきていると感じます。『5時に夢中!』のメイン視聴者は主婦層だったと私たちは考えていて、そういった方々の日頃のストレスや日常生活で溜まっているモヤモヤの“捌け口”としても親しまれている番組なのかと思っています。
ただ、在宅勤務が当たり前の世の中になってくると、従来のように主婦の方が一人で観ている番組ではなくなって行く可能性があるので、視聴者の反応を見ながら、少しずつ内容の変化を検討する必要があると考えています。
“大衆”ではなく、“ひとり”に向けて作る
――“捌け口”という意味では、若年層はSNSという場がその役割を担っていたりもしますが、多くの主婦の方はそうではないので、その分『5時に夢中!』への比重が高まっている気がします。また、同番組が程よくSNSと距離を置いているのも興味深いです。
あんまりこう…新しいモノに寄せすぎない、という意識はありますね。
ちょっと古いというか、洗練されすぎないという感覚は大事にしています。
――新しいモノに寄せすぎない、についてもっと聞かせてください。それは何故ですか?
番組を見て頂いている方たちの感覚と合致しないんだと思います。洗練されることによって、世の中のメインストリーム然とする感じは番組になじまないと感じています。
――最近は制作側も戦略的にSNS受けを狙ったり、視聴者側もタイムラインに投稿するネタ探し目的でテレビを観るようになってきたかもしれません。それは「テレビを観ながらSNS」ではなく、「SNS のためのテレビ視聴」になり、主従関係が逆転しているような気もしてきます。
昔のテレビは日常会話の種でした。今はその日常会話の地平がSNSに移行しているんだと思うんですが、なんかSNSだと広がり過ぎちゃって大事なコトが散漫になっている気がするんです。
SNSを活用して番組を知ってもらったり、若い視聴者を巻き込んでいくということは局として積極的に行っていくつもりですが、、SNS受けをあえて狙う番組というよりは、昔ながらの「あの番組を見た?」という日常会話的な感覚の方が番組の個性に合っていると思います。FAX番号も、葉書の宛先もいまだに公開している番組なので。
――たしかに、番組の感想がSNSに書き込まれただけで忘れられてしまうのは、使い捨てというか“消費”されているだけな気もしてきます。
テレビの見方は時代や人によってそれぞれなので消費されることが一概に悪いとは断言できませんが、私の場合は、番組を観て感情が揺らぐような感覚を受け取って欲しいな、と思いながら作っています。ワイドショー作ってるだけなんですがそう思うんです。
うちの番組ってよく「ラジオ的だ」といわれていて、ラジオって番組を聴いている“あなた“に向けて呼び掛けるように作るので、『5時に夢中!』もテレビの向こうの”あなた“に向けて情報を発信する感覚を大切にしています。
大勢に向けて流しているテレビではありますが、あえて「大勢を相手にしている感」を消しているというか… 実際、制作側の考え方も本当にそうだと思います。
番組を作っているスタッフの頭の中に、実家にいるお母さんだとか、近所のおばちゃんとか、昔付き合っていた彼女とか、それぞれの“あなた”がいて、全員がその“あなた”に向けて番組を作っている気がします。
TOKYOMXには“極端な思考“が集まる
――お話を伺っていると丹波さん自身も番組と同じくらい個性的だと感じました(笑)。昔からそういうタイプだったのでしょうか?
元々こうでした(笑)というか極端な思考の持ち主しかこのテレビ局に入らないと思うんですよね。TOKYOMXって業界の中でもかなり極北にいる存在ですし、そもそも昔は「誰が観てるのか分からないテレビ局」状態でしたから。
東京タワーから電波を出力していた頃は特別なアンテナを立てないと映らない場合もあって、知る人ぞ知るテレビ局というか「これって本当に存在しているテレビ局なのか?」とか「このテレビ番組は、果たして現実に起きていることなのか?」という感覚でした。すみません、これ編成的に完全NGな話ですね(笑)。
――めちゃくちゃ面白いです(笑)個性的な才能が集まるTOKYOMX、少数精鋭ということもあり、業界人としての能力はかなり鍛えられそうな環境ですね。
制作に関しては、早い段階でかなりの能力が身に付きます。出演者との距離も近いですし、限られた人数で、自分で手を動かして構成、ロケ、編集、生放送のスタジオ仕切りなどを行うので、テレビ番組を作るという観点では成長できる環境だと思います。
――映画にせよ、YouTubeにせよ、どの業界に移動しても、映像制作の経験は活かせそうですね。
僕は入社して3ヵ月後に「コーナーのVTR作れ」って言われました。「できねえよ」と思いながらも泣きながら作りました(笑)黙っていても夕方5時はやってくるので(笑)
テレビに必要な人材が変化してきた
――これからテレビ業界にはどのような人材が必要とされていますか?また、それは数年前と変化はありますか?
テレビ業界にもいろんな側面があるので一概には言えません。ただ制作界隈の話で言うと、僕が入社した当時は、まだ映像メディアも限られていたので、「世帯視聴率を取る番組」や「豪華な芸能人が出る華やかな番組」がまだ隆盛で、どれだけ胆力があるか、どれだけ業界で顔が広いかといった、求心力や豪快さにテレビマンとしての憧れがあった気がします。
「視聴者のいる世界とは遠く離れた、夢の世界を見せるテレビ」の理屈です。
もちろん、今でもそういった番組も人材も求められていますが、テレビをめぐる状況はこの10年で確実に変わりました。インターネットや多様な映像メディアの普及によって、視聴者にとってテレビが「遠い華やかな世界を見せる貴重な大衆のエンターテイメント」ではなくなってしまったいま、テレビはより視聴者の傍にいることで生きていくのではないかと思います。
これからのテレビ業界が必要としているのは、よりミクロに“あなた”の心を打ち、寄り添える人材だと確信しています。そんな時代がマツコ・デラックスさんを求めたのは、とても腑に落ちるのです。
――意外です。テレビは不特定多数に情報を一斉配信できるのがウリだと思っていたのですが、それがもう変わってきているんですね。
そうですね。今は「リビングで夕飯どきにテレビを観る」的な画一的なライフスタイルから視聴者が離れていて、生活の中にテレビが組み込まれていた時代が終わりかけています。
また、広告主は視聴者層をより細分化して見るようになり、それにともなって番組に求められている共感性(ターゲット)も細分化されてきています。テレビ業界全体が脱皮しなければなりません。
「5時に夢中!」は、“あなた”に向けて発信してきたと思っていますが、これからはテレビ業界全体でそれが求められていくのではないかと思います。 他局の番組を見ても、既にそうなっていますが。
――キー局の方にもネットテレビ界隈の方にもできない、丹波さんだからできる視点のお話ですね。最後に冗談みたいな質問ですが主要キー局の方が目の前にいたら、何と声を掛けますか?
「50年後もお互い生きていようね」ですね。もちろん冗談ですよ(笑)
――(爆笑)。本日はありがとうございました。
取材・ライティング:小川 翔太/撮影:SYN.PRODUCT/編集:田中 祥子(CREATIVE VILLAGE編集部)
現在C&R社で扱っている番組プロデューサーの求人はこちら