2016年に開局してわずか4年3ヵ月でアプリは5,900万DLを突破し、週間利用者数1,000万人越えが定着しているテレビ&ビデオエンターテインメント「ABEMA(アベマ)」。
その中でも”報道リアリティーショー”をコンセプトに掲げ、『アベプラ』の通称で人気を博す夜帯のニュース番組『ABEMA Prime』を手掛けるチーフプロデューサー郭晃彰氏がついに登場!『アベプラ』は勝ちパターンに入ったのか?クリエイターが尖った企画を通すコツとは?そして本音全開のインタビューはまさかの展開に!とにかくご覧ください。
郭 晃彰(かく・てるあき)
チーフプロデューサー
1987年12月31日生まれ。株式会社テレビ朝日に2010年に入社。早朝帯番組でAD、Dを3年間務めた後、社会部に異動。国土交通省、海上保安庁、気象庁を担当。
東日本大震災から5年の節目では、ドキュメンタリー番組「その時、『テレビ』は逃げた~黙殺されたSOS~」を制作。同番組は、NewYorkFilmFestivalに入賞。
2016年の「ABEMA」開局に参加、夜帯のニュース番組『ABEMA Prime』のチーフプロデューサーを務める。
制作者サイドも“ガチ“じゃないと怪我する
――尖ったコンテンツが多いアベプラですが、ここに来てある種の勝ちパターンにも入ってきたように思えます。アベプラの立ち上げ期から関わってきた郭さんとしては、当時と比べるとやりがいや新鮮さに欠けたりはしてませんか?
確かに、この4年間で出演者も入れ替わって、かなり多岐にわたるテーマの企画を放送してきたので、ある程度は完成されてきたのかもしれません。
でも、なんだろ…アベプラの台本にはコメンテーターの皆さんのコメントは一切書かれていないんです。僕が毎日アベプラをやっていて楽しいのは「この人はこう言うだろうな」と予想して番組を構成しているんだけど、全く予想していなかった発言をコメンテーターの方がされたりするんです。
そうやって新しい視点をもらえるのが一番の刺激ですね。番組として完成しつつあるけど、まだまだバージョンアップできるし、これからも新しい論客を開拓していきたいと考えています。
――ここ最近、郭さんが特に「面白い!」と感じたコメンテーターは誰でしょうか?
最近では、木曜MCのEXIT兼近さん。言葉の重みが増してきてるなと感じますね。
以前、兼近さんが“親の離婚”の話題について「子どもの立場からすると、自分のせいで親が苦しむ姿を見る方が正直キツイ。自分の親には好きな恋愛をして欲しいって、子どもは思うと思う」と発言されて「おお!そっちからいくか」と驚きました。その発言には、兼近さんのこれまでの人生とか苦労が詰まっている気がして…。
――発言の説得力や重みが違うというか、リアリティを感じますね。
リアリティは大事だと思っています。これまでの自分の人生全てを曝け出すつもりで全身全霊込めてコメントをしないと、発言は目立たない。その真剣さは制作者側にも求められていて、「郭さんはこのテーマをどういう気持ちでやってるんですか?」と聞かれますし、テーマを置きにいっていない分、制作側も覚悟して臨まないと怪我をしますね。
結局は“夏野さん&ひろゆきさん“に頼っている
――アベプラを見ていると、どことなく懐かしさを感じるというか、何となくニコ論壇を思い浮かべます。ニコ動全盛期にあったようなネットでの言論空間の構築に、アベプラは再挑戦している気がします。
確かに!ニコ論壇(※)の中心にいた方々とはアベプラでもお仕事していて、同じ雰囲気は感じます。目指したというわけではありませんが、ネットで言論空間を作るとなると、やがてはニコ論壇に行き着く気はします。
ただここで僕らが反省しなければならないことがあって、結局のところ夏野 剛さんとか、ひろゆきさんに頼ってるんですよね。カワンゴさん(川上 量生)も番組に出て頂いた時に、めちゃくちゃ面白かったんで、ニコ論壇世代の方々は知識も深くてやっぱりすごいです。
アベプラが次のネット言論界のスターを発掘する役割を担わなければならないのに、まだ出来ていません。
※ニコ論壇とは
ニコニコ生放送の公式番組のうちの言論・文化系の番組の総称。2010年6月からスタートした「ニコ生トークセッション」(西村博之氏がゲストと対談する番組)が発端となっている。
様々な論客がユーザーとコメントを通じ、政治、経済、社会問題、思想、文化、文学、サブカルチャーについて議論を繰り広げた。
――あの世代の論客はめちゃくちゃ面白いですよね。確かに今のネットコンテンツはニコ論壇時代の遺産に頼ってる部分はあるかもしれません。
そうですよね…次世代の論客を発掘していかないと。これが一番の課題です。
――若新 雄純さんなど等、新たな論客の方は少しずつ出てきているように思えますが…。
あとは宇佐美典也さんとかハヤカワ 五味さんとか。ABEMAで仕事をしてなかったら、出会えてなかった人は多いと思います。
ちなみに出演者の皆さんとは日常的に連絡をしていて「この人、面白かったんで番組でぜひ」とか「この話題はアベプラっぽいよ」とか色々教えてもらってるんです。
そこはネットコンテンツっぽいというか、出演者と制作側に境界がなく、みんなで作ってる感じが楽しいです。
ネットコンテンツには“熱量”がとにかく大事
――アベプラのような、尖った企画を売り込むとき、クリエイターは“熱量”と“ロジック”どちらで訴えていくべきなのでしょうか?クリエイターは自分がどんなにやりたい企画があっても、目標数字や根拠を前にひれ伏すことが多いです。
ネットの場合は圧倒的に“熱量“です!”ロジック“はその次だと思います。地上波は…ロジックかもしれない(笑)地上波の場合は、その時代やその時の、世間の関心と紐づいていないと企画が通らないんです。
僕が地上波にいたときに企画したヘアドネーションの取材も「こんな素敵な取り組みを応援したい!」だけでは企画が通らなくて、「本来捨てられる髪の毛がギフトになる」といった視聴者が気になりそうな要素、今だとSDGsと紐づけるとか、何かしら追加要素が必要だと思います。ただ、アベプラだと「俺はこれを伝えたいんだ!」という熱量を最重視して、GOを出してる。何故かというと、ネット上に似たコンテンツが無いというだけで“やる価値“があるからです。
ネットってコンテンツがアーカイブされていくので、初速の数字や反響が悪くても、後から観てもらえるかもしれません。まだ世の中に無いモノを作って、ゼロからイチを作る熱量さえあればいいんです。
――地上波もネットも経験されている郭さんだからこそ言えるそれぞれの特徴ですね。
そうですね。例えば、”吃音症”や、”チック症”、”トゥレット症”など、これまでアベプラで取り上げてきたマイノリティの方に関する映像は、ネット上にはありませんでした。
放送前に出来上がったVTRをプレビューした時、圧倒的にインパクトが強い映像ばかりで「これはどんな反響になるんだろう。でも、そのまま流そう」ってなりました。それが結果的にすごく”跳ねた”んです。熱量ドリブンで作ったコンテンツがネットで評価されたんです。
――数年後に観ても価値のあるコンテンツ作り、議論形式でニュースを掘り下げる手法は、最近話題のスロージャーナリズムを体現しているように思えます。
スロージャーナリズムについては、瀬尾 傑さんや宇野 常寛さんがされていますね。意識はしていませんでしたが、結果的に近いのものになっているのかもしれません。話題に飛びつきつつも、アーカイブされる価値のあるコンテンツにしたいとは考えてきました。
――アベプラはSNSやワイドショーのように事件の当事者に向けて石を投げるんじゃなくて、中立的な視点で議論が起こるよう企画が工夫されていますね。
芸能人のアルコールに関連した事件が起きた時には、アルコール依存症の方に実体験を話してもらって、みんなで議論しました。お酒の依存症って、違法薬物などと比べると「そんなの簡単に止められるでしょ」と軽く見られがちで、そこに特化したコンテンツがあまりなかったんです。「じゃあこの機会にやろうよ!」となりました。
ただアベプラを4年間続けてきても、薬物や自殺をめぐるメディアの課題は改善されていませんし、まだまだ世の中を変えられていません。そのもどかしさはあります。
報道で世の中を良くすることはできるのか
――アベプラが地上波ぐらいのマジョリティになると世の中を変えていくことに繋がるのでしょうか?そうなるとアベプラも地上波のように尖ったコンテンツが難しくなるかもしれませんし、今の地上波があるからこそ、アベプラが際立っているようにも思えます。
実はテレ朝の地上波でアベプラの企画を何回か流したことがあるのですが、視聴率を狙いにいった結果、思うようにいかなかったことがありました。
いつものアベプラらしく「今日はコレを見てくれ!」ではなく「地上波だとこれぐらいだったらウケるかな?」という考え方をしちゃったんです。合わせにいってもダメなんだなって反省しました。
――ネットコンテンツは全ての数字が見えてしまうので、WEB業界しか経験していない人ほど“数字優先“の思考に陥りがちなのかもしれません。「ネットはもっと“熱量“でコンテンツを作って良い」と今回の記事で多くの方に伝わって欲しいです。
そこは是非お願いします!熱量一本勝負で作ったコンテンツでも見て貰えることがあるし、評価されるんだ!ってことは多くの方に知ってもらいたい。
そういう成功体験って大半のクリエイターは得ていないと思いますし、テレ朝の若手社員にも伝えきれていません。
――熱量を持つことが大切だと知ったクリエイターは次のアクションとして何をすべきでしょうか。郭さんのように徹底的に現場を経験することなのでしょうか。
それか逆に、就活生ぐらいの時の自分に戻るとかですかね。めちゃくちゃピュアな想いで「コレをやりたい」って気持ちがあった頃に立ち返るのが重要。僕がアベプラやってる理由がそれなんです。大学のときにやりたいと思っていたことに近いし楽しい。
30代クリエイターの感覚がすでに古い?
――その郭さんが就活生だった当時の話を聞かせて下さい。当時(2010年前後)は丁度、ニコニコ動画やYouTubeなどのネットメディアが台頭してきた時期ですが、それでもテレビ局を選んだのは何か理由があったのでしょうか?
いえ、僕は当時めちゃくちゃアナログ人間だったのでニコ動とかYouTubeとか全然分からなかったんです(笑)当時、薬害エイズ支援者の会でインターンをしていた経験が大きくて、そういったマイノリティの方々の声を伝える側に行きたいと思ったんです。
――その後、テレ朝の地上波で災害担当の記者をされましたが、当時の経験もアベプラには活かされているのでしょうか。
情報の裏取りをすることの重要性は記者時代にすり込まれた感覚ですね。ネットでバズっている事柄を扱う際にも、一度立ち止まって情報の正確性を吟味する癖は、異動してからも活かされています。
――地上波からネットコンテンツに携わるようになって、気づいたことはありますか?
これまで視聴者の方の声に全然耳を傾けることができていなかったことに気づかされました。
世間の批判と向き合えていないし、既存の価値観で番組を作ってしまっている。
あとサイバーエージェントさんと仕事していて驚いたのですが、ABEMAが始まった当時のメンバーが4年経って、めっちゃ入れ替わってるんです。それぐらい皆さん新しいことに挑戦していく。転職した先でそれぞれ活躍していたりするので、それってシンプルに面白そうだなって思います。
――メンバーが頻繁に入れ替わるのも地上波との違いですね。特にアベプラは関わっている人達の感性がそのままコンテンツに滲み出てきそうです。
そうですね。そういう意味では、ずっと自分がアベプラをやっていて良いのか?と思ったりもします。自分の価値観や感性で番組を作らせてもらっている分、それもいつか古くなってくるんだろうなって思います。自分は今年で33歳ですが、25歳ぐらいの子にパスしてあげた方が良いかもしれない。お話していてそう感じましたね…。
――同じ人がずっと関わっているとテンプレ化して、古いものになってしまうんじゃないかってことですよね。
はい。あとアベプラは若い世代に支持される番組でありたいので、自分みたいな30代が作るよりも20代が作った方が刺さるコンテンツが作れるのでは?…と思ったりもしますね。
どうするかは自分らで考えろ!by中川 淳一郎
――最後に切実な質問をさせて下さい。私も30代ですが、確かにネットは価値観の移り変わるスピードが速く、既に感覚が古いかもしれないという危機感があります。これからWEB業界でキャリアを歩む30代クリエイターは何を考えていくべきなのでしょうか?
うーん…難しいですね、なんですかね(笑)
なんか今のネットって課題がいっぱいあるじゃないですか、誹謗中傷やPV至上主義とか。
この前、セミリタイアした中川 淳一郎さんに「その辺どう考えてるんですか!」と突っかかったら「そんなこと自分らで考えろ!俺らゼロから作ったんだからさ、そんなことまで俺らに背負わせんな!」っていわれて、半分プロレス・半分ガチみたいな(笑)
僕は「あんたらが作ったんだから最後まで責任とれよ!」って思ったんですが、中川さんにそう言われると確かにそうだなって感じたんです。
僕らはネットメディアの下地ができた状態から走らせてもらっているので、そこをどう整備するか考えるのがお前らの仕事だと言われたら、確かにその通りだと思うから…うーん、これって答えになっていないですよね。
――とんでもないです! 1つの質問にこんなにも真剣に悩んで頂いて恐縮です。郭さんが普段から真剣にコンテンツと向き合っているんだと感じました。
いやぁー、めっちゃくちゃ悩みますよー(笑)例えば「ニュースもDX化しなければならない!」って頭では分かってるんですが「いやでも、それって具体的にどういうことなんだろう?」とか。
動画配信サービス全盛の時代で、生放送のニュース番組のような “何が観れるか分からないモノ”に時間を使いたいとはみんな思わないですよね。じゃあ、ニュースとか報道の価値ってなんなの?って、いつも自問自答してます。なんだか…仕事の悩みを相談したくなっちゃいました(笑)
――(笑)最後はホントに本音盛り沢山なアベプラっぽい展開ありがとうございます。我々の世代がやるべきことは、40代の方々が切り開いたネット文化を少しでも舗装して次の世代に渡すことだと感じました。本日はありがとうございました!
取材・ライティング:小川 翔太/撮影:SYN.PRODUCT/編集:田中 祥子(CREATIVE VILLAGE編集部)