株式会社スパークが開発・販売を行う「SPARK GEAR」は、スマートフォンゲームでコンソールレベルの3Dエフェクトを制作するために生まれたツールです。Unity、UnrealEngine4といったミドルウェアに対応しており、すでに『SINoALICE』『CARAVAN STORIES』『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝』といった作品でも利用されています。

今回はそんな「SPARK GEAR」の生みの親であり、スパークの創始者・代表取締役である岡村雄一郎さんをインタビューしました。岡村さんと3DCGの出会いから「SPARK GEAR」制作の経緯、良いエフェクトの条件など、さまざまな話題を聞くことができました。

岡村 雄一郎(おかむら・ゆういちろう)
株式会社スパーク/株式会社スパーククリエイティブ
代表取締役 リードアーティスト
ゲームリパブリック、スクウェア・エニックスなどでVFXアーティストとして経験を積み、2015年に株式会社スパークを創業、また2017年には株式会社スパーククリエイティブを創業。
現在も数社のVFXアートのコンサルティングを行いながら、自らも制作を行いつつ、「SPARK GEAR」の普及に努める。Supremeが好きで派手な服装だが意外と真面目。

3Dとの出会いは『バーチャファイター』…独学を続けた学生時代

岡村雄一郎僕は子供のころからゲームが好きで、『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』を遊んでいるうちに、ゲームクリエイターになりたいという思いが芽生えました。そしてゲームクリエイターの中でも3Dに興味を持ったのが、セガサターンの『バーチャファイター』からです。この作品と出会ってからは、「どうすれば3DCGを作れるのか」しか考えられなくなって、高校1年の夏休みにはアルバイトで貯めたお金でパソコンとLightWaveを購入し、独学で3Dの制作を学びました。

大学では芸術を学んだ後に、CGの制作会社に就職しました。最初はCG制作が中心で、ゲームではなくテレビCMなどに携わる機会が多かったです。本格的にゲーム制作を担うようになったのはXbox 360やPS3がリリースされる頃でした。当時は坂口博信さんや水口哲也さん、岡本吉起さんがXbox 360に参入すると聞いて、ゲーム業界全体が進化する時期に来たと感じたんです。まずは岡本さんが当時設立したゲームリパブリックに入社して、リアルタイムのCGを制作することになりました。そこが僕のゲームクリエイターとしての始まりであり、リアルタイムエフェクトとの出会いです。

10年以上前の開発環境と言うと、BISHAMONやその前身であるブレンドマジックも出ておらず、自社ツールでの開発が主流でした。ゲームリパブリック内で使用するツールを作成することになり、この経験が後の「SPARK GEAR」制作のきっかけとなったのです。独立する前にはスクウェア・エニックスに在籍し、『ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア』の開発に参加する期間もありました。そこでも一からエフェクトツールを作成するプロジェクトに恵まれ、その経験は「SPARK GEAR」にも活かされています。

各社で経験を得た後に独立することになるのですが、そのときにはコンシューマーだけでなく、スマートフォンゲームも盛り上がりを見せる時期に差し掛かっていました。特に『拡散性ミリオンアーサー』を見たときには、技術が進化するスピードを目の当たりにしました。そこで、「SPARK GEAR」をスマートフォンに最適なエフェクトを出せるツールにしようと考えたのです。

SPARK GEAR
(C)SPARK Inc. All rights Reserved.「SPARK GEAR」は株式会社スパークの登録商標です。

「SPARK GEAR」最大の長所は生産性の高さ

「SPARK GEAR」はデザイナーが思い描く直観的なイメージを一気に制作できるエフェクトの統合環境ツールとして誕生しました。これを使えば、コンソールレベルのクオリティを持つ3Dエフェクトを、スマートフォンゲームで展開することが可能です。

ツールの開発を始めた当初から作るべきものの形が決まっていたのですが、一方でゲームメーカーの皆様に使っていただけるのか、契約を取れるのかという漠然とした不安もありました。実績のないツールを導入するのは難しい話ですし、僕が逆の立場でも躊躇すると思います。だから最初に導入を決めていただいたGameJeansさんの『オーディンクラウン』、スクウェア・エニックスさんとポケラボさんが配信する『SINoALICE』は本当に覚悟があったと思いますし、今でも感謝しています。

「SPARK GEAR」最大の長所は生産性の高さです。まずは新しいエフェクトを作り、ラーニングさせる必要はあるものの、一度ラーニングを施せば2回目、3回目のプロジェクトでもすぐに使用できます。継続して使えば使うほど開発が楽になる、それに伴いクオリティも上がる点はとても高い評価を得ています。生産性の高さは「SPARK GEAR」の開発中からこだわっていたポイントです。操作性の良さ、ウインドウ同士の遷移なども、すべて生産性を高めるために行った工夫なんです。

なぜこだわったか、それは日本のRPGの特徴が大きく影響しています。国産RPGを見てみると、海外のゲームと比較してエフェクトの量、エフェクトに頼る部分がとても多いです。これはスマートフォンのネイティブアプリでは特に顕著で、エフェクトに頼れば頼るほど、制作量も増していきます。クオリティラインを維持しながら、数を生み出せるツールは絶対に必要だと常に考えていました。

株式会社スパークもちろん「SPARK GEAR」の長所はそれだけではありません。Unityなどとリンクしてリアルタイムの転送が可能になっているほか、アセットライブラリも充実させてあります。火花やガラスの破片といったどのゲームでも使えるディテールは、テンプレート化して実装しているのです。

エフェクトに意味を持たせるツール

僕にとっていいエフェクトとは、ただ格好いいだけでなく、意味を持っていることです。エフェクトが派手なだけで、どんな物体なのか判断できなければ、面白さを掴むきっかけになりません。「風なんだろうな」ではなく、「風だ」と断言できるのが良いエフェクトだと思います。風は目に見えませんが、多くの人が持つイメージを具現化することが求められます。極端なことを言えば、具現化に失敗したらゲームとして成り立たなくなるかもしれません。

もうひとつ、スクウェア・エニックス在籍時に『ドラゴンクエスト』のVFXを担当する方に話を聞いたら、「エフェクトでもっとも大切なのは音だ」と言われて、それが今でも記憶に残っています。『ドラゴンクエスト』の場合、魔法を放つときの音はどの作品でも同じじゃないですか。その音から逸脱してしまうと、美しく見えなくなってしまいます。ゲームを象徴する音が存在するのであれば、その尺を絶対に守ること。そのうえでインパクトを与えることが重要です。

一方、エフェクトが抱える問題点としてはVRやMRへの対応が挙げられます。ゲームがモニターの中で完結しなくなった時代であり、エフェクトもそれに合わせて進化しなければいけません。VRのゲームだと、例えば目の前に炎があったら、その中に入れるはずです。しかし炎が立体感のない板状だったら、なんの意味もありません。またプレーヤー自身の目がカメラになるため、回転する角度も変わり、見え方もまったく異なります。「SPARK GEAR」の場合はVRならではの首の角度に合わせたビルボードシステムを入れて入るものの、より手軽に作れるようにすることは未来に向けた課題ですね。

SPARK GEAR
エフェクトは社内ツールで作るデザイナーが多かったため優秀な人材がなかなか現れないのが現状です。そこで現在、クリーク・アンド・リバー社との協業で人材開発を行い、エフェクトのクリエイターを育てることにしました。また「SPARK GEAR」としては、WebGLの分野や教育の場面でも使ってもらえるように普及を進めていきます。

学生の段階から「SPARK GEAR」に触れ、エフェクトを作る仕事を認知してもらう必要があります。僕は専門学校の講師を務めることもあるのですが、全国的に見てもエフェクトを中心に教える学校はほぼ存在しません。就職してから、初めてエフェクトツールに触る人がほとんどなんです。

エフェクトはテクノロジーの進化によって、作り方が日々変わっていきます。これはとても刺激的なことですし、学生時代から触ってもらえれば、将来の可能性も広がるはずです。現状の学生や若手デザイナーを見ると、Unityのアセットから購入し、試行錯誤している状態が多く見受けられます。しかし本来のエフェクトは形のないもので、ゼロから作り上げることが理想です。弊社としては「SPARK GEAR」のためだけでなく、エフェクトをとりまく業界全体のためにも教育への導入を進めたいと考えています。「SPARK GEAR」を覚えていれば、ほかのツールでも応用と転換ができるはずですからね。

インタビュー・テキスト:岸 由真/撮影:TAKASHI KISHINAMI/編集:CREATIVE VILLAGE編集部

企業プロフィール

株式会社スパーク
リアルタイムVFXの分野はエンジニアとアーティストの技術とセンスの二つ局面の融合から素晴らしいグラフィックスが創出されると思っています。
私たちは「SPARK GEAR」を開発をおこない、その両者のインフラを整備と技術開発、素晴らしいルックをアーティストが生みだす環境づくりを行っております。
Unity、UnrealEmgine4、Cocos2d-xや各種ゲームプラットフォーム、各種VR、WebGL等の多くのプラットフォームに対応し、リソースに関しての再活用や技術の転用等、プラットフォームに依存しないグラフィックの制作環境を構築することによって、企業やプロジェクトとしての技術成長に貢献できたらと思っています。

また弊社はスパーククリエイティブを設立し、VFX、スカルプティング、モデリング、アニメーション、エンジニアリングを統合的に制作できるVFXスタジオを併設し常に最先端のゲーム開発から未来に必要なテクノロジーに関して積極的に研究開発をおこなっております。