映像制作に使われる代表的なツールといえばAdobe After Effects。その中でもエフェクト作品を大量に公開し、業界では周知の存在である「バカ・アフター~Adobe After Effectsであそぼう~」というサイトがあります。
運営者でありエフェクトデザイナーである小山知宏さんは、アフターエフェクトに特化してキャリアをスタート。今回は小山さんにエフェクトデザイナーにまつわるお話を伺いました。


株式会社AE屋 代表取締役 小山 知宏(こやま・ともひろ)
大学卒業後、専門学校や独学でAdobe After Effectsを学ぶ。
その後映像制作会社に就職し、主にアフターエフェクトデザイナーとして番組のオープニングテレビ業界の映像などを制作。独立後はゲームのPVや遊技機映像のエフェクトなど幅広いジャンルで活躍する傍ら、個人サイト「バカ・アフター~Adobe After Effectsであそぼう~」で数々のアフターエフェクト作品事例を公開。業界内で知らない人はほとんどいない、というほど話題となっている。


【セミナー情報】
【遊技塾】バカ・アフターの中の人によるAfter Effects技術セミナー
2018年1月に、小山知宏さんを講師にお迎えした技術セミナーを開催!応募受付中!
日時:2018年1月17日(水) 19:30~21:30
会場:株式会社クリーク・アンド・リバー社 本社 2階
詳細・応募はコチラ→https://www.creativevillage.ne.jp/33798

ひとりで完結できるモノづくりがしたくて、アフターエフェクトを使い始めた

大学時代は哲学を専攻しながら趣味で動画を自作する、ちょっと変わった学生でした(笑)。
当初はゲームクリエイターを目指していたので、ツールを使ってRPGを作りコンテストで賞をもらったこともあったんです。

でも、続けていくうちにゲーム制作ってプログラムとかデザインに労力がかかりすぎるので、1人だと限界があるなと思ったことがあって。
映像なら尺を区切れば1人である程度できるかもしれない、そういえばアフターエフェクトってあったな……ということで、大学卒業後専門学校にも通いつつ、ほぼ独学でアフターエフェクトを学び始めました。

その後、就職活動時期になり、テレビ系の制作会社がアフターエフェクトを使える人を探しているということで、じゃあやってみようと映像制作会社に就職しました。
ロゴデザインや番組のタイトルのアニメーションづけだったり、ありとあらゆるものを作って鍛えられましたね。

最初から“アフターエフェクトデザイナー”という肩書きがあったわけではないのですが、他のソフトはかじったぐらいで結局アフターエフェクトに慣れてしまったので、自然とアフターエフェクトデザイナーになったという感じです。
会社員時代はテレビ業界なのでとにかく常に締め切りに追われるようなハードスケジュール。5年程勤務した後に自分のペースで働きたいと思うようになり、独立することになりました。

仕事から生まれた副産物の置き場としてサイトを開設

アフターエフェクトはまんべんなく色々できてしまうっていうのが魅力なんですよね。
例えば実写合成やモーショングラフィックス的なものに特化したいのであれば別の選択肢もあるけれど、実写、アニメ、その中でも色々なテイストのものに大体対応できてしまうので。

僕の場合は最初からアフターエフェクトに特化したかったわけではないものの、あれこれ手を出すとどれも中途半端になると思ったんです。仕事を受ける際も「何でもできます」っていうのはちょっと怪しいし、特化してたほうが頼みやすいんじゃないかなと。

独立してからはゲームのPVや遊技機映像のエフェクトなどをメインに制作していて、同時に個人サイト「バカ・アフター」にも作品事例をアップしています。
「バカ・アフター」は会社員時代から並行してやっていて、今年で開設10年になります。
元々は仕事で作品を作る際、色々実験するのに試した副産物の置き場として作ったサイトでした。

副産物の持っていきようがないからどうしようかな……これらをいっぱい並べたらおもしろそう……意味の分からない事例が大量に並んでいるのがグッとくるな、と思って作っただけなんです(笑)。
有名なサイトにしたいなんてことも全然目指してなかったので、開設当初は本当に身内しか見ないような趣味の一環でした。

アフターエフェクトだけで3Dモデリング!その物珍しさが人気のキッカケに

ほとんど知名度のないサイトでしたが、5年ほど前に3Dモデリングをアフターエフェクトだけでやって作例を挙げたらすごい反響があったんです。
あるタイミングのバージョンアップで平面が押し出せるようになったので、「これならロボットが作れる!」と思ってこの作品を作りました。

After Effectsで作ったロボ from BaKaAfter on Vimeo.

本来はアフターエフェクトでやることじゃないし仕事としては成り立たない作品なんですが(笑)、物珍しさでアクセス数が伸びたんだと思います。世の中に映像作品はたくさんありますが、アフターエフェクトだけでっていう括りがあることで分かりやすくなってみなさんが見てくれるんですかね。

アフターエフェクトのチュートリアルサイトとかがあっても、素材は3Dソフトで作られていたり撮影したものだったりっていうのが多くて“全部アフターエフェクトだけで作りました”っていう作品はあまりないんです。
そこを限定したことで、アフターエフェクトの可能性がダイレクトに伝わっているんだと思います。

ただ、ユーザーからの反響はあまり気にしてなくて、絶対誰もやらないだろうということをやって達成するのが好きなんですよね(笑)。

アイデア自体もすごく単純で、パラメーターの組み合わせや場所、回転の中心の位置などを変えていけば無限にパターン数ができる。
それぞれの組み合わせを重ね合わせて、実験結果として作品をアップし続けたら今のようなサイトになったと。
これからも今まで通り思いついたものをどんどんアップしていければと思っています。

一つのことに特化すれば、自然と可能性も拡がっていく

僕の場合は変な作例で有名になっていますが、他の作業も必要に応じて対応できなくはないんです。
一つのことに特化していたつもりが、気付いたら幅広くなっちゃっていたという。

アフターエフェクトが実写だけのツールだったらそうはなっていなかったかもしれないけど、とにかくまんべんなく色々なことができる良いツールなので、使っているうちに他の可能性につながる技術やセンスが磨かれるということがあるのかも。

アフターエフェクトデザイナーは今後も引き続き需要があるとは思いますし、ひとつのことを突き詰めて特化すると目立つから有利ですよね。
例えば炎を作るのだけは誰よりもうまいとか、そういうレベルでいいんです。
何か目立つひとつのものを見つけて、それを軸に拡げていけるといいですよね。やっぱり軸がないとブレちゃうので。

仕事としてやるのであれば、いかに誰かの印象に残るかが大事で、ちょっとできるだけだと埋もれてしまう。
これからアフターエフェクトを使い始めたいという人も、何かしら作りたいものを目指すうちに壁にぶつかるとは思いますが、それを解決していけば自然にスキルは上がっていくはず。マニュアルやヘルプを読みながら覚えるのではなく、最初から作りたいものに向かって努力したほうが自分の強みも育てられるのではないでしょうか。

インタビュー・テキスト:上野 真由香/撮影:古林 洋平/編集:CREATIVE VILLAGE編集部