『DCスーパーヒーローズvs鷹の爪団』(2017年10月21日公開)は、なんと世界中で大人気のDCコミックキャラクターとのコラボレーションだ。大人気のアニメシリーズ“鷹の爪”が、スーパーマン、バットマン、ワンダーウーマンなどと同じ画面で大騒ぎ。あの世界的ヒーローにここまでやっていいの!?と驚く演出とネタが満載の作品に仕上がっています。
“鷹の爪”といえば、ゆるい映像とストーリーがクセになるシリーズです。今作ではおなじみのキャラクターだけでなく、アメコミやハイスペックなCGなど一作のなかにさまざまなテイストが盛り込まれています。3DCGパートを担うのは、株式会社白組(映画『シン・ゴジラ』『海賊とよばれた男』『GAMBA ガンバと仲間たち』など)。白組の演出担当・河村友宏さんにアニメーション制作についてお話を伺いました。
アニメーションの知識はゼロから
僕は学生時代、プロダクトデザインを勉強していたんです。自動車などのデザインをしたかったのですが、就職の時に白組の募集を見て応募しました。一見違う世界のようですが、当時はまだCGが全盛ではなかった為CMや映画『STARWARS』などもミニチュアで撮影をしていた頃で、撮影用に飛行機やビルのミニチュアを造っていたんです。それがプロダクトデザインのモックアップ(模型)制作と同じで、その模型制作が好きだったという理由から、工業製品じゃなくてもいいなと思ったんです。
当然、映像の世界では素人です。入社の時には副社長から「君は映像を作る技量はないかもしれないけど、イチから勉強すればいいよ」と言われ、まっさらな状態からスタートしました。
今や白組というとCGだと思われている方も多いのですが、CGだけの会社でもなければ、コマ撮りアニメーションの会社でもなく、作画の会社でもない。「こんな映像にしたい」というオーダーに応えてどんな映像でも創る会社です。
技術を駆使した最新鋭のハイクオリティ映像作品を、というオーダーをいただけば目指しますけど、それだけを追求しているわけではありません。とくに今回制作した鷹の爪さんの映画は、フラッシュアニメーション、作画アニメーション、CGなどさまざまな画風を使って作品を創っていて、単純に技術的なハイクオリティとは違うところを追い求めています。
映像のごった煮が楽しい“鷹の爪”
僕は、テレビアニメーション等の監督をさせていただいてます。オーダーいただいた作品に、演出を考え、絵コンテを切る。どういう作品を作らないといけないのかをスタッフにしっかりと伝えて、作品を完成させる。いただいたオファーに応えられる映像が作られているのか、納品責任を持って監督するのが仕事です。
今回は監督のFROGMANさんやアニメーションコラボレートしたGONZOさんとたくさん相談しました。FROGMANさんからは紙のコンテではなくビデオコンテをいただいて「ここらへんを膨らませたい」とオーダーをいただきました。そこをいい意味で勝手に解釈して、どう創っていくかを考えます。
世の中の多くの映像作品は、同じテイストで進行していくのが基本だと思っています。ときには実写映画にいきなりアニメパートが入ったりすることもありますが、それは稀なケースで…けれど『鷹の爪』シリーズは一作の中に様々なテイストの映像があり、そのテイストの違いをすべてネタにしてるところが面白いと感じています。突然作画のクオリティを下げることすらもネタにする。ひとつの作品にフラッシュアニメーションがあったり、CGがあったり、いきなりフルアニメーションになったりと本当にいろんなテイストがごった煮になっているのは観ていてとても楽しいです。
今作『DCスーパーヒーローズvs鷹の爪団』でもバットマンが出てきて、2次元イラストだったバト田モービル(バットマンの乗る車)が変形し、急にものすごく凝った実写CGのようなロボットになる。変形前と変形後の間をどうやって埋めようか、頭を悩ませました。しかも変形するのは世界初。マイケル・ベイ監督の『トランスフォーマー』シリーズや、クリストファー・ノーラン監督の『バットマン』シリーズを観てひたすら研究しました。(笑)
なかでも一番思い入れが強いのは、バットマンの登場シーン。バットサインを見せたいけれど、サーチライトを照らすわけにはいかないので…月をバックに背負わせて、バト田モービルのデザインにはないくらい羽根をしっかりとバット(コウモリ)の形にして…とかなりこだわって演出をさせていただきました。その後の戦闘シーンはCGディレクターの谷さんとアイデアをいろいろ揉みながら楽しく創りました。
僕は「こういう風にしたいんだ」と無理難題を言わせてもらえた立場なのですが…映像を創るスタッフは大変だったと思います。監督から「ここのシーンを2カット分膨らませてください」というオーダーに対し、どれだけ楽しく幅広く、深くできるかというのは、やればやるほどこだわってしまうので「もっとできるだろう」「これもやってみよう」と納期いっぱいまでねばったら、2カットどころかものすごい量のカットを創ってしまいました。けれど一人ひとりが一生懸命頑張った結果、最終的に詰め込んださまざまなテイストの画をしっかりとひとつの作品にまとめる事が出来、今作ならではの味になったなと思います。
誰にも負けないジャンルを持て
「このジャンルが好きなんだ」というスタッフと組めた時は嬉しいです。仕事をお願いする前提として、力量はわかった上で、オーダーの内容に応えてくれるかどうか判断します。更にそこで「好き」という気持ちがあるととても安心できます。好きだとオーダー以上の力を発揮してくれるんです。(笑)例えばロボットの細かいギミックまでこだわったり、良い意味で暴走してくれるんです。もちろん納期など制限はありますが、それを考慮したうえでとことん楽しんでくれると、最高に良い画になります。できた画を見て僕も「いいね!さらにここを変化させてさ…」と提案すれば、「そうですね。じゃあもっとこうしましょうか」とどんどん転がっていく。ある意味、悪ノリしてるんです。そのうちプロデューサーに「やりすぎ!」って怒られたりするんですけど(笑)
ものを創ることは大変だというのは当り前なので、「ツライ」と思いながら働く現場にはしたくない。楽しみながらそれぞれが自分なりに考えて自発的に提案してくれる現場にしたいんです。そのためには、好きでやってくれることに尽きますね。
僕が白組に入った頃はCGもまだ下火だったので、一人がなんでもやらないといけなくて、専門のプロフェッショナルよりゼネラリストが多かったと思います。そのお蔭でいろんな物に触れて「映像ってこう創られるんだ」という全体的な流れがわかったので利点はあります。
でもそこでさらに、これは絶対に他人には負けない、という得意なことをひとつかふたつは持つといいですね。ある仕事が来た時に「こういうタイプの可愛いキャラクターをデザインさせるならこの人だよね!」というスタッフがいたら、絶対にお願いします。それに、同じ会社のメンバーですから、いろいろな特技を持っている人がいる方が、会社としても表現の幅が広がります。なんでもできるゼネラリストもレベルが高ければ安心できますけど、ひとつ秀出ている人の方が一緒に仕事してて楽しいし、僕はそういう人にお願いしたいです。
とくに最近は社内にとどまらず、多くの会社さんとお仕事をするので、それぞれ得意な分野を持つ方達とコラボレーションしています。そうするとお互いに助け合って、最終的なクオリティも上がります。ただ、得意分野を突きつめると良い作品ができるかというとそうでもなく、この作品にそのこだわりが本当に必要かどうかを判断するのが監督や演出の役目だと思っています。すごく良い出来映えでも泣く泣く「ごめん、カットさせて」と言うことも仕事です。
大切なのは、「これは誰よりも好きだ」という情熱と、技術、アンテナを張ることだと思います。技術は当然大事なんですが、画を創るためには情報が必要です。制作の依頼を受けたら、とにかくいろんなことを調べます。最近は9分の歴史アニメーション「ねこねこ日本史」を制作しているのですが、毎回脚本会議には登場人物の背景や当時の歴史など、かなりの資料を下調べしてから臨むので、すごく大変です。作品が終わって納品したらスカッと忘れて引出しを開けるようにしています。(笑)
アニメでは現実ではありえないことが起きる
アニメーションを創るのって楽しいんですよ。脚本が決まって、画をつくって、音を入れて、完成して、局に納品するまでのトータルをずっと監督として見ていますが、いつも楽しくてしょうがない。シリーズアニメでも毎回いろんなスタッフさんがくれるちょっとしたアイデアが面白かったりして、いつも新鮮です。“作品創り”と言うと、ひとりでコツコツ作り上げるものもありますが、アニメーションは総合芸術。いろいろな人の力が合わさって見てくれる人に届けられるという喜びがあります。
現実と違って、動物やロボットなどアニメーションならではのキャラクターが描けるのも魅力です。『うっかりペネロペ』のように可愛い生き物がしゃべったり、今回の『DCスーパーヒーローズvs鷹の爪団』のように複雑に変形するロボットが出てきたりするのは、アニメーションだからこそできること。現実にはいないキャラクターが、現実ではありえないことができる。物語が二転三転してどういうエンドを迎えるかわからない。そんなフィクションの世界を思いきり楽しめるアニメーション作品は、すごくワクワクします。
(取材・ライティング:河野 桃子/編集・撮影:CREATIVE VILLAGE編集部)
作品情報
タイトル
『DCスーパーヒーローズvs鷹の爪団』
公開情報
2017年10月21日(土)全国ロードショー
配給
ワーナー・ブラザース映画
物語
衝撃の超ド級の豪華コラボまさかの(無理やり)実現!
<ジャスティス・リーグ、東京に現る!>
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