CGアニメーターとして活躍する石間祐一は、紆余曲折の先に手に入れた「いま」が、この上なく楽しいと言う。
「まず、自分の『本当に好き』を見つけることが大事だと思います。僕は悩んだお陰で回り道もしましたが、いろんな勉強をし、選択肢がたくさんあることを知りました。『本当に好き』が見つかれば、それに携わって生きる方法はいくらでもありますから」
ゲームの背景に惹かれた
僕はポリゴン・ピクチュアズに所属しCGアニメーターとして活動しています。2015年には「トランスフォーマー ロボッツインディスガイズ」や「亜人」で、SV(スーパーバイザー)も担当させていただき、現在はアニメーション映画「GODZILLA 怪獣惑星」(11月17日公開)に参加しています。本当にやりがいがありますし、毎日とても楽しいです。
ただ僕は子供の頃からこの業界を志望していたわけではないんです。高校1年生まではずっと野球をやっていました。さすがに「新世紀エヴァンゲリオン」(95)は知っていましたし好きでしたが、それまでアニメにはほとんど興味はありませんでした。ですが1年生の秋に怪我をしてしまい野球を辞めることになり、ぽっかり時間が空いてしまって。たまたまアニメ好きの友人がいたこともあり、そこからアニメを見るようになりました。
野球だけじゃなく勉強も好きで、大学進学を目指し予備校にも通っていました。ですが、高校3年生になって卒業後の進路を真剣に考えるようになり悩み始めました。あるとき予備校の先生に「一旦勉強のことは忘れて、まず自分の好きなものを見つけなさい」と言われました。予備校の先生なのに変わっていますよね(笑)。でもそれで道が開けました。
僕はゲーム「バイオハザード」が大好きでした。当時のゲームのなかでは圧倒的に背景が美しかったんです。きれいな風景を見るのも好きでしたので、こういうものをつくれる道に進むにはどうしたらいいんだろうと。その頃にはアニメもよく見ていましたが、仕事にしようとまでは思いませんでした。でも「ゲームの背景」への興味は増すばかりで、それで調べてみたら、CGを勉強する必要があるとわかりました。だったら大学じゃなくて専門学校に行くべきだと、そこから専門学校を探し始めました。両親にはいま思うと感謝ばかりです。反対なんて一切なくて、僕のやりたいことをやらせてくれました。奨学金をもらって学費を自分で返済していけるなら頑張ればと。それが高校3年生の夏の頃の話です。
「亜人」
© 桜井画門・講談社/亜人管理委員会
「亜人」はマンガが原作ですが、作者の桜井画門さんの画力が素晴らしく、表情も豊かなんです。だからフェイシャルにはこだわってやりたいと思いました。体の動きにモーションキャプチャーを採用したことでアニメーターの負担が減りそのぶん表情に時間を費やし、これまで以上に表情に重点を置き、突き詰めてやれたと思います。
つくる喜びを知る
それで日本工学院八王子専門学校 クリエイターズカレッジ CG科3年制(現CG映像科3年制)に入学しました。決め手は規模の大きさでした。大きいということは評価されてのことだろうから信頼感が持てるし、いろいろな可能性が開ける気がしました。
専門学校に行こうと決めてから、学校探しと同時にデッサンの通信講座を受け始めました。学校についていろいろ調べているうちに、カリキュラムに必ずデッサンの授業があることがわかったんです。実は高校の美術の成績で1を取ったことがあって。課題を出してないことが原因でしたが、自分で何かを生みだすなんて恥ずかしくて。いまとなってはだれの話だって感じですけど(笑)。少し危機感もあってデッサンの講座を受け始めたら……楽しかったんですよ。そのときの勉強は専門学校でもすごく役に立ちました。
パソコンはフォトショップを遊びでいじったり、CGソフトのMayaの体験版を少しやった程度で、ほとんど初心者でした。でも授業はとても楽しく、CGもつくってみたら意外に褒められたりして嬉しかったですし、何より作品をつくることに喜びを感じました。
当初はゲームの背景志望でしたが、高校時代はアニメをずっと好きで見てきたこともあり、卒業後はアニメ業界に行きたいと思うようになりました。アニメにもAdobe After Effects(アドビアフターエフェクツ)を使ってやる「撮影(コンポジット)」という仕事があると知り、Mayaでつくった映像にエフェクトを加えるのにAfter Effectsを使っていたので、「撮影」の仕事ならできるかもしれないと考え、それで急遽志望をアニメ業界に変えました。第一志望は作品が好きだった京都アニメーションでした。最終試験で落ちてしまったのですが、なんと僕が誘って一緒に受験した同級生の友人が合格するという皮肉な結果に(笑)。でもそれでよかったんです。彼は現在も京都アニメーションで活躍していますし、僕はいまの仕事が本当に楽しいので。
喜びの先の希望
就職活動に行き詰まっていたときに先生から声をかけていただき、八王子校に残り教育アシスタントとして勤めることになりました。そこで時間をかけて、自分は本当に何がやりたいのかを考えました。出た答えは「作品がつくりたい」ということでした。学生のときに仲間たちとつくった作品をみんなに見せた時の喜びが忘れられなくて、あの感動をまた味わいたい、作品をつくり続けたい、それがすべてだと思いました。職種じゃなく、自分が誇れる作品がつくれる場所に行こう、そのためになるべくたくさんの作品を手がけている会社に入ろうと決めました。それで目に留まったのがポリゴン・ピクチュアズでした。規模重視というのは専門学校を選んだときと同じです。日本工学院でネットワークがものすごく広がりました。人脈は大事ですから、大きな学校に来て正解だったと実感していますし、それは、いまポリゴン・ピクチュアズでも同じです。
ポリゴン・ピクチュアズには2010年から所属しています。教育アシスタントをしながら作品制作や技術を磨いていくなかで手応えのようなものを感じ、アニメーターとしてやれないかと思うようになり、それで学校が夏休みの間にデモリールをつくり応募し、入社が決まりました。ただ当時ポリゴン・ピクチュアズは日本のTVアニメシリーズの制作はしていませんでした。それが、僕が入社した直後にセルルックCGアニメーションの「シドニアの騎士」の制作が決まったんです。とにかく初めてのことばかりですべてが手探り状態でした。いまなら「見てられない!」ってところもありますが、でもそれがあってのいまですから。辛辣な意見はむしろ大歓迎ですし、いろいろな意見を聞きたいと僕は思っています。何より反応があることが嬉しいですし、エンターテインメント作品をつくっているからには、話題にもならないということではどうしようもないですから。
CGアニメーターを続けるために必要なもの ―― すべては純粋につくることを楽しいと思う気持ちだと思います。「アニメが好き」と「作品をつくる楽しさ」がかけ合わされ、僕の尽きることのないモチベーションになっています。僕が日本人に親しみのあるセルルックのアニメにこだわるのは、それを好きで見ていてくれる友人たちがいるからでもあります。苦労の末に完成した作品を友人に披露する。同じ「好き」を持った人間同士が集まってワイワイやる。うるさいけど、本当に楽しい。アニメ作品をつくることは僕にとって喜びであり、その先にはきっといいことがあるという希望でもあるんです。
映画「GODZILLA 怪獣惑星」
(2017年11月17日公開)
監督:静野孔文、瀬下寛之、ストーリー原案・脚本:虚淵玄(ニトロブラス)
製作:東宝、制作:ポリゴン・ピクチュアズ、配給:東宝映像事業部
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ゴジラ初の長編アニメーション映画制作に参加することができました。クレジットで僕の名前を見つけたら、親も喜んでくれると思います。作品のクレジットに名前が載るというのは本当に嬉しいことです。クレジットは自分が作品に参加した証ですし、作品の最後にクレジットが流れる瞬間というのは、すべてが報われ、「皆さんにようやく作品をお届けすることができた」という実感を味わえるときでもあります。