「ホログラフィー」や「3Dホログラム」という言葉を聞くと、SF映画に出てくる空間に浮かび上がるリアルな立体映像を想像する方は多いでしょう。近年、映像・コンピューター技術の発展により立体(3D)映像の活用は注目されています。たとえば、立体映像によるデジタルアイドルのコンサートの開催や、立体映像による広告も増えてきました。

しかし、これらは革新的ではあるものの、SF映画に登場する3Dホログラムと技術的には別物です。実はまだ、完全な3Dホログラムを投影できる技術は生まれていません。では、3Dホログラムとは果たしてどのような立体映像技術なのでしょうか。3Dホログラムの定義や歴史、実現の可能性、そして実現により起こるマーケティング変革と3D/CG/VFXデザイナーとの関わりについて解説します。

3Dホログラムとホログラフィックディスプレイについて

3D ホログラムの画像

立体映像が飛び出したり、何もない場所に映し出されたりするホログラムの実用化を期待している人は少なくないでしょう。しかし、一定方向から眺める必要のあるホログラフィックディスプレイの技術自体はすでに1980年代から存在しています。3Dホログラム、そしてホログラフィックディスプレイとは何なのか。まずは定義や歴史などの観点から解説します。

3Dホログラムとは

ホログラムは、三次元情報を記録した媒体を指し、それを作り出す技術をホログラフィーと言います。そして、3Dホログラムは「空間に立体映像を投影するテクノロジー」です。一緒くたにされがちですが、3Dホログラムはすでに実用化が進む立体映像テクノロジーのXR技術とは別物だと言えます。3Dホログラムは専用ゴーグルなどが必要なく、「誰でも裸眼でどの角度から見ても立体視できる映像」が定義となります。

ホログラフィックディスプレイとは

ホログラフィックディスプレイは、3Dホログラムを再生する専用のディスプレイを指します。2D映像の場合、光の強さと光の色という2点を記録し、ディスプレイによって再生されます。しかし、3Dホログラムで記録されるのは、光の強さ(振幅)・光の色(波長)に加えて光の位置(位相)という3点。つまり、3Dホログラムは2D映像よりも記録されている情報量が多くなります。膨大なデータ量を誇る3Dホログラム映像を高解像度で映し出す特殊な機器、それがホログラフィックディスプレイです。

ホログラムは古くからあった

ホログラムを製造する技術となるホログラフィーは、1947年にハンガリー系イギリス人のガーボル・デーネシュによって発明されました。当時はコヒーレント光源を得るのが難しく、ホログラム製造は難しかったため、研究はあまり進みませんでした。しかし、レーザーやコンピューター、その他技術の発展により、1980年代ごろから研究や技術開発が活発になりました。今後も技術の発展とともに、3Dホログラム、ホログラフィックディスプレイの研究・開発がさらに進むと考えられています。

既存技術で実現できる3Dホログラム的な立体映像

ホログラムの画像を選ぶ人

3Dホログラムは記録されるデータ量が多く、再生するには高度な機器を必要とし、既存技術ではまだまだ難しい面があるでしょう。とはいえ、3Dホログラムに限りなく近いものや似た技術は存在します。すでに実現している3Dホログラム的な技術を紹介します。

ペッパーゴースト型

古くから活用されている技術で、舞台やテーマパークの演出として今でも使われています。ペッパーゴーストは簡単に言うと、光の反射と鏡を利用した視覚トリックです。正面からは立体映像風なものを見られますが、それ以外の角度からは立体視できません。そのため3Dホログラムとは別物です。しかし、3Dメガネなどを必要とせず、それほど難しくない技術によって肉眼で立体感ある映像を見られる点においては、評価の高い技術と言えます。

水蒸気型

スクリーンを使わずに水蒸気を利用して立体映像を投影する方法です。水蒸気は空間内に広がりやすく、光を反射する性質を持つため立体映像を映し出すのに適しています。また、水蒸気は実際に触れることが可能です。そのため、あえて触れることで映像を変化させる楽しみ方ができるのも、水蒸気型の特徴と言えるでしょう。しかし、風など意図しない外的要因によって水蒸気が飛ばされ、映像が乱れやすいというデメリットもあります。

ブレード型

近年注目されてきているのがブレード型。LED光源が設置されたブレードを扇風機のように高速回転させ、残像を利用して立体的な映像を投影する方法です。高速回転するブレードは目視できず、LED光のみが見えるため、空間に立体映像が浮かび上がっているような体験ができます。また、小型で軽量のため、壁に設置したり持ち歩いたりでき、複数台で1つの大きな映像を映し出すことも可能です。

厳密には記録・再生方法が異なるため、3Dホログラムとは別の技術と言えます。しかし、応用の幅が広く研究・開発が進み、マーケティング活用の面から注目されています。

3Dホログラム実現後に3D/CG/VFXデザイナーはどうなるのか

ホログラム映像を観る人達

3Dホログラムとすでに実用化が進むXRは、立体映像という点では共通するものの、技術的には別物とされています。では、3Dホログラムが実現した未来において3D/CG/VFXデザイナーにおける新たな需要はあるのでしょうか。近未来に向けて3D/CG/VFXデザイナーの今後を占います。

3DホログラムとXRの違い

立体映像と体験が結びつくXR技術は、現在実用化が進み、ゲームなどの分野で特に注目されています。立体映像という点では3Dホログラムと近いものを感じられますが、根本的には別物です。3Dホログラムは「誰でも裸眼でどの角度から見ても立体視できる映像」。つまり、映し出される映像を見るために補助機器を必要とせず、誰でもすぐに立体映像を確認できます。XR技術では立体映像の視覚化にゴーグルなどが必要であるため、その点が根本的に3Dホログラムとは異なります。

3Dホログラム実現で起こること

3Dホログラムが実現したら、テーマパークでは全方位体験型アトラクションが誕生し人気を博す可能性もあるでしょう。また、デジタルサイネージや街のネオン、壁に貼られたポスターなど、ありとあらゆるものがリアルな3Dとして表現されるかもしれません。そうなれば、マーケティングは大きな変革を迎えるでしょう。3Dホログラム実現により起こり得る未来の可能性は無限であり、想像するのは簡単ではありません。いずれにせよ、あらゆるものが3D映像として存在する――そんな未来が近い将来訪れるかもしれません。

3D/CG/VFXデザイナーが備えておくべこと

3Dホログラムはその理論上、実写映像はもちろん、ありとあらゆるものを立体映像化できます。もちろん、3D/CG/VFXデザイナーの制作物も映像として投影されるでしょう。あくまでも3Dホログラムは1つの投影技術に過ぎません。むしろ、3D/CG/VFXデザイナーが持つノウハウやテクニックへの需要は、マーケティングの変革により拡大する可能性すらあります。

今後どんな未来が訪れるのか、3Dホログラムが実現され普及するのがいつになるのかは分かりません。だからこそ、今後のために今のうちから技術や情報をキャッチすることに努めましょう。それとともに、3Dホログラムに対応できる柔軟なアイデアや企画力を養うことが、現段階で3D/CG/VFXデザイナーが備えておくべきことだと言えます。

SFのような3Dホログラムは夢の領域だが、今後の技術革新に注目

ホログラム映像で再現された町

【「3Dホログラム」についてのまとめ】

  • 3Dホログラム、ホログラフィックディスプレイ技術の研究は1980年代ごろから活発に
  • 既存技術によって実現できる3Dホログラムはまだ限定的である
  • 3Dホログラムの実現・普及によって3D/CG/VFXデザイナーの需要も変わる

技術の進歩により立体的な映像を投影することは、複数の方法で可能になりました。しかし、まだSF映画のように「誰でも裸眼で、どの角度から見ても立体視できる映像」を「いつでもどこでも気軽に投影」することはできません。

ホログラム製造技術が発明された1947年から70年以上が経過しましたが、まだまだ3Dホログラムの研究開発は途上にあります。しかし、映像・コンピューター技術などの発展により、将来的に実現する可能性はあります。また、すでに3Dホログラムに似た立体映像の投影法は実現しています。そういった意味では、ホログラムとは異なる別の角度からSF的な世界が実現するかもしれません。

3Dホログラムやそれに類似する技術が当たり前になった未来では、3D/CG/VFXデザイナーの需要が拡大する可能性があります。そうした未来に向け、3D/CG/VFXデザイナーとしてのノウハウ・テクニックを磨くとともに、時代に合わせた発案力・企画力を養うことが大切です。