株式会社Craft Eggが開発、運用を手がけ、サービス提供開始から4年目で1300万人のユーザー数を突破した「バンドリ! ガールズバンドパーティ!(以下、ガルパ)」。
今回は今年3月に4周年という節目を迎えるガルパの魅力と、その開発について、そして求職者の方向けにCraft Eggで活躍できる人物像について、アートディレクター、信澤氏にお話を伺いました。
『ガルパ』、全体のクリエイティブの品質管理、ラフの制作、採用まわりを担当。現在は、新規タイトルの立ち上げも行っている。どういうゲームにするか、ユーザーにどういう体験をしてもらいたいか?という、キャラクターイラスト以外の領域も担当するアートディレクター。
バンドによって違うデザインのアプローチ
――ひと昔前のバンド系アニメの楽器って、細部に拘った作画ではなかった気がしますが。『ガルパ』ではかなり忠実で、バンド好きにも刺さってます。
アイドル系のゲームが多くあるなかで、『ガルパ』はバンド系のコンテンツなので、まず前提として楽器ありきだという背景があります。楽器の作画は、ブシロードさんとESPさんに監修して頂いており、バンドモノとして成り立つよう造形には拘っています。
さらには、弊社の制作メンバーにも、ギター、ベース、ドラムの経験者がいまして「ギターのネックとかって、どうやって持つのが正しいのか?」という相談をしていました。社内では「楽器の整合性は大事にしたい」という話も頻繁にしていますね。
また「このキャラクターにはどういった形のギターが合うだろう?」ということも、ギター経験者のメンバーと相談しました。「なんかカッコいいな」とか「なんかゴツイな」みたいな、見た目だけでなく、実際に演奏した際の取り回しも含めて判断するようになっていきました。
加えて、楽器と服装、髪の色のバランスは、イラストレーターが色彩としてマッチするかどうか判断しています。
――楽器メーカーさんやバンド経験者、イラストレーターの色彩感覚など、様々な意見が結集してキャラクターが作られているんですね。加えて、声優さんとキャラの親和性も重要なのかと思いますが如何でしょうか。
仰る通りでして、『Poppin’Party』と『RAISE A SUILEN』はリアルバンドからスタートしているので、まずはキャストさんの選定があって、そこからキャストさんのビジュアルを意識したものにデザインされています。この2バンドに関しては、ブシロードさんの方でデザインされたものです。
一方、『Roselia』と『Morfonica』に関しては、弊社が先行してデザイン制作をしており、そのキャラクターのイメージに合うキャストの方々を選定して頂きました。バンドによって順番は少し異なっていますが、キャラとキャストさんをリンクをさせていきたいという気持ちは全員が持っていますね。キャストの皆さんにもお力添え頂いており、皆さん自分のキャラの立ち回りを理解し、歩み寄って下さっています。特にデザイン先行型である『Roselia』と『Morfonica』にはそれが色濃く出ているのではないでしょうか。
リアルバンドの爆発的ヒット!鍵は2次元から3次元への移行?
――『バンドリ!』のリアルバンドは非常に人気がありますね。
リアルバンドのヒットは、本当にキャストの皆さんのお陰だと思っています。歌や演奏が素晴らしいのは勿論のこと、キャラクターの世界観も表現して下さっているので、2次元と3次元の一体感がありますね。
――2次元コンテンツを経由させることで、ユーザーが「2次元から3次元へ」と段階を踏んで好きになっていくことができる。これは2Dというデフォルメされたコンテンツの持つ、大きな価値だと感じました。
そうですね。これまで3次元コンテンツに興味を持つ導線がなかったファンの方々に対して、『ガルパ』がアプローチできているのかなと感じます。いわゆる2次元コンテンツが好きな方々も、3次元コンテンツに触れていないだけであって、関心はあると思うんです。そこで興味を持ってくれたファンのバンドへの愛や熱量の発散先としてリアルのライブがあり、そこで「ライブってすごいな!」って感じて頂けてると嬉しいですね。
そこ(リアルライブ)の入り口としての役割を、我々が制作するイラストが担えているといいなと思っています。こういった、ゲームとリアルの境目を曖昧にしていくコンテンツ作りは、ブシロードさんの戦略の上手さだと思いますね。
「ドジっ子」が「ドジっ子」じゃなくなるジレンマ
――『ガルパ』は2021年3月でサービス開始から4周年です。5年目に突入するコンテンツとして何を意識されますか?
この4年間でストーリーが展開していく中、キャラクターが様々な困難を乗り越えているので、「成長や変化をイラストでどう表現していくのか?」「どうキャラを見せていきたいのか?」を今以上に丁寧に議論していく必要があると思っています。
例えば「今まで香澄はこんな表情しなかったけど、これからはこういう表情もするんじゃないか?」とか。
そうじゃないと、ストーリーを追いかけているファンの方々と感覚がズレてしまうし、コンテンツ自体も飽きられてしまいます。
――なるほど。「数々の困難を乗り越えてきた「ドジっ子」キャラが、ずっと「ドジっ子」キャラでいいのか?」というジレンマですね。
そうですね。 「ドジっ子」キャラだったキャラクターが、何かのきっかけで自分を奮い立たせた場合、そのシーンは既にイラストで届けてしまっているので、以降のイラストでそのキャラのどんな表情を届けるべきなのかは改めて考えないといけません。
その後にまたドジキャラに戻ってしまっていては、違和感があります。相変わらずドジっぽいことはやってしまっているけど、何かしらの成長が垣間見えるようにしないと駄目ですね。例えば、顔は笑っているけど、背景は少し寂しい色合いになっているとか。
――ファンの視点をすごく考えていますね。
ファンの方々もすごく熱心にイラストを見て下さるので、その期待に私たちも応えたいですし超えていきたいと思っています。2年目と3年目の時も、そういったことは考えていたのですが、これからはもっと増えるだろうなと。
また、イラスト制作に関わるメンバーみんなの意識を合わせることも重要です。1枚のイラストに10名ぐらいが関わることになるのですが、みんなが同じ意識を持たないと、最終的にはズレたものになってしまうので。
――『ガルパ』がそこまでキャラの成長を意識しているとは思っていませんでした。アニメやゲームの戦略としては、半永久的に続けられるよう、キャラクターを成長させないのも手段のひとつで、それは某国民的アニメをみても明らかです。
もちろんファンの方からは、キャラの定番の表情を見たいという要望もあると思います。クールなキャラはクールな表情が見たいと。それはそれで描いていくのですが、変化はつけていきたいですね。
また最近は、ひとつの楽しみ方だけでゲームに長く携わってくれるユーザーさんも少なくなってきているのかなと思っていて。作っている側としても、音ゲー、ストーリー、リアルバンド等、いろんな魅せ方というか、『バンドリ!』というコンテンツへの触れ方をもっと広げたり深めていく必要があると感じますね。
飽きさせない秘訣→背景にデフォルメキャラ?
――ゲームを熱心に遊べる層というのは、ある程度の年齢帯で決まっているように思えます。その中で、開発側はユーザーのライフステージの変化や飽きによる、ゲーム離れとどう向き合うべきなのかお聞きしたいです。
イラストチームの立場としては、飽きないようなイラスト、ぱっと見で他とは違うと思ってもらえるようなイラストを作るのが大事だと思っています。イラスト制作のメンバーが変わらない以上、キャラクターの魅せ方がどうしても同じになってきてしまうことはあるので、どうやって自分の中の常識や固定概念を壊せるかが大切です。
特に、ドリームフェスティバルガチャなど特別なイラストについては、そのスタンスが色濃く出ていますね。
――例えばどんなイラストでしょうか。
年末年始のドリームフェスティバルガチャでは、戸山香澄と二葉つくしの新規イラストを出したのですが、これはTwitterでも反響がありました。
例えば、この香澄は宇宙で飛んでいるようなイメージのイラストなのですが、香澄は普段からキラキラドキドキを探しているキャラクターなので、銀河っぽいキラキラした画が合っていると思っていました。
ただ、通常のイベントではストーリーの内容に沿ったイラストを出しているので、このイラストを出すと「どういう場面なんだろう?」と意図が伝わりません。そこで、出すなら特別感のあるタイミングで出そうと考えました。
この香澄についても、普段ならここまでキャラの顔に寄った画は出していないのですが、この時は、ライブの最後にお客さんに「ありがとー!」って言ってるようなシチュエーションを想定していたので「だったらもっと顔によって目をキラキラさせた感じの方が良いんじゃないか?」と話してこのような表現になりました。
また、つくしのデフォルメキャラ化したキャラクターを背景にしたイラストも作りました。
キャラと背景イラストとで、分担して作業していることにより、大体の画作りが決まってしまっている面もあるのですが、このイラストでは一旦そういった既存のつくり方を気にしないようにして、アイデア優先で作りました。
――組織として最適化されていることは、型にはまって似たようなイラストを量産してしまう危険性もあるんですね。信澤さんはアートディレクターとして、日々型を破る方法を模索されてるんですね。
そうありたいですね。このちびキャラのイラストも、描いたのは仕上げを得意としているメンバーなのですが(普段はキャラクターを描かない)、今回は本人が自分で考えて描いてくれました。新しい試みでしたので、制作には時間が掛かったのですが、大きな反響がありました。
――たしかに、タッチや色合いも他のものとはかなり異なりますね。少しコミカルな感じがします。
その辺りは描き手に依存しているところですね。やりたいことに対して、ルールを設けていなくて、自由にやってもらっていますね。
こちらのつくしも、いつもならここまで引いた画はやらないのですが…
――構図が従来のイラストとは全く違いますね。
はい。このように、イラストチームのメンバーにはいろいろと考える時間も持ってもらえるようにしていますね。管理側をやっているとどうしても効率化を目指しちゃうのですが、仕事として効率を求めてしまうが故の無意識の枷はあるなと自分でも感じますね。
固定概念を壊す!他業界の血を入れて新境地へ
――イラストに関する固定概念を壊すという意味では、いまのゲーム業界は、イラストレーター以外のクリエイターの力を必要としている段階でもあるのでしょうか?
そうですね。新しい技術を持ったクリエイターの方に入って頂けると、新規タイトルも含めて、従来までの常識に捕らわれないゲーム作りができます。
キャラクターコンテンツに関わりたいというのはベースにしつつも「自分はこういう事がやりたいです!」という意思があるとか、「自分はこういう事が得意です」というのがある方が合っていますね。
Craft Eggは、かなり任せてもらえる会社なので、無理に会社側に合わせるよりも、自分を出して頂けるクリエイターの方に合うと思いますね。
――具体的に、どのような業界のクリエイターの力を必要としていますか?
今後はアニメーターの方々の技術が必要とされてくると思います。以前のゲーム業界では、しっかりと描き込むような一枚画としてのイラストが流行っていました。一方、アニメーターの方はキャラクターを線画で表現するので、あまり親和性がありませんでした。
しかし、6年ぐらい前から状況が変わってきて、『ガルパ』のようなキャラクターコンテンツが増えてくると、一枚画だとしても、昔のような厚塗りで描き込んだ画よりも、どちらかというと「キャラクター性が分かりやすい」、「キャラクターが活き活きとしている」など、魅力的に見えることが重要になってきました。
今は、ゲームイラストでもアニメのように動きがある表現を求められることが多く、イラストレーターは“動き”の作画に苦労することもあるんです。アニメーターの方々は、動きを表現する構図の作り方が多彩なので、そういったところで、アニメーターの方々の技術が活きてくると思いますね。
メンバー全員がアートディレクター、それがCraft Egg
――信澤さん自身も、アートディレクターとしてイラスト部門だけでなく、新規タイトルの企画にも関わっておられるとのことで、Craft Eggは積極的なクリエイターがどんどん活躍していける環境なんですね。
そうですね。メンバーに裁量を与えられる会社なので、私自身もアートディレクターとして全体の管理を任されてはいますが、全てのメンバーのイラストに対して、細かに指示をしているわけではなく、各々の創造力に任せていることが多いです。
メンバー全員が外部の方とやり取りをしますし、約20名のメンバー全員がアートディレクターといえる動きをしていますね。
――本日はありがとうございました!信澤さんのように自分の領域を狭めない活躍の仕方が、まさに『バンドリ!プロジェクト』、「ガルパ」そのものだなと感じました。『ガルパ』というコンテンツ自体が音ゲーというジャンルから飛び出して、ストーリーやキャラクターコンテンツとして楽しめるゲームになっていますし、『バンドリ!』のリアルバンドのキャストさんも声優活動と楽器演奏によるパフォーマンスを兼任されています。
弊社でも多いと思います。
社内で部署異動をしたり、別の役割を兼務したりしているメンバーもいます。比較的、やりたいことをやらせてくれる文化があるのだと思います。
「自分でゴリゴリやりたいです!」「好きなコトがあります!」等、芯のある方は活躍しているケースが多いですね。
インタビュー・テキスト:小川 翔太/企画・撮影:ヒロヤス・カイ/編集:CREATIVE VILLAGE編集部