スマートフォン一つあれば通りすがりに参加できる、インタラクティブで大規模な新感覚の体験型プロジェクションマッピング『YOYOGI CANDLE 2020』。
ホログラフィックに自社開発したインターフェースを用いて斬新なAR体験を創造した作品など、自社R&Dの取り組み『IMG SRC PROTOTYPES』。
クリエイティブエージェンシーとして、高い技術とクオリティで業界をけん引するイメージソースは、「体験」をキーワードに、私たちより数歩先の未来を見つめ、挑戦し続けています。
クライアントとの共創、オリジナルワークやR&Dの取り組みなどを通じて得た知見やノウハウで、いまだ人々が得たことのない斬新な体験を創造し、発信するために、イメージソースが目指しているものとは?
デジタルコンテンツの最前線で活躍している企業やクリエイターにインタビューするシリーズ1回目は、クリエイティブエージェンシーのパイオニア、株式会社イメージソースをフィーチャーしてお届けします。
IMG SRC / NON-GRID所属。2000年代から、ウェブやグラフィックデザインの領域で活動をスタート。
インタラクションを活かした空間演出やユーザーインターフェイスなど、人の体験に関与していくアートディレクションやデザインを中心に、情報設計、体験設計、世界観構築など、広範囲な視点でデジタルコミュニケーションに従事。
エレクトロニックミュージックレーベル 「moph records」にて、アートワーク全般を手掛けるアートディレクターとしても活動。ディベロッパーチームマネージャー/R&Dマネージャー 吉井 正宣 (写真中央)
自身でも開発を続けながら、チームとR&Dのマネージメントやテクニカルディレクションに従事。
テクノロジーを活用した新しい体験づくりに尽力。
前職は営業、学生時代は商学部。一年間Web開発を学んだ後、イメージソースに入社。
Web開発、インスタレーション開発、テクニカルディレクションを経て現在に至る。
プロデューサー 加藤 雄也 (写真右)
多摩美術大学卒業後、国内外のグローバル企業のデザインを数多く手掛ける。
吉岡徳仁デザイン事務所にて、プロダクト、スぺ―スの制作、設計業務を行う。
その後、自身の表現領域を広げるため、グラフィック、WEB、映像、3DCG、イベントなど、クリエイティブに関わる制作、ディレクション、プロデュース業務を経験。
2017年にイメージソース参画後は、YOYOGI CANDLE 2020や新体感ライブビューイングなど、人と場をつなぐインタラクティブなデジタルコミュニケーションの演出、プロデュースを行っている。
斬新な技術や未知のデバイスの貪欲な探求――“体験”にこだわり続ける
――今回は、デジタルコンテンツ制作の最前線の現場で、国内外で話題を集めたコンテンツがどう創り出されていくのかをお伺いしたいと思い、イメージソースさんのモノづくりのスタンスについていろいろとお伺いしたいと思います!
最近の作品で、NTTドコモさんの『NEW EXPERIENCE LIVE VIEWING』がありますが、ライブビューイング会場で今までにない臨場感、一体感を全く新しい形の体験として提供するというコンセプトが注目されて、ニュース番組でも取り上げられていましたね。
加藤 このプロジェクトは離れた場所にいるライブ会場のアーティストとライブビューイング会場の観客の双方向のコミュニケーションの形、ライブの新しい可能性を広げられないか模索した取り組みです。渋谷タワーレコ―ドの地下ライブ会場と幕張メッセのライブビューイング会場は、実際にそこにアーティストが居るかのような演出を行う透過スクリーンと、アーティストが会場内のインターフェースを自由に動き回る演出を行うタブレット、スマートフォンで会場を構成しました。
自分の手元のスマートフォンにアーティストが現れる演出は、「ライブを観ているときにスマホなんて使わないよ」という意見から逆転の発想で生まれたアイデアでもあります。
スマートフォンって普段は、ほぼ1日中触れているコミュニケーションツールでもあるので、ライブで自分のスマートフォンを使うのは、そこまで抵抗がないものだとも考えたし、自分の所有している身近なものにもアーティストが入ってきたという驚きを感じてもらいたかったんですね。
また、スマートフォンから送信してスクリーンに投影できるイラストスタンプは、完全オリジナルなものをジェネレートできる体験にしたので、大人数が参加している中でも自分の送ったイラストスタンプが分かり、自分が参加している感を演出する価値を生み出せたと思います。
今後は音楽ライブだけでなく、スポーツ観戦などにも応用できると思っています。
スポーツも種目によって体験設計が変わってきますし、盛り上がるタイミングとか、そもそもそのスポーツをよく知らない人に向けて、楽しんでもらう体験は何が良いのかとか。
日本でも、2020に向けて様々な形でライブビューイングが行われていくと思いますが、一つの会場に大勢の人が集まって映像を観戦するだけでない、新しい観戦、応援体験は何だろうか?という視点から、今後もこの取り組みは継続していきます。
――このプロジェクトを手掛けるきっかけは?
藤牧 2017年にD2Cグループに加わったことで、NTTドコモさんとの関係も出来上がり、企画からドコモさんと一緒に携わる機会も増えています。ドコモさんの先進的な技術を、体験としてどうアウトプットするか。我々はコミュニケーションから設計して、デザイン・ビジネス・テクノロジーの三位一体によるクリエイティブを提供していきたいと思っています。
吉井 技術の部分では、同期させる部分が特に大変でしたね。ライブという一発本番な場であるだけに、音と映像を合致させるために他社との密な連携が求められました。苦労もしましたが、こういう場で使う技術を扱う面白さはエンジニア皆が感じているところだと思います。
この技術については、同じくドコモさんと組んだプロジェクトで『YOYOGI CANDLE 2020』というインスタレーションにも応用しています。
加藤 NTTドコモ代々木ビルという代々木の街に一際目立つ240mのシンボルがあります。簡単にいうとそこに体験者のスマートフォンと完全にシンクロするプロジェクションマッピング演出を行ったプロジェクトです。
プロジェクションマッピングというと、映像や音などいわゆる“完パケ”状態のものを投影し、体験者は見るだけというのが一般的なのですが、このプロジェクトは、ユーザーの持っているスマートフォンと投影される建物間でリアルタイムに音、映像を同期させることで、インタラクティブ性を強めていて、通りすがりの人が自分のスマホからメッセージを投稿し、それがビルの側面に投影されたり、映像が映し出されるとそれに合わせて音楽も流れたりします。また、ステージを設置してそこに上がった人物も投影されるという演出もしました。
規模感的にもこれだけ都市の中心にある場所で、一般の方も参加できるという大型のプロジェクションマッピングは、新しいチャレンジでもあったと思います。
吉井 一見地味に見えるかもしれませんが、裏側ではかなりの技術が使われています。大変だったのはこちらもNEW EXPERIENCE LIVE VIEWINGと同じく、同期の部分ですね。映像や音、プロジェクションマッピングとスマホの同期状態を実現するのって、実は非常に難しいんです。理論上は実現可能でも、実際にやってみると現場レベルではかなりの工夫が必要だということを実感しました。このプロジェクトで得たことを活かして、次はもっと精度の高いインタラクティブコンテンツにチャレンジしてみたいという意欲が湧きましたね。
――インタラクティブ性を強めるほど、その分スケール感も増していき、それを体験した人の感動も比例して大きくなっていくのでは、と思います。
藤牧 YOYOGI CANDLE 2020のような現場だけの体験も大事だし、ライブビューイングのようにネットを経由しスマホで離れた場所からでも参加できるのも大事。そこをシームレスな体験にするというのがイメージソースの持ち味かなと。
これまでにWebを手掛けてきて、インスタレーションやモバイル…といろんな領域で積み上げてきた経験が混じり合いながら一つのコンテンツ制作につながっています。
9月には、「SOCIAL INNOVATION WEEK」という東京・渋谷で開催されるカンファレンスにて、NTTさんやD2CグループでもあるKAKEZANさんと組んで「BIT WAVE SURFIN’」 という体験型のインスタレーションを発表するのですが、ここでも新たな技術を表現に取り込んで制作を試みる作品となる予定です。
吉井 NTTさんの人流解析技術というディープラーニングを使って人の流れを解析し、そのデータを波に見立ててサーフィンする、渋谷で“シティサーフィン”が体験できるというコンセプトの作品です。
渋谷スクランブル交差点を行き交う人の量などをNTTの深層学習ランタイム高速化技術を用いて瞬時に解析して、データをビジュアライズした波に連動してサーフボードが動くというインスタレーションなんですが、信号が青になって人が動き出すと波が起こり、赤になると波が穏やかになる。また、歩行者の量や時間帯によってビジュアルの演出も変化する、というインタラクティブなコンテンツです。
歩いたり走ったりといった、生活する人の身体表現が都市とどうかかわっていくのか、それを体験として落とし込むアプローチを試みました。
加藤 サーフィンは2020年の東京オリンピックからの新種目ですから、なにかと話題にもなりやすいと思っています。また、これからの街とスポーツとの関係性、発展性という意味でも街の特性、情報データを何か別の形に捉えて、体験に置き換えていくというのは、これから増えていくのだと思っています。
――先進技術だけではない体験を、というところで「FLIP-DOTS」という、白と黒のドットのチップが反転することでビジュアル表現をするデジタルサイネージの作品があるのですが、こちらはどんな“体験”でしょうか?
藤牧 今から約10年くらい前になりますが、当時デジタルサイネージがあふれていた頃に、このアナログ感のあるデバイスに面白さを感じ、興味本位に使い始めてみたのがきっかけです。
白と黒のドットのチップを反転させて、テキストやグラフィックを表示するんですが、単に反転するのではなくて、人感センサーを使って人のジェスチャーで反転させたりと、インタラクティブ性を持たせる試みも行なっています。
最近では海外からの問い合わせも増えています。つい先日はドバイで、今度は韓国でプロジェクトを展開することになっています。
吉井 アナログっぽい良さがありますが、実はプログラム次第でかなり多様なバリエーションを作ることができます。グラフィックやテキストを何通りにも表示できるし、キネクトを使ってリアルタイムで人の動きに合わせてチップの動きを制御したり。
人を映し出すこともできるなど、モノクロの世界に新しい価値をもたらす、ポテンシャルの高いデバイスだなと、実際に扱ってみてわかりました。
藤牧 今後もシリーズ化していく手ごたえを感じています。さらにディスプレイユニットを増やしたり、少数ユニットで手軽に使えるものにしてみたり。研究的に取り組んでみた活動がクライアントワークにも発展しましたし、この流れがこれからも面白い取り組みになっていくと思っています。
表現の可能性を、個人の自由なテーマで掘り下げ開拓していく社内の取り組み『PROTOTYPES』
――オリジナルワークからクライアントワークにつながったということですが、御社はけっこう積極的に自社開発に取り組んでいらっしゃいますよね。そのきっかけは何ですか?
吉井 FLIP-DOTSのような「オリジナルワーク」と「PROTOTYPES」の2つの取り組みがあります。
自分たちでカタチにして、クライアントワークに横展開していこうというのがオリジナルワーク。PROTOTYPESはR&Dで実験的なことをやっていて、未来への投資という要素が強い取り組みですね。PROTOTYPESで挑戦した表現や技術の一部をオリジナルワークやクライアントワークに還元していきます。
2018年6月に主催したPROTOTYPESにて発表した「Ray Drawing」 。
デバイスの角度と、レーザーとプロジェクションとをマッピングするシステムを開発し、このシステムを利用してドローイングをするコンテンツを制作。
――PROTOTYPESは実際どのように運営されているんですか?
吉井 主に僕が取りまとめ役として運営しています。ただ、わりと個人に任せていて、テーマも個人の実現したいこだわりが反映されています。かなり本気で向きあって、コンセプトから実験してフィードバックを得て、試行錯誤を重ねて改善してカタチにしていくという、プロセスを重視したプロジェクトです。
――本業務との兼ね合いはどうしていますか?
吉井 自社開発案件に一定期間、集中して携われるように業務を調整します。ただ、人によって集中できる時期が違うので、全体で見ると通年でやっている取り組みですね。
――自社開発だけに携われる期間を設けるって、それだけ本腰入れて体制を整えているんですね。
「Typha」風に揺れなびく植物を表現した、インタラクティブ・インスタレーション。触れると、触れたデバイス上部のLEDライトの色がランダムに変化する。風に揺れる「ガマ」と、空を舞うタンポポの綿毛を連想させる。
藤牧 インスタレーションを始めた当初は、具体的な実例がないとイメージしにくいので、企画提案があまり通らない時期もあり、まずは自分たちで作ってみる取り組みが、社内文化として少なからず昔からありました。そこでのアイデアがクライアントワークに応用されていく感覚も肌で感じていますので、改めて社内文化として意識しながら取り組んできました。作ったアイデアを多くの方に見てもらう機会も設け、去年からはようやく回を重ねることができ、この前の6月で3回目を実施することができました。
クライアントからこんなことをやってみたいと相談を受けてから開発では間に合わない場面も多くありました。なので、自分たちから率先して開発していくというスタンスを大事にしています。
3ヵ月に一度の開催を目標に、見て体験してもらって、企画に使ってもらう、そういう可能性につなげていける場が必要だと思って、継続を意識してやっています。
吉井 一発で完璧なものをつくることを目指しているわけではないのがこのプロジェクト。クライアントワークは成果物はこうなる、という最終イメージのもとに創り上げていくけれど、こちらはちょっとした興味関心から作っていくうちに偶然性も加わって発展させていくという面白さと難しさが入り混じった性質のものかな。
苦労すること前提ですけどね(笑)。
加藤 既定の領域にこだわらず、それぞれの領域のつながりを深めながら広げていき、そこで生まれる非日常的な体験を追求して、日々試行錯誤していますが、技術は日進月歩でどんどん刷新されていくので、時間がたつと当たり前に目にする、できるようになってしまうこともあります。だからこそ、どこで、どういった形で発信していくかが重要だと思っています。
――最先端の技術でスケールの大きい、かつ斬新なアイデアで表現されたコンテンツから、ストイックにモノづくりと向き合うR&Dまで、こうしたアウトプットに携わるイメージソースにはどんなメンバーが集まっているんですか?
藤牧 デザイナーの職能領域が広がる中、映像が得意な人とか3Dが得意な人とか、得意領域がバラけているので、いろんなものを作れるような体制を目指しています。
コンテンツ自体をデザインしたり生み出すパワーがあると、よりスピーディーかつ表現の可能性が高まってくると考えています。
吉井 個性的なメンバーが揃っていますね。結構皆できることの幅が広くて、複数の領域にまたがってやっている人が多いですね。Webと映像とか。好奇心旺盛なタイプが多いです。
加藤 プロデュースチームは、デジタルコミュニケーションの最前線で常にいろんなところにアンテナを張って、いろいろと今までやったことがないことをやってみたい、誰も見たことがないことをやってみたいという、好奇心と向上心を持った人が多いですね。それが、なんとなく会社の社風でもあり、既定の領域にこだわらずっていうことなんだと思います。
藤牧 僕たちは“体験”にこだわって、オリジナルワークやR&Dといった自社の取り組みを大事にしながら、これからもクリエイティブを追求していきたいと思っています。
撮影:TAKASHI KISHINAMI インタビュー・テキスト:岩淵留美子(CREATIVE VILLAGE編集部)