2017年、日本発の精子セルフチェックサービス『Seem』がカンヌライオンズを獲得し、妊活における社会課題が世界中で議論されるきっかけの一つになりました。
今回は同サービスのコミュニケーションデザイン支援を担当した株式会社リクルートコミュニケーションズ マーケティング局のアートディレクター大田哲也さんに『Seem』誕生からカンヌライオンズ受賞までの舞台裏について紹介していただきます。
コアバリューを言語化「気軽に使える、自分でできる、自宅でできる」
私が所属するリクルートコミュケーションズのマーケティング局は、「じゃらん」や「リクナビ」などの情報サービスから、今回の『Seem』 のような新規に立ち上がったサービスまで、リクルートグループを横断して幅広い案件の生活者に向けた宣伝などの機能を担う組織です。最上流のサービスビジョンの策定やブランディングから各種プロモーション施策、さらには従業員への浸透を行うインナーコミュニケーションまで、あらゆるコミュニケーションを担当します。クリエイティブから、プロモーションプランニング、PRや調査設計など、マーケティングにまつわる専門家が集まっていることも特徴です。
私自身は日頃、グループ会社のコーポレートブランディングや、Airサービスなどの業務支援領域も含めた新サービス立ち上げ時のブランディングを担当しているのですが、今回リクルートライフスタイル(以下、RLS)から『Seem』のブランディグ構築、プロダクト製造という部分での相談がありました。
「不妊の原因の半数は男性にある」「スマホアプリを使って精子のセルフチェックを行うことができそうだ」。RLSの事業開発責任者から話を伺ったとき「こんなことができるのか」と驚きましたし、イノベーティブなサービス開発に携われることにワクワクしました。その後、サービスのネーミング&ロゴ開発、キット内容のパッケージングの検討が始まります。
ネーミングやロゴなどブランド開発のなかでサービスとしてどういう顔つきになるべきかを議論し、手軽に自分の状態を知ることができることで、男性が妊活に前向きに取り組む態度変容のきっかけとなる。この「気軽に使える、自分でできる、自宅でできる」という部分をコアバリューと定義しています。
サービス価値を言語化することで、「気軽に使える、自分でできる、自宅でできる」というブランド人格をもつためにどういうデザインが必要なのか?どういうネーミングが良いのか?どういうコミュニケーションをとるべきか、というブランド開発時の一つの大きな指針になりました。
この指針のもとに、ロゴ、ネーミングをはじめ、キットのプロダクト、コピーライティング、デザイン、UIデザインなどに展開、実装しています。
社会で議論することが重要だと思った
サービスデビュー後、普及段階においても課題がありました。それは『Seem』のバリューが解決する課題、男性に「もしかしたら精子の状態が悪いのかもしれない」というそもそもの課題認知が薄いということです。その中ではサービスの利用が進むことはありません。私自身も『Seem』に携わって初めてこの事実を知りました。
まずは女性から妊活に取り組むものとみられがちな社会的な認識を変えていく、そして男性が当事者意識を持ち、自分からアクションできることが重要だと考えました。
カンヌライオンズに挑戦したことも、単なる受賞速報ではなくこれをきっかけに世の中ごと化をすすめることで、課題認知を促進したいという狙いがありました。
カンヌライオンズには「THE FAMILY WAY」というコンテンツをエントリーしました。
「THE FAMILY WAY」は、不妊治療を経験した夫婦と、『Seem』ユーザーのインタビュームービーです。ユーザー男性の態度変容と、それに伴ってより良い関係になる夫婦を嘘なく描くことで、聴者にサービスを体験いただき、課題認知を進めながらサービス価値がよりエモーショナルに伝わると考えました。
結果的に「カンヌライオンズ2017」にて、モバイル部門のグランプリや日本初のグラスライオンなど、2部門4カテゴリーを受賞することに。ジェンダーイコーリティやカンバセーションを起こすコミュニケーションといった部分で世界の関心ごとの潮流にうまくはまったという部分もありますが、これを機に、各種メディアで『Seem』が取り上げられたり、社会的に議論する流れが加速されたことは大きかったと思います。特に印象に残っているのは、カンヌライオンズ審査員の「この課題は、世界の課題だ」というコメント。「『Seem』は世界中の人々に必要とされている」という確かな手応えも得ることができました。
妊活について語ることが、タブーではない社会を
『Seem』は自宅で、気軽に使えるフレンドリーなブランド。
それでもまだまだパートナーに対し、「試してみて」というにはハードルが高い。
今後も、夫婦で取り組む妊活が当たり前、そういう意識をつくれるコミュニケーション、ブランド作りに貢献していきたいと思います。
リクルートグループでは、人材・住宅・結婚・進学・旅行・飲食・美容等、生活者の課題を解決するビジネス=サービスを世の中に提供しています。リクルートコミュニケーションズのマーケティング局で仕事をすることの魅力は、クリエイターも課題解決のビジネスと近い距離に身を置き、同じ視点を持てること。私も『Seem』への支援ではアートディレクターという役割を超えサービスにはみ出すことで、ビジネスをクリエイティブでドライブさせることができたと思います。
企業プロフィール
Recruit Communications Co., Ltd. リクルートグループにおいて、クライアントの集客ソリューションから、Webマーケティング、メディアの制作・流通・宣伝、カスタマーサポートまでを担当する。
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