プロとして活動を始め約10年。デザイナーの藤石裕子は、モバイル系オンラインゲームの黎明期から携わってきた。
「ユーザーのみなさんからの声にずっと支えられてきました。感想はもちろんですけど、制作者である私たちが気づかないことまで指摘してくれたり、恐いですけど、ありがたいというか、すごく人とのつながりが感じられる人間味のある仕事だと思っています。そこがとても好きで、ここまで続けてこられた気がします」
■ 好きな絵を活かせるゲーム界
モバイル系オンラインゲームの2Dのデザインをメインに、グラフィックの管理などもふくめアートディレクションを担当しています。仕事を始めた頃は、まさかこんなスマホの時代が来るとは想像していませんでした。日々進歩、スピードが早く、結果が求められる厳しい世界ですが、作品に対するお客さんのリアクションが何よりのやりがいです。
物心ついたころから絵を描いていました。実家はニット製造業をやっているんですが、父がイラストを描くことが上手で、小さい頃によく少年漫画のキャラクターの絵を描いてくれたりしてました。
ふたり姉がいるんですが、その影響でマンガを読むようになり、小学生の頃にはマンガを描いていて、将来の夢はマンガ家でした(笑)。中学2年生ぐらいから同人活動を始め、友だちと地方の即売会にも参加していました。
それが高校2年生のときに、ゲーム「幻想水滸伝」に出会い、そのキャラクターがとにかく好きになって。それでキャラクターデザイナーという仕事があることを知り、初めてゲーム業界に入りたいと思いました。高校生になってからも同人活動は続けていたんですが、マンガ家を目指し実際に投稿している友だちとの実力の差を感じて、ずっと好きで描いてきた絵を活かす道をゲームの世界に見つけたんです。
高校卒業後はゲームのキャラクターデザイナーを目指し東京の専門学校に進もうと決めていました。両親には反対されましたが、姉が東京に進学していたこともあって、高校3年生の夏休みにいろんな専門学校の体験入学に参加し、クリエイティブ系できちんと資格も取れるということで、日本工学院専門学校の総合アニメーション科(現クリエイターズカレッジ マンガ・アニメーション科2年制)に進みました。
■ 絶対に辞めたくない
入学当初はどこからわいた自信だったのか今でもわかりませんが、絶対に絵の仕事でやっていけると思っていました(笑)。でも学校には個性的な作風やすごく絵の上手い人たちがいて、打ちのめされたこともありました。それまですべて手描きだったので、授業で習ったPhotoshopにもなかなか馴染めず苦労しました。でもどうしてもゲーム界で働きたいと、みんなに刺激をもらいつつ頑張りました。
2年生になってすぐに就職活動を始めました。両親との約束で就職できなかったら実家に帰るということになっていたので、どうしても東京でゲーム会社に入りたいと考えていました。あるとき先生に、現在所属しているウインライトが求人を出しているからと受験を勧められ、モバイルゲームはやったことがなかったのですが、とにかく受けてみようと。それで運良く合格をいただきました。
正直、現場はめちゃくちゃ恐かったです。当時は社員が10人程度で、開発チームはほとんどが男性で殺伐とした雰囲気で。ゲームをつくる知識がほぼゼロだったので、何をするにしても誰かに教えてもらわないとダメだし、「失敗したら辞めさせられる」っていつもびくびくしていました(笑)。特に入社してすぐは辛いことだらけで、絵が描けるということだけで自分がいかにこれまで調子に乗っていたのかを思い知りましたね。上司に、こんなイメージでデザインつくってと言われてもすぐに出てこないんです。ゲームをそこまでやり込んでなかったし、キャラクターばかり描いていたので、動物や建物など物の造形がわからなかったり。当時はただただ実家に帰りたくない一心で踏ん張っていました。専門学校に行かせてもらいやっと仕事に就いたんだから、こんなところで辞めたらダメだ、辞めたくないって思っていました。
初めて道が開けたように感じたのは、入社して1年ぐらいして、「雀ナビ四人麻雀オンラインゲーム」のモデルチェンジの仕事を任せてもらったときでした。不慣れなことばかりで、周りにすごく迷惑をかけたのですが、みなさんに助けていただき、商品になって配信されたときは本当に嬉しかったです。チームでものをつくる楽しさや、お客さんからの反応などオンラインゲーム制作の醍醐味を実感することができました。
■ 求められているものを提供する
ゲームのキャラクターデザイナーとして必要なものは、たくさんの「引き出し」を持つことだと思います。絵を描くのが好き、ゲームが好きだからってそればかりやるんじゃなくて、流行っているものをリサーチしたり、ファッションや歴史などいろんな方向にアンテナが向いてるほうが適性があると思います。お客さんが求めているものをいかにコンテンツとして提供できるかが、プロとして私たちに求められることなので、ひとりよがりでは難しいと思うんです。
専門学校のとき課題で偶然ほかの人と似たようなキャラクターを提出したことがあって、すごく悔しい思いをしました。自分が描いたキャラクターを他の人も描ける、これでは自分を必要としてもらえないと焦りを感じました。それからは、服装もアクセサリーも、例えばピアスひとつにしても、キャラクターはなぜこのピアスを選んだのか、なぜこの耳につけているのか、こういう生き方をしてきたからそんなポーズはしないとか、すべて理由づけをしていくんです。そうやってひとつひとつ深く掘り下げていくと、自分にしかつくれないキャラクターが出来上がる。社内のコンペでも目に留まるのは、そのキャラクターがいかに「生きているか」ってところだと思います。絵を見ただけでストーリーが広がるようなキャラクターってすごく魅力的なんですよね。だから新しくキャラクターをつくる際は常に妄想しています(笑)。
長く愛されるコンテンツの制作をこれからも続けていけるといいですね。最近のモバイル系のコンテンツは、残念ながら短期間でサービス終了といった傾向がありますが、私はできるだけ皆さんのライフスタイルにまで溶け込むくらい、喜びや幸せを与えられるようなゲームデザインやキャラクターが制作できればと思っています。
この記事に関するお問合せは、こちらまで
pec_info@hq.cri.co.jp