最新のテクノロジーが次々と開発されることにより、人々の暮らしが日増しに便利になっています。しかし、一方では古き良き文化や伝統芸能が取り壊されたり、自然災害で消失したりしている側面もあります。特に予算的にも技術的にも復元が難しいとされる歴史的建築文化財などは、失われることでの各所での喪失感も計り知れません。

しかし、近年では3Dデータ化する技術が発展しており、デジタルアーカイブとして歴史的建築文化財を保存することも可能になりました。伝統芸能や唯一無二の建築物は、これからはデジタルで保存される時代になるかもしれません。そのためには、ベテランの域に達した3D/CG/VFXデザイナーの活躍が欠かせないでしょう。3Dデータで保存するデジタルアーカイブとは何か、3Dデータでの保存はどんなシーンで役立つのか、今後はどんな需要が高まる可能性があるのかなどを紹介します。

3Dデータで保存するデジタルアーカイブとは

3Dデジタルアーカイブ_デジタルアーカイブとは

デジタルアーカイブとは、有形・無形文化財をデジタルデータで記録することで、次世代への継承に役立てる技術です。また、デジタルデータとして保存することで、歴史的建築文化財や文化遺産なども廃れる心配もせずに済みます。近年では、インターネットとVR技術を組み合わせ、「バーチャル観光資源」として、現地に直接出向くことができない人向けに、文化財の魅力を発信するサービスの配信なども行われています。デジタルアーカイブはどんな可能性を秘めた技術なのでしょうか?

デジタルアーカイブでは歴史や文化を後世に引き継げる

「仮想倉庫」とも呼ばれるデジタルアーカイブは、保存や維持が難しい歴史的建築文化財や、文化遺産などの継承も期待されています。たとえば、災害などで消失した場合、復元するためには元の状態を知らないと難しいでしょう。3Dデータでデジタルアーカイブ化されていれば、構造情報を隅々まで残すことができ、歴史や文化を後世に引き継ぎやすくなります。

近年では価値のある文化的資源を保存・活用するため、さまざまな国や自治体がデジタルアーカイブを利用する動きが活発化しています。さらに今後も、その取り組みが広がっていくことが期待されるでしょう。

デジタルデータでは劣化や修繕の心配もない

デジタルデータの利点としては、既存の姿のまま残せる点が挙げられます。実在する歴史的建築文化財は、どうしても時間とともに劣化したり、災害や事故等で形が変化・消失したりしてしまいます。これまでは人から人に伝承してきた話をもとに精密に再現されていましたが、3Dデータの活用によって正確な歴史を後世に残せます。それが一番の価値であり、デジタルアーカイブ化することで保存や修繕の費用も抑えられるのは大きな利点です。

文化や芸術、思い出も3Dデータを残せる時代に

3Dデジタルアーカイブ_3Dデータによる保存

3Dデータで保存して伝承すべきものは、何も建築物だけではありません。人間国宝の作品や重要文化財なども3Dデータで保存すれば、作品を3Dモデルで鑑賞できるバーチャル美術館としての活用にもつながります。他には子ども時代に作った工芸作品を実物は残せなくても、3Dデータで思い出として残す取り組みなども注目されているのです。

遺跡の3Dモデル化

遺跡を3Dモデル化することで、保存だけでなく3Dデータでの鑑賞も行えるようになります。たとえば、2012年に国立科学博物館で「インカ帝国展 マチュピチュ「発見」100年」という企画が行われました。ここで展示されたVR作品は、本物のマチュピチュ遺跡をスキャンしたデータがもとになっています。この展示では、約13キロ平方メートルという広大な遺跡を、VRでその場にいるかのように体験できました。

震災遺構

東日本大震災の震災遺構を、デジタルアーカイブ化するという試みもあります。2011年の東日本大震災から10年以上経ち、復興も徐々に進んできました。復興が進むと、震災の遺構も徐々に失われていきます。完全に失われる前にデジタルアーカイブ化すれば、今後の研修や防災に役立てられます。震災遺構は広範囲にわたるため、地上設置型のレーザースキャナー、車載型のMMS、ドローンなどを用いて、被災地の記録が行われました。

無形文化財

伝統行事や民俗芸能などの無形文化財は、継承する人がいなくなるとその存在すら知る人がいなくなります。そのため、3Dを用いたデジタルアーカイブ化が進行中です。ビデオ映像などによる保存だけでなく、人体の動きをデジタル記録できる光学モーションキャプチャーを用いたデジタル保存や解析なども行えます。

たとえば、個人の踊りを記録し時系列ごとに解析することで、踊り手の癖や個性までも記録。また、見せ場で特徴的な姿勢を抽出したりなど、踊りの基本的な要素を残せます。そのため、単に記録として見るだけでなく、データをもとに仮想体験ができるデジタルミュージアムプロジェクトなども構想できます。

芸術作品

人間国宝の作品など、後世に残したい芸術作品は多く存在します。そうした作品を3Dデータで保存することで、万が一、作品が破損・喪失してしまった場合でも、その存在を継承できます。また、作品をバーチャル美術館として公開することも可能です。データから3Dモデル化することにより、作品を360度さまざまな角度に動かしながら鑑賞できます。

工芸作品

身近な活用方法として、「思い出」を残す取り組みなども注目されています。たとえば、子ども時代に作った工芸作品の実物を残せなくても、3Dデータで思い出として残す取り組みなどもあります。

文化や芸術、思い出をそのまま残せるのが3Dデータのメリットです。また、バーチャルデータとして公開することで、多くの人に見てもらうことが可能になります。

3Dクリエイターの需要が一層高まる時代に突入

3Dデジタルアーカイブ_メタバース

3Dデータによるデジタルアーカイブ化の流れが加速するにつれ、3Dクリエイターの需要が高まる時代に突入すると考えられています。3D技術も歴史がまだ浅いとは言え、急激な技術成長でゲーム・映像・CAD・災害シミュレーションなど、さまざまな用途に活用されています。

さらに、これからメタバースが一般化することになれば、3Dクリエイターではない一般層も3D技術に触れる機会が多くなり、需要はさらに高まるでしょう。将来的には、1人ひとりがアバターを持つ時代が訪れるとされており、そうなれば現在の3Dクリエイターの数よりも需要が圧倒的に高まるはずです。また、3D技術のノウハウをデジタルアーカイブとして残していれば、より一般的に浸透し、ある程度はだれでも3Dを扱える時代になることも予想されています。

3D技術の需要拡大による懸念点

デジタルアーカイブ化されたノウハウを活かすためには、データを取り出しやすくする仕組みも必要です。誰でも取り出しやすい仕組みがないと、ただデータを溜めこむだけになってしまう可能性があります。3Dデータは保存のための容量も大きいため、きちんと利活用しないと「クラウドのこやし」になりかねません。また、3D技術のノウハウが一般的になれば、自分だけのノウハウが流出してしまうことも考えられます。そのため、3Dクリエイターは技術の流出にはより気をつける必要があるでしょう。

3Dデータの活用の需要は今後さらに高まる

3Dデジタルアーカイブ_まとめ

【3Dデータ デジタルアーカイブのまとめ】

  • 3Dデータで歴史や文化の後世への継承を実現
  • 文化や芸術、思い出をそのまま残すことができる
  • 技術の進歩で3Dが一般でも当たり前の時代が来る

さまざまな事情により、後世に残すのが難しい文化財は、世界中に数多く存在しています。こうした文化財を、いかにして後世の人々に伝えていくかが世界各国で協議されえており、その解決策の1つが3Dデータによるデジタルアーカイブ化です。

建造物であれば、3Dレーザースキャナーによるフォトグラメトリ、無形文化財であれば、モーションキャプチャーを使ったデジタルアーカイブ化などが進められています。文化や芸術、思い出などをそのまま残すことができるため、今後も普及していくでしょう。そのため、3D/CG/VFXデザイナーへの需要は今後も高まるはずです。

また、技術の進歩によって、3Dが一般でも当たり前になる時代が到来することが予想されています。メタバースが一般化すれば、誰もが自分のアバターを持つようになるかもしれません。そのため、3Dクリエイターではない一般の人も3D技術を扱うようになることも考えられます。そうなれば、3D/CG/VFXデザイナーの専門的なノウハウはより重宝されるはずです。ただ、テクノロジーの進歩のスピードは著しいので、3D、CG、VFXといった技術を扱うクリエイターの垣根が低くなった現在では、クリエイターにはより広い範囲の技術知識と視野が求められるでしょう。