リクルートグループにおいて、制作・マーケティングコミュニケーションなどを担う株式会社リクルートコミュニケーションズ(以下、RCO)では2016年10月より、リモートワークを全従業員(※)が活用できるようになり、実施から2年弱で従業員の95%がリモワを利用しています。この新しい働き方は内部のクリエイターにどう受け止められ、クリエイティブにどう影響しているのか。RCOで活躍するクリエイターに聞いてみました。
(※)一部対象外あり
萩原 幸也(はぎわら・ゆきや) インテグレーテッド・デザイン・オフィス長
2006年 株式会社リクルート入社。現リクルートコミュニケーションズ マーケティング局コミュニケーションデザイン部 インテグレーテッド・デザイン・オフィス長。リクルートグループのコーポレートやサービスのブランディング、宣伝コミュニケーションを担当。真ん中の髪の毛が長い。
井上 卓也(いのうえ・たくや) プランナー
2017年 株式会社リクルートコミュニケーションズ中途入社。マーケティング局コミュニケーションデザイン部インテグレーテッド・デザイン・オフィス、プランナー。入社後タウンワーク等のプロモーション担当をへて、現在は組織戦略やエリアマーケティングを担当。
武田 夏澄(たけだ・かすみ) アートディレクター
2014年 株式会社リクルートコミュニケーションズ入社。マーケティング局コミュニケーションデザイン部インテグレーテッド・デザイン・オフィス、アートディレクター。入社後リクナビ、SUUMO、じゃらん等の担当を経て、現在はタウンワークのマスプロモーションやコンテンツ制作、プロダクトデザインのディレクションを担当。
ツールの活用でコミュニケーションはスムーズ
――世界的にリモートワークが広まり、オフィスに行かずに業務をこなす働き方ができる会社が日本でも増えています。そこでクリエイターがリモワを活用しているRCOの方に話を聞きたいと思い、集まっていただきました。みなさんが所属されているマーケティング局インテグレーテッド・デザイン・オフィスでは、メンバー全員がリモワを活用されているのでしょうか?
萩原さん(以下、萩原) 11名が所属していますが、制度の対象となる全員が活用しています。利用できるのは入社半年以降で、中途入社の井上が使いはじめたのは、つい最近になりますね。新卒入社の武田は制度の導入と同時期からの利用です。
――井上さんにリモワの制度がなかった前職との違い、武田さんに導入前後で変わったことについて、ぜひお伺いしたいですね。
井上さん(以下、井上) 前職は広告代理店で、プロジェクトのメンバーが常に揃い、顔をあわせているのが当たり前の文化でした。ですがRCOでは、それぞれがノートPCを持ち、各自の役割を、それぞれ適切な環境を選び果たすことができます。コミュニケーションは常にメールやチャットでとれていますし、定例会など集まって話をする機会もありますので、いつも一緒にいる必要はそれほど感じなくて、リモワ未経験の僕にも使えるという印象でした。
武田さん(以下、武田) 入社当時はリモワ制度がなく、みんな決まった場所に座っていて、対面でのコミュニケーションが中心でした。「会社ってそういうものだよね」と思っていましたが、リモワが全社で導入されてから少しずつ変わっていったと感じます。今はもう、育児・介護といった事情がある人だけでなく、働く場所を適宜変えるのは普通のこととして受け止められています。
――導入に踏み切るにあたり、マネジメントするうえでの不安はなかったのでしょうか?
萩原 みんながどこで何をやっているかわからなくなり、マネジメントが難しくなる懸念は、正直言ってありました。ところが実際にスタートしてみると、さほど変わらないどころか、メンバーの行動管理は導入後のほうができているように思えます。ツールなどのIT環境が整備されたおかげで、その日の予定を毎朝チャットで確認するなどコミュニケーションはスムーズで、気になることがあってもすぐに確認できますから。ホワイドボードに予定を書いてもらっていた頃よりも、誰がどこで何をしているか把握しやすく、やりとりする回数も増えていますね。
――うまくいくように、何か工夫をされたのでしょうか?
萩原 導入するにあたって、まずは試験的に検証を重ねて問題点を確かめました。チャットでのコミュニケーションも、電話での会議もそれまでの文化にありませんでしたので、自分たちの業務に支障が起きないかどうか、いくつかのやり方を試して今の状態になっています。あとは、リモワという働き方が自分たちに向いていると各自が気付いてから一気に推進させましたので、導入にあたっては先入観の払拭など心理的ハードルを下げることも重要だと思います。
――チャットツールは何を使っているのでしょう?
萩原 リモワをスタートするにあたって、各種のチャットツールが全社に導入されました。マイクロソフトのTeamsが多いですが、個々のプロジェクトではSlackなどを利用している場合もあります。Macも以前はデスクトップを使っていましたが、ノートブックに変えましたし、そういう環境整備があってこそ成功しているのだと思います。ツールが変わって業務がやりづらくなったということはある?
武田 まったく差し障りはないですね。
――みんなが顔をあわせる機会は?
萩原 週1の定例会で必ず集まり、個別に論点があれば別途時間を設けたり、プロジェクトの節目で集まったりしています。また、それとは別にリクルートグループには「よもやま」というメンバーと上長との1on1ミーティングを行う文化があって、とくに議題を決めずに雑談をすることがあります。最近あったこと、温めているアイデアなど、世間話をしているうちに新しい何かが思わぬところから生まれることもありますね。
リモワ拠点も有効活用してムダな時間をなくす
――リモワを利用できて良かったこととして、どんなことがありますか?
井上 うちは子どもがまだ小さくて、離乳食がはじまったばかりなんです。それで僕が離乳食をつくって食べさせている間に、妻がそれ以外の家事をするなど、リモワを活用することで、家庭内での役割分担がしやすくなりました。
――井上さんは、育児休暇も取得されているとか。
井上 RCOでは、男性従業員がパパになったら、子どもが満1歳になる月の末日までに5日以上、20日までの育児休暇を取得することが必須化されています。一日単位で取れて僕は今までに4日間を取得済み。もうすぐ5日目を取得予定です。リモワ制度があるおかげで、保育園の送り迎えや見学、病院に行くことは育休を使わずにできていますので、旅行に出かけて育児疲れを解消するためのリフレッシュに使わせてもらいます。
萩原 うちもリモワで育児が助かっています。子どもの保育園は僕が送り担当で、迎えは奥さん。基本的にハッキリ分けているのですが、場合によっては僕も迎えに行きます。そうなると、17時頃にオフィスを出て、18時頃に保育園に。ごはんを食べさせて、お風呂に入れ、21時頃に寝かしつけてから、その間ストップしていたコミュニケーションを再開し、自宅でのリモートワークは22時くらいまでに済ませています。また、リモワが導入されてからは、朝、早起きして、子どもを保育園に送っていく前の時間を使い、ひと仕事できるようになりました。
インテグレーテッド・デザイン・オフィスにも3名の女性が所属していますし、RCOは女性が活躍している会社です。ママさんが結構いて、同じような使い方をしている人は多いですね。
井上 僕ら夫婦は育児がはじめてで、何かあったらすぐに病院に行かなきゃとか、いろいろ心配もあります。そこでどちらかのワンオペの育児にならず、もしトラブルが発生しても2人で立ち向かって、話し合って解決策を見付けていける。前職と比べて良いとか悪いとかではなく、「今のような働き方だからできることがあるね」と言っています。
――リモワの場所は、ほぼ自宅ですか?
井上 仕事の状況によって変えています。会議が集中するときはオフィスに行きますし、子育てやインプットとのバランスをとりたいときは、自宅にいる時間を増やすようにしています。あと、ひとりで集中して資料づくりをしたい時などは渋谷や二子玉川にあるコワーキングスペースなどのリモワ拠点を1~2時間利用することもあります。会社まで行くと1時間近くかかりますが、自宅からだと渋谷でも10分ちょっとで行けますので、そのぶん時間が有効に使え、やれることがたくさんあります。二子玉川は育児グッズを取り扱っている店がたくさんあるので、買い物のあとに立ち寄って仕事したりもしています。
武田 私は、基本的に仕事しているのは会社か自宅です。それほど頻度は多くありませんが、私も打ち合わせなどで外出して、会社に戻る必要がない時にリモワ拠点を利用することがありますね。
以前は、依頼したデザインがあがってくるのを会社で待つことも多く、平日は会社で仕事する日、プライベートな時間がとれるのは土日だけ、という感覚でしたが、自宅でデザインチェックができれば、待っている間にプライベートの時間をつくっても良いんですよね。リモワの導入以降、早く会社を出られるようになって、外のイベントに出かけやすくなり、インプットの量が増えたように感じます。
効率的な時間の使い方を自分で考えて、工夫する
――仕事量は変わらないのに、インプットの時間が増えたと感じるのは何故でしょうか?
武田 以前までは、社内で待ちの時間が発生すると、今日やらなくてもよいことにも手を出して、つい長時間オフィスにいてしまうといったこともあったと思います。ですが、リモワ導入後は比較的、そういった時間の使い方をしなくなったので、それが要因なのではないでしょうか。
萩原 クリエイターにとって、集中して制作する時間はもちろん、やはり幅の広いインプットをするための時間が必要です。いかに型にはめないで、自由にやってもらえるかという点で、場所や移動時間に拘束されなくなったのはすごく良いことで、リモワ導入をきっかけに、時間と場所の制約から解放され、ゆとりが実現できたと思います。
たとえば会社でノー残業をルール化したとしても、ちょうどその時に繁忙期だったり、入稿直前だったりと、それぞれに事情があるために、マネジメントしようにも難しくて、どうもしっくりこなかったんです。それがリモワだと「インプット目的でイベントに行きたいので切り上げます」「今日は子どもの誕生日だから早く帰ります」といった時間の使い方・働き方も可能ですから。
――時間の使い方を自分で工夫できる人にとっては、かなり使い勝手が良いでしょうね。
萩原 業務とそれ以外のメリハリをどうつけるかですね。クリエイターという職業はアウトプットに時間をかけようとすれば、いくらでもかけられます。しかしその一方で、だらだらと非効率な仕事になることもある。だからこそ、効率的な時間の使い方を自分で考えて、工夫することが大切なのです。
さっき武田も言いましたけど、うまく活用すれば、インプットの時間が増やせます。アウトプットばかりでインプットができないというのは、どうしてもクリエイターとして内向きになってしまいます。たとえば流行りの映画を観てないとか、人気のお店に行ってないとか、アートに触れていないとか、そういうことだと感覚のズレやアイデアの枯渇が生じてしまう。時間をコントロールして使い分け、しっかりとインプットすることで、発想が豊かになり、仕事に良い影響が出ます。実際、週1の定例ではどんな自己研鑽をしたのかも共有してもらっていますが、メンバーのインプットの量が確実に増えていると感じます。
武田 平日の昼間に会社の外にいられるというだけでも、インプットは増えます。これまで私は平日の昼間にスーパーに行くことなんてほぼ無くて、夜の様子しか知らなかったのですが、店内の様子がこんなにも違うんだと驚いて、お客さんを観察してしまいました。
以前はなかなか行けなかったイベントにも、月に2~3回行けるようになりましたが、そういったことだけでなく、これまでとは違う世の中の景色が見られるという点で大きなメリットがあると思います。おかげで以前よりもターゲットがリアルに想像できて、ペルソナ設定をしやすくなった気がします。「あの場にいた人にこの広告を見せたらどう反応するだろう?」とか。これだけではインプットとして十分でないかもしれませんが、イメージをふくらませたりするうえでも役立っていて、ありがたいです。
井上 クリエイティブを長年やっていて、現場を知ることは毎回意識的にやっているほうだとは思っているのですが、考えてみれば、仕事の時間が固定されているために諦めていたことは結構ありました。リモワでうまく時間が使えることで、新しいインプットがしやすいと思います。
「リモワやります。ご自由にどうぞ」それでは悩んでしまう
――リモワを活用するうえで、注意している点はありますか?
武田 勤怠の申告は正確に。当たり前ですが。
萩原 信頼関係で成り立っている面もある制度ですから、「自宅で仕事します」と言われて「本当か?」と疑いだしたらキリがない。どこからどこまでを自由に開放していくか、それによって何が生まれるかを見極めることが大切です。リモワは強制ではありませんし、なかには向かない人もいます。個人の適性と状況を見ながら、それぞれにとっての最適な働き方を実現していくことが必要ですよね。人や組織によっては、リモワでは働きづらいということもあるでしょう。
武田 任せてもらえていると感じるだけに、気になるものを見付けて、「インプットの時間に充てたいな」と思った時には、きちんと目的意識を持って、自分の時間として切り分けてやるように決めています。もともとRCOは目標に対して自分は何をやるのかを問われる企業文化で、ああしろこうしろと細かな方法まで指示されることは少ないからこそ成り立っているようにも感じます。
萩原 武田には新入社員の育成担当も任せていますので、そういった業務については、なるべく対面する機会を多く設定してもらうとか、調整はしています。
井上 利用について悩むとか、悩まないとかではなく、悩まない仕組みや環境を整えてもらっていると思いますね。個人のミッションを自分たちで進めていく基本的なスタンスがありつつ、部署としてもきちんと機能できるようになっている。ミーティングや週1回の定例会では、きちんと報告できることを自分でつくっておかなければならない。それでいて何か問題が発生したら、ひとりで抱え込まないで「すぐに相談しよう」みたいな。
萩原 「リモワやります。ご自由にどうぞ」では悩んでしまいます。その一方で縛りが強すぎたら、それはそれで意味がないですよね。業務とプライベートを区別することは当たり前という前提で、僕個人としては今はワークライフバランスというより、ワークライフミックスを意識して考えるべきだと思います。その実現のためにルールや環境を整え、人それぞれの形で働き、成果をだせるよう適宜アドバイスしていく。それがマネージャーの仕事になるのではないでしょうか。
限られた時間をどう有効活用していくか?
――クリエイティブ制作をうまく進めるために、個人的に工夫していることはありますか?
武田 アートディレクションをするうえで、微妙なニュアンスを伝えることが必要となるフェーズでは、デザイナーさんとの対面での打ち合わせをセッティングするようにしています。制作プロセスのなかで、フェーズごとのコミュニケーションを想定して、マイルストーンをひく必要があると思っていて、その設計をリモワ導入以前よりも緻密に行なうようになりました。
アイデア出しのフェーズでは、みんなで集まって、わいわい議論したほうが良いとか、打ち合わせの時間を多くとるとか、対面でのコミュニケーションが良い時間もあると思います。一方でアイデアが固まり、制作に入って、デザイナーさんがつくり込んだものを私がチェックバックするフェーズでは、メールと電話で充分対応できます。入稿までの予定を想定して組めれば、問題ないと思っています。
萩原 クリエイティブは複雑な共同作業が発生しますから、やはり対面で集まる時間をつくることは重要だと思います。だからこそ、会ったタイミングで何を議論し、限られた時間をどうやって最大限活用するか。クリエイターがリモワを活用していくなかで、ポイントとなるのは、そういったことをいかに設計していけるかだと思います。
――リモワを活用しながら、今後はどのような働き方をしていきたいとお考えでしょうか?
武田 仕事が好きなので、ずっと続けていきたいですし、だからといって子育ても介護も諦めたくはない。クリエイターとして何かを生み出していくお仕事と両立させたいと思っています。子育てをしながら働いている先輩も同じ職場にいますし、リモワを活用しながら活躍している先輩がいるのは、心強いです。大変そうに見えることもあって「できるかな?」と感じることもありますが、私にもやれるかもしれない。というか、やっていきたいなと思っています。
井上 将来的にはプランナーとして、自分が住んでいる周辺を含め、地域社会に貢献したいと考えています。そこで平日もリモワで時間を有効に使って、病院や子育て支援の施設や取り組みといった公のサービスなどを、いろいろ見に行きたい。良い点を見つけて参考にしたり、課題を探して改善策を考えてみたりするなかで、新しいプロジェクトのヒントを集めていけたら良いですね。目先の業務だけでなく、もっと先を意識したインプットを増やしていくつもりです。
萩原 一律に「この時間にオフィスにいなければならない」「ここまでが仕事」というやり方はもう時代にあわず、通用しなくなるのではと思います。マネジメントの側面では、どんな仕組みや環境であれば、各々が幸せに働き、より良い成果を出せるのかを考えるに尽きます。
個人としては、ダブルワークといった働き方がもっと自由にできることに期待していますね。これは稼ぎが増えて嬉しいとか、そういう話ではなく。こっちで得た知見やネットワークを、あっちで活かせる。そういったサイクルができることを期待しています。
自由な働き方が実現していくと、クリエイターにとって何がメリットといえるのか。これから気付くこともあるでしょうし、現時点での考え方とは少し変わっていくこともあるでしょう。いつまでも慣れたやり方を続けていくだけでは、取り残されていきます。これからも、いろいろ試していく事で、新しいモノ・コトを生み出したいなと思います。
――楽しみです。働きやすさが、質の高いクリエイティブにつながっていく。参考にできるところが多いと感じました。これからの取り組みにも注目しています。
インタビュー・テキスト:吉牟田 祐司(文章舎) 撮影:TAKASHI KISHINAMI 編集:CREATIVE VILLAGE編集部
会社紹介
株式会社リクルートコミュニケーションズ
私たちは、2012年10月1日、リクルートグループのガバナンス変更によって生まれた会社です。
リクルートグループの機能会社として、クライアントの集客ソリューション、Webマーケティング、メディアの制作・宣伝、カスタマーサポートなど、マーケティングにおける様々なコミュニケーションビジネスを創造していきます。
設立 | 1971年5月 |
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資本金 | 1億円 |
代表取締役社長 | 清水 淳 |
取締役 | 鷹見 周祐 |
主な事業内容 | リクルートグループにおいて、クライアントの集客ソリューションから、Webマーケティング、メディアの制作・流通・宣伝、カスタマーサポートまでを担当します。 |