起業・独立・フリーで失敗しないための法則として、自分のエージェントをつくって仕事の流れをつくるためには「ビジョン」が重要になると説明しました。人間は「感情」で動く生き物だからです。
一度ゆっくりとコーヒーでも飲みながら、自分が目指しているものは何なのか、どこを見ているのかという「ゴール」、この仕事に打ち込む理由は何か、自分の仕事の意義は何かという「ミッション」を考えてみてください。
そうすることで自分が目指すべき未来像である「ビジョン」が、おぼろげながら浮かんでくるはずです。
ゴールへ向かうためのスキル
ビジョンは自分自身の進むべき方向を指し示す「羅針盤」のようなものです。社会やビジネスといった大海を航海するために羅針盤は欠かせません。しかし、ただ羅針盤を持っているだけでは、いつまで経っても目的地へ到達することができないのも事実です。
ゴールへ向かうためには、羅針盤の指し示す針路に向かって進むための「スキル」が必要なのです。そうです。スキルが航海の「原動力」なのです。ビジョンなきスキルは「宝の持ち腐れ」になりかねず、スキルなきビジョンは「絵に描いた餅」になりかねません。ビジョンとスキルはお互いが揃うことで大きな相乗効果を発揮するのです。
ビジョンと対になるスキル、これこそが3つめの法則
法則その3:T型スキルを身につけセルフプロデュースする
です。
【-型】【I型】スキルには型がある
一口でスキルといっても、その種別はデザインの知識やプログラミング技術、そしてコミュニケーション術まで非常に幅広く存在します。 ここでは、それら膨大なスキルをわかりやすく理解するために、ある「型」を使って説明することにします。
まず、スキルには幅というものがあります。たとえばデザインも得意だしその上流工程になるディレクションもできる、ということになると、この人のスキルは、「デザインだけが得意という人に比べスキルの幅が広い」といえます。このようなスキルの幅広さを「-型スキル」 と呼びます。この-型スキルをわかりやすく理解するために、クリエイティブ業界のバリューチェーン(価値連鎖)を使って説明します。クリエイティブ業界のバリューチェーンはおおよそ
全体戦略/マーケティングプラン
↓
プロジェクト単位の企画/プラン
↓
プロジェクト単位の設計/実行計画
↓
制作(デザインやプログラミング)
↓
運用/オペレーション
↓
測定/分析
このようなカタチになります。
プランナーやマーケターは戦略部分に精通していることが望ましく、プロデューサーはプロジェクト企画に詳しく、ディレクターはプロジェクト設計を、といったように職種などによってスキルの幅は異なります。ただし、デザイナーだからといって制作スキルだけ秀でていればいいのかというと話は違いますし、運用面に無知なプロデューサーなど、なんの役に立ちません。
前工程の設計や後工程の運用まで視野に入れてつくられたデザインと、前後工程をまったく理解せずにつくられたデザインのどちらが優れているか…ちょっと考えればすぐわかりますよね。
自分の仕事がバリューチェーン全体のどの役割を担っていて、何を実現することを期待されていて、どんな価値を創出すればいいのか理解する。スキルの幅を広げるということは、自分が創出すべき価値を理解するということであり、【ビジネスの総合力】を高めるということですから、ビジネスマンとして非常に重要なスキルであるといえます。
ただし、-型のスキルを強化すればそれでOKかというと、実はそういうわけでもありません。-型スキルだけしか持っていない人材は言ってしまえば、「評論家」のようなものです。いくら総合的な視点でビジネスを捉えることができたとしても、実行する力がなければ価値は生まれないのです。
そこで必要となってくるもう一つのスキルが「I型スキル」です。
I型スキルとは、自分自身がとくに強みを発揮する領域のことです。デザイン全般が自分の専門領域だけど、もっとも得意なのは「Web デザイン」です!と いえるような「自分ならでは」の強み・得意分野こそがI型スキルです。
I型スキルは「専門力」であり「実行力」でもあります。-型の総合力とは違い「実行」を担うスキルです。 このI 型スキルこそがクリエイターの真骨頂ともいえるスキルなのですが、ただI 型だけのスキルだけでは「職人」になってしまいます。
「オレは自分の仕事をやるだけさ」 「この腕一本で食っていくぜ」
言葉にするとカッコイイ気もしますが、実際にビジネス視点が欠けている職人と仕事をさせられるほうはたまったもんじゃありません。 誰だって、-型スキルの高い人と仕事をしたいに決まっています。
しかし、逆に「ワンストップソリューションが強みです」という人がいるように「何でもできる」というのも困ったものです。先ほど紹介したクリエイティブ業のバリューチェーン全ての領域が得意だなんてクリエイターがいるわけありません。仮に存在するとしても、ごくわずかな特殊事例に過ぎません。
実際「何でもできる」なんてクリエイターなんてほとんど存在しないのですから、「何でもできる」という言葉は「何にも強みがない」と言っているに等しいわけです。何も強みがないクリエイターに仕事を頼む人なんて居るわけがありませんよね。だって、その人は-型スキルの評論家だからです。
クリエイターとして生きてゆくには「何でもできる」のではなく、「これだけは負けない」という強みをつくるほうがはるかに大切なことなのです。
ある程度の「職人気質」を持ちつつ、ビジネス視点を広めてゆくこと、つまりI 型スキル-型スキル双方をバランスよく併せ持つ「T 型スキル」を持つことが重要なのです。
【T型スキル】を意識してセルフプロデュースする
クリエイターとして飛躍をしたいのなら、常にT 型スキルを意識するようにしましょう。-型でもI 型でもないT型。この「T型スキル」が自分のビジョンを実現するために必要になってくるからです。
自分自身のT型スキルを客観的に把握できるようになるには、それなりの経験と時間が必要になるかもしれません。自分の強みがなかなか見えないかもしれませんし、自分が考えている得意分野と他人から見た得意分野が異なることだってあるでしょう。
しかし、自社の強みを顧客に伝えられない企業が顧客から評価されないことと同じように、自分自身の強みをしっかりと相手に伝えることができないクリエイターでは、いつまで経っても自分の評価を高めることは難しいでしょう。
現代は「個力」の時代です。個のチカラを高めて、そのチカラを自分自身でプロデュースすることが求められる「セルフプロデュース」の時代でもあります。自分自身の価値を再発見して、自分の言葉でプロデュースする。そうして自分のポジシ ョンを獲得してゆかなければならない時代なのです。終身雇用などの雇用のセーフティネットや社会保障のセーフティネットも崩壊しつつある現代。これからは自分の手で「セーフティネット」を構築してゆかなければなりません。
自分自身のセーフティネットを築き、自分を自分の手でプロデュースする。これがポジションチェンジに非常に有効な手段になるでしょう。下請けポジションから脱却するためにはどうすればいいのか?その問いかけの一つの答えが、自分自身の強みをつくり、しっかりと「セルフプロデュース」するということです。
法則その3:T型スキルを身につけセルフプロデュースする
セルフプロデュースを実現するためには、自分のビジョンを持たなければなりません。何度も言いますが、人間は感情で動く生き物です。あなたの想いが伝わらないようなセルフプロデュースなんて無意味です。 自分は何をする人なのか?ということだけでなく、なぜこの仕事をしているのか?何を胸に秘めて仕事をしているのか?といった「想い」を常に意識してください。
ビジョンが羅針盤だとすると、その羅針盤が指し示す針路に進むための「原動力」がスキルです。そしてクリエイターとして成長するためには、羅針盤が示すゴールに到達するためには【T 型スキル】を意識することが大切になります。評論家でもなく職人でもない…自分の強みをしっかりと持ったクリエイターになることが「自分自身をマーケティング」するということであり、そうして自分自身をマーケティングすることが《成功するセルフプロデュース》の条件になってくるのです。
さらに、このセルフプロデュースのスピードとパワーを倍増させてくれるのが、前回紹介したエージェントの存在です。
あなたのことを売り込んでくれるエージェント。そのエージェントといい関係を続けるためにも、ビジョンとスキルのバランスを意識して自分自身をプロデュースしてください。
セルフプロデュースにお金も技術も不要です。必要なのは「最初の一歩」を踏み出すこと。
まずは、自分のミッションとゴールを再確認して、自分のビジョンをつくってみてはいかがですか?