今回はマーケティング・リサーチのリーディングカンパニーである株式会社マクロミルの事例を、実際にインハウスで働く方々に寄稿していただきます。最終回はCreative Design Groupにて紙社内報のメインデザイナーを担当されている松坂さんによるコラムです。
マクロミル内で行ってきた事例をご紹介しながら、インハウスデザイナーがコンテンツづくりにおいて果たせる役割について以下のような方に向けてお伝えします。
- 社内報担当のインハウスデザイナーまたは広報
- チームでのコンテンツづくりの質を高めたいと考えているインハウスデザイナー
インハウスデザイナーの仕事とは?
インハウスデザイナーがどのようなことをしているのか、ご存知でしょうか?
元々Webデザイナーだった私は自分のデザイン領域を広げるため、2013年にマクロミルという会社にインハウスデザイナーとして入社しました。
当然ですが、Webデザイン以外の多岐にわたる業務が待っていました。
- やること
- ・自社Webサイトの運営、社内報(Web/紙)制作、動画制作、PPT・Excelなどにおけるクリエイティブ業務
- ・ロゴマーク制作、名刺などのCIに関わるデザイン制作やデザインガイドライン管理
- ・企画立案、PJT運営、イベント設営や撮影など
コンサートホールを使った社内イベントで、音響や照明の調整、動画やスライドの切り替えを担当することになった時は、業務範囲の広さに驚きました。
そこでは想像していた以上に、柔軟に何でもこなせるマルチなデザイナーである事が求められました。
もちろん、最初からすべてのスキルを持っている必要はなく、周りのメンバーや上司の協力のもと、徐々に身に付いていくものだと思います。実際、私もたくさんの知識と技術を自然と習得できました。
このように幅広い業務の中でも特に、マクロミルが力を入れている社内報に魅力を感じていきました。
次の章で私がメインデザイナーを務めている紙社内報「ミルコミ」についてご紹介します。
社内報「ミルコミ」の特長
マクロミルには紙社内報「ミルコミ」とWeb社内報の「NOW」が存在しています。紙社内報の「ミルコミ」はマクロミル創業2年目(2002年)から発行が始まったマクロミル文化の一つです。
2004年 月刊のまま冊子化(インハウスデザイナーを採用しタイトルロゴがつくられた)
2010年 デザインリニューアル(ロゴを刷新、印刷も外注に切り替わった)
そして、私の入社後の2016年に再度リニューアルが行われ、目的やターゲットをあらためて明確に定義しました。同時に季刊号にし、発行頻度を減らすことで、誌面づくりにこれまでよりも腰を据えて取り組めるようになりました。
「ミルコミ」のユニークな点はインハウスデザイナーが企画から入り、最終的な誌面デザインまですべて社内で行う制作工程です。誌面づくりにおける特徴を以下でいくつかご紹介します。
写真にこだわる
「ミルコミ」では“読む”コンテンツと“見る”コンテンツを明確に分けています。
“見る”コンテンツはテキスト量を最小限に抑え、見るだけで理解し楽しめることを目指しています。
そこで重要になってくるのが写真の質です。
制作チームでは様々な雑誌を参考にし、写真の構図やアングルを日々研究しています。
デザイナーどうしで撮影のノウハウを共有し、練習会を行うこともあります。
また、写真のクオリティに妥協したくないという意識からハイスペックなカメラを複数台チームで共有しています。
私たちデザイナーはこれらの一眼レフカメラとレンズを使い分け撮影現場に挑むのです。
独立性を担保された制作環境
「ミルコミ」は、制作チームにすべての裁量が与えられており、経営のチェックを通さずに自分たちの意思で内容を決めることが出来るのも大きな特徴の一つです。
制作チームの編集者(社内広報担当)とデザイナーが社員目線に立ち、その時々に会社に必要だと思うコンテンツを自分たちで考え抜いて発行します。
役割とターゲットの明文化
マクロミルでは以下のように紙社内報「ミルコミ」とWeb社内報の「NOW」を目的ごとに運営しています。
・Web社内報「NOW」:マクロミルの“今”を伝える(スピード=情報・ニュース)
紙社内報「ミルコミ」のターゲットは入社3年未満の社員。毎号この層にフォーカスしたコンテンツを入れることを心がけています。具体的には入社間もない社員でも理解しやすい表現を使った記事づくりを行っています。当たり前ですが、記事に載った方々の部署名や氏名は必ず載せることや、サービスについての説明文を入れることを怠らないようにしています。
コンテンツづくりの鍵は「チームワーク」
入社して6年間、紙社内報「ミルコミ」に携わってきた末、光栄なことにウィズワークス株式会社主催「社内報アワード2019」の社内報部門(紙)においてグランプリを受賞することができました。
今回受賞にいたった企画にとくに当てはまることですが、その背景にはマクロミルのコンテンツづくりが「編集者とデザイナーのチームワーク」が機能していることが関係していると思っています。
マクロミルが考える「チームワーク」とは?
1つ目は、アイデアに幅を生み出すことです。デザイナーはチームの一員として企画の段階から意見を発言できます。その意見は尊重されますし、編集者が行き詰った際にはデザイナーに助けを求める環境が確立されています。
デザイナーからすると、日々インターナルコミュニケーションのことを考えている編集者の考えや意図を深く知ることができます。これにより、ただ見栄えを整えるデザイン制作ではなく、コミュニケーションの本質と向き合う思考力や課題把握力が身に付きます。
また編集者もデザイナーならではの企画やアイデアを聞き、新しいものを着想できます。
そこに表現の幅の広がりが生まれ相乗的に誌面の質を上げてきたのだと思います。
アイデアに幅を生み出す~「10年後の笑顔」と「ANGLE」より~
マクロミルが考えるチームワークの1つ目「アイデアに幅を生み出す」の事例として紙社内報「ミルコミ」内の企画「10年後の笑顔」と「ANGLE」についてご紹介します。
これらはまさにデザイナーならではのアイデアから生まれた企画ですので、以下で企画の立案経緯について詳しくご紹介します。
「10年後の笑顔」
「10年後の笑顔」は勤続10年を迎えた社員を取り上げることで、ターゲットである入社3年未満の社員が自分の将来をイメージして「マクロミルで働き続けたい」と思ってもらうことを意図した企画です。
マクロミルでは「10年勤続した社員は誰も苦悩に満ちた顔はしておらず、幸せそうな顔をしている事実」を「ビジュアルで魅せる」というデザイナーの発想が加わることで、このような企画・誌面レイアウトが生まれました。
連載コンテンツ「ANGLE」
毎回、ある視点や切り口(=アングル)を定め、社員や部署、プロジェクトなどをビジュアルで切り取り、社員の普段見ることのできない表情や出来事を写真に収め紹介する企画です。
こちらもデザイナーのアイデアから企画されたコンテンツでした。テキストは最小限にし、ふだんあまり目にすることのない瞬間を切り取り、写真を1枚1ページで構成し、社員の意外な一面やあまり認知されていない活動にスポットを当てるという意図があります。
コミュニケーションの質を高める
「チームワーク」の要素の二つ目はコミュニケーションの質を高めるということです。
デザインを外注する場合、受発注の主従関係になりがちでデザイナーは発注意向に従わざるを得ない場面もあるかもしれません。しかしマクロミルでは、同じ制作メンバーとしてデザイナーが気兼ねなく意見を言える環境があります。
同じ部署内でのコミュニケーションなのでフィードバックの速さが高まりますし、忌憚ない意見をお互いに伝え合えるので、編集者とデザイナーの間に一体感が生まれます。
他社事例や興味深い記事の共有は頻繁に行われますし、課題が見つかればすぐに、立ち話やライトなミーティング開かれます。
このようなコミュニケーションの密度の高さ、内製だからこそのチームワークが「ミルコミ」の独自性を高めているのは確かです。
マクロミルが考える、インハウスデザイナーの強み
マクロミルは創業から現在まで大きく変化し続けてきた会社です。そして会社の状況が変われば、それに応じてデザイナーも変化に対応する必要があります。
冒頭でインハウスデザイナーはマルチなデザイナーだとお伝えしたように、私自身も常にアンテナを張り会社の変化に対応出来るようにさまざま表現方法を習得しつつ、常に新たな視点から会社の課題と向かい合ってきました。
インハウスデザイナーは1つ1つの分野で社外のWebデザイナー、DTPデザイナー、映像クリエイターには劣るかもしれません。でも、Webも紙も映像もやってみて初めて気づく、それぞれの媒体の特性も有ると思っています。
インハウスデザイナーは会社を理解し、課題に応じて最も有効なソリューションを使い分けることが出来るマルチなデザイナーだと言えるのではないでしょうか?
今回社内報に特化してお話してきましたが、インハウスデザイナーが内部の一員として会社を理解し、共にさまざまな課題と向かい合ってきたからこそ、ユニークな社内報を作り上げることが出来たのではないかと私は思っています。
マクロミルは、マーケティング・リサーチのリーディング・カンパニーとして世界19カ国に40以上の拠点を展開しています。グループ全体の従業員数は2,463名(2019年6月時点)。
企業サイト:
https://www.macromill.com/