映画を宣伝する。
「いったいどんな仕事?」と尋ねられることがしばしばあります。
シンプルに言うと、「映画館にお客様に来ていただくために、沢山のメディアやライターさん、評論家さん等にはたらきかけて、映画の紹介をする」、そんな仕事です。
レヴューの紹介に加え、映画に興味を持っていただくために、どんな企画ができるか、どんな仕掛けができるか、常にアイデア構築が必要とされます。
スランプに陥ることもしばしばですが、あれやこれやとリサーチしたり、考えたりするのはやりがいがあって楽しいものです。
そもそも私がこの仕事の門をたたいたのは、映画が大好きなことはもちろんで、「良質の芸術表現を世に送り出して、沢山の人々に出逢ってもらいたい。出逢う歓びを感じてもらいたい。
その為に、作品や作り手と、観客とをつなぐパイプ役のようなことができたら」という想いがあり、実現したかったからです。
オススメの映画 - ウォンビンの5年ぶりの復帰作『母なる証明』
最近手がけた作品は、「母なる証明」。
この作品は、世界初の上映となった今年のカンヌ国際映画祭での称賛の嵐に続き、韓国での大ヒット。 若くして巨匠となったポン・ジュノ監督の新作で、ウォンビンの5年ぶりの復帰作とあれば、誰もが大きな期待を抱くに違いありません。
それではこの作品のみどころ・ポイントをどう捉えたかお話ししたいと思います。
世界初の上映となった、今年のカンヌ国際映画祭での称賛の嵐に続き、韓国での大ヒット。若くして巨匠となったポン・ジュノ監督の新作で、ウォンビンの5年ぶりの復帰作とあれば、誰もが大きな期待を抱くに違いありません。
「母と子」というテーマは、普遍的で、これまでも沢山の作品が生み出されてきたと思います。
ポン・ジュノ監督も「誰にでも母親がいて、母と息子の関係はすべての人間関係の基本だ」といったことを言っています。
このテーマについて、多くの方は「深い愛情と絆で結ばれた優しさあふれる涙の感動ドラマ」というようなイメージをするかもしれません。
ところが、この映画は果てしなく強く美しい母を描きながらも、「絆や無償の愛とは何なのか?」「何が善で、何が悪なのか?」など、強烈な問いかけに自問自答することになります。
母親ではない私自身には、想像しかできませんが、子どもを愛するとは、原始的で本能的なことで、あるラインを超えると極限への独走が始まるのかもしれない、と思わずにはいられません。理性と本能のライン引きは簡単ではないので、それがまた面白いのだと思います。
個性がほとばしる魅力的なキャスト
キャスト陣の中で、日本でも人気のウォンビン。兵役後初の映画出演となる彼が復帰作に選んだのは、子どもの心のまま大きくなったような青年(トジュン)という、クセのある役柄です。相当な技量を要される役を、自然な身のこなしで操ってしまったウォンビンは、確実に、俳優としての新境地に至ったようにみえます。
ポン監督が始めて彼に会ったとき、彼の純粋さを感じ取って、「トジュンが来た!」と思ったのだそう。ポン監督にこんな風に思わせてしまうくらいに誰も知らないようなミステリアスな力をまだまだ奥底に持っているのかもしれません。
もしトジュンの母役であるキム・ヘジャがキャスティングのオファーを断っていたら、『母なる証明』は誕生していなかったでしょう。
なぜなら、この映画のアイデアはすでに2004年の段階から生まれていて、しかもキム・へジャでないと成立しない、というくらい監督が切望していたのです。
監督が直々に赴いて熱烈オファーをしています。ポン監督は、彼女の中にある激しさや繊細さ、そして破壊的な力をつかみ取り、この映画を構想したのでした。
彼女は映画界からしばらく離れていましたが、これまでのオファーとは全く違うこの役に、新鮮さや魅力を感じ、快諾したのです。ポン監督がずいぶん前のドラマの際のキム・ヘジャの演技やセリフを正確に覚えていたことにも感銘を受けたのだそうです。
実はキム・ヘジャという女優は「韓国の母」と称されるほど、長年にわたって韓国で活躍する大ベテランにして人気のある女優です。母と言えばキム・へジャ、言いかえれば、“母という存在、そしてその美徳の象徴”なのです。
スタッフのエネルギーは底無し!?
ポン・ジュノ監督の脳の中は一体全体どうなっていて、どうしたらこのような素晴らしい映画を生み出せるのでしょう。
プロモーションでお会いする際のポン監督の印象は、本当に穏やかで笑顔がお茶目で、どんなにタイトな取材スケジュールでも、文句のひとつも言わずに、終始プロフェッショナルに気持ちよく対応してくれました。
監督による言及の中で、とても興味深い比喩がありました。
「『母なる証明』は、太陽の光を引火点に用いる拡大鏡(虫眼鏡)のようだ。燃え盛る炎の中心のように極端で力強いことについて、深く掘り下げる映画を作りたかった。これはとてつもない強度をもって展開するドラマであり、母であることの原始的な本質に根ざしたドラマである。」
「母と子」という永遠のテーマに、虫眼鏡でもって、超級の強度の光を集めて、着火させて爆発させてしまった、そして全く異なる母像を現しています。
またポン監督は絵が得意。漫画が大好きで、漫画家を目指していたほどのポン監督は、絵コンテも自分で描きます。
本作のスクリーンサイズはシネマスコープですが、その採用理由についても興味深いことをあるインタヴューで触れていました。シネマスコープは必ずしも大規模の作品に適している訳ではないそうです。本作では、母子の顔(特に目)を強調したくて、シネマスコープならば顔の中心部分にも寄りながらも、同時に余白も生まれるので、その余白で微妙な感情を表現するために活かすそうです。
それからスタッフの偉業としてどうしても触れておきたいのが、ロケハンのことです。
ポン監督の特徴のひとつは、「自然でありのままの世界を追求するため、基本的にすべてロケーション撮影をする」ことです。この映画においても、監督のリクエストにこたえるべく、4チームに分かれたスタッフが、約5ヶ月をかけてなんと8万キロも韓国中をまわることになりました。撮った写真は4万枚!季節ごとの太陽の位置まで書き込んだ、天候や地形の詳細も見て取れる“町の地図”が作り上げられたのです。
韓国中から選ばれたロケ場所の組み合わせになっているにもかかわらず、映画では「完璧なひとつの町」として結実しました。
ほかにも、音楽には、韓国を代表するギタリストで映画音楽でも数々の賞に輝いているイ・ビョンウ。
撮影には韓国で最高の撮影監督のひとりと言われているホン・クンピョ。被写体に大胆に迫り、暗闇も自然風景も見事にとらえたシネマスコープ画面にくぎづけになること必至です。
その他、美術監督リュ・ソンヒなど、韓国映画界の至宝が一堂に集結したと言えますね。
「最も“謎”に満ちているのは、人間そのものである――」というフレーズが、この映画にぴったりで、観る人の魂を揺さぶる本作では、予想もしない展開が待ち受けています。ギャップの面白さとは、この映画で起こることではないでしょうか。
わたしと映画宣伝について
映画の仕事を通じて、さまざまな分野で活躍される素敵な方々と出逢えたり、今まで知らなかった映画の背景にあるものを知れたり、時として、国や社会のことであったり、人物のことであったり多岐に渡ります。興味の範囲が拡がったりと、映画に教えてもらったことは数限りがありません。
それに、実際に映画館に来て下さった方の声にはいつも励まされます。観てくださったお客様ひとりひとりにお礼を言いたくなります。
映画から得てきたものは、自分の人生にとっての貴重な財産だと思い、とても感謝しています。
『母なる証明』
本年度カンヌ国際映画祭 <ある視点>部門正式出品
10/31(土)~、シネマライズ、シネスイッチ銀座、新宿バルト9、他全国ロードショー!
【監督】:ポン・ジュノ
【脚本】:パク・ウンギョ、ポン・ジュノ
【主演】キム・ヘジャ、ウォンビン、チン・グ、ユン・ジェムン、チョン・ミソン ほか
【製作】CJエンタテインメント/バルンソン
【エグゼクティブ・プロデューサー】ミッキー・リー
【共同プロデューサー】カテリーヌ・キム、ムン・ヤンクオン
【プロデューサー】ソウ・ウォシク、パク・テジョン
【撮影】ホン・クンピョ
【美術】リュ・ソンヒ
【音楽】イ・ビョンウ
【衣裳】チェ・ソヨン
【編集】ムン・セギョン
【提供】
『母なる証明』フィルム・パートナーズ(ビターズ・エンド、ビーワイルド、アンデスフィルム、オゾンネットワーク、ピー・プランニング)
【協力】
ハピネット、KOREAN AIR 小説「母なる証明」(幻冬舎文庫)
2009年/韓国/カラー/35mm/シネマスコープ/ドルビーSRD/129分
■公式HP
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