このコラムは、CHOCOLATE Inc.の若手プランナーによるリレー形式で3回にわたり連載します。
様々なメディアの第一線で活躍している気鋭のプランナーが集うコンテンツスタジオCHOCOLATE Inc.。ユニークな個性が融合し、そこから生み出される数々のコンテンツは、国内のみならず海外でも注目を集めています。
当コラムでは、その制作の過程で積み重ねてきたCHOCOLATE独自のノウハウをおしみなく伝授!
最終回は、プランナーの保坂夏汀さんによるコラムです。第1回:6秒商店の発想術~拡散する短尺コンテンツの考え方~ 島村 ビギ
第2回:ゲームから読み解く、人を動かす令和時代のコンテンツ カイジエンド
こんにちは。CHOCOLATE Inc.の保坂夏汀(ほさかなつみ)です。
わたしの所属するCHOCOLATE Inc.(以下、チョコレイト)は、映像を軸として番組、アニメ、映画から、漫画、ゲーム、雑貨、空間など、あらゆるエンターテイメントを越境して作り出していくコンテンツスタジオです。
そこでわたしはプランナー兼デザイナーとして、主に展示空間の企画、演出、デザインを担当しており、2018年には「クリープハイプのすべ展 〜歌詞貸して、可視化して〜」「Ro LAND 〜俺か、俺以外か〜」「夏目友人帳展」と3つの展示に携わりました。
今回は、上記の3つの展示を例に、展示空間をつくりあげるまでにわたしが何に重きをおいているかをお話させていただきます。
チョコレイトが手掛けた空間
「クリープハイプのすべ展 〜歌詞貸して、可視化して〜」
・2018年9月〜2019年3月開催
・共催:PARCO / UNIVERSAL MUSIC
・企画制作:PARCO / CHOCOLATE Inc.
アーティスト・クリープハイプのさまざまな歌詞の世界を可視化し、体験・体感出来る展示です。クリープハイプの楽曲から10曲以上をモチーフとして抽出し、それぞれを環境演出、没入型映像、インタラクティブアートなどの方法で表現しました。
「Ro LAND 〜俺か、俺以外か〜」
・2019年2月〜巡回中
・主催:PARCO
・企画制作:PARCO / CHOCOLATE Inc./ SIREN / Juice
ホスト界の帝王と称されるROLAND(ローランド)さんの言葉を「帝王からの御告げ」とし、さまざまな体験をしながら名言を全身で味わう、体感型の展覧会です。写真で埋め尽くされた「ROLAND写真館」や、名言で溢れる「名言回廊」、記念写真が撮れるフォトスポットなどに加え、「ホストクラブ」も再現しました。
「アニメ夏目友人帳展」
・2019年3月〜巡回中
・主催 / 企画:アニメ夏目友人帳展 実行委員会
・企画制作:CHOCOLATE Inc.
マンガ『夏目友人帳』の世界観を空間で表現した展覧会です。
アニメから感じられる、切なくも優しい、心地よい雰囲気を会場全体で味わう展示を行いました。TVアニメシリーズ・劇場版の貴重な制作資料をはじめ、劇中に登場した切り絵を使用した展示や、主人公・夏目貴志の部屋を再現したコーナー、物語の中でも印象的な妖(あやかし)に名前を返すシーンを実際に体験するコーナーなども設けました。
展覧会によっては、目標動員数に対し、250%を達成するなど、本当に多くの方に来て、楽しんでいただくことができたようです!(ありがとうございます!)
前置きが長くなってしまいましたが、次章では、
①非日常感で全身を包むこと
②飽きさせない緩急とストーリーづくりをすること
③オタク目線を生かして「愛を持ち」「小ネタを盛り込む」こと
の3点に分けてお話させていただきます。
非日常感で全身を包む
世の中に溢れるさまざまなコンテンツの中でも展示空間は、その場で見ることができる映像、特に無料で見られるYouTubeなどとは異なり、体験するまでに、その場へ足を運ぶ時間とお金と労力を要し、さらに入場券を支払う場合もあります(もちろん無料の場合もあります)。
なぜ、その労力を使ってまでも足を運ぶのか、運びたくなるのか、をわたしなりに考えたときに、「非日常感に触れたいからだ」というひとつの答えが出ました。
この非日常感に触れられる場所としてすぐに思いつくのが、「夢と魔法の国」とうたわれる東京ディズニーリゾート®ではないでしょうか。そして、そのワクワク感を与えてくれるの理由の一つに、徹底した「パーク内から外が見えないこと」というものがあると思っています。
入園前からわくわくした気持ちにさせ、一歩足を踏み入れた途端、物語の世界に溶け込み、現実世界を忘れる。東京ディズニーリゾート®はそんな素敵な感覚にさせてくれます。そして、そんな物語の世界を思う存分に楽しんで、パークを出るときになって、はじめて魔法が解けるように現実世界に戻っていくのです。
チョコレイトの展示空間でも、このような没頭できる感覚を生み出せるよう、部屋の区切り方、壁のグラフィック、照明、さらには温度や匂いなど、限られた空間の中でも視覚、聴覚、触覚、嗅覚に働きかけるようなつくりかたを心がけています。
例えば、「クリープハイプのすべ展」で海の家をイメージした部屋をつくった際には、グラフィックは壁の白い部分を1mmも残さず覆うようにびっしり貼ったり、その部屋のみ空調を調節してもらって温度をあげたり、ココナッツの香りのする日焼け止めスプレーをこまめにかけたり、曲に重ね、邪魔しない程度に海の波の音を流したり、本物の砂を会場内に厚めにひいたりと、五感を通じて、じんわりとした夏の海を感じてもらえるよう工夫しました。
ちなみに、大量の砂をその会場にひいたのは初だったらしく、施工チームに「初めて砂を引くバイトを招集した」と言われました…(笑)。
飽きさせない緩急とストーリーづくり
展示空間の区切り方にもポイントがあります。例えば「クリープハイプのすべ展」では、花やモビールが天井からぶら下がって密集した空間から一変、カーテンを潜ると真っ白い壁の中に、鏡と洗面台だけがポツンとある空間に入ります。
同じ情報量で全体を進んでいくと、「まだ続くのか…」と飽きてしまいますが、空間を区切って、視覚的に情報量を調整することで、「違う体験がくる!」と新たな気持ちで観る姿勢が生まれます。
また、この緩急以外には、会場全体を通してひとつのストーリーをつくることもポイントです。
「Ro LAND ~俺か、俺以外か~」では、企画段階から以下のような順路をつくり、一つの物語を感じられるように設計しました。
※提案時のもののため、実際の内容とは少し異なります。
最初はインパクトがあり、かつローランドさんの世界観の導入にもなる「歌舞伎町ネオン街」でワクワク感を作り出しています。次の「書庫」では軌跡と称し、彼の原点から紹介していきます。
「俺の部屋」を飛び出し、「名言回廊」を走り抜け、華々しくホストとしての活動をスタートしたあとの写真の数々を「写真館」で紹介します。そして上り詰めた現在を「ホストクラブ」で完全再現して表現します。終わりも華々しく「花園」でみなさんを送り出します。
このように、飽きさせない緩急やストーリーを導線にしっかり設けることで、一つひとつの空間をじっくり見ていただける、またそれが全体の満足度に繋がると感じています。
オタク目線を生かして「愛を持ち」「小ネタを盛り込む」
2018年度に担当した展示は、どれも既にファンが多くいるコンテンツや人物が元になっているものです。そのため、企画をする際には、それぞれのファンの方々に喜んでもらうことや、さらに愛を持ってもらうこと、また新たなファンを獲得するにはどうしたら良いかを常に考えていました。
というのも、そもそもわたし自身、小学生の頃からかれこれ10年以上ずっとアイドルが好きで、コンサートに行くことが生きる糧のような人間なので、ファンの愛が何より強いという確信があるからです。…ちなみに、今は地方遠征を楽しみに、日々お仕事を頑張っています(笑)。
ファンの愛に向き合い、ファンの方々に喜んでもらうため、わたしは何かの企画に携わるうえで、最初に「そのものに愛を持つ」努力をするようにしています。
具体的に、「愛を持つ」には自分で作品を観まくる、聴きまくることで、純粋に「あ、ここ好き!」を見つけたり、また自分の周りにいるファンに「どこが好き?」を聞いたりします。SNSで繋がっている中学校の同級生や高校の後輩などが、少しでもコンテンツや企画に関連しそうなワードをつぶやいていたら、その場で「突然ごめん〜〜!」と連絡して好きなポイントなどをヒアリングしていました(協力してくださったみなさま、とても助かっています!ありがとうございました!)。
それまで触れてきた時間は、当然ファンの方々のほうが圧倒的に多いため、情報量として満足できるものを届けたいと思っていました。
その、「愛を持つ」の成功例のひとつが、「夏目友人帳展」で主人公の夏目くんの部屋を再現した際の演出です。押し入れの扉が少し開いており、そこを覗くと隙間から写真が見えるようになっています。
実際にアニメの中では押し入れの裏側に写真が貼ってあり、表からは見えないのですが、演出的に部屋の中には入れないので、ちらっと壁側に見えるように設置しました。
気づかない人はそのまま素通りしてしまいますが、やはりファンの方の観察力は高く、見つけた人がSNSにあげて喜んでくれていました(実はこの演出は開始ギリギリで急遽追加したもので、そこにファン同士のコミュニケーションが生まれており、とても嬉しかったです!)。
「クリープハイプのすべ展」では、グッズプロデュースも含め、どれだけの曲数を形に(可視化)できるかということにこだわりました。
ランキングなどで人気曲はわかっても、ファンの方の好みは人それぞれなので、可能な限り、一人ひとりの「好き」を回収できるようにしました。
非日常感で全身を包むこと、飽きさせない緩急とストーリーづくりをすること、オタク目線を生かして「愛を持ち」「小ネタを盛り込む」こと。展示空間をつくりあげるまでにわたしが重きを置いていることをお話しさせていただきましたが、いかがだったでしょうか。
そうだ!最後にもうひとつだけ。
展示空間をプロデュースする上でのこだわりのひとつに、「可能な限り撮影を可能にする」ということもあります。これは、ファン同士でのコミュニケーションに繋がることを主な目的としています。
自分が好きな作品のファンは、実際に周りには同じように愛が深いファンが少なかったりするので、SNSの繋がりが「好き」を続ける上でもとても大切だと感じます。
先ほどの夏目くんの部屋の写真など、ちょっとした気づきを好きな人同士で共有することはすごく幸せなことだと思うし、作り手もそれを見ることで本当に幸せな気持ちになれるので、どんどん投稿して欲しいです!
わたしは、今後も常にファンの目線で考え、その場で楽しむだけでなく、共有する喜びも多く作れるようなコンテンツづくりをしていきたいと思っています。
もしどこかでわたしが携わった展示を見ていただける機会がありましたら、ぜひ楽しんでいただけるとうれしいです!
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